はじめまして。NPO法人青少年自立援助センターの田中宝紀(いき)です。東京都福生市で、外国にルーツを持つ子ども達に専門の日本語教育を行う「YSCグローバル・スクール」を運営しています。
全国の公立学校には、日本語がわからない子どもが37000人以上います。(文部科学省2014年)幼少期に海外にいたり、家族との会話が日本語でないためです。授業ではただ座っているだけになり、友達をつくることが難しい。日本語教育が必要な子どものうち約7000人は、人手不足から指導が受けられていません。いわゆる「言語難民」と呼ばれる子ども達です。
私たちはこうした外国にルーツを持つ子どもたちに日本語教育を提供し、18か国・400名を超える子どもの進学をサポートしてきました。
特に、働く場や家族の問題で経済的に余裕がない親達は日本の公立学校に子どもたちを通わせる以外の選択肢がありません。また、外国人の母親が日本人男性と離婚し生活保護を受けているケースなどもあり、そうした家庭の子供たちが安心して日本語教育を受けられるように「無償」で専門の日本語教育を受けられる環境を提供してきました。
また、子ども達だけではなく、外国人の親向けに、学校の先生たちとコミュニケーションを取るのに必要な簡単な日本語や習慣についてレクチャーする講習会なども開いています。
小中学校時代いじめに苦しんだ私は、父親の勧めで16歳のとき、単身でフィリピンの公立ハイスクールに留学しました。言葉も文化もわからないフィリピンの田舎で、たったひとりの「外国人」であった私を支えたのは、現地の方々のやさしさとあたたかさでした。一歩町に出れば、見知らぬ誰もが私に声をかけてくれるほどで、安心して過ごすことができました。
帰国後、フィリピンにルーツを持つ中学生と出会ったことが、全ての始まりです。彼女は来日後すぐに中学校に転入したものの、日本語がしゃべれずに不登校状態に陥っていました。
はじめて垣間見た、日本に暮らす外国にルーツを持つ子どもの現状に、私は衝撃を受けました。あんなにあたたかで、やさしさに溢れたフィリピンからやってきた子どもが、日本でこんなに冷たい環境に置かれているなんて、寂しくてたまらないのではないか、と。そしてこうした子どもたちはきっと、彼女ひとりではないのではないか。
そう考えた私は、急ぎその年の内に、外国にルーツを持つ子どもに特化した日本語教育事業を立ち上げました。そしてその事業が原点となり、現在運営している『YSCグローバル・スクール』で、400名を超える子どもたちを支えることができたのです。
一方で、こうした日本語の力が不十分な子どもたちが適切な日本語教育を受けられる機会は地域格差が大きく、学校内で何らかの支援を受けている場合でも、担当者が子どもの日本語教育に関する知識をまったく持っていなかったり、ごく限られた時間数しか支援を受けられない場合が少なくありません。
私たちは、昨年から、教室での日本語教育だけではなく、オンラインを使って全国の子ども達を支援する取り組みを始めました。「言語難民」を少しでも減らしたいという思いからです。
言葉を失い、コミュニケーションさえままならず孤立した中で成長すると、自分を失ってしまいます。専門的な言語教育を受けられないことで、会話はできても相手や自分の心の内側を理解するような深い思考を重ねることができず、アイデンティティを確立できずに社会からドロップアウトしてしまうケースも少なくありません。
そうした子どもや若者達が、引きこもりになっていったり、暴力的になっていくことは日本社会にとってもリスクを高める結果につながります。
今、日本で働く外国人の数が急増しています。届出があるだけでも昨年、初めて100万人を突破し、2020年に向けてその数はさらに増えると見込まれています。こうした状況を受け、今後、外国にルーツを持つ子ども達への適切な教育支援の枠組みを整備することはとても大切な課題だと思っています。
「以前、私はずっと友達を大切にしていた。でも今はみんな離れました。私も頑張った。私も皆さんと一緒に遊びたい。でも本当に一人で寂しくて、恥ずかしいです」
これは、去年5月に中国・吉林省から来日したゾウ・フォーン君(16)の言葉です。高校受験に挑戦するため私たちの教室に通い始めました。
父親が東京・池袋にある中華料理店で働くため家族を連れて来日、当時、フォーン君は日本語をほとんど話すことができませんでした。将来の夢は鉄道会社で運転士になること。高校への進学は夢を叶えるために必要不可欠。フォーン君は八王子市立の夜間中学に通いながら、私たちの教室で日本語の勉強を重ねてきました。語彙や文法を学ぶだけではなく、日本語の細かなニュアンスを使い分けるのに必要な、日本の習慣や文化、自然、歴史なども合わせて教えます。
なかなか友達ができず、寂しさを募らせるフォーン君は、時折SNSに辛い心情を綴ったりもしていましたが、そうした書き込み一つ一つにもコメントをつけるなどして精神的な支えとなることを目指し、彼の受験をサポートしました。
合格発表前日、プレッシャーから涙を流すフォーン君を講師が抱きしめ、背中をさすり励まして、教室を送り出すこともありました。ここの教室が不安な日々を過ごす子ども達の居場所としても機能してほしい、スタッフ全体で共有している思いです。
教室では日々こうした講師と生徒との交流が続いています。全国で孤立する子供たちを支援するため昨年からはオンライン学習システムの実験的導入も始めましたが、今年はさらに経済的な理由で学校に通えない子供達の支援を拡充するため、新たに無償枠を増やすことを決めました。予算の都合で一旦取りやめていた、送迎サービスの再導入も計画しています。
一人の生徒が、日本語が話せるようになり、学校生活を主体的に送ることができるようになるまでの期間は約1年。高校受験を控えた中学生への支援で一人あたり約20万円あれば全てのコストを賄うことができます。毎年、私たちが支援している子どもたち約100名のうち、約25%が生活困窮・外国人ひとり親世帯に暮らしています。今年は、こうした子どもたちのために、最低でも20人~25人分程度の無償枠を確保する計画で、そのための300万円を調達するため発信を始めています。
社会から見落とされがちなこの問題に、ぜひ、多くの人たちの関心が寄せられ、継続的なご支援をいただければと願っています。ぜひ皆さんのお力をお貸しください。
本プロジェクトで必要としている資金は、当法人ですでに有料で提供している以下のプログラムを、外国人ひとり親家庭や困窮世帯の子どもたちのために無償で提供するための資金に充てさせていただきます。