2015/07/03 社会
【新幹線焼身自殺】「何が起きているのかわからない」外国人旅行者たちの混乱

六月三十日、東海道新幹線のダイヤを狂わせたのは前代未聞の新幹線内での焼身自殺だった。この事件は多くの新幹線利用者の足を止め、そして乗り合わせた約800名の乗客に恐ろしい記憶を残した。

 

柏市在住の58歳会社員の男性は、和歌山県への出張に向かうべく「のぞみ225号」に乗り込んだ。彼が選んだ座席は一号車の六列目、一月六日生まれの彼の誕生日席だった。皮肉にもそこは、その後恐ろしい事件の現場となる車両だった。

 

「自分の意識では新横浜を出て5分くらいでその人が出てきて、(事件が起こったのは)そこから一、二分な感じだったので。」

 

正午前、彼はお弁当を食べながらも危険を察知することを忘れなかった。

 

「犯人が液体をこぼした時は間違ったんだろうなあと思ってたんですけど。間違って蓋を開けて。液体がピンクだったので最初は洗剤かと思ったんだけども、かけ始めた段階で、もうガソリンだと決めて逃げました。」

 

まだ「逃げろ」という声は上がっていなかったが、直感で身の危険を感じ取った彼は、二号車、そして三号車へと逃げ込んだ。後ろの方で、「火がついた」という声が聞こえた。ふと手元を見ると、お弁当を食べるのに使っていたお箸を握っていた。

 

「後で見たら、どうして箸をもっているんだろうと思ったんですけど。(鞄も)持ってました。やっぱし一番最初にコンピューターだけはと。」

 

誰もが平静を失いそうになる緊迫した状況の中でも冷静を保とうと努めた彼の行動の表れだろうか。しかし、そんな彼をやっと降り立てた小田原駅で待っていたのは、窓際のフックに掛けたままで逃げてしまった自身の焼け焦げたスーツの上着だった。

 

「(ホームには)他の燃えてる荷物も置いてあったので。だから、私のはまだいい方だと思います。まだ。残念というか、でも助かってよかったなというのがありますね。もしかしたら自分が着ていてああなったかもしれないので。」

 

記者の質問に淡々と答える男性の額には終始汗が滲み、彼の両手はスーツの上着を手に取った際に付いた煤で黒くなっていた。事件後、小田原駅に新幹線が行き着くまでのエアコンの消えた車両の中で、彼をはじめ乗客がどんな思いでいたのかは察するに余りあるが、忘れようにも忘れられない記憶を彼らの脳裏に残したことには間違いないであろう。

 

この事件は新幹線のセキュリティ問題に疑問を投げかける出来事となった一方、もう一つの課題を私たちに見せることとなった。ポーランドから家族とともに観光に来ていた男性は、初めて訪れた日本での大規模な遅延トラブルを前に、新幹線の改札前で狼狽えていた。

 

「今日は箱根に行ってきて、東京に戻りたいんだけど何かあったみたいで。でもわからないんだ。このトラブルについて何も情報がないから。」

 

男性は駅員にも事情を尋ねてみたものの、英語が流暢ではない駅係員が教えてくれたことは、ただ電車が遅れているから待たなければならないということだけだった。

 

駅を含め街中を見回すと、最近は英語だけでなく中国語や韓国語での表記も見られるようになってきた。この旅行客の男性も、観光中に言語トラブルに直面したのはこの駅での一件が初めてだと言う。しかし、緊急の事態の中で、外国語での遅延、そして事件に関する説明はどこにも見受けられなかった。予期しない出来事が起こると、母国にいたとしても不安になるのが人間の性というものだろう。それが言葉の通じない外国で起こったとしたら、その時の不安はいかほどであったか。

 

「もっと(外国語での)情報があればいいなと思うよ。」

 

彼ら初めての日本旅行でこれ以上のトラブルがないことを筆者は祈る。

撮影/取材:鳴海ひかり・井上香澄
文責:井上香澄

プロデュース :HORI JUN
Comment

コメントは管理者が承認後に表示されます。

Page Top