2013年ヴェネチア国際映画祭で審査員大賞、中華圏の歴史ある映画賞「金馬奨」で最優秀監督賞と最優秀主演男優賞を受賞した、台湾のツァイ・ミンリャン監督の引退作品『郊遊<ピクニック>』が、明日9月6日より渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開される。
映画の公開を記念して、映画配給会社のムヴィオラが、ツァイ・ミンリャン監督のインタビューを行った林央子さんと写真家のホンマタカシさんを迎えて「“アート映画”も元気じゃなくちゃ」と題したトークイベントを開催し、アートや映画にまつわる話を展開した。
映画自体の質や芸術性よりも、商業価値、売れるかどうかを優先する映画業界を嫌って引退を表明したツァイ・ミンリャン監督。優秀な監督に引退を決意させる映画業界にはどんな事情があるのか?
映画業界ではよく「この映画には『フック』が無い」という言い方をするとホンマさんは言う。芸術性を追求したアート映画には、簡単に客引きをできる「フック」が無いと言われることが多く、また映画を売るにはデートで観に行ける「デート映画」であるべきだという基準も根強い。
「フック」が無かったり「デート映画」でない難解なアート映画は、商業的な映画業界からは敬遠されてしまう傾向が強く、メジャーになりたいというメンタリティーを持つ俳優や女優は「そっち系」の映画はやらないという人もいるという。
厄介なのは、世の中が高度に複雑になってきている為、非人間的に利益追求をする商業バリュー優先の会社も「人を大切にしている」と主張するところで、違う方向から表面的には同じようなことが言われるところだとホンマさんは言う。商業化の結果として、監督の名前すら表記されない映画もあるという。
映画とはわかりやすく、デートで見れるものであるべきなのか?人々は本当にインスタントに理解できる、簡単に楽しむことのできる、わかりやすいフックのある映画を求めているのだろうか?
『郊遊<ピクニック>』では、都市での孤独、不安や恐怖が、現実に近づくカットの長さで描かれている。「あえてこの『フック』のない映画をやって自爆してもいいかな」と、映画の公開前から配給会社ムヴィオラ代表の武井みゆきさんはジョークを飛ばす。彼女のジョークにはアート映画に対する愛が見える。