✍ 市民記者: JUN HORI さんの投稿
国際法を守ると訴える国々は、ガザとヨルダン川西岸で苦しむ人々のために、どのような行動をとるのか。
英国のアンディ・バーナム首相は2026年9月22日、ニューヨークで開かれた第81回国連総会の一般討論演説で、イスラエル政府によるガザやヨルダン川西岸での行動を批判し、二国家解決を実現するために行動する必要性を訴えた。
イスラエルとパレスチナが平和と安全のうちに共存する未来を語りながら、その言葉を行動で裏づけなければ、政治への信頼はさらに失われる。
この警告は、パレスチナをめぐる外交だけに向けられたものではなかった。ウクライナへの侵攻、偽情報による分断、生活苦、AIがもたらす変化。約22分の演説では、国際社会が掲げる原則と、人々が生きる現実との隔たりが問われた。
イスラエルへの攻撃は、ガザでの行動を正当化しない
バーナム氏は、ハマスによる2023年10月7日のイスラエルへの攻撃を強く非難した。イランを含む脅威に直面するイスラエルや、世界のユダヤ人に連帯する姿勢も示した。
そのうえで、こう述べた。
「しかし、それはガザやヨルダン川西岸におけるイスラエル政府の行動を正当化するものではない」
多くの子どもを含む人々が命を落とし、届く支援はあまりにも少なく、苦しみがあまりにも長く続いている。バーナム氏は、その状況を傍観しないと訴えた。
イスラエルの人々の安全を守ることと、パレスチナの人々の命や権利を守ること。その双方を実現する道筋として、イスラエルとパレスチナの二つの国家が共存する「二国家解決」を位置づけたのである。
パレスチナ国家の実現を脅かす入植計画
特に問題視したのが、ヨルダン川西岸の大規模入植計画「E1」だった。
バーナム氏は、この計画が西岸にくさびを打ち込み、存続可能なパレスチナ国家の実現を遠ざけると批判した。
英国などが8月に公表した首脳共同声明でも、E1計画はパレスチナ領の地理的な連続性を損ない、二国家解決の展望を脅かすと指摘している。[1]
将来のパレスチナ国家を認めるという理念を掲げても、その国家が成り立つ条件が現地で失われていけば、実現は遠のく。入植拡大への対応は、二国家解決への支持を具体的に示せるかどうかの試金石になる。
バーナム氏は演説で、イスラエルによるパレスチナ領占領を違法と認め、違法入植地との貿易を禁じる措置や、入植地建設に関与する者への制裁によって行動を起こしてきたと説明した。
英国、フランス、カナダは9月8日の外相共同声明でも、入植地産品の貿易を禁止する国内措置を進める方針を示している。[2]
演説で示された対応を、実際の制度や執行へとどうつなげるのか。さらに、それが現地の人々の権利を守るうえで、どのような効果をもたらすのかが問われる。
ウクライナでもパレスチナでも、法の支配を問う
バーナム氏は、ロシアによるウクライナ侵攻も強く非難した。
キーウ訪問で見た、破壊された市場や、夜には避難所となる地下鉄駅の様子を紹介。厳しい冬を前に、ウクライナの防空や暖房・電力施設の保護と復旧を支えると表明した。
そのうえで、国連安全保障理事会の常任理事国による攻撃が繰り返されることを見越し、国連の場で被害軽減のための資金を発表する現状を厳しく批判。ロシアに停戦を受け入れ、交渉の席に着くよう求めた。
ウクライナへの支援は、国連憲章と法の支配を守るためだと述べ、法の支配への脅威には、ロシア以外からのものにも立ち向かうと表明した。
この発言をパレスチナへの言及と重ねて読むと、国際法を守ると掲げる国々の一貫性が問われていることが分かる。ウクライナの市民の被害を非難する原則を、ガザやヨルダン川西岸の人々の命と権利を守る行動にもつなげられるか。
英国自身の政策も、その物差しで検証されることになる。
言葉と行動の隔たりが、政治への信頼を壊す
パレスチナをめぐる発言で注目したいのは、バーナム氏が二国家解決への対応を、政治への信頼という問題に結びつけたことだ。
政治への信頼が低い時代に、二国家解決を語り続けながら、その言葉を行動で裏づけなければ、信頼はさらに失われる。その結果として生まれる疎外感は、敵対する勢力に利用されると警告した。
国際法や人権を守るという言葉に、実際の政策が伴っているか。政治の発言と行動を、人々は見ている。その隔たりが積み重なれば、社会の分断を深める隙にもなりうる。
ここに、演説の外交と国内政治をつなぐ問題意識がある。
「安全保障は家庭から始まる」――生活苦と社会の分断
バーナム氏は演説の冒頭、EU離脱をめぐる混乱を経験した英国の再出発を宣言した。2016年の離脱を問う国民投票から10年。「英国は戻ってきた」と述べ、国際協調を通じて共通の課題を解決する意欲を示した。
防衛力や抑止力の強化を約束する一方で、こうも語っている。
「その土台に強く結束した社会がなければ、国家の安全保障は成り立たない」
社会の結束を脅かすものとして挙げたのが、ロシアによる情報工作だ。ボットや偽サイト、捏造された新聞記事、BBCや大学を含む英国組織へのなりすましによって、不安や分断が増幅されてきたと主張した。
個々の工作の詳細や根拠が、この演説ですべて示されたわけではない。ただ、その対策として生活苦や格差への対応を挙げた点は重要だ。
生活費に苦しみ、暮らしが改善しない人。仕事にも教育にも職業訓練にもつながっていない若者。そうした人々は、情報工作の影響を受けやすくなると指摘した。
「格差が広がりすぎれば、私たちの社会は、より大きな危険にさらされる」
困窮していることと、偽情報を信じることは同じではない。ここで問われるのは、人々の切実な不安に政治が応えられているかどうかだ。
バーナム氏は、生活費の負担軽減を新たな10年計画の中心に据えると表明。敵対国家による情報攻撃を検知し、発信源を特定して妨害する「国家情報防衛センター」の設立準備も指示するとした。
この組織の権限や監督の仕組みは、演説では示されていない。正当な政府批判や異論を守りながら、どう情報工作に対処するかも、今後の検証課題だ。
「情報戦に直面するなか、安全保障は一つひとつの家庭から始まる」
日々の暮らしを支えることを、国を守るための土台に位置づけた言葉だった。
AIの進歩を、誰のためのものにするのか
同じ問題意識は、AIについての発言にも表れていた。
バーナム氏は、AIによるがん診断の迅速化や、医療、教育、経済成長への可能性を強調。重要インフラを守るため、米国とのAI防衛協力を進めていると述べた。英国政府も同日、AIと自律技術をめぐる米英の新たな協力方針を発表している。[3]
一方で、約200年前の産業革命では、技術革新の陰で労働者が苦痛や搾取を経験したと振り返った。AIによる変化のなかで、同じ過ちを繰り返してはならないという。
重要な判断は、働く人々に責任を負う、選挙で選ばれた政府が担うべきだと主張。2027年の英国のG20議長国としての活動ではAIを主要議題に据え、透明性や安全性に関する共通原則・基準の合意を目指すと述べた。
必要なら新たな法律も整備する。技術によって何ができるのかとともに、その変化を誰が引き受け、誰が支えるのかが問われている。
国際法を、人々の命と暮らしにつなげられるか
二国家解決への支持が、入植拡大を止める行動につながるのか。市民の保護を求める声が、ガザへの支援や、人々の安全の確保につながるのか。
バーナム氏の演説は、掲げた理念を行動で裏づける責任を訴えた。その責任は、英国自身も負っている。
法の支配、平和、人権。国際社会が繰り返してきた言葉を、現地で生きる人々の命と尊厳に、どう結びつけるのか。
パレスチナについて何を語ったかとともに、その後に何を実行したかを見続ける必要がある。国際法への信頼も、政治への信頼も、その積み重ねのなかで問われている。
