「アフガニスタンを危険の源としてのみ見ることでは、問題は解決しない」
「アラル海は、自然災害によって干上がったのではない」
9月23日、ニューヨークで開かれた第81回国連総会の一般討論。ウズベキスタンのサイダ・ミルジヨエワ大統領府長官は、隣国アフガニスタンへの関与と、中央アジアが抱える環境危機について、こう訴えた。
一方は、紛争や政治的混乱を経験してきた国の人々を、国際社会がどう支えるかという問い。もう一方は、人間の判断が生んだ環境破壊に、どう責任を持つかという問いだ。
二つの問題を結びつける言葉が、演説を貫いていた。
「私たちが選ぶのは、人間の尊厳だ」
「自然災害ではない」――アラル海が突きつける人間の責任
アラル海は、カザフスタンとウズベキスタンにまたがる湖だ。かつて世界第4位の広さを誇ったが、1960年代以降、流入する河川の水が農業灌漑に振り向けられ、大幅な縮小が進んだ。国連環境計画(UNEP)も、灌漑による湖の縮小を示す代表例として挙げている。
ミルジヨエワ氏は、その歴史を「何十年にもわたる誤った判断と、自然に対する不当な扱いの結果」と表現した。
この指摘を、単に「気候変動で湖が干上がった」という話として受け止めてしまうと、原因を見誤る。アラル海の縮小を進めた大きな要因は、人間による水利用だった。そこに、気温上昇や干ばつなど、気候変動による負荷が重なっている。
UNEPが2025年11月に公表した資料によると、過去約60年間でウズベキスタンの年平均気温は1.6度上昇し、アラル海周辺では1.8~2.5度の上昇が確認された。今後、気候変動が水不足をさらに深刻にする恐れも指摘されている。
問われているのは、温室効果ガスの排出削減とともに、限られた水をどう使い、地域の暮らしと生態系をどう守るかという政策の選択である。
悲劇の象徴から、環境問題を解決する場へ
ミルジヨエワ氏は、干上がった湖底で緑化を進め、節水技術を導入していると説明。2030年までに再生可能エネルギーの割合を54%に引き上げる目標も示した。
そのうえで、こう述べた。
「アラル海を、環境悲劇の象徴にとどめたくはない。環境問題の解決策を試す場にするべきだ」
これは、元の湖を直ちに取り戻せるという宣言ではない。被害の拡大を抑え、環境を改善する取り組みを積み重ね、その経験を世界と共有するという方向性だ。
国連は、2027~2036年を持続可能な森林管理に沿った植林・森林再生のための10年と定めている。ミルジヨエワ氏はウズベキスタンの提案に言及し、決議を具体的な成果につなげるよう求めた。
環境危機を語るだけでなく、暮らしがどう改善したのかを示す。その実行力が、今後問われることになる。
アフガニスタンを「危険の源」だけで捉えない
アフガニスタンへの言及にも、問題を抱える地域を置き去りにしないという姿勢が表れていた。
ウズベキスタンは、アフガニスタンと国境を接する。隣国の安定は、自国や中央アジアの将来にも関わる問題だ。
ミルジヨエワ氏は、中央アジアには未解決の国境問題や水資源をめぐる対立があったと振り返り、各国首脳の政治的意思によって、互いを脅威から協力相手へと捉え直す変化が生まれたと説明した。
アフガニスタンにも、同じ考え方で向き合うという。
「多民族からなるアフガニスタンの人々を、問題を抱えたまま取り残すことも、解決にはならない」
人々に必要なのは、平和な生活を実現できるという希望と確信だと訴えた。
この発言の焦点は、アフガニスタンで暮らす人々にある。危険を指摘するだけで、その国の生活や将来が改善するわけではない。国際社会が関わり続けることの必要性を、隣国の立場から示した発言と読める。
「人間の尊厳」を掲げるなら、女性や少女の権利は

ただし、関与を続けるという方針には、避けて通れない課題がある。タリバン統治下における、女性や少女の権利だ。
国連教育科学文化機関(UNESCO)が2026年8月に公表した資料によると、アフガニスタンでは女子の中等教育と女性の大学教育に対する禁止が続き、2026年までに推計240万人の少女が中等教育から排除されている。
今回の演説で、ミルジヨエワ氏は若者の教育や女性の機会の重要性を語った。しかし、アフガニスタンの女性・少女に対する教育制限や、その撤廃をどう働きかけるかについては、具体的に踏み込まなかった。
人々を孤立させないことと、その人々の権利を守ることを、どう両立させるのか。「人間の尊厳」という原則を掲げる外交だからこそ、関与が誰の生活を改善し、誰の声を届けるのかを確かめる必要がある。
「どちら側につくか」から、「人々をどう守るか」へ
演説の冒頭、ミルジヨエワ氏は、各国が「どちらの側を選ぶのか」と問われていると指摘した。それに対するウズベキスタンの答えが、「人間の尊厳」だった。
国家の力は、軍事力や経済力だけで測るものではない。人々の尊厳、権利、利益をどれだけ守れるかによって決まる。平和、発展、人間の尊厳は、一つの課題なのだと強調した。
アラル海で水をどう使うか。アフガニスタンの人々に、どのような未来の選択肢を開くか。二つの問題を並べると、環境政策も外交も、人間の生活に立ち戻って評価すべきだという演説の視点が見えてくる。
その原則は、ウズベキスタン自身の政策にも向けられる。緑化や節水は地域の人々の暮らしを改善するのか。アフガニスタンとの関与は、女性や少女を含む一人ひとりの権利を守ることにつながるのか。
国連で語られた「人間の尊厳」が、具体的な成果として届くかどうか。演説を受け止めた先に、追い続けるべき問いが残る。