2014/12/17 政治
【衆院選2014】衆院選とクリスマスのダサいセーター選手権

「僕はニュージーランドで、投票率の低いアジア系の移民に投票に行ってもらうための全国規模の選挙宣伝キャンペーンをやったことがある」

 

 

27歳のオーストラリア人の友人が言った。2014年12月14日、日本の衆議院選挙の投票日、私たち3人はダサいセーターを求めて原宿の人混みの中を歩いていた。その夜のクリスマスパーティーのドレスコードがダサいセーターだからだ。

 

 

「そのキャンペーンで僕はアートディレクターだった。毎回選挙がある度に大体選挙が始まる3ヶ月くらい前から宣伝キャンペーンが始まる。僕が関わったキャンペーンをやったときは、Y&Rという大きな広告代理店と共同でやった。ニュージーランドの中国系、韓国系、日系の移民の投票率が低かったから、彼らアジア系のマイノリティーの投票率を上げることがキャンペーンの狙いだった」

 

 

「そのキャンペーンはどんなふうにやったの?」

 

 

私たちは比較的年齢層の低い人達で混み合う竹下通りを抜けて明治通りを歩いていた。友人はボブ・ディランのかけていたようなサングラスをかけたりはずしたりしていた。

 

 

「ニュージーランドに住むアジア人にもっと投票に行ってもらう必要があった。僕が住んでいたオークランドというところでは、大体30%がアジア人で、主に中国人、韓国人、日本人が僕らのキャンペーンのターゲットだった。最も大変だったのが中国人だった。中国には民主主義はないわけだから、彼らは当然民主主義のことを知らない。僕らは全国規模の選挙宣伝キャンペーンをしながら、民主主義について彼らにかなり教育をしなければいけなかった。

 

 

僕らはセミナー、ラジオ、ワークショップをやり、またローカルコミュニティーに直接足を運んで活動をした。マイノリティーのコミュニティーが何らかのイベントをやるときには必ず出かけて行った。彼らこそ僕らがまずリーチしなければいけない人達だからね。草の根から始め、それからテレビ、新聞、ラジオのようなマスメディアを使ったキャンペーンをやる。

 

 

もし彼らに投票しに行ってほしいなら、まずは政治と彼らの間に関係性を持たせなければいけない。彼らになぜ投票が重要なのか理解してもらう必要がある。彼らは移民だから、自分の国の政治には興味があるけど、ニュージーランドの政治的状況がわかっていなかったり、あまり興味を持っていない。だから僕らの仕事は、政治と彼らの間に関係性を持たせ、理解してもらうことだった。アジア系の人々にとってどんな問題があるのか、ニュージーランドという国はアジア人の為にどんなことをしているのか。彼らには『声』があり、政治参加することでその『声』は届くということを理解してもらう。コミュニティーのリーダーや人々を相手にセミナーをやるにつれて、彼らはどんなオプションがあり、どんなことができるのか理解していった。

 

 

アジア・ニュージーランド基金という政府から資金援助されているNGOもプロモーションにお金をつぎ込んでいた。セミナーではアジア系移民の現状や、移民に関する統計などについて話すことのできるマイノリティー出身の政治家や、大学教授や一般の人達が話した。だから人々は政治のことだけではなく、自分のコミュニティーについて学ぶこともできた。僕自身も現場でひたすら人々と言葉を交わしたりキャンペーンについて説明したりしたからとても勉強になった」

 

 

「中国の人達はどうやって興味を持たせたの?」

 

 

「中国系の移民の人達は、あまり『声』を持っていなかった。彼らは政治よりも永住権に興味があったので、僕らは永住権と政治を関連づけた。それから、当然僕らは僕らのキャンペーンがどの政党とも関係なく独立したものであることを強調した。政治家や政党の選挙活動と投票にいってもらう為のキャンペーンは別でなければいけない」

 

 

「日本だと若者が投票に行かないってよく言うんだけど、日本の若い人達に投票してもらうにはどうしたらいいかな?」

 

 

彼は少し考えてから、また話しだした。

 

 

「政治家は若者に対して語りかけていない。もし人々が無関心なら、それは政治家が人々に向かって話していないからだ。若い人達はどのように彼らが違いを生むことができるか知る必要がある。彼らはコミュニティーの一部であり、彼らはコミュニティーにとって重要な存在であり、彼らは自分たちが違いを生むことができると感じる必要がある。もし彼らが自分たちの『声』が重要だと感じていないなら、投票に行きたくないと感じるのは当然だ。それからもちろん教育は大切だ」

 

 

「声」ね。私たちはカフェに入って軽食をとった。ソイラテにはラテアートが施してあって、アクセントにピンク色も使われていた。いかにも有機的な生地でできた1つ250円のクロワッサンにはハチミツがたっぷり入っていて、見た目はリンゴのペーストみたいだった。冬の日曜日の日差しがよくあたるテーブルからは、明治通りを絶え間なく流れるどちらかというと政治とはあまり関係なさそうな人々が見えた。沖縄の海をうちなんちゅが守ろうとするように、彼らは国際的なファッションの聖地原宿のカルチャーをつくり守っている。原宿に声と権利を!

 

 

クロワッサンを食べながら、日本人の友人(21)に「投票行った?」と聞くと、「投票行きたかったけど、千葉まで行く時間がなかったから断念した」と言った。

 

 

「投票行ったの!?」と彼は少し驚いたような感じで言った。

 

 

「行ったよ。期日前で。投票の仕方知らなかったの?」

 

 

「東京でできたらやり方調べてやったと思うけど。期日前投票のことは知ってたけど行く時間がなかった。それぐらいやれよと思う人も多いと思うけど、学生とかでバイトでしか稼ぎがない人とか、投票だけのために帰るのとかはやりずらいだろうし、もっと簡単に全国どこでも投票できたらいい。住民票が今住んでいるところにない人はたくさんいると思うし、投票したいけどできない人を減らさないといけないかなと思う」と言った。彼の「声」や無知や嘘や正義にはまだ権力が伴わないが、言いたいことを述べることは憲法で保証されている。

 

 

「ニュージーランドでは投票に行かない若者はほとんどいないよ。選挙の日にはみんな自分が誰に入れたかとかいう話で盛り上がってる。みんなテレビの開票中継とかに釘付けになる。まるでギャンブルでもやってるみたいな感じなんだよ」とオーストラリア人の友人はとてもポライトな表情で、ただそういうもんなんだよ、選挙ってすごい盛り上がりなんだよ、と身振り手振りをつけて言った。

 

 

私たちはファッションやそれぞれが年末に計画している旅行の話に戻り、セールのコーナーで見つけたセーターを頭からかぶって、電車に乗って緩やかな坂の上にあるクリスマスパーティーのあるアートギャラリーへ向かった。

 

 

今日選挙の日だから、選挙についてお客さんにインタビューしてもいいですか?と聞くと、アートギャラリーのオーナーの女性や、イベントを企画したジョン・レノンみたいな眼鏡をかけたDJのおじさんは快く承諾してくれた。

 

 

温厚で落ち着いた話し方をする美人オーナーのY.Nさん(32歳・女性)は、「政治の仕組みとか正直わからないけど、マニュフェストとか政策を照らし合わせて自分が一番理想としているところに入れた。周りで考えている人は増えたと思う。ググってPDFを読んで、政策とか読んで、この人達が一番まともかな、と思う人達に入れる。自分に一番近いのは税金のこと。外交は飛ばしちゃったりするし、結婚していないので子育てとかもあまり見ていない。自分に一番近いのは税金。消費税とか市民税とか。バラマキとか言ってるじゃん。自分が一生懸命お金つくって貯めているのにそれがよくわからないところでばらまかれるのは嫌なので、それをどういう風にして具体的にやめるのかそれが書いてあるところ。ただ『やめまーす』って言っても、どうすんのよ、と思う」と言った。

 

 

外では4人の男女が話していた。選挙についてインタビューしたいと言うと、DJのおじさんが「しっかり答えなさい」という感じで3人の後ろを覆うように両腕を広げ、楽しそうに場を仕切った。

 

 

投票に行かなかった26歳でIT系の会社でシステムエンジニアをしている男性は、行かなかった理由は「よく最近、みんな嫌ってる『無関心』ですね。誰が何やろうと一緒だろうっていう。どうせ上の人達でやってて、別にっていう。別に誰押しとかでもないですし」と言った。

 

 

「それはある種の絶望感?」

 

 

「絶望感であり、結局自分でしっかりしなきゃっていう。自分がしっかり生きていくためにあんま関係ないような。自分でしっかり仕事をして色々やっていけば別に幸せに生きていけるしっていう」

 

 

「まぁ逆に言えばだから日本は恵まれてんだよ。それでいいんだから」とDJのおじさんが口をはさんだ。

 

 

「人生をよりよくする為に政治っていうところから入らなくても、自分次第でよくできるって思うってことですか?」

 

 

「はい、そういうことです」と彼は言った。

 

 

「私もあまり関心が無い方ですね。自分のことが精一杯というかそこまで考えられない。遠く離れている感覚があって。忙しい。元々沖縄にいるときから(米軍基地反対の)声を上げている人達に対して違和感があった」と、沖縄出身の宮里さん(30歳・女性)は言った。常に柔らかくニコニコとしていて、ダサいセーター選手権用に友人が選んだ、襟元が独特な万博のガイドさんが着ていそうなオレンジ色のセーターを着ている。

 

 

彼女が話していると「沖縄だからね。だけど沖縄はさ、大変だよねー変な気違いみたいなのね。沖縄の人の本音を聞きたいの。だけど凄い人多いじゃん。沖縄がすごいのはそこだよね。すごい気持ちわかるんだけどね。偏ってる人多いっていうか。逆にノンポリになってしまうのがわかる気もする。沖縄と北海道ってやっぱハブにされてるから悪い人がいなきゃ駄目だっていう部分がさ…ムネオさんがガッツリいけちゃう感じ?やっぱ9条よくねー!?みたいな。きっと楽しいんだろうねあれ。それが沖縄の人の良さなのかもしれないけど、自分たちを相当、剣山みたいなのでこうやられて…」とDJのおじさんが冗談を言い始め、気心の知れている仲間たちは笑った。「…けど、沖縄に関しては軽々しく言えないところがあるよね。うん。だけどまぁ、自民党圧勝でしょ…」と言って、DJのおじさんはひょいっとギャラリーの中へ戻り、またクリスマスソングを回し始めた。

 

 

Kさん(25歳・女性・フリーター)は、インタビューを始めてから表情が少しキリっとしたのがわかった。彼女は期日前投票に行った。

 

 

「なぜ投票に行ったんですか?」

 

 

「行っとかないとって。私も全然興味無かったんですけどずっと、もう25歳なんで、いい加減やっぱり自分もここにいるから行っとかないといけないんだろうなと思って。立候補してる人の、自分の小選挙区の人のもちょっと読みました。公約とか、どこを目指しているのかとか。政党もちょっと調べました。どういうのがあって、どういう人達なのかっていうのを。それで自分と考えていることが近いって人を選んで投票はしました。どんぴしゃはいないですねやっぱり。政党でも近いっていうのはあるけど、でもそれは現実的じゃないっていうのは正直思う政党とかばっかりって感じだったんですけど。最近この年になって余計に日本が今こういう状況だっていうのが取り上げられることが多くなったなあって思って、生活においての違和感をみんなが感じているっていうことを書いている人とかもいるじゃないですか。それはすごく共感したんですよ。311あって、それもみんな忘れたいけど、本当に忘れちゃいけないことっていうのを言う人もいて、それもそう思ったし。なんかそれで浮き彫りになちゃったところがあったと思うんですよ。日本人の考え方とか、『でも大丈夫』みたいな。『後に回せば大丈夫』みたいな。考え方とか浮き彫りになっちゃって自分もそうやってずっと生活してて、でも今年になると気になることが増えて自分の中でも。多分今までだったらやっぱり選挙行かなかったけど、ちょっと自分でも見だしてて、今回はきっと行かなきゃいけないんだなと思ってて、絶対行かなきゃいけないから期日前とかで行けるときを自分でちゃんとつくって出しにいこうと思って行きました」

 

 

「重点は?」

 

 

「冷やっとしたのは集団的自衛権が行使されますっていう結果が出たときにすごく冷やっとして、でももしかしたら必要なのかもしれないと思ったんですよ。色々アメリカとの関係とかあるけど、最近他の国籍の人と話す機会があって、韓国の人とかと話したときに、韓国の人絶対に徴兵制があって、向かって行くじゃないですか必ず男の人は。韓国の人は何かしら仕事があれば必ずやる。でも日本人はそれがあったとしてもさぼる人もたくさんいるっていう、その対比の話を聞いたときに、なんかそうなのかもしれないって。一概に韓国の人が全員そうかっていうとそうではないけど、日本がちょっとなめられたりする要因がそこにあるのかもしれない。ちょっとぬるま湯にずっと浸っている感じ。その違和感も感じるし、でもやっぱり痛いのも嫌だし、怖い思いをするのも嫌だし。きっと教訓があるから日本には、その大事な憲法があったのにそれが壊れたっていうことにはすごく冷やっとしました個人的には」

 

 

輪になって話していた私たちは、夜の8時を過ぎていることに気づいた。

 

 

「うん。もうそろそろ結果は出てるかもしれませんね」

 

 

Kさんがスマートフォンに目をやると、自民圧勝のニュースが流れていた。Kさんは続けた。

 

 

「今日も結局自民党が勝っちゃったからこれからどうなるんだろうっていう不安は正直ありますね。圧勝だったっていう結果が出たけど、みんなやっぱりどうせ勝っちゃうっていう思いは絶対にあるけど、でもやっぱり何もしないでいるよりは何かしないと、それは行動にならないと、じゃあ出しにいかないとなって思って。出した後にアップリンクの浅井さんのコラムを読んでそれとすごく一致したんですよ自分の考え方は。出したときに不安があったんですけど、これで大丈夫なんだろうかとか、でもそれを読んですごく腑に落ちた部分とかもあって。やっぱり意義ある一票だったんじゃないかと思って。選挙権は権利だっていう話もすごい大昔から実はされてたりすることも思い出したりして、権利があるなら権利は使わないと、捨てるだけになっちゃうなと思ったのが少しあったかな。その為の選挙だったのかもしれない。権利すらもしかしたら無くなる未来があるのかもしれないなと思って。不穏さっていうのは絶対にみんな感じてると思うし、無視はもうできないくらいになってきたんじゃないかなって最近思うようになってます」

 

 

ギャラリーの中のパーティー用に置かれた長テーブルの上には、宮里さんとKさんの手料理が並んでいた。マッシュポテトにはローズマリーや繊細な色をした野菜が入っていて、ローストチキン用には、5ミリ四方くらいに刻まれたりんごを使ったソースと、マスタードが基調のソースが準備してあった。宮里さんとKさんの料理を出すタイミングは図ったように絶妙で、料理は全てすごくおいしかった。余計な化学調味料の味がしなくて、食べると気分が良くなった。デザートはアップルパイとアップルタルトだった。

 

 

パーティーには日本人と同じくらいの数の外国人がいて、メキシコとレバノンのハーフの人と、カナダと日本とフィリピンと中国の血が混じった人が、アメリカの大企業がアメリカに不法入国したメキシコ人をモダンな社会の奴隷として使っていることについてどう思うかとかについてお酒を飲みながら話していた。私もワインやビールやエッグノッグを飲み、メキシコ人がそもそも不法入国しなければいけなくなったのは、NAFTAの自由貿易でメキシコ国内の農業が壊滅して生計が立てられなくなったからなんじゃないか?と会話に入った。それは1つの意見であり、初対面の外国人と話すときは挨拶みたいなものでもあった。

 

 

私がワインを飲みながら少しぼんやりしていると、私が他の人のインタビューをしていたのを見ていた、ついこの間まで銀座でホステスをしていたという山崎さん(31歳・女性)が話しかけてきた。

 

 

「私銀座で働いてるんですけど、やっぱ議員さんとか来るんですよ。来て『頑張って選挙やります。よろしくお願いします』」って言うんです」と彼女は話始めた。

 

 

「じゃあなんで議員さんはそこで飲んでるの?『よろしくね』は何?という気持ちになる。友達の中でも海外仲間、アメリカで友達になった人とよく日本のことについて話すんですけど、その子の言っていたことがすごくよくわかるなと思った。『俺は自民党には絶対に投票しない』というその人と同じ考えなんですよすごく。彼はお坊さんなんです」と彼女は言い、Facebookに載っている、そのお坊さんの投稿を見せてくれた。

 

 

「今まで投票したことないけど自民党だけはあかん」とお坊さんはインターネットを通して警告していた。

 

 

「消費税が10%になると生活がリアルに厳しい。せめて軽減税率は前提としないとやめてほしい。福祉の充実はいろいろ言ってごまかすより、ベーシックインカム的な福祉を進めてほしい。高齢者福祉と幼児福祉が完全無料に近づくなら20%でもいい。集団的自衛権、特定秘密保護法、NSCなんかは問題外。言うまでもなく原発事故がアンダーコントロールだと言うような世紀の大嘘をぶちかます人が党首を務める政党に投票する理由なんてこれっぽっちも見つからない。そもそもあんなにでかい口叩いてたくせに解散なんてふざけるな。700億もかかってるんだぞ衆院選。かといって既成野党も駄目。あなたが誰に投票するかは自由だけど、ちゃんと考えて投票してください。誰に投票したかみんなもっと言った方がいい」とお坊さんはシメた。

 

 

「なぜ今(消費税)8%になったのか?おそらく10%にするための階段づくりだったように思う。こうなったら次はこうなるのはわかるよね?と言われているような気がする」と山崎さんは言った。彼女は生活の中で数多くの疑問を持っている女性だった。

 

 

「日本て何?ってことを考えるにおいて、テレビではこーなりますあーなりますというけど、なんでもっと市民の声を聞かないの?インターネットがこれだけ普及してる中、みんなの声ってわかるよねって。私は働いているときに『すごいですね、すごいですね、頑張ってくださいね』ってもちろん嘘で言うんですよ。だけどお店での料金も議員さんがもちろん払う訳でもない、応援してる人達が払う。一般から言うと『何それ?』って感じがするんですよね。バックアップされているというか。その人を応援されてる秘書さんから自分のポケットマネーで払いますと。日本のことを考えているのだったら。私は個人的にあの人達がもらっている給与明細を見せてほしい。口では言うけど、どうやって公約を実現するの?そうだ!そうだ!というけど、それを言う前に自分のバックグラウンドとか、お金をどんな風に使ってるのかとか、見せてごらん!と思う。それを見たら国民は希望を持てるかもしれない。議員さんはどうやって生活してるの?テレビカメラが回る。プリテンドしてるだけじゃないの議員さんは?税金でまかなってるんでしょ?政治家イコールもうけてると思う人が多いと思う。月に20万もらって税金を納めている人と、40、50、60もらっている人の差はある。かといって日本は貧困ではない」

 

 

彼女が貧困について話し始めたとき、ダサいセーター選手権の優勝者が決まり、温かい笑い声と拍手が起こり、優勝者に賞品が渡された。私と山崎さんも拍手をした。冴えない白い生地で、形には締まりがなく、ヤシの木とビーチとボートと山が描かれいる、確かに一人前にダサいセーターだった。南国セーター。うん、本当にダサいね!うんうん、とみんなで納得しあった。

 

 

「本当に困っている人達を助ける、貧困が何かわかってほしいと思う。自分の知り合いに生活保護も通らなくて自殺をされた方がいるんですよ。もう60近かったんですけど、飲食店で働いていて、糖尿病になってしまった。亡くなってから、病気だからかわいそうだね、じゃなくて病気の人達にとってなんでもっといい社会をつくらないの、って思いますよね。

 

 

投票行きました。白紙で投票しました。今日も選挙のことをテレビでやってたと思うんですけど、もう見る必要無いって思いました。やったー万歳!万歳!って言って、ダルマに書いたりするじゃないですか。あのダルマさえ買えない人もいる。そのダルマにも税金がかかってるんだよって思ってしまう」

 

 

彼女には不思議と悲壮感は無く、同情や同意を強要するような話方でもなかった。代わりに強さが目立った。根本的な言葉や伝えるという行為の力を理解する彼女は、ためらわずに言葉を放った。

 

 

「私癌なんです。放射線を治療で浴びている、4回やりました。線量の高い場所にメディアが入れない、いいよ、行こうか?って思います。何が起こってるのって?命かけて仕事しようよ。(原発事故の後)女性とかって『この子を守りたい』ってそれだけしか反応がない友達っていっぱいいるんですよ。親の介護とか大変だって言ってる子とか、生活保護受けてて働けなくて老後が心配で、友達で何度もリストカットしたり。自分も(リストカットした)その1人なのでわかります。母親が同じように癌で亡くなって、死ぬ準備ができたから生きる覚悟ができた」

 

 

彼女の腕には数センチの傷跡が平行に数本あった。

 

 

「目の前でドナーを待ってる子供達を抱えてなんだかんだ言ってお金がいるから風俗で働いたりするお母さん達を目の前にしながら、31歳でも子供を助けたい。罪もないし、海見たことないとか、地道というか当たり前じゃないけど、子供大好きだし守りたいなって」

 

 

宮崎さんはある画家が書いた絵の写真をスマートフォンで見せてくれた。写実的な絵としてそこにいた若い女性は、黒くて艶のある長い髪をしていて、腕には大切そうに赤ちゃんを抱いていた。

 

 

その鉛筆で描かれた女性の腕に抱かれた子供は小児白血病で亡くなり、母親は自殺未遂をし、今は子供の名前も思い出せなくなり、死を待つだけの生活を立川の精神病院でしている、と宮崎さんは言った。

 

 

なるほど。

 

 

私は彼女に話をしてくれたお礼を言い、彼女は聞いてくれてありがとうと言った。気づくと夜の11時近くになっていた。15人がダサいセーター選手権にエントリーしていて、優勝した南国セーターには9票が投じられていた。衆院選では自民党は475議席中291議席を獲得し、単独で過半数を超えた。自民公明の連立与党での議席数は3分の2を超えた。

プロデュース :蜂谷翔子
Comment

コメントは管理者が承認後に表示されます。

Page Top