沖縄県知事選挙が始まってから、もうすぐ一週間が経とうとしている。私が辺野古が最大の争点となっている今回の沖縄県知事選挙に興味を持ったのは、喜納昌吉さんの空気を読まない立候補があったからだ。彼の立候補が無ければ、沖縄の人々の基地を巡る激しい感情を巻き込みながらも、この選挙はもっと「普通の選挙」になっていたと思う。今日も沖縄の街には各候補者の選挙カーが走っていて、喜納さんの選挙カーからはチャンプルーズのメンバーやボランティアの人々が収録した音源が流れている。
喜納さんの辺野古反対派としての立候補は、同じく辺野古反対の立場で与野党が団結して支持する「勝てる候補」の翁長さんの支持層からは反対派の票を割るとして非難され、辺野古新基地推進派からは同じ理由で歓迎された。立候補をする際、喜納さんは民主党の意向に逆った為、民主党から除籍処分を受けている。
告示前の10月28日に那覇市の国際通りで、翁長さんの選挙を手伝っている同世代の友人と待ち合わせをした。彼女は喜納さんの立候補に対する嫌悪感に近いものを持っていた。辺野古の海を守る為に座り込みをしたり、カヌーで海に出て命がけで辺野古を守っている人々の多くも、今回の選挙で翁長さんを勝たせる為に団結していると彼女は教えてくれた。日本と沖縄のハーフである彼女は、沖縄の問題と向き合うときに、自分の中に同居している日本人と沖縄人の葛藤があると話してくれた。
翁長さんの陣営は11月1日にセルラースタジアムで「1万人大集会」を開催し、辺野古のある名護市の市長の稲嶺進さん、俳優の菅原文太さん、選対本部長で金秀グループ会長の呉屋守将さんなどがスピーチを行った。11月2日の琉球新報によると、熱気に包まれた会場で翁長さんは「民意を日米両政府、国連へ伝える。あらゆる手段で新辺野古基地は造らせない」また、「新辺野古基地は(移設予定地の)大浦湾でセルラースタジアム那覇123個分を埋め立てる。完成したら国有地になり、私たちの権利は届かなくなる」と、沖縄に基地を押し付けてきた「本土の保守」ではなく、基地に反対する反骨精神を持つ「沖縄の保守」候補としての言葉を語った。
一方、喜納さんは11月1日に県庁前で十数人程度の支持者と通行人の前で街頭ライブと演説を行った。喜納さんがライブを始める前に、喜納さんを支持する宮城さんという男性が、喜納さんと何度も喧嘩ごしに話をしているうちに、喜納昌吉は変人ではないということがわかってきた、彼は政治の本質を見抜いていると熱弁をふるった。彼からマイクを受け取った喜納さんは「今あの方、喜納昌吉は変人ではないと言いましたけれども、いや、私は変人です。私は政治家である前にミュージシャンでありますから、ちょっと『花』でも歌って…」と街頭で演奏を始めた。
スピーチで喜納さんは、環境保全に対する重大な侵害である辺野古埋め立ては公水面法に違反していて、法的に誤りがあった決定だった為、知事の権限で「取り消し」ができると主張。反対を強く訴えながらも翁長さんが「取り消し」という決定的な言葉を使わないことから、喜納さんは「政治家は公約破りの名人である」ことを沖縄県民は見抜かなければいけない、また「土木業者が『辺野古』という沖縄県民の心を看板にして、あるいは騙して、実際は逃げ口をつくって利権を貪ろうという魂胆が透けて見えてきます」と訴えた。
県外移設を訴えて当選したが辺野古埋め立てを承認してしまった現職の仲井眞弘多さんの再選を阻止し、「政治家はぶれても県民はぶれていない」ということを見せつける為に、保守も革新も一緒になって翁長さん当選の為に選挙戦を闘っているが、そこに政治の世界の空気を読まないミュージシャンの喜納さんが、「取り消し」を公約にしない翁長さんが果たして本当に辺野古新基地を止められるのか?という疑問の一石を投じた。
投開票は11月16日。