筆者がインタビューに行くと、小川てつオさん(43)は自分のテントの外のスペースに、椅子を2つと木のテーブルを用意し、蚊取り線香を炊き、紅茶を出してくれた。 7月、蝉の声が壁のように小川さんが約10年ほど生活しているテント村を覆っていた。小川さんは、2020東京オリンピックの開催に反対する「反五輪の会」のメンバー。「反五輪の会」はオリンピックの東京開催に反対する様々な理由を持った個人によって構成されているが、小川さんの場合はオリンピックに伴う東京の再開発が引き起こすことが予想される野宿者やホームレスの排除に反対するという観点から「反五輪の会」に参加している。
街の大規模な再開発を伴うオリンピックやワールドカップのようなスポーツ大会は、元々街に住んでいた貧困層の住民や、野宿者やホームレスの人々を強制的に追い出すということを世界中で行ってきた。
記憶に新しいブラジルのワールドカップの際にも、貧民街ファベラの住民の追い出しや、ワールドカップ開催に反対する激しい抗議、そして弾圧があった。サンパウロ大学の建築学および都市計画の学部の教授で、国連で「適切な居住権への権利の人権委員会」の報告者なども務めたラケル・ロニックさんの報告によると、ブラジルでのワールドカップの際に排除された人々は、自分の見知らぬ土地に住むことになり、新しく与えられた住居は以前の住居よりも新しくキレイであることもあるが、周りには商店や交通機関が無かったり、移転により以前ファベラでしていた仕事が続けられなくなり、実際に生活することが難しくなってしまうということも多いという。つまり、生活をしなければいけない住民の視点に立っていないのだ。
小川さんによると、東京オリンピックにはほとんど興味を持っていないホームレスや野宿者の人々が多い中、1964年の東京オリンピックの時に建設の仕事が多く生まれたことが記憶にある年配の野宿者は、自分が建設の仕事につくかは別として、今回もそうなるのではないかと期待している人もいるという。しかし、多くの野宿者は行政による強制排除や、今の生活が続けられなくなることを心配している。
野宿者やホームレスは地方よりも都市に多く、都市の野宿者のコミュニティーにはなかなか他には無いような興味深い人の繋がりがあるという。もちろん良いことばかりではなく嫌なこともあるが、テント村での生活は、住民同士の生活の垣根が低く、皆お互いの生活をある程度知っているので、助け合いのあるコミュニティーが成り立っているという。家賃を払うため、お金を稼ぐためだけで手一杯の生活とは違い、仕事をしていても時間に余裕があるので、皆で話したり、絵を描いたり、執筆をしたり、文化的な活動もしている。
ホームレスや野宿者の人々は、自分が所有したり賃貸している場所に住んでいないので、「空間」の感覚が、マンションやアパートに住んでいる場合よりも開けていると小川さんは言う。最近だと難しくなってきたが、以前は誰でも住みたい人がテント村に住めるという開かれた自由さがあり、その自由で開かれた「空間」の感覚が小川さんは好きだという。
反五輪の会ホームページ(http://hangorin.tumblr.com/)
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