赤白緑の3色に太陽という意匠のクルド民族の旗がスタジアム中ではためき、「クルド独立にイエス!」と数万もの人々の叫ぶ声が一帯に轟く。イラクからの独立に揺れる、同国北部のクルド人自治区の主要都市アルビルを取材した。独立の機運の高まりには、国を持たない民族の悲願だけではなく、米国によるイラク占領の失敗もその根底にある。
今月22日、アルビル市内のスタジアムで、クルド自治政府のマスード・バルザニ大統領は、2年以内にイラクからの独立を目指すことを宣言。この日は、まさにお祭り騒ぎ。
集会の後、無数の花火がスタジアム上空を彩った。
他方、クルド独立の動きにイラク政府は強く反発。特に、イラク最大規模の油田地帯キルクークの帰属は大きな火種となっている。他方、クルド自治区では、人々は「キルクークはクルド自治区の心臓部」と譲る気配はない。
独立への動きが加速していく背景には、イラク政府への強い不信感がある。イラク前首相のマリキは、2014年2月にクルド人自治区への予算配分を停止した。それ以来、公務員は最大75%もの給与削減を強いられ、病院への公的支援も全て止めている。シリア内戦での難民や、IS掃討での国内避難民が自治区に押し寄せ、原油価格も下落していたところに、予算配分を止められた。現地の人々は、イラク戦争前のフセイン政権のクルド人虐殺に次ぐ、イラク政府による経済的な攻撃、第二のジェノサイドだと受け取っている。イラク政府側は予算配分の停止について「クルド側が取り決めに反して原油を外国に売った」としているが、クルド自治政府側は「先に予算配分停止したのはイラク政府の方」と反論するなど、対立は深まる一方だ。
イラクでは、人口の6割を占めるイスラム・シーア派を支持基盤とする宗教政党が国会の多数を占め、他の宗派や民族を軽視する政治が目立つ。独立についての「隷属か自由かの選択だ」というバルザニ氏の訴えが支持を集めるのも、イラク戦争によるフセイン政権崩壊後、戦前より懸念されていたイラクでの民族・宗派間の分裂を防げなかった末路のことだ。
また、クルドの人々にとっては、その治安部隊「ペシュメルガ」が、IS(いわゆる「イスラム国」)との戦いで、最前線に立ってきたという自負がある。イラクのためには勿論、世界の平和のために、多大な犠牲を払いISと対峙してきたのに、独立さえ認められないのか、クルドの人々には忸怩たる思いがある。
25日には、独立の是非を問う住民投票が行われ、独立支持が9割以上と、圧倒的多数となった。各地の学校が主な投票所だ。投票の際、指先に投票済の証として、インクをつける。投票後、私達ジャーナリストに人々は誇らしげにインクのついた指先を掲げる。イラク中央政府やイランやトルコ等の周辺国、そして米国もが、クルド独立に否定的であっても、国家なき民の独立への熱意は消せない。