2014年の今頃始めた「統一地方選挙フォークロア」という企画で、311後の日本において無所属・新人として選挙に立候補し始めた人たちのインタビューを続ける中で、2015年に福島市の市議選に出馬した平井有太さんに出会った。
彼は東京出身で、ニューヨークの美大、スクール・オブ・ビジュアルアーツで学んだ人。70年代にNYのブロンクスでヒップホップが生まれたときのような、そういう新しい文化が生まれるフロンティアに居合わせてみたいという強い憧れを胸に抱いていた彼は自分について語ってくれました。
ギャラリーや美術館の中に収まっている作品よりは人間の日々の営みの中から織りなされる「何か」、そういったタイプの芸術に強く心を惹かれるという平井さんは、311後に、必ず福島から何か新しい、何か素晴らしいものが生まれるという確信を持って福島に向かった。「少なくとも芸術の場合、最悪の場所から常に出発し、非を利に転換させる力がなければ芸術にならない」というのは岡本太郎さんの言葉。平井さんは「前衛」を求め、震災と原発事故に見舞われた福島市のごく普通の人々と、果樹園と田んぼの土壌の放射能汚染を測り、汚染の実体をきちんと把握するための土壌スクリーニングプロジェクトに参加し、約3年間それを仕事としながら取材活動を続けた。しかし土壌スクリーニングの仕事が終わった節目で福島との関係を終わらせるわけにはいかないと強く感じた彼は、福島に住み続け、福島のことを県外、国外に伝える仕事をするための具体的な方法を考えた結果福島市の市議選にも挑戦した。市議選に落選した後も福島に通い活動を継続。今回の個展は、平井さんの福島においての活動ややり方を知ったアーティストコレクティブchim↑pomが彼に声をかけ、原発事故から5年半以上が経過した2016年の冬に展示が実現するに至った。自身10年以上ぶりの個展。
ビオクラシー展はChim↑Pom がキュレーションをつとめる高円寺のギャラリーGarterで12月24日まで開催中。終盤に向けてイベントも多数。
展示全体が「再生可能」であるビオクラシー展は、日本国内外の様々な場所に出かけて、ウルグアイの元大統領ムヒカさんなども含む様々な人々と会って取材をし、膨大な情報を自らのフィルターに通過させてきているライター、伝える人でもある平井さんならではの多角的かつ厚みのある内容で、311後の血の通った福島での人々の営みや彼らの言葉や営みをしっかりとした軸にしながら、ボブ・マーリーなどのプロデュースをしてきた80歳になるレゲェミュージシャンのリー・ペリーさんが映像で登場したり、日本で電力が自由化されたことを受けて、「顔の見える発電所」を押し出す取り組みをしている「みんな電力」の技術サポートによってアディダスが千葉の木更津のエコロジア発電所のネーミングライツを取得し、そこから電気をギャラリーに供給していたりと、様々な仕掛けがある。これからを生きる人たちが肌で感じる必要のある、現在のリアリティーと既にあるポジティブなポテンシャルが息づいている生命力に溢れた展示。
また、福島のことを気にかけているけれど、情報も少ないし、なんだか福島についてうまく話すことができないという、311後に日本に生じたもどかしい空白のようなものを、やさしく説教くさくないアートという形で埋めて、思考やコミュニケーションをはじめるきっかけをつくってくれるところもでもある。
会場:Garter @キタコレビル166-0002 東京都杉並区高円寺北3-4-13
info.chimpom@gmail.com
入場料:投げ銭制
協賛 adidas Originals、TERUMO、大和川酒造店、みんな電力
展示制作 Side Core
【関連記事やサイト】
http://chimpom.jp/artistrunspace/
“adidas Originals × BIOCRACY” http://enect.jp/pioneer/adidas-biocracy/
「アディダスが協賛した『再生可能』な個展」http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161214-00010001-alterna-soci
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