エチオピア北部で大規模な戦闘が再燃した9月23日、同国のタイエ・アスケセラシエ大統領が、ニューヨークの国連総会で演説した。
大統領は「アフリカの角」と呼ばれる地域の人々が、平和と繁栄の中で暮らす権利を尊重するよう呼びかけた。その一方で、地域を不安定化させる「外部勢力」を批判し、エチオピアは干渉を受けながらも大きな自制を示してきたと主張した。
国際社会に協力を求め、国内の民主化や経済発展の成果を説明する演説。しかし、ティグレ(ティグライ)や、連邦政府と対立するティグレ人民解放戦線(TPLF)の名は挙がらなかった。
今回の戦闘をどう止めるのか。国連の演壇で、その具体策は示されなかった。
8bitNewsでは、国連での各国首脳の演説をシリーズで検証している。
政府側は「攻勢」、ティグレ側は「防衛」と主張
ロイター通信によると、アビー首相の顧問は23日、TPLFがティグレ州内の空港を掌握し、隣接するアファール州とアムハラ州の政府軍拠点への攻勢を始めたと説明した。一方、ティグレ側は、連邦政府の攻撃に対抗するための防衛戦争だと主張。エチオピア航空は同州への運航を停止した。
双方が相手側に戦闘の責任を帰す中で行われたのが、今回の大統領演説だった。
大統領は、近隣諸国とインフラ整備や貿易、人々の交流を進めてきたと述べたうえで、無謀な外部勢力が地域の不安定化をあおっていると批判。自国への干渉が続いているとも訴えた。
そして、「破壊と混乱をもたらす勢力」に対し、この地域の人々が平和と繁栄の中で生きる権利を尊重するよう求めた。
ただし、批判の対象となる国や組織は特定していない。この発言を、特定の隣国やTPLFへの名指しの非難と受け取ることはできない。
米国はTPLFを批判、AUは直接対話の再開を要求
戦闘再燃を受け、外交による解決を求める声明も相次いだ。
エルビン・マシンガ駐エチオピア米国大使は23日付の声明で、TPLF指導部が大規模な攻勢に踏み切ったと非難した。アフリカ連合(AU)が支援する対話を拒み、「勝ち目のない戦い」に進んでも人々のためにはならないと指摘。追加制裁の可能性に触れる一方、政治対話が進むべき道だと述べた。
AUのマハムード・アリ・ユスフ委員長も同日、ティグレ勢力による民間空港の占拠は、2022年11月のプレトリア和平合意の約束と整合しないと指摘。最大限の自制と、合意に基づく直接対話の速やかな再開を求め、周辺国にも緊張を高める行動を控えるよう呼びかけた。
米国の声明はTPLF側への批判を明確にし、AUも空港占拠を問題視している。同時に、双方が示しているのは、戦闘の拡大を抑え、政治的な解決に戻す必要性だ。
大統領は国連演説で、隣国スーダンの和平については、スーダンの人々が主導し、その意思を反映する政治過程が必要だと述べた。しかし、自国で再燃した戦闘をめぐる交渉の枠組みや、停戦、人道支援を確保する具体的な措置には踏み込まなかった。
「国民対話の成果」を強調した演説
国内政治について、大統領が前面に出したのは民主化の成果だった。
最近の選挙によって、自由で公正、透明な政治の基盤が築かれたと説明。国民対話委員会が初めての歴史的な全国会合を開き、各地の多様な市民が重要課題を議論したとして、民主的な制度を強める新たな章が始まったと評価した。
これは、大統領が示した自国の政治状況への評価である。
国民対話の取り組みが、武力対立の解消にどうつながっているのか。対立する勢力や、戦闘によって故郷を追われた人々の声は、どのように政治に反映されるのか。今回の演説では、戦闘再燃と国民対話の関係を具体的に説明する言葉はなかった。
対話の成果を掲げるのであれば、その成果を戦闘の停止と住民の安全にどう結びつけるかが問われる。
「アフリカは自らを養える」――生産の成果と、食料が届く条件

演説では、食料安全保障にも強い自信が示された。
大統領は、気候変動に強い小麦品種の活用などを通じ、小麦輸入国からアフリカ有数の生産国へと転換したと説明。「アフリカは自らを養うことができる」と訴えた。
ここで確かめたいのは、生産された食料が、必要とする人々に届く条件である。
前回の内戦中、世界保健機関(WHO)は2022年2月、ティグレに医療物資を搬入できても、燃料がなく保健施設へ配送できない状況を公表していた。物資にはインスリンや、重度の栄養不良の治療に使うものも含まれていた。
国全体の生産力が高まっても、道路が通れず、燃料を確保できず、住民が収入を失えば、食料や医療には届かない。
空港の掌握や航空便の停止が伝えられる今、人道支援の輸送がどこまで維持されているかを確認する必要がある。今回の戦闘による支援全体への影響を、前回の状況からそのまま断定することはできない。だからこそ、道路、燃料、医薬品、支援職員の安全を、一つずつ確かめなければならない。
国際連盟に見捨てられた歴史から、国連改革を訴える
演説には、国際秩序をめぐるエチオピアの歴史認識も表れていた。
大統領は、1930年代にファシズムの侵略を受けた際、国際連盟がエチオピアの訴えに応えなかった経験を振り返った。それでも集団安全保障への信念を捨てず、国連の創設に加わったと述べた。
主権の平等を土台にした多国間協力は、力の政治から国々を守るための仕組みである。その機能が修復できなくなる前に、国際社会は行動しなければならないという訴えだった。
アフリカの代表権を拡大する安保理改革も要求した。16億人のアフリカの人々が対等に代表されない状況を、どう正当化できるのかと問いかけた。
国際社会に対等な扱いを求め、外部からの干渉を拒む。その主張とともに読む必要があるのが、国内の異なる立場の人々を、どのように政治と和平の過程に迎え入れるかという課題だ。
AI、気候対策、巨大空港――描かれた成長の未来
大統領が国連で描いた将来像は幅広い。
AIが新たな格差を生むのか、それとも共通の成長を促すのかと問い、アフリカが技術革新の傍観者にとどまるべきではないと主張。デジタル人材の育成やAI大学の開設計画を紹介した。
2027年11月にはエチオピアでCOP32を開催すると述べ、各国首脳を招いた。再生可能エネルギーの拡大、大エチオピア・ルネサンス・ダムを通じた地域の発展、125億ドル規模の国際空港への投資も説明した。
さらに、持続的な経済発展には安定した海へのアクセスが必要だとして、外交的な手段を追求する方針を示した。
これらは、大統領が示した政策の成果や計画である。エチオピアを、技術、エネルギー、貿易を通じて地域の発展を支える国として位置づける内容だった。
しかし、その未来を誰が享受できるのかは、国内の安全と生活再建にも左右される。
「平和と繁栄」を、避難した人々の暮らしに戻せるか
私が8bitNewsの「月刊IOM」で話を聞いた、当時の国際移住機関(IOM)エチオピア事務所の赤尾邦和さんは、和平合意後にも続く生活再建の難しさを説明していた。
故郷に戻れるようになっても、家が壊され、家畜や仕事を失っていれば、生活は元には戻らない。武器を手放した人々の社会復帰や、被害を受けた人々への対応も必要になる。これは、2024年の番組で語られた、前回の内戦と復興をめぐる証言だ。
今回の国連演説では、国際社会に向けた平和の理念と、国家としての発展の構想が示された。いま確かめるべきなのは、それが戦闘の現場で暮らす一人ひとりの安全に、どうつながるかである。
食料を運ぶ車両は通れるか。診療所は動いているか。避難先から戻った人が、再び家を追われていないか。そして、戦闘を止めるための対話は始まるのか。
大統領が語った「平和と繁栄」を、こうした具体的な暮らしの回復として実現できるか。連邦政府にも、TPLFをはじめとする武装勢力にも、その行動が問われている。