11月13日、沖縄県知事選挙の「3日攻防」の初日、喜納昌吉陣営は告示日と同じように再びサバニに乗り込み、今度は金武湾から辺野古漁港へ出航した。航海途中、空を見上げると午後の上空には戦闘機が飛び、左手に見える射撃爆弾訓練場からは爆発音が数回鳴り響き、派手に煙が上がるのが見えた。サバニで航海しながら、アメリカ政府の他国での戦争殺戮行為に対して非暴力で抗議したアメリカのヒッピー達のように、喜納さんは出航前に花屋で購入した3万800円分のバラの花びらを海に撒いた。
夕方、家族や友人や支持者の待つ辺野古漁港を目前にして、サバニは進行方向を変えた。選挙中埋め立て工事を中止している辺野古の海上に黒い船を見つけたからだ。サバニが埋め立て予定地へと進水し、黒い船へ接近してゆくのを、人々は漁港から、私は伴走船からじっと見つめていた。
サバニの乗組員の話によると、辺野古埋め立て予定地にいた黒い船に接近すると、黒い船の乗組員は「立ち入り禁止」水域だと彼らに警告したという。黒い船の乗組員達に、一体どういう権限で立ち入り禁止を警告しているのかわからないので、身分を明かすよう迫ると、相手は無反応で一言も応えなかった。黒いヘルメットについたビデオカメラでサバニの乗組員たちを撮影しながら、ただ黙っていたという。サバ二が黒い船に接近しすると、正体を明かさない船は後退しコミュニケーションを避けた。今日の沖縄タイムスには「キャンプシュワブ沖には海上保安庁に制止される場面もあった」とだけ書かれているが、サバニ乗組員によると、黒い船は身分を明かさなかったらしい。「あれは海賊なのか。びっくりしましたね」と喜納さんは述べた。
人々が見守る中、サバニは辺野古漁港へ進路を戻し、無事到着。支持者とマスコミと覆面パトカーで視察に来ていた名護警察ににぎやかに迎えられた。
夜には名護市のBIRD LANDで「辺野古 on PEACE」というライブ&トークが開催され、喜納さんに加え、花バンド、そして三宅洋平さんが出演した。三宅さんは原発事故後に沖縄へ移住し、去年の参院選全国比例に立候補し17万6980票を取りながらも落選したミュージシャン。三宅さんにとって、県内外の翁長さんを支持するリベラル層から立候補を「票割り行為」として批判されている喜納さんのイベントに姿を見せることはかなりリスキーな行為だったが、三宅さんは言葉を語りに姿を見せた。
「オール沖縄の意思を受けて翁長雄志がこのまま知事になるっていうのはもちろん1つの既定路線ではあると思うんですけども、そこに物申したかった、喜納さんの言いたかったのは何だったのかっていうことっていうのもやっぱりどうしても無視できなくてですね…」と三宅さんは、喜納さんの立候補についての彼の解釈、喜納さんの立候補が無ければ知らなかったこと、気づかなかったこと、彼の立候補により深まったこと、しかしそれでも喜納さんを表立って応援できなかった複雑な政治や選挙の力学について弾き語った。
「僕らが目指してる新しい世界っていうのは、100歩先行っちゃってるのかもしれないけどやっぱり喜納さんが言っているようなところの先にあると思うんですよ。で、その現実と理想の狭間を埋めるのが上手いのは翁長さんみたいな人ですよね。それを政治力って言うのかもしれません。だけど今の政治力には理念が足りなすぎるっていうことです。1番いいのは、喜納さんと翁長さんが合体して1人になることなんです」と三宅さんが落ち着いた穏やかな口調で話すと、会場から笑いが起きた。
三宅さんは14日に、知事選と同じ11月16日が投票日の、千葉県松戸市の市議会議員選挙に立候補したヒップホップアーティストのDELIさんの選挙の応援をしに本土へ向った。飛行機に乗り込む前に期日前投票をするという彼は、喜納さんに一票投じるか翁長さんに投じるかはギリギリまで考えたいと真剣な姿勢を見せた。
喜納さんのライブ&トークでは、参加者との肩の力の抜けた活発なやりとりが始まり、海外ではその効用を認められ、タバコよりも害の少ないとされている大麻の沖縄での合法化など、今回の知事選とは直接関係のない話にまで広がった。喜納さんは逃避の為の覚せい剤やヘロインや危険ドラッグは擁護できないが、大麻は擁護できると明言し盛り上がった。音楽と縛りの無い対話は夜中過ぎまで続いた。
三宅さんは、大切なことは、誰が当選しても辺野古新基地を止めること、沖縄が沖縄であり続けること。選挙を脈絡の無いバラバラの点ではなく、線として捉え、対立を乗り越えながら大きな目的、より良い社会や地球の為に進むことが大切だと話した。
投票は明後日に迫っている。