「AIに私たちが統治される前に、私たちがAIを統治すること」
「生死に関わる判断を、決して機械に委ねてはならない」
2026年9月22日、ニューヨークで開かれた第81回国連総会の一般討論演説の開幕にあたり、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、世界が直面する危機を「権力」という一つの問題から問い直した。
ガザでの殺害と破壊、ロシアによるウクライナ侵攻、途上国を圧迫する債務、気候変動、そして急速に進歩する人工知能。これらは別々の危機ではない。誰が力を持ち、誰が排除され、その力をどのようなルールで制御するのか。その問いが、すべての課題を貫いているという。
グテーレス氏は2025年、国連の機動力と実効性を高める大規模改革「UN80イニシアチブ」を立ち上げた。業務の重複削減や加盟国から託された任務の見直し、一部機関の統合を含む組織再編を進める構想で、限られた資金や人員を、支援を必要とする人々により効果的に振り向けることを目指す。組織の構造改革に関する最終判断は、加盟国が担う。
任期の終わりを前にした演説で、グテーレス氏は超大国にも力の限界があると指摘した。アフリカに常任議席のない安全保障理事会の改革、化石燃料からの公正な移行、AIを人間の管理下に置く国際協力を求めた。そして最後に、「力の論理」より「法の力」が優先されなければならないとの信念を、退任後も訴え続けると誓った。
以下、演説本文を全文、日本語で紹介する。
※演説動画の英語書き起こしに基づく非公式の日本語訳。国連の公開資料を参照して明らかな文字起こしの誤認識を補正し、読みやすさのため段落と小見出しを付けた。議長の進行発言や発話上の言い直しは除き、演説本文の内容は省略していない。時刻は動画内の該当箇所の目安。
世界の亀裂は、深い谷になった――危機に共通する「権力」の問題(冒頭〜03:28)
総会議長、各国代表の皆さま、ご列席の皆さま。
世界の断層は広がっています。亀裂は、深い谷になりました。
この10年間、戦争が勃発して壊滅的な結果をもたらし、卑劣な残虐行為を伴いながら長期化してきました。
民間人が標的となり、人権が踏みにじられ、飢餓が武器として使われ、人道支援に携わる人々が殺され、国際法が脇に追いやられました。
地政学的な分断は深まり、不平等は拡大し、信頼は損なわれました。気候危機は、遠い将来への警告から、日々の現実へと変わりました。
そして人工知能は、それをつくった人々さえ不意を突かれるほどの速さで進歩しました。
これらは別々の危機ではありません。同じ物語の、それぞれの章なのです。
それは、権力の物語です。
誰がそれを持つのか。誰がそれを与えられないのか。それはどう使われ、どう変わっているのか。
各国代表の皆さま。
権力のあり方は、3つの根本的な形で変わりつつあります。
第一に、国家間の変化です。経済、政治、技術の面で、新たな影響力の中心が現れています。
第二に、政府から、ほんの一握りの民間企業や個人へと、途方もない規模で権力が移っています。その影響は今や、政治、経済、情報の流れ、技術開発、そして社会の基盤である市民の活動空間にまで及んでいます。
そして第三に、人間はますます機械に権力を引き渡しています。AIエージェントが制御を逸脱し、致死性のある自律型兵器が、SFの世界から軍事上の現実へと変わっています。
それなのに、私たちの制度や世界を統治する仕組みは、すでに過去となった時代の権力関係や利害を、依然として強く反映しています。
これこそが、私たちの前にある決定的な課題です。
人類が前例のないほど多くの脅威に同時に直面している、まさにそのときに、共同で行動するための仕組みに、ますます大きな負荷がかかっているのです。
超大国の力も万能ではない――分断を防ぐ「つながる多極世界」(03:28〜06:39)
各国代表の皆さま。
私たちは明らかに、多極化した世界へ向かっています。この動きは後戻りしません。
しかし、多極化には、さまざまな形があります。
一つは、断片化し、個々の取引だけで関係が決まる世界です。
緊張が高まり、不信が深まる世界。市場が分断され、制度が弱まる世界。協力が縮小し、誰かの利益は誰かの損失だという計算が支配する世界です。
多くの点で、私たちは今、その方向へ進んでいます。
しかし、別の道もあります。ネットワークで結ばれた多極世界へと向かう道です。
相互依存を土台とし、経済、政治、社会、技術の緊密なつながりによって支えられる世界です。
複数の影響力の中心が、国際法と共通のルールという同じ枠組みの中で共存する世界です。
そうした世界は、覇権を求める動きを抑え、私が「大分裂」と呼んできた事態を避ける助けになります。それは、世界が、経済、技術、安全保障でそれぞれ別の仕組みを持つ、2つの対立する陣営に分かれることです。
私たちは、そうした事態を避けなければなりません。
ネットワークで結ばれた世界は、いかなる大国も、今日の課題を単独では解決できないことを認める世界です。
もちろん、競争はこれからも国際関係に常に存在するでしょう。しかし、競争が対立を意味する必要はありません。
健全な競争は、革新を促し、危機に耐える力を強め、機会を広げることができます。
ただし、それが可能なのは、安定を保ち、協力が不可欠な分野で協力できる枠組みの中で競争が行われる場合に限られます。
つながりのある未来を築くための出発点は、とりわけ超大国が、次のことを認めることです。
自分たちの力は、それほど「超」ではないということ。自分たちの力にも限界があるということです。
ここ数年の出来事は、それを疑いようのないほど明確に示しました。
軍事力だけでは、平和を確保できません。経済力だけでは、安定を思いどおりに実現できません。技術力だけでは、安全を保証できません。
ネットワークで結ばれた多極世界は、より均衡が取れ、より多くの国や人々の声を反映した、地球規模の問題解決の条件をつくることができます。
しかし、そのためには、国連を中心とする多国間の仕組みそのものが、均衡と代表性を備えていなければなりません。
80年前の力の配置ではなく、今日の世界の現実と、各国や各経済の相対的な重みが変化していることを反映した、強く、実効性のある制度が必要なのです。
権力を律するのは法か、力か――人類に突きつけられた4つの試練(06:39〜08:12)
幸い、私たちは何もないところから始めるわけではありません。
すでに、拘束力を持つ基盤があります。国連憲章です。そして、その憲章に命を吹き込む原則があります。
国際法を最優先すること。人間の尊厳を守ること。あらゆる側面において正義を追求すること。
これらは、21世紀において、実効的で正当性があり、責任ある形で権力を行使するための背骨です。
各国代表の皆さま。
結局、問われているのは、このことです。
権力を律するのは、法なのか、それとも力なのか。協力なのか、それとも威圧なのか。若者や将来世代に対する責任なのか、それとも彼らの運命への無関心なのか。
私たちは、そのあり方を決めるために行動するのでしょうか。
この時代を特徴づける課題は、権力の問題と切り離されたものではありません。それが具体的に表れたものです。
私たちが分断と不安定さの中へ、さらに流されていくのか。それとも協力、正義、集団安全保障へと進むのか。それを決めるのが、これらの課題なのです。
これからの未来は、権力をめぐる4つの大きな試練に、私たちがどう向き合うかによって形づくられます。
戦争と平和を左右する力。富を集中させ、不平等を生み出す力。気候の混乱と自然への戦争をあおる力。そして、人工知能によって解き放たれる力です。
平和とは、法によって権力が抑制されていること(08:12〜09:36)
各国代表の皆さま。
21世紀における、権力をめぐる第一の大きな試練は、平和と安全保障です。
平和とは、単に紛争がないことではありません。法によって権力が抑制されていることです。
国連憲章が定めるとおり、誰の命、権利、未来が大切なのかを、武力が最終的に決めてはならないという認識です。
今日、その原則は深刻な圧力にさらされています。
中東全域で、紛争が連鎖しています。いわゆる「停戦」は、実際には火力が少し弱まっただけにすぎず、民間人が代償を払い続けてきました。
もう、たくさんです。
この議場に集まった指導者の皆さまに訴えます。このハイレベル・ウィークを最大限に活用し、緊張緩和と対話を進めてください。
そして、この議場から、ともに明確なメッセージを送りましょう。
戦闘を止めなければなりません。人道支援を届けなければなりません。そして、国際法に従い、航行の権利と自由を完全に回復しなければなりません。
地域全体を巻き込む混乱の中で、私たちは、パレスチナ被占領地の壊滅的な状況を見失ってはなりません。
ガザの殺害と破壊、ヨルダン川西岸の入植拡大――二国家解決を消滅させてはならない(09:36〜10:49)
10月7日の、ハマスによる忌まわしいテロ攻撃から、まもなく3年になります。
しかし、その後に続いたのは、ガザのパレスチナ人に対する猛攻でした。その殺害と破壊の規模は、私が事務総長として過ごしてきた年月の中でも、見たことのないものでした。
国際司法裁判所は、「ガザ地区における集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約の適用」という事件で、法的拘束力のある暫定措置を命じています。
また、昨年の勧告的意見で、同裁判所は明確にしました。国連がガザで、その任務を遂行することを認めなければならないこと。そして、国連職員や人道支援要員を保護しなければならないことです。
すべての当事者は、国際法と裁判所の命令に従わなければなりません。
一方、占領下のヨルダン川西岸では、イスラエルによる暴力、住民の強制移動、入植地の拡大が、平和への道をブルドーザーで押しつぶし、民族浄化という恐ろしい事態への懸念を高めています。
私たちの目の前で、二国家解決が消え去ることを許してはなりません。
ウクライナ、スーダン、ミャンマー――権力が制御を失ったとき(10:49〜12:34)
ウクライナでは、ロシアによる全面侵攻が、国連憲章に明白に違反し、一つの主権国家を残忍な戦争にさらしています。
前線から遠く離れた場所でも、民間人が殺され続けています。主にウクライナで、そして最近ではロシアの一部でもです。
住宅、エネルギー・水道設備、交通機関が繰り返し攻撃され、世界の食料とエネルギーの供給、そしてサプライチェーンが脅かされています。
スーダンでは、外部の勢力にあおられた、むき出しの権力をめぐる戦争が、民間人に対する戦争になっています。
何百万人もの人々が避難を強いられ、飢餓が広がり、ドローンが病院や住宅を攻撃しています。性暴力や民族を理由とした攻撃が激化しています。そして、世界が目を背ける中で、一つの国が引き裂かれています。
ミャンマーでも、別の危機が世界の関心からこぼれ落ちようとしています。暴力の激化、大規模な避難、国境を越える犯罪の拡大です。
各国代表の皆さま。
これらをはじめとする多くの紛争は、権力が制御を失い、武力が外交を追い越し、軍事予算が膨張し、責任を問う仕組みが投げ捨てられたとき、何が起きるかを示しています。
二重基準なく憲章を守れ――アフリカに常任議席のない安保理は正当化できない(12:34〜14:14)
私たちの前にある試練は、権力が法に従って行使されるのか、それとも法を超えて行使されるのかということです。
私たちは、この試練を乗り越えなければなりません。
二重基準を設けることなく、国連憲章を守らなければなりません。
例外なく、民間人を保護しなければなりません。
妨害を許さず、人道支援へのアクセスを確保しなければなりません。
人道支援要員を、必ず守らなければなりません。
遅滞なく、核不拡散と軍縮を進めなければなりません。
そして、恐れもえこひいきもなく、責任を問わなければなりません。
私たちはまた、安全保障理事会を改革しなければなりません。今日の世界を反映し、今日の課題に必要な正当性と実効性を備えたものにするためです。
安全保障理事会は、第二次世界大戦の直後に設計されました。しかし、世界はその後、根本的に変わりました。その変化は、安保理に十分に反映されていません。
最も顕著な例が、アフリカです。
国連が設立されたとき、アフリカの大半はまだ植民地支配の下にありました。
今日もなお、アフリカには安保理の常任議席がありません。
アフリカに常任議席がない21世紀の安全保障理事会は、不公正であり、正当化できません。
これは変えなければなりません。
格差は「権力の問題」――途上国を圧迫する金融制度を変える(14:14〜16:41)
各国代表の皆さま。
権力をめぐる第二の試練は、不平等です。
不平等は、しばしば経済の問題として語られます。しかし、それは権力の問題です。
機会を左右する力。誰がその機会を得るのか。資源にアクセスできるのは誰か。誰が声を持つのかという問題です。
人類は、これほど多くの富、知識、技術的能力を持ったことはありません。
それでも、何十億もの人々にとって、進歩は手の届かないところにあります。周囲の繁栄は見えても、自分自身の暮らしに、その繁栄はありません。
グローバル化は可能性を広げると言われながら、彼らが経験するのは排除です。技術が新たな可能性を開くと約束されながら、多くの人は、それによって生計を奪われるのではないかと恐れています。
その一方で、何十億もの人々が今なお、持続可能な開発目標(SDGs)に盛り込まれた、誰にでも保障されるべき基本的なものを得られずに生きています。
食料。きれいな水。教育。働きがいのある人間らしい仕事。医療。そして尊厳です。
各国代表の皆さま。
著しく不平等な金融制度の不利な側に置かれているという理由で、持続可能な未来を奪われてよい国など、一つもありません。
しかし、途上国のあまりに多くが、持続不可能な債務に押しつぶされています。自らにはほとんど責任のない災害に打ちのめされ、負担可能な条件での資金調達から締め出されています。
だからこそ私たちは、国際金融の仕組みの改革を進めるため、政治的に議論する場をつくってきました。
これは技術的な議論ではありません。代表性、公正さ、そして権力を分かち合うことをめぐる問題です。
適時に行われ、効果的で、公正な債務救済が必要です。
多国間開発銀行には、より大きく、より大胆で、より十分な能力を備えた存在となることが求められます。負担可能な条件での長期資金を大規模に供給し、民間資金を大幅に呼び込むためです。
そして、特別引出権(SDR)が、それを最も必要とする国々の利益となるようにしなければなりません。
「平等は夢ではない。決断だ」――女性と男性の間で権力を分かち合う(16:41〜18:26)
不平等を論じるうえで、その最も普遍的な形を無視することはできません。女性と男性の間の不平等です。
あらゆる場所で、女性や少女たちは今なお、差別、暴力、排除、虐待に直面しています。
世界中で、彼女たちの権利が後退させられ、声が封じられ、身体が戦場に変えられ、自由が取引の材料にされています。
これは許しがたいことであり、人類にとっての計り知れない損失でもあります。
女性が協議の場に参加するとき、平和はより長く続きます。女性に平等な機会があるとき、経済はより活力を持ちます。
少女たちが学び、指導力を発揮し、恐怖から解放されて生きられるとき、社会はより強くなります。そして、権力が平等に分かち合われるとき、組織はより有効に機能します。
この10年間で、私たちは大きな節目に到達しました。
本日、誇りを持って皆さまに報告します。国連は、その歴史上初めて、幹部層全体、すべての本部、そして専門職員全体で、男女同数を実現しました。
それが実現したのは、私たちが障壁を取り除き、当然とされてきた前提を問い直し、権力の姿は従来のままでなければならないという考えを受け入れなかったからです。
その過程のどの段階でも、質と能力について妥協することはありませんでした。
平等は夢ではありません。決断なのです。
国連が変われるのなら、政府も変われます。議会も、企業も、和平プロセスも変われます。そして、この総会も変われるのです。
次の世代の未来を消費するな――化石燃料からの公正な移行を(18:26〜20:54)
各国代表の皆さま。
権力をめぐる第三の大きな試練は、気候危機です。
多くの意味で、これはあらゆる問題の中でも最も深刻な、世代間の力の不均衡です。
ある世代が、次の世代の未来を消費しています。ある集団が利益を得る一方で、責任が最も小さい人々が、真っ先に、そして最も深刻な被害を受けています。
3年前、ネパールの山々で、私は加速する氷河の融解に警鐘を鳴らし、「世界の屋根が崩れ落ちている」と警告しました。
危険を大げさに言っているだけだと退けた人もいました。しかし、悲惨な出来事が示したように、その影響は、多くの人が予想したより早く現れ、より強く襲い、より広く及んでいます。
今、私たちは、気温上昇を1.5度に抑える上限をほぼ確実に超えるという事態に直面しています。しかも、極めて大規模なエルニーニョが、人類に向かって急速に迫っています。
危険は現実です。しかし、希望もまた現実です。
この10年間には、私たちの時代における最も有望な力の変化の一つが進みました。クリーンエネルギーの台頭です。
太陽は誰の所有物でもありません。風に禁輸措置をかけることはできません。革新は、どこからでも生まれます。
これは、力の関係を根本的に組み替える変化です。
今や世界の大半で、新たに発電設備をつくる場合、再生可能エネルギーが最も安い電源になっています。そして、エネルギー安全保障、自立、持続可能な成長を実現するうえで、最も実行可能な道になっています。
各国代表の皆さま。
化石燃料を乗り越えた未来が、見えてきています。
問題は、どう移行するかです。
国際協力に基づく、公正で秩序ある移行になるのでしょうか。それとも、人々や国々を取り残し、混乱と大きな負担を伴う移行になるのでしょうか。
本日、私はすべての政府に呼びかけます。1.5度目標に整合し、明確な期限を定め、影響を受ける労働者と地域社会を保護する、化石燃料からの移行のための国家計画を採択してください。
「汚染者が支払わなければならない」――巨額の石油利益と不足する気候資金(20:54〜22:59)
化石燃料に利害を持つ勢力が、自ら身を引くことはないと、私たちは知っています。
何十年もの間、大手石油企業は大気を、ふたのない下水道のように扱い、そうすることで利益を上げてきました。
ロシアのウクライナ侵攻以降、欧米の大手石油企業5社は、合わせて5,000億ドル近い利益を手にしました。
それを、報告された直近の年に、途上国の気候変動への適応のために提供された国際的な公的資金、わずか340億ドルと比べてください。
一方、普通に暮らす人々は、エネルギー、食料、保険に、より多くのお金を払っています。
私たちは、この種の権力の乱用を、以前にも見てきました。
大手たばこ企業による害が否定できなくなったとき、政府は行動しました。気候危機にも、同じ決意が必要です。
最も多く汚染し、最も多く利益を得た者たちは、自ら引き起こした被害を修復するために、はるかに多くのことをしなければなりません。
汚染者が、支払わなければなりません。
そして、その責任を問おうと取り組んでいる指導者、都市、市民社会、市民の皆さまに、私はこう伝えます。
皆さんは、歴史の正しい側に立っています。どうか、取り組みを続けてください。
政府もまた、あらゆる方面で行動を続けなければなりません。
森林破壊を終わらせること。送電網と蓄電に投資すること。メタンの排出を削減することです。
しかし、それだけでは足りません。
適応と資金に重点を置いた、気候正義が必要です。
先進国は、約束を守らなければなりません。適応資金を3倍にし、「損失と損害」基金が必要な規模で機能するようにしなければなりません。
現在、「損失と損害」基金で利用できる資金は、あまりにも少なすぎます。
また、重要鉱物の採掘が、過去の不平等をさらに深く掘り下げることのないようにしなければなりません。
資源の産出国と、影響を受ける地域社会は、その資源から生み出される価値の、はるかに大きな割合を、自らの手元に残せるようにする必要があります。
略奪は、もう終わりにしましょう。搾取も、もう終わりにしましょう。
AIが生む新たな権力――危険なのは、説明責任と監督の欠如(22:59〜24:36)
各国代表の皆さま。
権力をめぐる第四の試練は、技術、とりわけ人工知能です。
何世紀もの間、力の源泉は領土でした。その後は産業、そして金融でした。
今日、力はますます、データ、計算能力、アルゴリズムから生まれています。
この新しい力は、著しく集中しています。しかも、驚くべき速さで進み、その影響の全体像を私たちが理解する能力を、はるかに追い越しています。
2017年、AIは世界の関心にほとんど上っていませんでした。それでも私は、総会の開幕にあたって行った最初の演説で、こう警告しました。
「人工知能は、開発を促進し、人々の暮らしを目覚ましい形で変えることのできる、状況を一変させる技術です。しかし同時に、労働市場、さらには世界の安全保障、そして社会の構造そのものに、劇的な影響を及ぼす可能性もあります」
それから、まもなく10年です。
AIは実際に、状況を一変させる技術となっています。医療を進歩させ、科学的発見を加速し、機会を広げ、人々の暮らしを改善する、計り知れない可能性を持っています。
しかし、取り違えてはなりません。
危険なのは、技術そのものではありません。
危険なのは、説明責任を伴わない技術、監督を伴わない能力、透明性を欠いた意思決定です。そして、その危険は最小限に抑えることができます。
核の危機に向き合ったように――AI先進国に求める国際協力(24:36〜26:36)
これらのシステムをつくっている開発者自身が、今、警鐘を鳴らしています。
各国代表の皆さま。
政府の第一の義務は、人々を守ることです。政府は、その責任を果たさなければなりません。
そして、最も高いAI能力を持つ政府は、人類に対して最も大きな責任を負っています。対話、透明性、信頼、協力のための経路を築く責任です。
それは、地政学的な対立があっても行う、というだけではありません。その対立があるからこそ、行わなければならないのです。
冷戦の重要な局面で、戦略上の対立国同士は、共通の、存立を脅かすリスクを管理する必要性を認識するようになりました。
誤解を減らし、緊張の激化を管理し、破局を防ぐための仕組みを築きました。当時、その対象は核兵器でした。
今日、人工知能は、それと同じ明確な目的意識と切迫感を求めています。
この技術革命を主導する国々は、新たに現れる安全上のリスクに関する情報を共有し、試験と評価で協力し、私たち全員を守る共通の安全措置に向けて取り組まなければなりません。
しかし、これは私たち全員に影響する問題だからこそ、地球規模での調整が不可欠です。
私たちに共通する未来を形づくるにあたり、すべての国が発言できる場所は、一つしかありません。それが、国連です。
「グローバル・デジタル・コンパクト」を通じて、皆さまは初めて、AIの統治に関する普遍的な原則に合意しました。
「AIガバナンスに関するグローバル対話」を通じて、私たちは、政府、科学者、産業界の指導者、市民社会が、ともに取り組むための場をつくりました。
「AIに関する独立国際科学パネル」を通じて、世界の専門知を結集し、政策が根拠に基づいて導かれるようにしてきました。
子どもを実験対象にするな、生死を機械に委ねるな(26:36〜28:02)
ちょうど昨日、AI科学パネルは、AIの安全性と、人間による制御が失われることによるリスクについて、テーマ別の報告書を公表しました。
こうした取り組みを土台として、私たちは次の段階に進まなければなりません。
第一に、AIの進展の速度を責任ある形で管理するための条件を整え、リスクに対処するための追加的な安全措置を進めることです。
第二に、信頼できる独立した監督に支えられた、多国間のAIリスク管理の枠組みに向けて取り組むことです。
あらゆる取り組みにおいて、どの国も取り残されないようにしなければなりません。
人工知能は、人類によって、人類とともに、すべての人類のために形づくられなければなりません。
そして、これからの課題に立ち向かうにあたり、2つの根本的な原則から後退しないようにしましょう。
声を一つにして、こう言いましょう。
子どもたちを、規制されていないシステムの実験対象にしてはなりません。
そして、生死に関わる判断を、決して機械に委ねないと決意しましょう。
殺人ロボットに、私たちの未来の居場所を与えてはなりません。
平和、開発、人権は切り離せない――国連憲章の都合のよい読み方を許さない(28:02〜29:57)
各国代表の皆さま。
平和と安全保障。不平等。気候。人工知能。
これらが、未来に向けた、権力をめぐる4つの大きな試練です。これらが未来を決めます。そして、これらは互いにつながっています。
戦争は不平等を深め、開発を破壊し、飢餓を加速させます。
不平等によって、気候変動やその他の衝撃に対処する手段を持てる人と、危険にさらされたまま取り残される人が決まります。
気候危機は、不安定さと避難を拡大させます。
人工知能は、これらすべての課題の解決を助けることもできますし、悪化させることもできます。
4つの試練のすべてを通じて、決定的な問題となるのが権力です。
武力、資金、エネルギー、技術、ルール、そして未来を左右する力です。
だからこそ、国連憲章と国連の活動は、かつてないほど重要なのです。
権力にはルールが必要です。そして人類には、権力が原則に従う場所が必要です。だからこそ国連は存在しています。
国連憲章に、都合のよい部分だけを選んで読む余地はありません。
憲章は、3つの柱に根ざした組織をつくりました。平和、開発、そして人権です。
これらは、互いに競合する課題ではありません。一つの現実なのです。
開発なくして平和はありません。平和なくして開発はありません。そして、人権なくして、平和も開発もありません。
尊厳、機会、権利から平和を切り離せるかのように考えることは、受け入れがたい幻想です。
必要なのは、現実に立ち向かえる強い国連(29:57〜30:55)
しかし、この真実を守ることは、現状を守ることを意味しません。
「未来のための協定」と「UN80イニシアチブ」は、国連の3つの柱が等しく重要であるという原則を常に尊重しながら、国連を変えるためのものです。
より迅速に応え、より効果的に働き、より一貫性があり、より透明で、より成果を重視し、より規律を持って資源を使い、そして、人々が私たちを必要とする場所に、より確かに存在する国連へと変えるためです。
世界が必要としているのは、弱い国連ではありません。
ありのままの世界に立ち向かうだけの強さを持ち、あるべき世界を築くための確固たる決意を持つ国連です。
各国代表の皆さま。
10年を経た今、就任したとき以上に強く抱いている確信があります。
最も偉大な力は、支配する力ではありません。
すべての人にとって、よりよい未来を築く力です。
AIに統治される前に、AIを統治する――未来を恐怖に明け渡さないために(30:55〜31:48)
私たちに共通する未来は、人類が権力を賢明に統治できるかどうかによって形づくられます。
責任を問われないことが当たり前になる前に、法を守ること。
戦争が幾つもの世代をのみ込んでしまう前に、戦争を終わらせること。
社会が分裂してしまう前に、不平等に取り組むこと。
後戻りできない転換点を越える前に、気候変動対策を加速させること。
そして、AIに私たちが統治される前に、私たちがAIを統治することです。
これが、この総会、国連、そして人類そのものの前にある課題です。
各国代表の皆さま。
80年以上前、世界的な大惨事を前にして、国連は、屈服を拒む行動としてつくられました。
未来を恐怖に明け渡すことを拒んだ人々の、屈服を拒む行動です。
力こそが正義だという、自らを破滅へ導く考えに対する抵抗です。
私たちの未来が互いに結びついていると知る国々の、抵抗です。
希望による、抵抗なのです。
「私は決して諦めない」――退任後も国連の価値を訴え続ける(31:48〜32:43)
私は、任期に残された100日間、その一日一日を、この決意と覚悟の精神を持って歩んでいきます。
しかし、国連の価値と原則への献身は、任期とともに始まるものでも、任期とともに終わるものでもありません。
それらは、一つの役職よりも大きく、一人の人間の生涯を超えて生き続けます。
ですから、1月1日、私がもはや事務総長ではなくなるときも、このことだけは確かです。
私がどこにいても、何をしていても、私は訴え続けます。
平和は可能であるという確信を。
人間の尊厳は普遍的であるという確信を。
「力の論理」より「法の力」が優先されなければならないという確信を。
そして、私たちに共通する未来は、そのために力を尽くす価値があるという確信を。
私は、国連憲章の価値を守るために、声を上げ続けます。
そして、決して、決して、諦めません。
ありがとうございました。
出典・参照資料: