2015/07/18 政治
【安保法制】1つの国の形が変わるとき 強行採決7月15日ー16日の記録

2015年5月15日、朝起きる。Twitterを見るとタイムラインに朝9時から始まっている国会を中継している民間のリンクが流れている。タイトルは「平和安全法制特別委員会」。「安保法制」別名「戦争法案」、ほとんどの憲法学者が違憲と認定している安保法制が審議中。

 

 

この朝の国会中継はNHKが放送していないらしく、国会中継をしているツイキャスのタイムラインには国会中継をしないNHKを批判するコメントが続々と流れる。テレビで放送されていないからか、1万人近い数の人々が視聴している。

 

 

「なぜ、NHKは今日の国会中継を放送しないの?これほど国民の関心が高い法案を無視して”公共放送”と言える?」と乙武洋匡さんがツイートする。6000人以上にリツイートされる。

 

 

「え〜と、番組表のどこを見ても、今日の委員会採決のNHK中継がないようなのですが、ぼくの見落としなのでしょうか?どういうことか、理解に苦しみます。。。」と茂木健一郎さんはツイートする。1000人以上にリツイートされる。

 

 

NHKを諦め、どうやら茂木さんはニコ生で中継を見始めたらしく「途中まで、ニコ生で委員会の質疑を見ていましたが、とても内容のある、重要なやりとりでした。NHKの国会中継がないこと、残念でなりません。ネットで見るノウハウを持たない方も、たくさんいらっしゃいます。」とふわっと憂いを盛り込んだツイートした後、「おはようございます。等々力で目覚めるなう。今日の午前中に特別委員会で強行採決が行われる見込みです。NHKはこの歴史的分岐点にあたる国会の審議を中継しないようです。NHKは報道機関として歴史的汚点を残すことになりました。多くの職員が恥じ入っていることでしょう」というピリっとした内田樹さんのメディア批判ツイートをリツイート。この内田さんのツイートは2000人以上によってリツイートされている。それから茂木さんは「日本のメディアが、中国とか、ロシアとか、北朝鮮みたいになったら、かなりイヤだよね。」とポツリとツイートしていた。

 

 

浜田靖一君を委員長とする7月15日の平和安全特別委員会では、自民党の江渡聡徳君、民主党の辻本清美君、維新の党の青柳陽一郎君、公明党の浜地雅一君、日本共産党の赤嶺政賢君などが説明・質疑をし、内閣総理大臣の安倍晋三君や、外務大臣の岸田文雄君、中谷元君などが答弁した。3時間29分にわたって激しいやりとりがあり、採決中止を求めて野党系の議員達は全国で市民がデモで掲げているプラカードと同じプラカードを掲げ、議場で強行採決反対コールをした。「アベ政治を許さない」「強行採決反対!!」プラカードが議場の中で揺れ、議員達の怒号や悲痛な叫びが飛び交った。そして強行対決、散会。

 

 

NHKが国会中継をしなかったことについてハフポスト日本版がNHK広報局に取材するとNHKは、NHKの独自の編集・編成判断について文書で回答した。「NHKは、独自の編集・編成判断に基づいて、国会中継を放送しています。その際、国民的な関心が高い重要案件を扱う委員会の質疑であることや、各会派が一致して委員会の開催に合意することなどを、適宜、総合的に判断して、放送しています。審議の内容については、各時間帯のニュースなどで、詳しくお伝えすることにしています。」

 

 

14日には全国で20カ所以上で安保法制反対のデモが起こり、15日の夜の安保法制に反対するデモには数万人が集まった。デモについて、VICEが国会前に集まったプロテスター達のコメントを写真と共に紹介し、TBSは2名の男性が公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕されたとだけ伝えた。

 

 

それから、見える形でコミュニケートされない無数の見えない声は、やはり見えないまま。

 

 

 

 

7月16日。衆院本会議。

 

 

午前中国会周辺に向かう。デモが主に行われる国会前や衆議院議員会館前や官邸前に繋がっている道は、まだ人がまばらな午前中からバリケードで固められていて、たくさんの警察官が警備にあたっている。デモに参加したい人はわざわざ遠回りをしないと開催場所にたどり着けないことがよくある。

 

 

横断歩道を渡ろうとする人々に「抗議行動に参加される方ですか?」と警察官たちは尋ねる。通行人は通し、デモ参加者は通さない。

 

 

国会方面に歩いていると、「8月15日 靖国神社 公式参拝」と書かれた横断幕を持って雨の中佇む2人の黒いスーツの男性や、「見殺しですか天皇陛下 餓死させられる一億もの自国民を」とトラックの荷台いっぱいに書いた、赤地に金色の丸が目印の「皇祖天照大神 世直し特別広報隊」の大きくて白いトラックや、「みんなの力で安倍政権の暴走を止めよう!戦争法は即時廃案へ」と掲げる全水道東京水道労働組合のマイクロバスが国会周辺をぐるぐる走っているのが見えた。

 

 

衆議院議員会館前にいた渡辺さんという女性は、1人で茨城県つくば市からTXと地下鉄を乗り継いでここまでやってきた。67歳。主婦。42歳の娘と39歳の息子がいて、孫が6人いる。つくば市で家族と生活。今は年金で暮らしている。彼女は15日の強行採決をテレビで見ていて、涙が止まらなくなった。

 

 

「あまりにもやり方がひどいんでね。今日はもう家にいられなくって、初めて。こういうのに来たことないです。…こんな乱暴なやり方であんな11本の法律って通していいもんなのか。やっぱり私は憲法9条っていうのは守らなきゃいけないと思うし、憲法を変える変えない両方の人にとっても今度のことはやっぱり違憲なんですよねやっぱりね。憲法変えなきゃいけないと思っている人にとっても合憲ではないんだと思うんですよね。」彼女の声は少し震えている。

 

 

日本の防衛について聞くと「私は70年前のは『終戦』だとは思ってないんですね。『敗戦』だと思ってるんです。無謀な戦争をしかけて負けたと思っているんです。あんな愚かなことは絶対繰り返しちゃいけないと思う。だから日本を守るのはものすごく難しいことだというのはわかるんだけど、でもやっぱり日本は憲法9条があって『戦争しない国』って言われてたから、どこからも攻撃も受けないで平和でいられたんだと思うんですね。この法案が通っちゃったら、もうアメリカに着いてどこへでも行く、必ず私は攻撃っていうのはこれからあり得ると思っていて、日本は『絶対日本は戦争をしません、戦争のできない国です』っていうのを全面におしだしていくしかないんじゃないかなって、私は思っています。」と彼女は言った。国際社会の中での平和の国としてのブランディング作戦。

 

 

いよいよ日本が変わるんだっていうこの瞬間に、『証人』として現場にいることが、自分自身の証のようなものでもある、と71歳、定年退職し東京に住んでいる平塚さんは言った。

 

 

1人で国会前にやってきた派遣社員の大木さんは、一国民として声を上げないといけないと言った。この日は彼女は仕事が休みで、彼女にとって初めてのデモだった。

 

 

67歳の日蓮宗のお坊さんの小野さんは、デモに参加するために「孫達のために行ってくるね」と言い、3泊4日の日程で群馬から東京にやって来ていた。国会議事堂に向かって太鼓を叩きながら「南無妙法蓮華経」と繰り返し唱え続けている。子どもが4人、孫が5人。話しかけると、彼は晴れやかな表情をしていて、悲壮感がない。

 

 

「なぜこちらにいらしているんですか?」

 

 

「日本の国が曲がり角で、国の形が変わろうとしていますのでね。みんな声を上げないといけないんじゃないですかね。黙ってこれを見逃したならば、もう後で後悔しきれないでしょうからね。もっとたくさん集まってほしいですね。昨日は夜遅くまで若い人たちが集まったので、大きな抗議活動で盛り上がったので、安倍さんも世論がこれだけ沸騰して反対をしてますので、どこまで無茶なことをやっていけますかね。市民の力がどんどん盛り上がってきていますので、政権の人たちも不安になってきたんじゃないですか、このままで本当に押し通せるかどうか。この力をもっともっと大きくしたいですね。安倍さん達にしてみれば、強行採決は参議院に入れちゃえばあとはもうルールでもってね、自然に成立してしまうと思っているかもしれませんけど、でもそんな簡単にはいかないんでしょうか。きっと国民が許さないと思いますよ。女の方達が批判の行動を取り始めてますからね。女性の力は強いと思います、男性よりも。」

 

 

「公明党も一応創価学会っていう仏教の…」

 

 

「そうですね。残念ですよね。ほんとならば『ブレーキ役』だって言ってたんですけど、『ブレーキ役』どころかかえって後ろで押してんじゃないですかね。だから裏切られたって人多いんじゃないですか?宗教をバックにしているにしてはあまりにも平和の問題に対して党利党略で、自分の利権の為に動いているってところありますからね。残念に思います。」

 

 

「お経を国会議事堂に向かって唱えられていて、どんなことを想いながら、唱えていらっしゃるんですか?」

 

 

「この法案は絶対止めなきゃいけないと。子や孫のために日本の平和を伝えていきたいと思うので、何としても祈りでもって止めたいと思います。戦争法案撤廃です。」と彼は穏やかな口調で言った。

 

 

 

 

衆院本会議は13時から始まり、「戦争法案」は衆院を通過した。夜には再び安保法制を止めるために人々は国会周辺に集まった。

 

 

facebookのタイムラインを見ると、友人が七尾旅人さんの「兵士Aくんの歌」を聴いて泣いたと投稿していた。

 

 

「『兵士Aくんの歌』 アルバム用に作っている曲ですが 良くない状況なので共有することにしました 小さな歌ですが役に立てることがあったら使って下さい http://tavito.net/blog/201507a.php」と2015年7月15日の午後4時19分に七尾さんはツイートしていた。

 

 

<歌詞>

 

 

1人目の彼はどんな人だろう 1人目の戦死者Aくん

1人目の彼はどんな人だろう 何十年目の戦死者Aくん

 

 

彼は僕の友達 あれは僕の弟 彼はわたしの彼 あれは私の子

 

 

1人目に君はどんな人かな 野球好き?それとも ラジオが好き

1人目の彼はどんな人だろう 1人目の戦死者Aくん

 

 

彼は僕の友達 あれは僕の弟 彼はわたしの彼 あれはわたしの子

 

 

僕たちは ある朝ニュースで君のことを知る

しばらくのあいだ 君の名前は隠される

最初の数ヶ月 君の名は英雄の呼び名となり

そしてやがて 君の名前は 当たり前のものになる

Aくん Bくん Cくん Dくん

 

 

わたしは失うのか あなたを失うのか

この国は失うのか ここで失うのか

わたしたちは失うのか 誰を失うのか

この国は失うのか ここで

 

 

1人目の君は何を見るだろう 1人目の戦死者Aくん

 

 

1人目の君はどこにいるだろう この国の どこかで まだ 君が生きている

 

 

 

 

参照

http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=45133

http://twitcasting.tv/moi_kokkai0/movie/184180154

http://jp.vice.com/program/vice-com-original-program/17055

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2540938.html

http://natalie.mu/music/news/154047

 

プロデュース :蜂谷翔子
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