地域農業の再生などのテーマに関心がある方には馴染みのある言葉だと思いますが、《6次産業化》とは、一軒の農家や農業法人が生産から加工、販売までを全て自分たちで行い効率よく、付加価値の高い農業形態を目指すもので、いま、稼げる「強い農業」を実現しようとやる気のある農家達が率先して取り組みを進めています。
農業はいわゆる1次産業。これに、加工などの2次産業、小売などの3次産業をかけあわせ《1×2×3=6次産業》というわけです。特に、TPP・環太平洋パートナーシップ協定の議論が始まってからは、海外の農産物に対抗するため、自らの作物にどう付加価値をつけるかその方法として《6次産業化》の取り組みがニュース番組などでもさらにクローズアップされるようになりました。平成22年に国の振興策として《六次産業化・地産地消法》が定められ、最近では、地域創生の取り組みとして国や自治体が積極的に支援を打ち出しています。
ただ、具体的に6次産業化に成功している農家の数はまだまだ全体というわけではありません。作物をつくることはプロフェッショナルであっても、加工したり、それを販売したりする技能やアイデアに関しては経験がないという方が多いからです。農家の高齢化率は36%を超えており活性化にむけてそれこそ土を耕すところから始めなくてはなりません。
そうした中、今、新たに農業界に参入する若い世代の女性たちが《6次産業化》の担い手として教育を受け、独自の方法でその道を開拓し始めています。全国の農家や農業関係者が模索する《1×2×3》の正解を彼女たちはどう導き出しているのか、《輝く農女新聞》とのコラボレーションで、8bitNewsでは映像を使って現地の実態をシリーズでお伝えします。
■「農業法人」の先駆者、中筋博行さんがした40年前の選択
第一回は、宮崎県小林市でトマト農家を営む、小川道博さん、紘未(ひろみ)さん夫妻でした。今回は、大阪府富田林市で代々農業を営む「ナカスジファーム」の皆さんを訪ねました。
ナカスジファームは従業員40名以上で農業を営むいわゆる農業法人。農業をはじめてもう半世紀、50年という中筋博行さんが、今から40年前に「家族が病気で倒れたら忽ち立ち行かなくなるような農業から脱しなくてはいけない」と、家族がいつ休んでも安定した農作業ができるよう人を雇ったところから始まりました。当時は周囲の農業仲間からは「人にやらすなんて、とんでもない」と批判する声もあったといいますが、時代を経て、農業を経営としてとらえ法人化する取り組みは今最も注目される農業形態のひとつです。「ナカスジファーム」では1年を通じて、40種類ほどの野菜を栽培。特に、主力のナスやキュウリの生産高は全国随一を誇ります。
■「農業はやりません」と言って嫁いだ優美さんが「6次化」に挑む理由
博行さんを前に「会長である父が築いたこの大規模農業をさらに進化させるのが、私たち夫婦のミッションです」と語るのは、10数年前、夫・秀樹さんとの恋愛結婚で中筋家に嫁いできた、優美さんです。優美さんは大阪堺市出身。秀樹さんとは同じ農業高校に通う同級生でした。卒業後は看護学校に進み、看護師に。秀樹さんと結婚する際には「私は農業はやりませんから」と宣言し、病院での勤務を続けたといいます。しかし、子供ができ、次第に優美さんの心にも変化が。深夜や早朝勤務、緊急呼び出しにも対応しなくてはならない不規則な生活から、家族や子供との触れ合いの時間を優先した働き方を望むようになり、夫の作業を手伝うようになりました。
そして、今、優美さんは自らの使命を「6次産業化」に見出し、挑戦をはじめています。「子供たちが安心して毎日たべられる加工食品をつくりたい」と添加物を一切使わない、自家製ピクルスの生産に乗り出したのです。その年の気候の変動などによって価格が左右されてしまう農作物。6次化をめざすことで、安定した収益を生み出そうという狙いもあります。
将来、成人病に苦しむリスクを少しでも減らした食品をつくるーー。
看護師出身の優美さんらしい取り組みです。日本能率協会が開講した「女性農業次世代リーダー育成塾」のメンバー20人にも選ばれた中筋優美さん。座学や販売研修などを通して農産品のブランディングや販路開拓を学び、さらに自らの力に磨きをかけようと奮闘しています。
しかし、品質を追求するとコストがかかる。コストを削減すると添加物などを使わざるを得ない。そのジレンマを乗り越えるため、優美さんは流通や小売とかけあい、添加物を一切使わなくてもビジネスになる加工品づくりを模索しています。
一次産業をどう守り、発展させ、そしてあらたなチャンスを切り開くのか。中筋家の挑戦をルポしました。ぜひ動画を御覧ください。
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取材・撮影・編集:堀 潤
音楽:青木健