今年1月、米軍の急襲によって現職の大統領が拘束され、米国へ連行されたベネズエラ。その後、国のかじ取りを担うことになった指導者が、国連の演壇からトランプ米大統領に謝意を示した。
ベネズエラのデルシー・ロドリゲス大統領代行は9月23日、ニューヨークで開かれた第81回国連総会の一般討論演説で、米国との協力を進める姿勢を表明。「民主的移行」を始めたと宣言し、選挙の実施を約束した。ただし、具体的な日程は示さなかった。
軍事介入の衝撃を受けた国が、介入した米国との関係改善を通じて再建を目指す。その過程で、主権と民主主義はどう保障されるのか。演説には、ベネズエラが直面する難題が凝縮されていた。
8bitNewsでは、国連での各国首脳の演説をシリーズで検証している。
米軍による大統領拘束から、国連の演壇へ
1月3日、米軍はベネズエラの首都カラカスで軍事作戦を実行し、ニコラス・マドゥロ大統領と妻のシリア・フロレス氏を拘束した。2人は米国へ移送され、麻薬関連などの罪に問われた。マドゥロ氏夫妻は初出廷で無罪を主張した。
1月5日に大統領代行に就任したのが、マドゥロ政権で副大統領を務めていたロドリゲス氏だった。
主権国家の領内に外国の軍隊が入り、その国の指導者を拘束する。国際秩序の根幹に関わるこの軍事行動について、グテーレス国連事務総長は当時、報道官を通じて「危険な前例」との認識を示し、国際法が尊重されていないことへの深い懸念を表明していた。
その出来事から8カ月余り。今回の演説でロドリゲス氏は、マドゥロ氏の名前を挙げなかった。米国との対立激化や国内の政治危機を振り返りつつ、繰り返し語ったのは、ベネズエラの「再生」だった。
トランプ氏への謝意、その対象は「外交と協力の再開」

「ベネズエラとの外交関係と協力の道を再び歩む用意を示したトランプ大統領と、その政権に感謝したい」
ロドリゲス氏は演説でこう述べた。謝意の対象として挙げたのは、外交と協力の再開に向けた米政権の姿勢だ。
今後は対話によって相違点を解決し、エネルギー、安全保障、国境を越える犯罪への対処、経済協力を進めると説明した。
なかでも重視したのがエネルギー分野だった。最近署名したという米国との合意を、これまでで最も包括的かつ重要な合意の一つと評価。南北アメリカのエネルギー需給の安定と、自国経済の改善に貢献すると述べた。
エネルギー政策では、安定供給、手頃な価格、環境への持続可能性の三つを同時に追求すべきだと主張。脱炭素の必要性を認めながらも、性急に押しつけられる移行は、食料供給や雇用、生産を脅かすと訴えた。
これらの発言からは、エネルギー協力を対米関係の改善と経済再建の柱に据えようとする姿勢が読み取れる。ただし演説では、合意の具体的な条件や、利益を国民にどう還元するのかまでは説明されなかった。
「選挙は実施する」――示されなかった日程
国内政治について、ロドリゲス氏は「ベネズエラは、その再生に向けた民主的移行の過程を開始した」と宣言した。
目指すのは、秩序があり、制度に基づき、検証可能な移行だという。既存の制度を通じて改革を進め、司法や国家機関への信頼を取り戻す考えを示した。
市民が恣意的な権力に踏みにじられてはならず、司法は市民に奉仕しなければならないとも述べた。国内外の投資家が求める法的安定性と、市民の権利の保障を並べて掲げた形だ。
選挙については、踏み込んだ言葉もあった。
「民主主義は、選挙が存在するというだけでは測れない。選挙に先立つ競争の質によって測られる」
そのうえで「ベネズエラでは選挙が行われる」と明言。野党の一部との政治対話を始めており、すべての政治勢力が参加し、対等な条件で競争できる過程を目指すと説明した。
しかし、いつ実施するのか。
ロドリゲス氏は、ベネズエラ国民が「適切な時」を決めると述べるにとどまった。演説では、具体的な日程も、それを決定する手続きも明らかにされていない。
さらにロイターは、主要な野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏が対話に加わっていないと報じた。
誰が対話の席に着けるのか。誰が立候補し、自由に活動できるのか。選挙を管理する機関や司法の独立性はどう確保されるのか。「競争の質」というロドリゲス氏自身の言葉は、今後の政権運営を検証する基準にもなる。
対米協力を進めながら、「干渉のない主権」を要求
米国との協力を打ち出す一方で、ロドリゲス氏は国際社会に対し、ベネズエラの自己決定を尊重するよう繰り返し求めた。
「ベネズエラは自由に呼吸し、いかなる干渉も受けずに、主権国家としての権利を行使したい」
制裁は経済・金融活動の自由を損ない、人々の発展を妨げると批判。自国が必要とする変化への支援を求めながらも、外部からの押しつけを拒む姿勢を示した。
この主張と、米国との関係再構築をどう両立させるのか。
軍事行動を実行した米国への協力姿勢は、その行動をめぐる国際法上の懸念を解消する説明にはならない。また、米国との関係が改善したことだけで、国内の民主化が実現したともいえない。
対外関係における主権の尊重と、国内で国民が自由に政治を選ぶ権利。その両方が、今後の再建で問われることになる。
地震の被災者と、国外へ出た若者に呼びかけ
演説では、6月24日に発生した二度の地震にも繰り返し言及した。
ロドリゲス氏は、政治危機と自然災害を今年の二つの大きな試練と位置づけ、被災後に支援した各国や国連に感謝した。復興について語る際には、建物を再建することに加え、制度への信頼を取り戻す必要があると強調した。
国外へ移った若者たちにも、直接呼びかけた。
「私たちは、人々が逃れたい国ではなく、帰りたいと思う国にしたい」
分断された国で育ち、国内で得られなかったものを求めて国外へ出た若者に、もう一度この国を信じてほしいと訴えた。
ただし、復興への道が容易だとは約束しなかった。回復には時間がかかると認め、物質的な復旧とともに、人々の信頼や連帯を立て直すことを優先すると述べた。
「国民こそが主権者」という言葉を、どう実現するか
演説の最後、ロドリゲス氏は独立の英雄シモン・ボリバルの言葉を引用し、個人や政党、派閥が国民の上に立ってはならないと訴えた。
「主権者は、国民だけだ」
今年1月、ベネズエラの政治は、国外からの軍事力によって大きく動かされた。その後の国の進路を、ベネズエラの人々自身が選べるのか。
ロドリゲス氏が約束した「再生」の実質は、選挙の日程、野党の参加、司法のあり方、そして被災者や若者の暮らしの変化によって確かめられていく。