https://youtu.be/Dw0lNsV_b30?si=WZ_GQOVJH9MX2JDH
「ウクライナの人々は、この戦争を選んだのではない。私たちは、死なないことを選んだ」
ウクライナのゼレンスキー大統領は9月23日、ニューヨークで開かれた第81回国連総会の一般討論で演説し、ロシアへの経済的圧力とウクライナの防衛力強化を各国に求めた。
約26分の演説では、ロシア軍による攻撃や北朝鮮との軍事協力を批判する一方、戦争が加速させる兵器開発そのものにも危機感を示した。
早ければ来年にも、AIが戦場の判断を担い始める可能性がある。その段階に至る前に、戦争を終わらせなければならないという。
自国を守るために技術を磨き続けてきた指導者が、その技術によって戦争の姿がさらに変わる未来を警告した。
「人間の勇気」は、これからの戦争でも通用するのか
演説の終盤、ゼレンスキー氏は、ロシアによる全面侵攻が始まった2022年から、戦争のあり方は大きく変わったと語った。
「2022年と同じように機能しているものは、人々の勇気を除いて何もない」
そして、その勇気さえも、将来、同じように力を持つかは分からないと問いかけた。
念頭にあるのは、AIの発展だ。ゼレンスキー氏は、早ければ翌年にも、人間だけでなくAIが戦場で何が起きるかを決め始める現実的な可能性があると述べた。これは同氏が示した将来への見通しであり、実現時期が確定したという意味ではない。
さらに、AIがデジタルの世界から物理的な世界に働きかける段階へ進むという議論を紹介し、その時には世界が平和であるべきだと訴えた。
演説から読み取れるのは、戦争が長引くほど、兵器の開発も進み、その影響が一国の戦場に収まらなくなるという危機感だ。終戦を急ぐ理由に、技術の変化という時間軸を加えた点が印象的だった。
「死なないことを選んだ」――防衛の先にある市民の暮らし
兵器や制裁に多くの時間を割いた演説だったが、ゼレンスキー氏は、その目的を国民の生存と結びつけた。
「私たちは、国や家族を失わないこと、独立や自由を失わないことを選んだ。そして、自分たちを守っている」
同氏によれば、今年に入ってロシアがウクライナに使用したミサイルは2,100発を超え、うち950発以上が弾道ミサイルだった。今年1〜8月には、各種の攻撃用ドローン約6万3,000機が使用されたと説明した。
繰り返される攻撃が狙うのは、都市や経済、インフラであり、子どもたちが学校で学ぶ日常でもあると訴えた。
「もし、あなたの国がこのような状況に直面したら、生き延びられるだろうか」
一方、ロシア軍については、今年1〜8月の死者・重傷者が24万8,964人に上ると主張。多数の犠牲を払いながら、領土の獲得に固執するプーチン大統領を批判した。これらの戦況や損失の数字は、ウクライナ側が演説で示したものだ。
ロシアの収入は、戦争を続ける「時間」になる
演説の冒頭でゼレンスキー氏が取り上げたのは、トランプ米大統領のSNSへの投稿だった。
ロシアの製油施設が大きな打撃を受けているとした投稿を引用し、戦争を終わらせなければならないという認識に同意。そのうえで、ウクライナがロシアの石油関連施設を攻撃する目的を説明した。
標的は石油や工場、港湾そのものではなく、ロシアが戦争を続け、激化させるための資金調達能力だという。
「誰かが貿易を通じてロシアにさらに資金を与える時、その人は、この戦争にさらに時間を与えている」
この考え方は、同氏による国連の機能不全への批判ともつながっている。
ゼレンスキー氏は、安全保障理事会での拒否権の乱用が平和を遠ざけていると指摘。同時に、ロシアは資金がある限り外交を拒むことができ、それも実質的な「平和への拒否権」になると論じた。
制度上の拒否権と、戦争を継続できる経済力。その両方に働きかけなければ、外交を前に進められないという認識だ。
北朝鮮との軍事協力、47か国の国民――戦争は国境を越えている
ゼレンスキー氏は、ウクライナで続く戦争が、他の地域の安全保障にも影響すると訴えた。
その一例に挙げたのが、北朝鮮とロシアの軍事協力だ。
北朝鮮が兵士を送り込む一方で、弾道ミサイルやドローンの能力を向上させていると主張。兵士の命が取引の手段にされていると金正恩氏を批判し、北朝鮮の周辺国やアジア諸国にも関係する問題だと強調した。
さらに、ロシアが47か国の国民を戦争に利用していると述べ、ガーナ、ネパール、インド、ケニア、キューバ、南アフリカなどの国名を挙げた。だまされてロシアに渡り、戦場へ送られた人々もいるとし、各国代表に自国民を守るよう求めた。
プーチン氏を「ペイシェント・ゼロ」と呼び、戦争が広がる起点になっていると非難したのも、この文脈だった。
ウクライナへの支援を、自国から遠く離れた戦争への関与として捉える国々に対し、すでに自国の人命や安全にもかかわっていると訴えた形だ。
防衛技術を他国へ――「支援を受ける国」からの提案
ゼレンスキー氏は、自国が蓄積してきた防衛技術と経験を、他国の安全にも役立てる構想を示した。
その一つが、「フレイヤ」と呼ぶ対弾道ミサイル計画だ。
演説では、ウクライナに加え、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、フランス、イタリア、英国、スペイン、オランダの計10か国が参加していると説明。既存の防空システムを補完し、より低い費用で、より大量に生産できる防御手段を目指すとした。
迎撃手段が世界的に不足するなか、国の豊かさだけでは十分な防御を確保できないという問題意識だ。
もう一つが、「ドローン・ディール」と呼ぶ協力の枠組みである。機体の売買に加え、陸海空での防衛、国境管理、重要インフラや輸送網の保護など、各国の事情に応じた防衛体制づくりを提供するという。
ウクライナ大統領府は同日、フィンランドとのドローン協力合意への署名を発表。技術や戦時の経験の共有、共同生産を含む協力だと説明している。オーストラリアとの二国間安全保障協定の署名も発表された。
ゼレンスキー氏は、こうした方向性を「Peace through protection」、防衛による平和と表現した。
支援を求めると同時に、自国の経験を共有することで、他国が攻撃を受けにくい環境をつくる。その役割をウクライナが担うという提案だった。
米国には協議を、中国には影響力の行使を求めた
冬を前に、電力や暖房設備への攻撃をどう止めるかも、重要な論点となった。
ゼレンスキー氏は、ロシアがウクライナのエネルギー設備を攻撃し続けるなら、ロシア側にも痛みを与える対応を取らざるを得ないと警告。その一方で、「今、私たちには外交と力が必要だ」と語った。
前日のトランプ氏との会談でも、この点を協議したと説明した。
中国の指導者には、直接話す機会が得られていないとしながらも、多くの国以上にロシアへ影響力を及ぼせる存在だと言及。「私たちウクライナと同じくらい、平和を望んでほしい」と呼びかけた。
米中への働きかけからは、ロシアの行動を変えるために、それぞれが持つ影響力を具体的に使ってほしいという要求が読み取れる。
核兵器を持たない国も、安全に生きられるのか
ゼレンスキー氏は会場の各国代表に対し、多くの国は核兵器を持たず、隣国を攻撃する習慣もなく、何年もの戦争を続ける資金も持たないと語った。
それでも、安全に暮らし、脅威を抑止する可能性はあるはずだと訴えた。
この演説が投げかけたのは、侵攻を受けた国の生存を、国際社会がどう支えるのかという問いだ。制裁で戦争資金を減らし、防衛力を支え、外交を進める。その実行を求める一方で、戦争を続けることが新たな兵器と脅威を世界に広げるとも警告した。
自国を守るために技術を進めなければならない。しかし、戦争のなかで技術が進み続けた先に、どのような世界が待っているのか。
「ウクライナは、皆さんと同じように、安全を保障されるべきだ。すべての国、すべての国民がそうであるように」
その訴えは、ウクライナの将来と、世界がこれから直面する戦争の姿を重ね合わせるものだった。