2015/02/04 政治
【TPP差止・違憲訴訟】「グローバル資本に対抗する新たな法理論の構築に向けて」TPP差止・違憲訴訟の会の設立とジェーン・ケルシー教授からの報告

TPPは人種も文化も違う様々な場所で、たくさんの人々を動かしている。1月24日、日本の東京では「TPP差止・違憲訴訟の会」が設立された。一般市民から政治家まで、ここにもたくさんの人々が姿を見せた。

 

 

 

 

14名から成る「TPP差止・違憲訴訟」の弁護団は、グローバル時代の新しい法律的な課題に取り組んでいる。TPPはその巨大な規模においても真っ黒な秘密性においても、全く新しいタイプの国際貿易条約なので、クリエイティブな訴訟行動が必要になる。

 

 

①TPP交渉の差止②TPP交渉の違憲確認③(象徴的な)損害賠償の請求

この3つが訴訟の趣旨となる。

 

 

法律学の見地から、TPPが全体として個別の人権を侵害するのか?TPPの個別の条項が個別の人権を侵害するのか?彼らは検討し論議を重ねている。

 

 

 

 

前日本医師会の原中勝征を代表とする「TPP差止・違憲訴訟の会」は、この訴訟の支援と目的達成に必要な活動を行う会で、去年から彼らは日本全国を駆け回ってきた。生協、農業団体、労働組合、市民・ボランティア団体、政党などに会への入会と賛助要請をした。東京、茨城、広島、熊本、大分、山形で学習会を開いた。入会者の拡大に貢献してくれる呼びかけ人を53名集めた。ホームページを開設した。財政を確率するために入会者を募った。

 

 

会員は1口2000円で、日本国民の誰もが原告になることができる。1月20日付けで会員数約2400人。その内原告希望者が約700人。集まった入会金額は5,554,000円。賛同団体、個人から集まった金額は6,214,000円。訴訟の為に、継続的に会員と裁判費用を集めることが必要となる。

 

 

 

 

弁護団は、TPPの違憲性について、いくつかの可能性を検討している。比較的簡単に見えるのは、極秘交渉による国会の条約承認権の侵害(憲法73条3号)。それから司法権の侵害(76条1項)

 

 

基本的人権侵害論では、憲法13条(個人の尊重=人格権)や、憲法25条生存権。憲法21条知る権利(表現の自由)など。

 

 

 

 

1月24日の設立総会には、ニュージーランドのオークランド大学法学部のジェーン・ケルシー教授が姿を見せ、TPP交渉の進捗現状について東京で報告した。グレーの短い髪。黒いふちのスタイリッシュな眼鏡。黒いタートルネックのセーターの上にやや柔らかい黒の上着を羽織っている。大学教授らしいはっきりとした知的な英語。一貫性のある筋だった話し方。

 

 

彼女のTPP交渉についての報告には、複数の人物や団体のストーリーや状況が含まれていた。(以下の文章は彼女の報告に基づくもの)

 

 

 

 

アメリカ合衆国において初の黒人大統領であるオバマ大統領は、1961年にハワイに生まれた。母はカンザス州、父はケニヤの出身。現在彼は、大統領2期目を務めている。

 

 

2015年、オバマ大統領にとって1つの大きなデッドラインが近づいている。大企業のエリート達が秘密裏に構想を練ったTPP。TPPが実現するであろう世界は、オバマ大統領の所属する民主党やその支持者の理念にはおおむね反していて、どちらかというと共和党の好む内容。そして当然TPPの生みの親である1%の富裕層にとって最も好ましい内容にまとまっている。

 

 

12カ国が参加する環太平洋パートナーシップ、TPPの交渉は始まってから既に足掛け3年が経過。交渉には異常に長い時間がかかっている。オバマ大統領は自分の任期中にTPPを成立させることができなければ、大統領としての政治的な実績を1つ見送ることになる。TPPを成立させることは、大統領1人の権限ですることはできない。アメリカの場合、議会の承認が必要となっている。

 

 

オバマ大統領が議会からFAST TRUCK(ファスト・トラック)の権限を与えられれば、TPP全体を「イエス」か「ノー」かで一括審議して議会を通して国内からの承認を得てしまうことができる。

 

 

YES or NO

 

 

とてもシンプルでアメリカ的だ。しかし議会では前回の選挙で共和党のリパブリカン達が主導権を握ったし、議会からのTPPに対する反発は強い。彼らは大統領に更なる決定権を与えるほどお人好しだろうか。各業界のロビー活動家・利害関係者達も妥協する気はさらさらなさそうに見える。彼にとって状況は厳しい。ロビー活動家たちは、TPP交渉が成立したとしても、自分たちの要求が満たされていなければ、せっかく決まった交渉を彼らはまたバラバラに解体して、再審議や書き直しを求めるだろう。他の国々もオバマ大統領の置かれた状況を冷静に見ている。交渉が合意になったとしても、大統領が議会からTPPの承認を得られないなら、この交渉を進めるポイントは一体どこにあるのか?

 

 

大統領選挙が近づけば、そちらの駆け引きをしなければならなくなり、TPP交渉どころではなくなる。つまり、オバマ大統領にとってTPP交渉は今年の前半が正念場となる。

 

 

 

 

一方、アメリカの議会は中間選挙を終えて、議会での主導権は共和党が握っていた。

 

 

議員達は、そもそもTPPが秘密交渉であるということに反感を覚えている。なぜ国民の代表である彼らではなく、企業家たちにより大きな権限があるのか?

 

 

議員たちは、密室に入る。そこにはTPPに関する秘密文書がある。ペンやノートの持ち込みは禁止で、部屋にはその秘密文書について説明する専門家や役人もいない。そこに文書があるだけ。仮に何が起きようとしているのか議員達が知ることができたとしても、それを誰かに話すことは禁止されている。極端な秘密主義。透明度が低い。

 

 

ただでさえこのありさま。これ以上オバマ大統領に権限を与えたら、事態が悪化し、より好ましくない状況に進み、コントロールを失うかもしれない。限りなくゼロに近い情報をもとに、一体何をどう判断するのだろう?どっちにしろ、TPPは議会が承認しなければ成立することはない。

 

 

 

 

日米の二国間交渉について特化した場合、議会にとって重要なのは「為替操作 -Currency Manipulation」。アメリカ議会の議員達の多くは、日本は輸入品には支払いが少なくなるように、輸出からは外貨をより多く稼げるように、為替レートを有利に操作をしてきたという認識を持っている。

 

 

アメリカの議員達は日本の為替操作に大いに注目していて、大半の議員が為替操作についてのルールがないなら、TPPはあり得ないと言っている。例えば日本の為替操作に対して、ペナルティーや罰金を課す、またはアメリカが為替の市場に直接介入し日本円を操作し、円高を招くという方法など、アメリカの企業に利益をもたらす手法は様々。しかし為替操作に関する議論はあまりにも刺激的であり、センシティブなので、公式な交渉のテーブルにはのっていない。しかし、アメリカの議会は現実的で、為替操作に関する操作がないのならばTPPはありえないという態度を明確にしている。

 

 

 

 

アメリカの利害関係者や企業のロビー活動家が日本に日本に対して持っている要求ははっきりとしている。特にアメリカの農業と自動車の部門の人々は、日本の張っている貿易障壁が限りなくゼロになることを望んでいる。彼らに言わせてみれば、オバマ大統領が自分たちの利権を妥協するなら、TPP交渉は意味を持たない。

 

 

 

 

アメリカ連邦通商代表部の役人達はレポートを作成していた。そこには長い箇条書きのリストが含まれていた。貿易障壁のリスト。

 

 

食品の安全。日本郵政。金融サービス。建築デザイン。環境。医薬品…

 

 

日本がアメリカに対して持っている87項目の貿易障壁が書き出された。

 

 

 

 

アメリカの様々なキャラクター達や彼らの事情について話した後、ケルシー教授はアメリカの持つ手法について説明を始めた。

 

 

国際貿易条約を締結するとき、アメリカのやり方を通すための独自のスタイルをアメリカは持っている。それは「承認事項 -certification」と呼ばれていて、過去役8年間、アメリカはそれを貿易交渉の際に外国に対して積極的に行使してきた。

 

 

アメリカは、アメリカが日本に求める「義務」が全て果たされなければ、TPPは妥結しない。「義務」とは、日本の国内法や政策やそれに関連するプロセスを、アメリカの国内法の基準に合わせて変更するという意味。それが「承認事項」で、日本がそれをできない場合は交渉は不成立となる。

 

 

他の国のやり方をアメリカのスタンダードに合わせる為に、アメリカはアメリカ人の役人を外国に送り込んで、その国の草案づくりに参加させ、結局他の国の法律を書いてしまったことさえもある。貿易交渉に合意をした外国に対して「合意をしたんだから、『承認事項』をやってもらわないと困ります」とアメリカは迫る。

 

 

例えば、グアテマラはアメリカと違った医薬品に関するルールを持っていたけれど、アメリカは彼ら独自のやり方を認めなかった。国内法を変更しないなら、交渉で合意したものを全て破棄することになる、それが嫌なら、アメリカの要求をのむ、どちらかだと迫った。

 

 

「『承認事項』は民主主義を尊重する人々ならば心配することだと思います。もしも私が日本の国会議員であったなら、怒りを隠せないでしょう」とケルシー教授は言った。

 

 

これはアメリカの一方的な交渉プロセスです。国内法を書き換えてしまう「承認事項」のプロセスは深い闇の中で行われています。ロビー活動にも影響されます。アメリカのロビー活動家たちの求めているものは、関税ゼロや極端な自由化です。

 

 

 

 

「現在、TPP, TTIP, TISAという3つのグローバル規模の秘密交渉が進んでいますが、これほどの秘密主義は国際貿易の交渉の場にとっては異常な状態で、前例がありません。『TPP差止・違憲訴訟の会』による、グローバル資本に対抗する為の司法からのアプローチはとても重要なチャレンジです」とケルシー教授は言った。

 

 

これからの3ヶ月が各国にとって重要な時間になる。

 

 

「話の最後は、ポジティブな言葉で閉じようと思います。嬉しい進展もあるのです。人々の手に交渉を取り戻すという動きも出てきています。先週発表されたTTIP交渉に関する文書を、EUは公開することを決めました。世論においても本格的な議論をしてほしいという意図の為です。私たちも自分たちの政府に対して同じことを要求する必要があります。アメリカの議会においても文書を公開しろというプレッシャーがつのりつつあります。オーストラリア連邦議会の上院でも、交渉の過程において一般から意見を聞こうという動きも出てきています。5月の始めまでに交渉が合意に至ることがないように、そして今後も一切TPPの合意がなされてはいけません。」

 

 

“No agreement by May. No agreement, ever.”

 

 

ケルシー教授は締めくくり、会場に集まった日本の一般市民や弁護士や国会議員や記者から拍手があがった。こうして1月24日、TPPに対する挑戦が始まった。

 

 

「TPP差止・違憲訴訟の会」のホームページ: tpphantai.com

ジェーン・ケルシー教授の講演(同時通訳付き)(https://www.youtube.com/watch?v=eWI125FmfxY)

プロデュース :蜂谷翔子
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