✍ 市民記者: JUN HORI さんの投稿
「私たちはガザの戦争を終わらせた」
米国のドナルド・トランプ大統領は2026年9月22日、ニューヨークで開かれた第81回国連総会の一般討論演説で、そう述べた。人質の帰還、復興への資金拠出、各地の紛争仲介。演説では、自らが実現したとする「平和」の成果が繰り返し語られた。
同じ国連の演壇で、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ガザで平和を達成したという主張と、人道支援が届かない現実との隔たりを指摘した。英国のアンディ・バーナム首相は、パレスチナ国家の実現を脅かす入植拡大を批判し、二国家解決への支持を行動で示す責任を訴えた。
三つの演説を重ねて読むと、「平和」を何によって確かめるのかという問いが浮かぶ。
首脳が合意を発表した後、現地で生きる人々の命や権利は、どこまで守られているのか。そして、強い国の行動を検証する国際法や司法を、誰が支えるのか。
ガザの戦争終結を、自らの実績として語る
トランプ氏は、前年の国連総会の際に始めた取り組みが転機となり、その数週間後にガザでの戦争を終わらせたと説明した。残る人質についても、生存者の解放と死亡した人々の遺体の返還を、すべて実現したと述べた。
さらに、「20項目のガザ和平計画」や、自身が議長を務める「平和評議会」に対する国連安全保障理事会の支持に謝意を表明。各国から復興・救援資金が寄せられ、ガザの安定化に向けて部隊や警察、訓練への協力が約束されていると紹介した。
人質の帰還も、人道支援も、復興も、人々が生活を取り戻すために欠かせない。ただし、演説で挙げられた成果と、現地でそれがどこまで実現しているかは、それぞれ確かめる必要がある。
トランプ氏の説明では、資金を出す国や、治安維持を支える国の名前が次々に挙がった。その一方で、パレスチナ国家の実現や、住民の意思を将来の統治へ反映させる具体的な道筋には踏み込まなかった。
復興のために誰が資金を出すか。その土地で生きる人々が、自分たちの未来をどう決められるか。ガザの将来を考えるうえでは、双方が問われる。
仏英が問う、支援と国家の実現への道筋
マクロン氏は、ガザで平和が実現したと主張する者がいる一方で、人道回廊は実現していないと指摘した。国連による演説紹介は、この発言に会場から拍手が起きたと伝えている。
バーナム氏は、ハマスによる2023年10月7日の攻撃を非難し、イスラエルや世界のユダヤ人への連帯を示した。そのうえで、それによってガザやヨルダン川西岸でのイスラエル政府の行動が正当化されるわけではないと述べた。
特に問題視したのは、ヨルダン川西岸の入植計画「E1」だ。存続可能なパレスチナ国家の実現を遠ざけると批判し、二国家解決を語りながら行動で裏づけなければ、政治への信頼はさらに失われると警告した。
ここで浮かぶのは、和平合意の先にある生活と権利の問題だ。
食料や医薬品は安全に届くのか。子どもたちは安心して暮らせるのか。パレスチナの人々が自らの将来を決める道は開かれているのか。
トランプ氏が語る外交成果を評価する際にも、こうした問いを外すことはできない。
ICCからの脱退を要求――国際司法への強い拒絶
国際法との関係で見過ごせないのが、トランプ氏による国際刑事裁判所(ICC)への批判だ。
トランプ氏は、米国の軍人らが捜査や裁判の対象になることを認めないと述べ、ICCを米国に対する管轄権のない、反米的な機関だと非難した。さらに、加盟国に対して直ちに脱退するよう求めた。
ICCは、戦争犯罪や人道に対する犯罪などについて、個人の刑事責任を問う裁判所である。国連そのものの機関ではなく、条約に基づく独立した司法機関だ。犯罪が行われた場所などの条件によっては、条約に加盟していない国の国民も対象となり得る。米国側が管轄権を否定したというだけで、あらゆる場合の法的な結論が決まるわけではない。
一方、マクロン氏が今回の演説で支持を表明したのは、国際司法裁判所(ICJ)だ。国家間の法的紛争を扱い、国連機関などの求めに応じて勧告的意見を出すICJと、個人の刑事責任を問うICCは、異なる裁判所である。
その違いを踏まえても、両氏の演説には、国際司法に何を期待するかという姿勢の隔たりが見える。
重大な被害が起きたとき、国際的な司法手続きを通じて責任を明らかにしようとするのか。それとも、自国の関係者が対象となることを拒み、他国にも制度から離れるよう促すのか。被害を受けた人々が、どこで責任を問えるのかに関わる問題だ。
イランへの「合意か壊滅か」――力による和平の論理
トランプ氏は演説の大きな部分を、イランへの軍事行動の説明に充てた。
イランの核保有を阻止するために交渉を試みたが拒まれたと述べ、米軍が核開発能力や海軍、ミサイル製造能力などに大きな打撃を与えたと主張した。
そして、イランが合意によって再建への道を歩むのか、それとも米国が「イスラム共和国を壊滅させる」のかという選択肢を示した。合意成立への見通しを語りながら、さらに強い軍事行動も示唆したのである。
トランプ氏が描く和平の方法は明確だ。軍事力や経済的圧力によって相手に譲歩を迫り、合意へと導く。各地の紛争仲介についても、首脳との個人的な関係に加え、関税やその発動の威嚇を使ったと説明した。
ここで検証すべきなのは、圧力によって何を得たかに加え、その手段がどのような法的根拠を持つかだ。
国連憲章は、国家の主権平等を掲げ、他国の領土保全や政治的独立に対する武力による威嚇・武力行使を原則として禁じている。自衛権や安保理による措置の規定もあり、個々の軍事行動の適法性は、事実関係と法的要件に照らして判断する必要がある。
核拡散やテロを防ぐという目的を訴えることと、そのための手段が国際法上認められることは、それぞれ説明を要する。
「勝者には戦利品」――他国の主権をどう扱うのか
ベネズエラについての発言にも、同じ問いがある。
トランプ氏は、米軍が首都カラカスでマドゥロ氏を拘束した作戦を成果として紹介し、その後、650億バレルの石油を対象とする大規模な合意を結んだと述べた。
その説明に続けて、こう語った。
「勝者には戦利品が帰属する」
さらに、米国の重要な国益を守るため、必要なら圧倒的な軍事力を使うと表明した。
主権を持つ国の資源を、軍事的な勝利と結びつけて語る。この発言は、マクロン氏が訴えた主権をめぐる「二重基準」の問題と重なる。
マクロン氏は、欧州では人々の主権を重視しながら、中東やアフリカでは軽視する姿勢を批判し、他国の人々の意思を踏みにじる介入が混乱を深めてきたと指摘した。
米国の安全を守るという説明のもとで、他国の人々の意思や権利はどう扱われるのか。軍事作戦の成功や取引の規模とともに、検証されなければならない。
国連を評価する場面と、拒む場面
トランプ氏は、国連の役割を評価する場面もあった。
ガザ和平計画への支持や、イランによる商船への攻撃を非難する決議について、安保理に感謝を述べた。一方で、国際的な課税構想や米国の政策への人権上の批判には反発し、国連は選挙で選ばれていない官僚による議題を押しつけるべきではないと主張した。
演説からは、米国が進める政策を後押しする国際協力を歓迎しながら、米国の行動に制約や審査が及ぶことには強く抵抗する姿勢が読み取れる。
国際機関に問題があれば、改革や検証は必要だ。同時に、国際法を共通のルールとして維持するには、自国への批判や不利な判断にどう向き合うかも問われる。
この問いは米国だけに向けられるものではない。国際法や二国家解決を掲げたフランスや英国も、自らの政策を同じ原則に照らして検証される立場にある。
ガザに支援が届き、住民が安全と尊厳を取り戻せるか。イスラエルの人々の安全と、パレスチナの人々の権利を、ともに保障できるか。被害を受けた人々が、責任を問う手続きにたどり着けるか。
国連の演壇で語られた「平和」を、現地の一人ひとりの暮らしに照らして確かめ続けたい。
