祭りが多い夏、日本国内で人々は全国的に現政権に対する危機感を強め、声を上げ行動し連帯を強めている。現政権がつくろうとしている未来に対して人々がもっている危機感や想いは、色々なところで、様々な形で現れ表現されている。
8月11日の川内原発再稼働の翌日の12日には、平和を願い安保法制にも声を上げる日本のミュージシャンたちが ”World Peace Festival” と銘打って渋谷ハチ公前で無料のフェスを開催。 クラブカルチャーを守るために風営法に対しても行動を起こしているDJの沖野修也さん、社会を変えるために自分に何ができるか突き詰め2013年に参院選に立候補した三宅洋平さん、311後脱被爆の活動を始め、地元で松戸市議になったラッパーのDELIさん、Shing02、ROOT SOUL、AFRA、ランキンタクシーなど、音楽の質や社会性が共に高く、政治的にもタイムリーな発信をすることを躊躇しない音楽家達が参加し、ニューヨークからは坂本龍一さんがサポートのメッセージを送った。
12日には敗戦以来軍事植民地、基地の島になってしまった沖縄で再び米軍ヘリが墜落し、14日には安倍総理が自身の進める「積極的平和主義」を盛り込んだ70年談話を発表。
夜には安保法制に反対する学生グループSEALDsが金曜日の国会前の抗議行動をし、学生達がスピーチをし、シュプレヒコールをあげた。敗戦の日の前夜、SEALDsの奥田愛基さんは国会前で、新聞に掲載されていた京都府の加藤敦美さんの投稿を読み上げた。
「安保法制が衆院を通過し、耐えられない思いでいる。だが、学生さんたちが反対のデモを始めたと知った時、特攻隊を目指す元予科練(海軍飛行予科練習生)だった私は、うれしくて涙を流した。体の芯から燃える熱で、涙が湯になるようだった。オーイ、特攻で死んでいった先輩、同輩たち。『今こそ俺たちは生き返ったぞ』とむせび泣きしながら叫んだ。
山口県・防府の通信学校で、特攻機が敵艦に突っ込んでいく時の『突入信号音』を傍受し何度も聞いた。先輩予科練の最後の叫び。人間魚雷の『回天』特攻隊員となった予科練もいた。私もいずれ死ぬ覚悟だった。
天皇を神とする軍国で、貧しい思考力しかないままに、死ねと命じられて爆弾もろとも敵艦に突っ込んでいった特攻隊員たち。人生には心からの笑いがあり、友情と恋があふれ咲いていることすら知らず、五体爆裂し肉片となって恨み死にした。16歳、18歳、20歳…。
若かった我々が、生まれ変わってデモ隊となって立ち並んでいるように感じた。学生さんたちに心から感謝する。今のあなた方のようにこそ、我々は生きていたかったのだ。」
奥田愛基さんがスピーチをする間、SEALDsを誹謗中傷するために国会前からネット中継をしていた男性グループ周辺で起きた小さないざこざも、警備にあたっている警察官の声も聞こえなくなり、国会前は不思議に静まり返った。
15日には天皇陛下が全国戦没者追悼式で戦争を反省するおことばを述べる。
東京のSEALDsのデモに前夜参加しスピーチをした玉城愛さんは15日、沖縄に戻り、辺野古新基地に反対する「SEALDs琉球」立ち上げ記者会見をした。
同日、福島では、5年連続でPROJECT FUKUSHIMAが福島市の街なか広場で「フェスティバルFUKUSHIMA!納涼!盆踊り」を開催。2011年に被爆を防ぐために作られた大風呂敷が今年も広場に敷かれ、複数の櫓が立ち、オリジナルののぼり旗がはためく会場では、テニスコーツと会場のあちこちで様々な楽器を持ったオーケストラFUKUSHIMA!のメンバーによるインプロヴィゼーションと、珍しいキノコ舞踏団による踊りが、興味深く自由でやさしい奇妙なバランス感とゆらゆらした調和感のある音と空間をつくっていた。
5時から8時までは「あまちゃん」の音楽を手がけた大友良英さんの大友良英スペシャルビッグバンドやプロジェクトFUKUSHIMA盆バンド!による生演奏で、「ええじゃないか音頭」など、PROJECT FUKUSHIMAオリジナルの盆踊りを踊りまくる。
311の後、何がどうなってしまうのかわからない中で、原発事故があったその年に福島のことを想う芸術家と人々は福島に向かい、結集団結した。彼らは原発事故後の世界で人々が必要としている新しい何かを求め、最先端の実験的で前衛的でやさしく強い盆踊りが福島で生まれた。
8月16日、廃炉の日には、福島県の郡山駅前で”Hello!! 816 (廃炉)”が開催。ザ・スターリンの遠藤ミチロウさんをはじめ、ソーラン節の伊藤多喜雄さんなどミュージシャン達が、線量計が 0.171mSv/h を表示する郡山駅前の広場で演奏。
郡山駅前では若い男の子3人が、8月23日の安保法制に反対する若者全国一斉行動のチラシを配っていた。
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敗戦から70年の2015年の夏、第二次安倍政権は敗戦後に日本が持つ事になった平和憲法の改正を目指している。戦争経済がなくならない21世紀で、世界最大の軍産複合体を有する米国の政治経済のあり方が善であるという前提のもと、過去に侵略戦争をしたアジアの先進国日本の総理大臣は、東アジアの隣国を仮想敵国に設定し大衆の対中危機感やナショナリズムを煽り、「自衛」の必要性を訴え、自衛隊を軍隊化しようとしている。日本の主権者、国民が前回の侵略戦争や現在の自国の状態や政策や歴史や記憶や自分自身とどのように向き合い、現在を生きながら過去と対話をし、どのような行動に繋げるのか、日に日に「平和」という言葉が政治的な意味合いを深めている。
3・11の原発事故以降、約40年もの間ほとんどデモもなく静かに見えた日本の人々はいつの間にか声を上げるようになった。国民主権の民主主義国家において、強権的に国をつくりかえようとする政権与党と一般大衆のせめぎ合い。日米の政府や経済界などで大きな力を持つ人々が連携して、原発再稼働、TPP、特定秘密保護法案、辺野古新基地、安保法制を成立させることで、人々の情報や土地や健康や経済や生活のあり方を大きく変え、自分たちの階層により利益がもたらされる社会構造をつくろうとしている。アメリカは軍事覇権的な態度や近年の中東での石油の為の戦争、アメリカの国民全体ではなく1%と呼ばれる富裕層に仕えるような政治のあり方を、日本は強権的でナショナリズム的な傾向を、国内外から非難されている。
戦争は悲惨だった。人々は時に過ちを反省して糧にし、時に過ちを忘れたり、すっとぼけたり、生活や仕事や他の何かや誰かのせいにしてしまう。自分に何かしらの力があることと、それに伴って存在している、集団の中の個としての責任や尊厳のようなものを忘れてしまう。人の回す世の中は自然界の中に存在する1つのファクターで、人間にコントロールできないものはたくさんあるけれど、結局人が変えられる部分は人が変えている。世の中は1人1人の人間の集合体で、個人が集まってできる小さいグループ、組織、より大きい社会、それより大きい世界は、複雑なコミュニケーションやフィードバックを繰り返しながら、恒久的に変化してゆく。そして今日本では、世界が変化していることに気づき、その創作活動に自分の力を注ぐ人々が増えている。
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動画のロングバージョン: https://www.youtube.com/watch?v=mUZarC4geAw