2016/06/07 地域
熊本地震から2ヶ月 液状化と闘っている地区があるのをご存知ですか?

熊本地震の発生から間もなく2ヶ月。熊本県は6日、一連の地震でこれまでに13万棟余りの住宅で全壊や半壊、一部損壊などの被害が確認されたと発表、引き続き被害の確認作業を進めるとしている。

九州地方は先週梅雨入りし、これまでの地震で地盤が緩んだ地域での土砂災害の発生や傷んだ建物の倒壊など、2次災害への警戒が続いている。

インフラ復旧が進み、仮設住宅への入居も一部で始まったが、建設の遅れや住宅地の確保など課題も多く、住宅や生活の再建の見通しが立たず不安と向き合う被災者の皆さんへの支援が継続的に必要だ。

震災から2ヶ月、これまであまり報道されてこなかった課題の現場をあらためて訪ねた。

今回は「液状化と闘う地区」の様子を共有したい。

■見過ごされていないか? 熊本市南区「液状化」被害続く

「ビルを建て替えたとしても果たして地盤が本当に大丈夫なのか。余震があるたびに沈んでいるようにも思えますし、取り壊し費用や建て替え費用の工面も厳しく、店は閉めざるを得ないのかなと思っています。本当に残念です」

熊本市南区日吉地区で、30年以上文房具店などを営んできた、村本輝美さんは目にうっすら涙を浮かべながら厳しい現状を打ち明けてくれた。3階建てのビルは大きく右に傾き、1階部分の出入り口は地面よりも下に30センチ程めり込むようにして沈んでいた。

目の前にある小学校も校門から中を覗くと、玄関や体育館につながる階段が大き崩れ、地面との間に空洞ができているのがわかる。アスファルトに覆われた駐車場は所々波打ってうっすらと砂利のような濃い灰色の砂に覆われていた。

実は、この辺り一帯は4月16日の本震で液状化が起きた。村本さんも地震の揺れで外に避難すると目の前の道路のいたるところから、水分を含んだ砂が噴き上げているのを目撃した。

先月、福岡大学の専門家などが行った調査では、周辺の長さ5キロ、幅約100メートルの帯状の液状化が確認された。液状化が起きた地域に沿って歩いてみると、建物の新旧に関わりなくビルや家屋が傾き、道路沿いの電柱が垂直に1メートル近く沈み込んでいた。電柱に掲示されていた住所の表示板などがアスファルトの地面に食い込んでいる様子は異様だった。

震災から2ヶ月近くが過ぎた今も、行政による液状化対策などの目処は立っておらず、この地域では店や住宅の再建を諦めて街を出て行く人たちが後を絶たない。地元では「市街地なのに過疎化してしまう」と、危機感を募らせている。

 

■「自治体の動きを待っていられない」地元商店主たちが立ち上がった

「直近の課題は傾いた家をどう立て直すのかということ、そして液状化が起きてしまった地盤の土地改良をどうやって進めていくのかという長期的な視野に立った対策です。土地の改良などは個人では無理な範囲。国や自治体からの支援は不可避。市役所も罹災証明の発行など目の前のことで手いっぱいの様子ですぐには期待できない。自分たちでやれるところからやろう、そういう思いで立ち上がりました」

熊本市南区近見にある不動産会社の会議室で、地元の自治会長や商工関係者に集まってもらい話を聞いた。今月26日に「南区液状化復興対策協議会(仮称)」の設立を予定しているという。地元ではすでに熊本市長や熊本市議会宛に、液状化の実態調査や地盤改良などの対策を講じるよう要望書を提出しているが、行政側からの具体的な対応策が提示されるところまでは至っていない。

 

日吉校区自治会連合会の荒木優会長は「住民の皆さんからは情報が足りないという声が上がっています。傾いた建物を元に戻すという業者が地域外から来てくれていますが、中には悪い業者もいて高額な見積もりを出してくるところもあるようです。あらたな2次被害を招きかねないので、私たちが独自で実態調査や専門家を招いての勉強会を開くなどして地域を守っていくことにしました」と、現在の具体的な活動の中身を話してくれた。

■「液状化対策の法律的枠組み《熊本モデル》を作って、今後の災害発生に貢献したい」

荒木さんたち対策協議会の準備会メンバーたちは、今、地域の約250世帯を対象に液状化の被害状況や地震保険の加入の有無、この先も土地に留まり続けるかどうかを尋ねたアンケート調査を実施。現状と今後の課題を把握し、逆に市役所などに情報提供を行ない対策や支援を促していきたいという。地盤改良の専門家などを独自に招いて、住民を対象にした勉強会なども企画している。

日吉校区自治協議会長の荒牧康さんは「液状化があることころとないところとでは温度差が出てしまう。地域の問題としてどうまとまっていくのか正念場」、日吉商興会の吉本光康会長は「商店が活性化しなければ住民もいなくなってしまう。さらに液状化の問題は今後災害が発生するどの地域でも共通の課題。《熊本モデル》と将来呼ばれるような、法律的な枠組みをこれをきっかけに作って今後の支援につなげていきたい」と語る。

毎回熊本での取材で地元の方々にマイクを向けると頭が下がる思いに駆られる。自分たちのためだけではなく、同じような境遇で困難と向き合っている人たちのために、そして今後そうした危機に直面する人たちのために、自らの経験を役立て責任を果たしたいという主旨の声をよく聞く。震災から時間が経つにつれ、報道の頻度も人々の関心も薄れてちまいがちだが、是非「明日は我が身」と思って、多くの人たちの支援や知見が熊本など被災地に集まるよう願ってやまない。

今回の現場ルポは動画でも。8bitNewsで報じている。是非、こちらから生の声を聞いてもらえたら。

プロデュース :HORI JUN
Comment

コメントは管理者が承認後に表示されます。

Page Top