✍ 市民記者: 三島知幸 さんの投稿
「鉄という金属は、そのまま放っておくとどうなっちゃうか、わかりますか」
子どもたちにそう問いかけたのは、静岡県富士宮市の株式会社中里メッキの渡邉昌和社長だ。8月20日、市内の工場が親子に扉を開く「オープンフジヤマクラフターズ」が開かれ、中里メッキにも小学生たちが訪れた。
実はこの工場、全国でも数社しかない技術を持っている。ところが地元の大学生も市の職員も、口をそろえて「知らなかった」と語る。そんな近所の知らない工場に、親子で入ってみようという一日だった。
◆全国でも数社しかない技術
ラインに吊るされているのは、製品の内側に組み込まれ、普段は目に触れない部品だ。表面を金属の膜で覆い、錆から守る。特に、中里メッキで提供しているパイプの内側までメッキする技術は全国でも限られた会社しか持たない。
◆地元っ子も「全然知らなかった」
前日に工場を見学したのは、富士宮市役所でインターン中の大学生たち。富士宮で育ち、いまは横浜の大学に通うひとりは、地元に戻って市役所で働くのが目標だ。そんな地元っ子も、この工場に入るのは初めてだった。
「日本で4社の技術がこの街にあった。でも全然知らなかった」
知らなかったのは学生だけではない。富士宮で生まれ育った市役所の鈴木愛里紗さんも、中里メッキを知ったのは市役所に入ってからだという。富士宮といえば観光のイメージが強い街と話す。そういえば、社会科見学で工場に行った記憶もないと学生たち。行き先は、先生がよく知るお店などになりがちなのだという。
◆「色が変わった」
1948年に祖父が始めた工場を継いだ渡邉社長も、自動車部品メーカーで設計に携わったのち、家業に戻った3代目だ。
渡邉社長が伝えたいのは、「製造業がいかに皆さんの生活にとって大切か」だという。オープンファクトリー当日は、子どもたちが実際にメッキをして、その金属で缶バッジを作った。電気が流れて金属の色が変わると、「色が変わった」と声が聞こえた。
◆当たり前になっている技術
子供達が午後に訪ねた自動車部品メーカー、カナエ工業株式会社の市川広樹さんは、町工場の技術が伝わりにくい理由をこう話す。
「様々な技術を持っているのですが、いつのまにかそれが自分たちにとって当たり前の状態になっているんですね」
外からは見えにくく、中の人には当たり前すぎる。だからこそ、工場を開いてみる価値がある。
◆鉄ではないものにも、メッキを
子どもたちの思い出は「うまく缶バッジ作ったなっていうぐらいでいい」。渡邉社長はそう話す。一方で、メッキ屋としての夢は大きい。
「ちょっとね、夢物語みたいなところでもあるんですけど。ナイロンでできた服にもメッキができたりとかね」
プラスチックにメッキをする技術は、すでにある。それを突き詰めれば、服にもメッキができるかもしれない。
「例えば鉛をメッキすれば、放射線を弾いてくれるので。レントゲン技師さんが着る服とかね」
研究を進めているところと一緒に、鉄ではないものへのメッキにも挑戦してみたいという。鉄を錆から守ってきた技術が、いつか人を守る服になるかもしれない。
缶バッジを手にした子どもたちが大人になる頃、メッキは何を守っているだろうか。




