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「ブラジルは誰の裏庭でもない」ルラ大統領が国連で問う、ガザ・AIと大国の支配

2026/09/23 ▶ VIDEO

 

「ブラジルは誰の裏庭でもない」

ブラジルのルラ大統領は2026年9月22日、ニューヨークで開かれた第81回国連総会の一般討論演説で、こう訴えた。大国による介入を拒み、自国の将来は自国の人々が決めるという宣言だった。

これまで本シリーズでは、ガザで語られる「平和」と住民の現実、国際法の二重基準、世界の意思決定から取り残される国々の声を追ってきた。

ルラ氏の演説は、その問いを中南米から投げかけるものだった。戦争を止められない国連。軍事力や関税による圧力。資源の利益の行方。そして、巨大IT企業が握る技術と情報。

演説を通して浮かぶのは、国家や人々が自らの未来を選ぶために、何を取り戻す必要があるのかという問いだ。

「戦争は政治の完全な破綻だ」――拒否権への怒り

「今日、私を突き動かしているのは憤りだ」

ルラ氏は、国連が戦争の惨禍から人類を救うという重要な使命を果たせていないと批判した。軍隊や兵器を持たない、最も弱い立場の人々を守る力が失われていると訴えた。

その原因として挙げたのが、安全保障理事会の機能不全と拒否権だった。

大国に特別な権限を与えた制度に、指導者の危機が重なっている。国際社会は安保理の不作為の「人質」になっていると述べ、安保理の構成国首脳が集まるよう求めた。

「戦争は、別の手段による政治の継続ではない。政治の完全な破綻だ」

これは、国連の必要性そのものを否定する発言ではない。演説の終盤では、国連が脱植民地化や人権保障に果たした役割を評価し、再び「平和の殿堂」となるための政治的意思を求めている。

制度を維持するだけで、命を守るという本来の目的を果たせなければ、その信頼は失われる。ルラ氏の批判は、国連を実際に行動できる場へ戻す責任に向けられた。

ガザの「ジェノサイド」を非難、国際司法への圧力にも警告

パレスチナについて、ルラ氏はネタニヤフ政権がガザの女性や子どもに対して「ジェノサイド」を行ったと非難した。何世代ものパレスチナ人が、その痛みと心の傷を背負うことになると述べた。

同時に、イスラエルの市民も、ハマスのテロ行為によって犠牲を払ったと語っている。

双方の市民の安全を実現する道筋として支持したのが、イスラエルとパレスチナの二つの国家が共存する「二国家解決」だ。ヨルダン川西岸の違法入植が、その実現をますます困難にしていると警告した。

さらに、国際刑事裁判所(ICC)とその関係者への迫害は、犯罪が処罰されない状況を助長すると批判。国連特別報告者フランチェスカ・アルバネーゼ氏を、真実を語ったことで沈黙させてはならないと訴えた。

ここには、米国のトランプ大統領との明確な違いがある。同じ総会でトランプ氏はICCを非難し、加盟国に脱退するよう求めた。

重大な被害について責任を問う国際的な仕組みを守るのか、それともそこから離れるよう促すのか。演説を並べると、国際司法への向き合い方の隔たりが見える。

ルラ氏の「ジェノサイド」という表現は、ここでは同氏の発言として伝えている。その強い非難とともに、責任を検証する手続きを守るよう求めた点を押さえておきたい。

ウクライナでは外交を要求――主権の原則をどう具体化するか

ルラ氏は、ロシアとウクライナの戦争にも言及した。

戦場に勝者はいないと述べ、外交こそが唯一の選択肢だと主張。ブラジルと中国が立ち上げた「平和の友」グループを、対話に取り組む国際社会の動きとして紹介した。

一方、今回の演説では、ロシアによる侵略を明示的に非難する言葉や、撤退の要求には踏み込んでいない。ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支持を表明したフランスのマクロン大統領とは、強調点が異なる。

対話を求めることを、ウクライナの主権や人々の意思が尊重される解決へ、どう結びつけるのか。大国による支配に反対する原則は、ブラジル自身の外交を評価する際にも問われる。

「空母は必要ない」――米国に求めた協力のかたち

中南米についての発言では、米国を強く意識した主権への訴えが続いた。

世界最大の軍事大国と地理的に近いという現実は避けられない。しかし、ブラジルは誰かの「裏庭」にはならない。ルラ氏は、選挙への干渉、世界を勢力圏に分ける動き、戦略資源を狙う新植民地主義的な介入を批判した。

この立場を具体的に示したのが、組織犯罪対策だ。

ルラ氏は、強盗被害に遭う労働者、子どもを失う母親、任務から帰らない警察官に触れ、人々が暴力に疲れ果てていると語った。そのうえで、国境と住民を守る責任を外部に委ねることはないと表明した。

「私たちの海を警戒する空母は必要ない。必要なのは、犯罪を支える武器と資金の流れを止めるための協力だ」

資金洗浄への対策などを米大統領に直接提案したという。国際協力を求めながら、その協力が外国の軍事介入へと置き換わることには線を引いた。

地域の政治にも触れ、ベネズエラの人々が自らの運命を決める権利を擁護する一方、ニカラグアには、野党の選挙参加を妨げても問題は解決しないと述べた。外部からの干渉と、国内での政治参加の制限の双方に言及したのである。

脱炭素の利益は誰のものか――資源主権と石油開発の緊張

主権をめぐる議論は、天然資源にも及んだ。

ルラ氏は、ブラジルがエネルギー転換に必要な重要鉱物やレアアースを持つと強調。それらへのアクセスには、国内での付加価値の創出、技術移転、国内の戦略産業への供給を条件とすると述べた。

資源を国外へ運び出すだけで終わらせず、自国の産業や技術に結びつけるという主張だ。

この問題意識は、本シリーズで取り上げたシエラレオネの演説にも通じる。脱炭素に必要な資源を供給する地域に、仕事や利益が残らなければ、世界が新しい技術へ移行しても不平等は続く。

ただし、ブラジル自身の政策にも緊張関係がある。

ルラ氏は、気候変動が主要国の議論から後退していると批判し、森林保全への資金の仕組みや、アマゾンの森林破壊削減を自国の成果として紹介した。一方で、赤道沿岸部などの新たな石油埋蔵地の探査も続けると明言した。

経済成長と排出削減は両立できると訴える。その約束が実際に果たされるかどうかは、今後の資源開発、森林への影響、排出量の変化に照らして確かめる必要がある。

AIと巨大IT企業にも問う「誰が決めるのか」

「巨大IT企業と人工知能を規制するという課題に取り組まなければ、歴史的に許されない不作為となる」

ルラ氏は、技術の可能性を認めながら、一握りの「技術寡頭勢力」がルールや透明性を欠く競争を進めていると批判した。

特に問題視したのは、企業が自社製品の危険性を認識しながら、アルゴリズムに対抗するという困難な責任を家庭に押しつけていることだった。オンライン賭博についても、依存を利益に変え、借金を増やし、家庭を壊していると訴えた。

子どもや女性をデジタル空間で守ること。芸術家や音楽家、映像などの制作者への公正な報酬を確保すること。技術を社会の利益につなげるために、政府が責任を果たす姿勢を示した。

さらに、金融包摂を進めた公共決済基盤「Pix」に言及。これを民営化しようとする多国籍企業の圧力には屈しないと述べた。

ここでいう主権は、領土や国境だけの問題ではない。 人々が日常的に使う決済や情報の基盤を、誰が、どのような責任のもとで運営するのかという問いにもつながっている。

マクロン氏も今回の演説で、AIのルールづくりを米中と少数の民間企業だけに委ねることに懸念を示した。大国と巨大企業への権限の集中をどう抑えるかという問題意識は、地域を越えて重なっている。

貧困も働き方も「政治の選択」で変えられる

ルラ氏は、格差や開発の遅れを、政治的な選択の結果だと位置づけた。

貧しい人々のために予算を配分し、富裕層には応分の負担を求める。特権を削り、無償で質の高い教育と医療に投資する。自国の経済運営についても、所得分配、雇用創出、賃上げを重視していると説明した。

働き方では、「6日勤務・1日休み」を終え、週2日の休日を保障する必要性を訴えた。休息や学び直し、家族と過ごす時間を確保し、女性に偏る家庭内の負担を軽くするためだという。

女性の政治・経済参加を進め、女性を標的とする殺人や暴力をなくすことも、世界が取り組むべき課題に挙げた。

外交で主権を守ることと、国内で人々の生活の選択肢を増やすこと。その二つを結びつけるのが、ルラ氏の描く国家の役割だ。

国の未来を決めるのは、その国で生きる人々

演説の最後に、ルラ氏は10月4日に予定されるブラジルの選挙に言及した。

選挙を「民主主義と否認主義」の選択と位置づけ、偽情報や外国の利害による干渉への警戒を示した。そのうえで、競争的で透明な選挙と、候補者の幅広い表現の自由を保障すると述べた。

これは民主主義への訴えであると同時に、選挙を前に自らの政権の実績と進路を示す政治的なメッセージでもある。掲げた言葉を、選挙の公正さや異論の保障、暮らしの改善によって確かめる視点は欠かせない。

「ブラジルの民主主義は、ブラジル人のものだ」

この言葉を、国境の外にも内にも向けて考えたい。

他国の軍事力や経済力によって未来を決められないこと。そして、国内でも一部の権力者や企業だけが未来を決めないこと。

ガザの人々の権利から、ブラジルの資源、家庭の中に入り込むアルゴリズムまで。ルラ氏の演説は、世界の大きな力の動きを、一人ひとりが自分の人生を選べるかという問題につないだ。

その訴えが政策として実を結ぶかどうかも、人々の命と暮らしに照らして見続けたい。

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