✍ 市民記者: JUN HORI さんの投稿
平和が実現したと語られても、そこに暮らす人々の命と尊厳が守られていなければ、その言葉は誰のためのものなのか。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2026年9月22日、ニューヨークの国連総会で演説し、ガザの人道危機と、主権をめぐる国際社会の「二重基準」を厳しく批判した。
「我々は弱肉強食の法則が支配する世界で生きていくのか、それとも文明的な国際社会で生きていくのか?」
国連が伝えたこの問いは、パレスチナ、ウクライナ、スーダンなどで続く危機を、国際社会がどのような原則で受け止めるのかを問うものだった。
ガザの「平和」を、住民の現実から問う
マクロン氏は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区の双方のパレスチナ人への支持を表明した。
ガザで平和を達成したと主張する者がいる一方、人道回廊は実現していない。国連の演説紹介によると、マクロン氏がこの隔たりを指摘すると、会場から拍手が起きた。
ここで問われているのは、外交の成果として語られる「平和」と、現地の人々が生きる現実との距離だ。人道支援が安全に届き、人々が命をつなぎ、生活を取り戻せる条件が整っているのか。政治指導者の宣言は、その現実に照らして検証されなければならない。
フランスは前年の2025年9月22日、国連本部で開かれた会議でパレスチナの国家承認を表明している。イスラエルとパレスチナの二つの国家が共存する「二国家解決」を進めるための会議だった。今回の演説は、承認からちょうど1年の節目に行われた。
その視線はガザにとどまらない。ロイター通信によると、マクロン氏はヨルダン川西岸での入植者による暴力を非難し、二国家解決はイスラエルとその国民の安全にも必要だと訴えた。
パレスチナの人々が自らの将来を決める権利と、イスラエルの人々が安全に暮らす権利。その双方を保障する政治的な道筋を、どう実現するのか。人道支援とともに、その課題が残されている。
欧州で守る主権を、中東でも守れるか
演説を貫いたのが、主権を尊重する原則の一貫性だった。
マクロン氏は、欧州では人々の主権を重視しながら、中東やアフリカでは同じ原則を軽視する姿勢を批判。他国の人々の意思を踏みにじり、制度を変え、政権を転覆させようとする行為は、さらに大きな混乱を招いてきたと指摘した。
同時に、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支持を改めて表明し、ホルムズ海峡での航行の自由の回復も求めた。
この発言をパレスチナへの言及と重ねて読むと、問いの輪郭がはっきりする。ウクライナの主権を守るという原則は、パレスチナの人々の権利を考える際にも貫かれるのか。守るべき権利の重みを、地域や同盟関係によって変えてよいのか。
主権の尊重を掲げる国々は、自らの行動がその原則にかなっているかを問われている。
国際法が破られる現実に、屈しない
マクロン氏は国際法について、現実を描写するものではなく、許容される行動の限界を定めるものだと述べた。
法が破られている現実を前に、何をしても構わない世界を受け入れてしまうのか。この説明は、国際法の役割を改めて問い直すものだ。
スーダンのエル・ファシェルやガザの破壊に触れ、マクロン氏はジュネーブ条約が解体されつつあると警告。20世紀の教訓が忘れられ、戦争犯罪が「産業化」されるような野蛮な時代への危機感を示した。
「正義なくして平和はあり得ない」
国際司法裁判所(ICJ)への支持を続けると表明し、重大な違反を犯しても責任を問われない、新たな不処罰の秩序を容認してはならないと訴えた。
そのための制度改革にも言及した。アフリカ諸国などの代表を増やし、大規模な国際法違反に対して行動できるよう、国連安全保障理事会の改革を支持したのである。
国連を支えるという言葉には、国連が実際に行動できる仕組みを整える責任が伴う。
世界のルールづくりに、誰が参加できるのか
演説は、戦争や安全保障だけにとどまらなかった。
マクロン氏は、気候変動、保健、開発の課題に取り組むため、グローバル・ノースとサウスの隔たりを縮める必要性を強調した。共通の歴史や文化的な関係、過去の不正義からの回復をめぐる対話を再開する必要性も認めた。
AIをめぐる議論でも、同じ問題意識が示された。
そのルールづくりを、米国と中国、そして少数の民間企業だけに委ねてよいのか。国家や病院、銀行の安全にも関わる技術であるにもかかわらず、大多数の国や人々が議論に声を届けられていないと指摘した。
戦争を止めるための制度も、新しい技術のルールも、人々の暮らしに直接影響する。そこに誰が参加でき、誰の意思が取り残されるのか。演説全体には、意思決定が一部の強者に集中することへの警戒が通底している。
国家承認と演説を、暮らしの変化につなげられるか
「我々は敗北主義に屈しない」
マクロン氏はそう述べ、国連と多国間協力への関与を続ける姿勢を示した。
この訴えは、フランス自身の行動を評価する物差しにもなる。パレスチナの国家承認や国連での発言を、ガザへの人道支援、ヨルダン川西岸の人々の権利の保護、二国家解決に向けた具体的な前進へと、どう結びつけるのか。
ガザで平和が実現したかどうかは、そこに暮らす人々の命と尊厳が守られているかによって問われる。国際社会が掲げる主権や正義という言葉もまた、人々の暮らしの中で実現されてこそ、その意味を持つ。
