2月15日夜。石垣市の居酒屋にて。ヤギの刺身と石垣の地ビール。約20年前に本土から移住した夫婦がキッチンに立ち、釣り竿職人が1人カウンターで飲んでいる。
「本土から移住して10年以上こっちに住んでたら頭おかしいですよ」と埼玉出身の釣り竿職人。島の人との付き合いはあまりない。肌が焼けている。
「何年くらい住んでいるんですか?」
「14年。」
2軒目では北海道出身のシンガーと名古屋嬢がバーテンダーをしていた。3人の石垣の地元のおじさん達がカウンターで飲んでいる。
「こっちの人は泡盛ロックで飲まないよ。みんな水割り。ロックで飲むのはナイチュの人だけ。どこから来たの?」とバーテンダー。
「東京から。与那国の自衛隊の住民投票の取材に来たんです」
「自衛隊は必要だよ!」とケーキ屋のおじさん。
「そういうのは関係なく、楽しくやりたいさ」と1番おしゃべりで社交的なおじさん。バラードが得意。もう1人のおじさんは日焼けしていて寡黙。カウンターの3人は同級生で、2つの大皿に盛られたツマミを3人でつつきながら飲んでいる。
「こいつはケーキ屋なんだよ。すぐそこだよ店。誕生日いつ?窓から女房が覗いてるかもな。」
ボトルの泡盛をすすめてくれる。彼らは夜中1時頃に3人揃って帰って行く。
「島の人と話せてよかったね。なかなか話せないよ」と北海道出身のバーテンダー。
「すごくいい方達なんですよ」と名古屋嬢。
「明日は雨みたいだね。雨だと与那国は楽しくないよ。」
店から出ると雨が降っている。雨の印象も違う。民宿に戻る。道には千葉ロッテマリンズの来島を歓迎する旗や看板や自衛官募集のポスター。「陸・海・空 自衛官募集 大切な人 大切な郷土を守るため 八重山出身隊員が頑張っています!」青いバックグラウンドのポスターの中にいる2人の青年がどこかを見つめている。1人は八重山商工出身。もう1人は八重山高校出身。「お問い合わせは 自衛隊沖縄地方協力本部 石垣出張所 TEL: 0980-82-4942」
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翌日昼過ぎ、石垣から39人乗りのRAC機(DHC8-100型)で約30分、崖に囲まれ緑に覆われた与那国島に到着。110キロ先には台湾。少し前まで150人乗りのJTA機(B737-400型)が石垣ー与那国を飛んでいたが、赤字続きで規模が縮小され小型機が飛ぶようになった。目の大きなスチュワーデスが籠に入った黒糖と与那国島の絵はがきをくれる。小さな島、小さな飛行機、1人のスチュワーデス、こざっぱりとしていて清潔感がある。
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飛行場から集落へ。与那国島には久部良、比川、祖納という3つの集落があり、島の人口は約1500人。学校は中学校までで、高校に行くために子供達は島の外へ出てゆく。仕送りが難しい島民は、子供と一緒に島を離れることもある。人が減っている。
どこの集落に行っても、自衛隊賛成派と反対派ののぼりやポスターが静かに風に揺れる。沖縄本島での選挙の時と似た光景。米軍基地や自衛隊の問題で、保守と革新、自立派と追随派、平和派と経済発展派、賛成と反対、様々な対立軸ができて島が2つに分かれる。
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今回の住民投票は与那国島に陸上自衛隊の沿岸監視部隊配備、レーダー基地建設をするか否かの民意を問うために行われる。2月22日の日曜日が投票日。投票資格があるのは中学生以上の1284名。中学生41名、高校生以上の未成年56名、永住外国人5名も含まれる。投票結果に法的拘束力は無い。工事は既に始まっている。