1945年に原爆が落ち、広島は物語を語り続け、世界中の人が訪れる街になった。8月下旬には第25回国連軍縮会議が広島で行われる。広島を訪れていた外国人たちに、それぞれの視点から戦争と平和について語ってもらいました。
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28歳のアイルランド人のグリッドさんは、灯籠流しのために広島に来た。
Q 広島の戦後70年について思うことは?
ランタンを川に流すのはとても美しくて希望に溢れたイメージで素晴らしいと思います。今夜灯籠流しを見るのがとても楽しみ。
Q 広島の人々に起きたことについてどう思いますか?
とても恐ろしいことだと思います。たくさんの人々が一瞬にして命を奪われる戦争の残虐性は2度と繰り返されるべきではないと思います。こんな風にたくさんの人たちが集まって祈りを捧げるのはとても素敵なことです。
Q 現在ヨーロッパで生活していて、戦争と平和についてどんなことを思いますか?
私がランタンに書いた願いの1つは、シリアから地中海を渡ってヨーロッパにやってくる移民たちが安全に生活できるようにということです。あのような危険な航海をしてまで祖国を離れない人たちは、祖国で大変な思いをしているに違いないからです。今何が起きているのかを広めること、それが私がランタンに書いた願いです。
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ニーサさんも同じくアイルランド人で29歳。
Q ランタンにはどんなことを?
まずは広島で私たちが失った命について、このような大惨事が2度と起きないようにと書きました。そして結果として、人々が平和の重要さについて気づくことができればと書きました。
Q アイルランドでは人々は第二次大戦もしくは広島についてどんな風に語っているのですか?
なんだかおかしいけれど、私たちが学んで「歴史」だと思っているものは、実際最近の出来事で、原爆や戦争を生き抜いた人たちはまだ生きている。本などで読んで知ってはいたけれど、広島を訪れることによって、歴史はそんなに昔のことではなかったという感覚と共に私の中でさらにリアルなものになった。
Q 歴史は昔から好きでしたか?
歴史は教科としては得に好きでもなければ得意でもなかった。旅をすることで旅先の国のことを学び、それが昔アイルランドで習ったことと私の中でリンクしていきます。
Q 「歴史」は実際は最近のことに感じる?
とても最近のことのように感じます。数ヶ月前に友達が広島を訪れて、彼は原爆を生き延びた人々数人に会い、とても大きな感銘を受けていました。彼から聞いた話は私の心にも響き、私も広島に行かなければと思いました。人々はまだ街に住んでいて、原爆が落ちたのは70年前の今日でした。
Q 世界は変わっていると思いますか?
そうであればいいと思う。だけど私たちは今も戦争が続いていることを知っているし、平和にはまだ長い道のりがあると思います。時にはとても容易に、あっと言う間に戦争は始まってしまう。
Q 原子力/核兵器についてはどう思いますか?
危険すぎるし、私はそういうものは必要ないと思っています。
Q 普段アイルランドにいるとき、戦争と平和関連だと何が今の課題ですか?
戦争はまだ私たちを影響していることなので、アイルランドでは今でも戦争や平和についてたくさん話します。シエラレオネに行く人もいれば、アイルランドは地中海に軍を派遣しているので、メディアも多くそれを報じています。アイルランド人は紛争被害などへの関心が高く、他の国の人々を助ける寛大さを持っていると思います。
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メキシコ人のポルケさんは61歳で、エコ・ピース・メキシコのピースミッションのために広島に来た。彼はMayors for Peace「平和のための市長連盟」のキャンペーンもしている。
Q 今年は広島で何を感じましたか?
戦後70年の重要な節目に、メイヤーズ・フォー・ピース(平和のための市長連盟)キャンペーンの目標である2020年までの核兵器廃絶を考えはじめるのにいい機会でした。
Q 戦争と平和について何か今起きていて自身の生活と関係のある問題はありますか?
戦争と平和にはたくさんの次元があります。メキシコには「ドラッグ戦争」があります。アメリカ合衆国でドラッグを消費する中毒者の影響でマーケットができ、テリトリー争いがあり、私の国メキシコではたくさんの暴力がそこから生まれています。それは私たちがメキシコで今生きている「戦争」です。
それから、アフリカからヨーロッパに渡っている移民が犯罪者のように扱われていることも問題です。ヨーロッパが先にアフリカを侵略し搾取し、アフリカの人々を貧困に陥れて希望を奪った。例えばルワンダにおいてフランスはフツ族とツチ族の間に紛争の種を撒き虐殺を招いた。ISISはサウジアラビアのファミリーによって支援されている。彼らは今の段階では犯罪者でしかなく、ヨーロッパにおいての平和と調和にとって弊害です。今はこのような問題があります。ローカルに行動し、グローバルな意識を持つことが大切です。
Q アメリカ合衆国についてはどう思いますか?
私たちは隣国なので、協力しあい、コミュニケートするために、隣国として共に生きることを学ばなければいけない。アメリカはゆっくりとメキシコは敵ではないということを理解していると思います。私たちは同盟国としてアメリカ周辺の安全保障のために努力することもできます。メキシコとアメリカは貿易パートナーで、たくさんのお金が2国間で動いています。アメリカに移住し働いているメキシコ人の労働者はアメリカに富をもたらしていることを理解する必要があります。
Q 福島の原発事故に対する認識はどんなものですか?
福島は人間が原子力を完全にコントロールすることができないということを示す例です。事故から時間が経っていますが今でも福島は汚染水を太平洋に流しています。とても無責任なことです。福島の事故から私たちは学ばなければいけません。
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32歳のジェラミーはフィリピンから。
Q なぜ広島を訪れたのですか?
原爆ドームを訪れるためです。今年は戦後70年なので、原爆の落とされた広島を訪れて広島や戦争の歴史を感じたかった。
Q 広島への原爆投下についてどんなふうに感じますか?
70年前に自分がもしもここにいたらと思うと想像もできない。人々が経験した苦痛も想像を絶する。あまりにもひどすぎて、想像なんかできない。
Q 第二次大戦についてどんな見解を持っていますか?
戦争は血だ。前回の戦争で殺された全ての人の。だから戦争は嫌いだ。前回の戦争についても残念に思う。
Q 戦争や紛争や平和に関して、今フィリピンにおいてはどんなことがありますか?
モダンな今の時代にも紛争はあります。フィリピンは例えば今中国との関係が良くありません。これは近代においての紛争で、爆弾や兵器は使っていないけれど、もしもこの状態が続くなら、私たちの望んでいない紛争に発展することもあるかもしれないと思います。
Q フィリピンの人たちは中国を相手にした戦争について心配しているのですか?
ここ数ヶ月中国とのことはよくニュースになっている。フィリピン政府のやっていることは支持しているけど、全てが平和的に解決されることを願っている。
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37歳のフランシスコと31歳のクラウディアは、イタリアからハネムーンで日本にやってきた。
Q 今日はなぜ広島に?
ハネムーンで日本に来ました。8月6日が近かったので広島に訪れることにしました。
Q 原爆ドームやミュージアムなどを見てどう思いましたか
悲しくて涙をこらえるのがとても大変でした。公園も人々の感情で溢れていました。子ども達を見るたびに涙がでそうになりました。僕は彼らの将来のことを思い、またぼく達2人の家族としての将来も考えるからです。
Q 戦争と平和についてヨーロッパにいるときに思うことはどんなことですか?
なぜ人々が生活を向上させようとしているのか考える必要がある。僕が話しているのは移民の話です。移民に関してイタリアには大きな問題があります。僕らは彼らがなぜ生活を向上させようとしているのか考え始める必要がある。何か違う方法を考えてみる。問題の解決策が見つかるかもしれない。何かをする前に、他の人たちの気持ちを考えてみること。行動する前に考えてみること、それで戦争は避けることができると思う。
Q 第二次大戦について
戦争が始まって、イタリアは日本とドイツと同盟を組んだ。戦争の最後の方で、ムッソリーニを支持することをやめる人々がいた。人々は何が悪で何が善かを自分たちで考えるように教えられた。ここでミュージアムに行った後、戦争が解決策だとは思うことができない。
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カナダ人の兄と妹。ジェイソンは25歳で、モーガンは22歳。
Q なぜ広島に?
これは歴史的に大きな意味のあるイベントだと思うから、今日広島にこれたことは幸運だと思っています。
Q 原爆ドームやミュージアムへ行ってどんな風に思いましたか
とても悲しかったし、見るのが辛かった。人々がその時に何が起きたのかを話しているビデオを見た。とても悲しかった。とてもエモーショナルな日だ。
Q カナダ人としては第二次大戦についてどんな認識がありますか
カナダは他の国と比べて第二次大戦への関わりが少なかった。カナダのために戦った兵士を忘れないようにというフォーカスは確かにあるけれど、例えば原爆投下に対してこのように注目するということはないように思う。学校で広島について習いはするけれど、あまり細かいことは教えないから、伝えられるべきメッセージのようなものが伝わっていないと思う。
Q 世界は変わっていると思いますか?
変わっている。そう願う。このような悲惨なことは世界中の人たちの目を覚ますと思う。特に今はテクノロジーによって世界が小さくなっていて、私たちは簡単にコミュニケーションをとることができる。世界中の国の人たちが繋がっている今、このようなことが再び起こると考えるのは難しい。
Q 隣国のアメリカについて思うことは?
アメリカは貧しい国を利用していると思っているカナダ人もいます。戦争を利用してアメリカは自国が得たいものを得ている。私もそう思っている。私は戦争には反対だし、アメリカが他の国に行って戦争を始める必要性はないと思う。911がアメリカ政府による陰謀だったという話さえある。
これはとても難しいトピックで、カナダはアメリカを手助けすることになっている。カナダの兵士たちも中東に行っている。ぼく達がカナダ軍が中東入りすることを正当化するのは難しいことだと思う。だけどこれは難しいトピックだ。僕らは普通の市民で、政府が持っているような情報を持っていないから。ぼく達は政府がベストな決断をするように頼っている状態だから、コメントするのが難しい。
Q 原子力についてはどう思いますか?
正直に言って僕は原子力は素晴らしいと思っている。破壊に使われたこともあり、福島ではメルトダウンがあったけれど、今ではそれも大分落ち着いている。原子力は素晴らしいエネルギー源だと思う。
核兵器を使うことには賛成できないし、核兵器のない世界を望んでいる。核に対して国際的なガイドラインがあるべきだと思う。もし今核兵器が使われるようになれば、それは世界中の破壊に繋がるし、世界は繋がっているから、たくさんの国が戦争に参加することになると思う。原子力はエネルギーとしてはいいと思うけど、核兵器に関してはガイドラインがあるべきだと思う。
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アメリカ人のピートさんは41歳。
Q なぜ広島に?
今日は原爆が広島に落ちて70年だからね。たまたま近くのエリアにいて、今日が8月6日だって気づいて、時間もあったし来ようと思った。日本を旅していて、日本人の女性と結婚していて日本には家族もいるから何度も来たことがある。
Q 原爆投下について何を思いますか?
これは忘れてはいけないとても重要なことだと思う。というのは原爆を生き抜いた人たちは年をとって数が減ってきてもいるからね。「生きた記憶」は少しずつ風化していると思う。僕自身は「生きた記憶」を持っていないけれど、何が起きたのか、なぜ起きたのかを考えるためにも「生きた記憶」を保存することは大切なことだ。この場所を見て、ここは大惨事のあった場所であり、また完全な破壊から再生するという信じられない達成を成し遂げた街でもある。このような破壊は決して忘れてはいけない。
Q みんな違う歴史認識を持っていますが、あなたの第二次大戦についての認識は?
それはとても複雑な質問だから数分では答えられない。広島の原爆投下に関して絞って言えば、アメリカは原爆を落としたのには「人道的」な理由があると言っている。普通の空爆で死亡した人の統計や数字を出し、その死亡者の数は原爆の死亡者の数よりも多いと。原爆を落とすことは悪いことだというシグナルがあるから、アメリカはそういう話し方をするわけだけどね。僕もそういう風に教えられた。もっと色々とある。「人道的」な戦争を終わらせる方法だったというのは聞こえのいい話ではあるけれど、2つの大きな街を破壊してたくさんの人々を殺したことについてはあまり語らない。それから、アメリカ合衆国が他の国々、例えばソ連に対して軍事的な優位を示したいという思惑もあった。我々が最も強く最も優れていると他の国々に示すというアイディアがあった。それらのアイディアに賛成するか?個人的にはノーだ。だけどもちろん僕には本を読んだり勉強するチャンスがあった。僕はアメリカ合衆国のポリシーに必ずしも賛成ではない、だけど同時にもう起きてしまったことに関しては何をすることもできない。あれから1度も核兵器を使っていないのは喜ばしいことだ。だけど同時に核兵器がアメリカ国内、そして旧ソ連で大量に保有されるようになったことはとても悲しいことだ。この先20年間の間に誰かが核兵器を使用するということはあり得る事態だ。次に使用するのはアメリカではないかもしれない、ロシアでもないかもしれない、それは国ではなくて、核兵器を組み立てるためのハードウェアを手に入れることができれば誰でも汚い爆弾を作って使用する可能性はある。それが起きる時人々は核兵器が使われた後に何が起きるのかを知るために広島のことを考えるだろうと思う。悲しいことではあるけれど同時に過ぎ去ったことだ。私はアメリカ合衆国のポリシーが核不拡散の方向に向かい核兵器の備蓄も減らしてゆくことを願っている。私にはわからないけれど、時がくればわかるだろう。
Q 原子力についてはどう思いますか?
難しい質問だ。セオリー上は素晴らしいものとされている。石油を使ったときと比べると排出されるゴミは少ない、だけど原子力発電所から排出されるゴミは信じられないくらいの毒性を持っている。私たちが使っている電子機器やインターネットや電気のためのエネルギーを供給するために原発は比較的長いスパンで安く電気をつくることができる。だけど何か起きたときのリスクが大きいのはチェルノブイリや福島、アメリカ国内でもきちんとメンテナンスされていない古い原発なんかを見ればわかる。「完璧な世界」では原発はエネルギーをたくさんの人のために作り、事故も起こらない。だけどこれは「完璧な世界」ではない。今研究開発されている代替エネルギーが、福島で起きたような事故のリスクを持たずに、人口が必要としている電力を供給できるようになることを願っている。
Q 戦争と平和やイラク戦争について
それも恐ろしく複雑な話だ。現在の状況について言えば、完全にぐちゃぐちゃだ。地理に影響されない軍事介入がスマートなアイディアなのかはわからない。アメリカのメディアや西側諸国のメディアではそんなに見ないけれど、大多数の中東における問題は、ISISにしてもイランが核を手に入れようとしていることにしても、イエメンのフーシ派とサウジアラビアの間に起きていることも、とてもシンプルなところに行き着く。イスラムの宗教の中にスンニ派とシーア派の争いがあり、代理戦争の中でそれ自体が決着されている。ISISはアメリカ合衆国やヨーロッパの国々が中東での紛争に巻き込まれてゆくことを望んでいる。それは破壊活動を推進することになり、スンニ派の過激派とシーア派の人民戦争に繋がり、西側が介入すれば西側諸国を「悪」として使うことができる。だけどリアリティーとしては、宗教戦争が根底にある。例えばアメリカ合衆国による介入がそのような問題を解決できるかどうかはわからない。だけど同時にどの宗教のサイドであるかは関係なしにして実際に中東で起きている殺戮はひどいものだ。ISISについて私たちが見ているものはコンサバティブであってもリベラルであってもひどいものだ。あのような殺戮に賛成する人を僕は想像できないけれど、では解決策は一体何なのか?どうやるのか?私にはわからない。とても複雑で混沌とした状況だ。
Q 沖縄の米軍基地についてどう思いますか
なぜアメリカが国外にこんなにも軍事基地を持っているのか私にはわからない。言い直そう、私はアメリカが国外にたくさんの軍事基地を持っていることが好きではない。アメリカはカナダやメキシコからの軍事的な脅威というのは存在しない。だけどアメリカに対して挑戦的な出来事が海外で起きて、それに対して軍事介入し、軍事キャンペーンを成功させるには海外に基地が必要になる。沖縄だけじゃない。トルコやキルギスやドイツも。なぜこんなに基地をいろんなところにつくる必要があるのかわからない。色々と戦争の後始末のある第二次大戦が終わった直後でなら話はわかる。だけど今は21世紀だ。中国や北朝鮮からの脅威をだしに使って沖縄に基地を置いておくことを正当化できるかもしれない。だけど同時に日本のような同盟国がアメリカの基地を拒否するとは考えられない。もしも軍事的に何かが起きたとしても、なぜアメリカ軍が半永久的な軍事基地を外国に持つ必要があるのか。要は、アメリカはもう沖縄に軍事基地を置いておく必要はない。