「ロシアによるウクライナへの戦争を終わらせ、隣国の安全な未来を築くための、あらゆる真剣な外交努力を支持すべきだ」
第81回国連総会の一般討論で、スロバキアのペレグリニ大統領はこう述べた。
ロシアとの関係を重視するフィツォ首相の政治姿勢から、「親ロシア」とされることの多いスロバキア。その大統領が、戦争の主体をロシアと明示し、民間地域や重要インフラへの攻撃を容認できないと語った。
この演説から読み取れるのは、ロシアとの関係維持、NATOの一員としての安全保障、そして隣国ウクライナの主権を守る原則の間にある緊張だ。
「ロシアに近い」とは、何を意味するのか
スロバキアの対ロ姿勢を考えるうえで、まず区別したいのは、フィツォ政権の政策と、国が属する安全保障の枠組みだ。
フィツォ政権は2023年の発足後、ウクライナへの国家による軍事援助を停止した。ただし、商業契約による武器販売まで一律に止めたわけではない。ロイターは2025年10月、政府の軍事援助停止と商業販売の継続を区別して報じている。
対ロ関係を維持する姿勢も明確だ。スロバキア政府は2026年2月、フィツォ首相と新任のロシア大使との会談について、経済協力の政府間委員会の活動再開を準備していると発表した。
エネルギーも関わる。9月22日のロイター報道によると、スロバキアはロシア産ガスの購入を続けており、フィツォ首相は燃料価格の高騰をめぐってEUの対応を批判した。
ロシアとの関係をどう扱うかは、外交に加え、家計や産業の負担をめぐる国内政治の問題にもなっている。
自国の安全を支えるのはNATO
同時に、スロバキアはEUとNATOの加盟国であり、ウクライナと国境を接する国でもある。
国内には、スペインが率いるNATOの多国籍戦闘群が展開する。NATOの説明では、この部隊は2022年のロシアによる全面侵攻後に設けられ、加盟国の部隊が共同で抑止と防衛を担っている。
ロシアとの対話や経済関係を維持しながら、自国の防衛では同盟国と協力する。この二つが、スロバキアの政策の中に同居している。
ペレグリニ大統領は今回の演説で、「スロバキアは国連、NATO、EUにしっかりと根ざしている」と明言した。
さらに、「力」が「ルール」に優先する世界は、とりわけ小国にとって危険だと訴えた。国際法が無視され、国際機関が弱体化する世界では、大国も小国も本当の意味で安全ではいられない、と。
これは、自国の安全を何によって確保するのかという切実な問題提起として読める。
首相は西側を批判、大統領は国際法を強調
首相と大統領の言葉を並べると、強調点の違いが見えてくる。
ロイターによると、フィツォ首相は9月19日、西側の一部政治家がNATOとロシアの衝突を引き起こそうとしていると主張した。自国を戦争に巻き込ませない姿勢を前面に出し、批判の矛先を西側に向けた。
一方、今回のペレグリニ大統領の演説は、「ロシアによるウクライナへの戦争」という言葉を使い、武力による国境変更や主権侵害を拒否する原則を示した。
ただし、これを直ちに二人の決裂とみなすことはできない。ペレグリニ氏は、フィツォ政権の連立与党を率いた経歴を持ち、首相の政治的盟友として2024年の大統領選に臨んだ人物だ。
国際法を重視する発言も、今回突然現れたものではない。大統領府が公表した2025年9月の安保理演説でも、ペレグリニ氏は武力による領土取得に反対し、国連憲章に沿った和平とウクライナへの安全保障を訴えていた。
今回の演説では、首相と同じく外交による戦争終結を求めながら、その前提に国際法と主権尊重を置いている。この強調点の違いが重要だ。
「戦争を止める」と「主権を守る」をどう両立するか
ペレグリニ大統領は演説で、次のように述べた。
「指導力は、対立を激化させる意思によって示されるものではない。緊張を緩和する勇気が必要だ」
戦争の拡大を避けたいという問題意識は、フィツォ首相の発言とも重なる。
しかし、ここには難しい問いが残る。戦闘を止めるための交渉と、武力で奪われた領土や主権をどう扱うかは、別々に検討しなければならない。停戦を実現しても、それだけで主権の問題が解決するわけではないからだ。
今回の演説は、武力による国境変更を否定した一方で、停戦の具体的条件、ロシアに求める措置、ウクライナの安全を保証する仕組みまでは示していない。軍事支援の拡大を打ち出したわけでもない。
言葉の上では、外交と主権尊重は両立している。それを実際の交渉や政策の中で、どう両立させるのか。
スロバキアの対ロ姿勢を評価するうえでは、「平和を求める」という表明に加え、その平和がどのような条件で実現するのかを見ていく必要がある。
ウクライナにもガザにも、同じ原則を
演説で注目したいのは、ウクライナへの言及に続いて語られた、この一節だ。
「国際法と人間の尊厳への私たちの責任は、欧州の国境で止まってはならない」
ペレグリニ大統領は、中東にも同じ基本原則を適用すべきだと述べ、ガザを含む民間人の保護と人道支援の確保を要求した。イスラエルと独立したパレスチナ国家が共存する二国家解決への支持も示した。
欧州の戦争では主権や市民の命を重視しながら、別の地域ではその原則を弱めることがあってよいのか。この発言は、そうした国際社会の一貫性を問うものとしても読める。
同じ基準は、当然、スロバキア自身の対ロ政策にも向けられる。ロシアとの関係を維持しながら、主権尊重や民間人保護をどこまで具体的な行動で求めるのかが問われる。
小国が国際法を手放せない理由
ペレグリニ大統領は、国連改革について「革命ではなく進化」を求めた。制度に欠点があるなら改善し、代表が十分でない国や地域の声を安保理に反映させるべきだという立場だ。
スロバキアが2028~2029年の安保理非常任理事国に立候補していることにも触れ、国際法と国連憲章を優先課題に掲げた。
今回の演説を通じて見えてくるのは、ロシアとの関係を保ちつつ、同盟と国際法によって自国の安全も確保しようとする小国の難しさである。
武力による国境変更を認める世界は、隣国だけでなく、自国の将来にも危険をもたらす。他方で、戦争が広がることも避けたい。その緊張の中に、スロバキアは立っている。
大統領は演説をこう締めくくった。
「暴力が日常となり、外交が例外となる世界を、次の世代に残してはならない」
その言葉を、ロシアとの関係やウクライナへの政策にどう結びつけるのか。国連で示した原則と、その後の行動を重ねて見ていきたい。