2016年2月22日、東京地裁にて、TPP交渉差止・違憲訴訟の第三回口頭弁論が行われた。裁判所は原告に意見陳述をさせることを渋っていたが、弁護団の訴えにより、1人3分以内、全部で30分以内という条件で原告が法廷で意見陳述することを許可した。
最初に意見陳述を行ったのは、元内閣情報局局長などを務め、「戦後史の正体」などの著者である孫崎享さん。TPPに盛り込まれている、投資家を保護するためのISD条項は、日本の統治機構を徹底的に破壊するものであると述べた。国会が日本において最高かつ唯一の立法機関であり、司法権は最高裁判所にある、こういった基本的なシステムが、投資家の利益を保護する為のISD条項によって破壊されることに対して彼は強い懸念を示した。
企業が企業利益を侵害されたということを理由に、ISD条項を使い国や自治体を訴え、巨額な損害賠償を支払わせることのできるISD条項はNAFTA(北大西洋条約機構)にも存在する。例えば、MMTと呼ばれる人体に有害な神経性物質を石油製品に混ぜることをカナダの政府が禁止したとき、その禁止を受けてアメリカの石油会社は、カナダ政府が「理由なく」石油会社の製品を禁止し、それによって会社が損害を受けたとして、逆にカナダ政府を訴えるということがあった。こういった事例は多く存在する。ニューヨークで行われる裁判費用は高く、また投資家の保護を目的とするISD条項の下では、国民の健康や権利のために企業活動に制約をかける政府側が勝訴する可能性が低く、また負けた場合の損害賠償が膨大であることから、政府が企業に対して規制をすることに対する萎縮効果がある。結果として、国民の健康や権利や環境が、利益を目的とする企業活動の為に犠牲となる。
2番目に意見陳述をしたのは、NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長の赤城智美さん。彼女は食物アレルギーも持つ人々の代表として法廷で話した。日本では2000年にアレルギーの原因物質を表示することが義務づけられ、それによって彼女達は身を守ることが可能だった。しかし、TPPが批准されれば、食物の表示は「貿易障壁」となる。今まで通り表示義務を続けるには、科学的根拠を示さなければならない可能性がある。科学的根拠を示すことは困難で時間のかかる作業である為、日本が譲歩し、より緩い世界基準に食物の表示を合わせる可能性は充分にある。そうなると日本の食物の表示に守られていた、食物アレルギーを持つ人々の日々がTPPによって終わってしまう、と彼女は述べた。
続いて、母であり、パルシステム東京の代表理事の野々山理恵子さんが意見陳述を行い、TPPの交渉過程が不透明で知る権利が侵害されることなどについての懸念を示した。
弁護団側と被告(国の代理人)との間のやりとりの中で、弁護団側がいつTPP協定文の仮訳以上のものが出てくるのかと質問した時、国側は仮訳以上のものが出てくる予定はないと答え、それを聞くと傍聴席からざわめきが起こった。
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同日衆議院議員会館で行われたTPPフォーラムでは、トーマス・カトウさんや、サーニャ・レイド・スミスさんが講師を務めた。
トーマスさんは米国弁護士・コンサルタントとして、日本の官民の諸機構に米国情報分析を提供している。彼は、TPA法案(貿易促進権限)が議会で可決されたときの数がかなりギリギリだったことかや、大統領選で民主党のバーニー・サンダース候補も、(元々オバマ政権の元TPP推進派で、41回TPPは素晴らしいというスピーチをしている)ヒラリー・クリントン候補も、TPPには反対なので、アメリカ議会でTPPが批准されることはないと話した。しかし、アメリカ国内でTPPが潰れるからといって安心せずに、日本にもTPPのようなものに反対する力がもっとあって欲しい、と日本への希望を述べた。
サーニャさんは、開発問題や南北問題を主に取り扱う国際連帯組織「サード・トレード・ネットワーク」のリーガル・アドバイザー兼シニア・リサーチャー。TPPの影響について6年間警鐘をならし続けてきた専門家。
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以下はサーニャさんのインタビュー:
翔子「このTPP協定や、こういったアイディアを実際に書いている人たちというのは誰なんですか?」
サーニャ「アメリカ政府は『自由貿易』用のテンプレートを持っていて、アメリカ政府は『自由貿易』協定をどこかの国と結ぶとき、ベースとしてそのテンプレートを使用します」
翔子「NAFTAとかもその例?」
サーニャ「テンプレートには多少の変更がなされますが、その通りです。誰がそのテンプレートをつくっているかという話ですが、アメリカには600人〜800人の多国籍企業出身のアドバイザーがいます。彼らはモンサント、巨大な医薬品会社やハリウッドなどの代表です。彼らはTPP交渉テキストを読むことができ、交渉内容について提案することもできます。アメリカ政府への多国籍企業の影響は他の観点からも見ることができます。アメリカ政府は毎年、他の国の知的財産権に関する法律のどこがアメリカにとって問題であるかについてレポートを作成します。アメリカ政府は巨大製薬会社をはじめとする多国籍企業から提案を受け付けます。毎年巨大製薬会社などの提案とアメリカ政府のファイナル・レポートを比較するリサーチがなされています。年にもよりますが、約95%の多国籍企業からの提案が、そのままアメリカ政府のポジションとなっています。つまり、基本的に、アメリカ政府のポジションは、多国籍企業のポジションと同一なのです。」
翔子「少しコンセプチュアルな質問ですが、アメリカや諸外国を支配しようとする多国籍企業の性格とはどのようなものですか?」
サーニャ「基本的に、アメリカに企業は自分たちに有利なルールをつくろうとします。彼らが、例えば健康保険の分野で日本の市場にアクセスし、日本の既存に存在する健康保険システムと競合できるようにルールを書き換えます。外国でアメリカの企業が作業するときに、彼らが保護を受けるように、彼らは自分たちがやりやすくなるように提案をします。そしてこれらの多国籍企業はアメリカで選挙が行われるときに、共和党と民主党、両方の選挙キャンペーンに巨額の寄付をします。そうすることによって彼らは誰が当選してもアメリカ政府に対して影響力を持てるようにしているのです。政治家が当選するために必要な、選挙キャンペーンのテレビ・コマーシャルにかかるお金を彼らが払っているのです。
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次回のTPP交渉差止・違憲訴訟の会は4月11日、東京地裁にて14:30から。
TPP交渉差止・違憲訴訟の会ホームページ:tpphantai.com