社会福祉法人 日本点字図書館を訪ねた。東京都JR高田馬場駅から徒歩約5分。洗練された建物の表には鎖のオブジェ「知の滝」。名前の通り知性を感じるデザインだ。点字図書館では図書の製作、貸出を中心に、点訳、朗読、配信サービス、用具の販売など、視覚障害者向けのサービスを行っている。
点字図書は一般の書店では販売されていないため、図書館の一階では貸出用の本の製作もしている。教科書などは手作業で、大量に印刷するものはプリンターで印刷する。毎月一回、図書の選定委員会が開かれ、製作する図書の選定(点字図書、録音図書、各10点ずつ)を行う。そしてボランティアが点訳を行う。選定から本の完成までは約4カ月かかるという。
録音図書のスタジオをのぞいてみた。ここでは朗読ボランティアの方々が図書の朗読を行い録音する。防音のスタジオはまるでラジオ局のよう。朗読前には十分な下調べ、校正、編集をする。そしてそれをCD図書として貸出す。点字図書、録音図書は無料で全国の利用者に郵送される。
点字は平仮名、片仮名のみで漢字を使用しないため、一般図書の数倍の分量になる。個人で購入、保管するには限界があるし、最新の図書が入手しづらい、子供用の図書が少ないなど課題はあるが、それでも読書が人に与える力は大きく「一冊でも多くの図書を」という想いで図書の製作、貸出に励んでいる。また点字と録音図書データを配信するサービスも行われており、今後さらなるサービス向上が期待される。
日本点字図書館を創立した本間一夫氏は17万の蔵書があるロンドンの点字図書館を訪問して、図書館開設を決心したという。日本点字図書館は日本最大の点字図書館だが、それでも蔵書は約2万タイトル。一方一年間に出版される活字図書は約8万タイトル。視覚障害者を取り巻く環境も変化しているが、自分の生活に読書や文字による情報がなかったらと想像すると、いかに文字情報が有効かつ生活の潤いになるかわかる。
日本点字図書館は民間の社会福祉法人であるため、公的依託金、補助金は事業費の約23%にしかならず、個人や団体の寄付に支えられているという厳しい経営が続いている。
読書、音楽、スポーツ。何か一つの世界に触れることで、自分の持っている世界が果てしなく広がることがある。たくさんの眠っているアイデアや才能があるのではないか。視覚障害者に大きな楽しみを提供するために、また我々の社会をより豊かにするために、日本点字図書館は意義ある役割を担っているように思う。11月12日(土)、13日(日)には図書館内部が一般に公開される「オープンオフィス」が開催され、催し物も企画されている。また新たな発見が出来そうだ。