猪俣哲さんは日本の最西端に位置する与那国島で、1日1組限定のイタリア料理店Ristorante Tetsu、カフェ、そしてロールケーキを売るMoist Roll Yonaguniを営む。彼は10年前に与那国島に移住し、建築も料理も独学で学んだ。廃屋に自分で手を入れ現在も増築中の仕事場兼住居をアート、生き方をパフォーマンスアートとして捉え、頭の中にあることを実体化することにこだわる。
彼の仕事のスタイルは一般的ではない。「はっきり言って僕は客を選んでいる」と言う彼は、実際しょっちゅう客を断り、働きたくないときは働かない。彼は多くの理由を持っている。
お金を払えば欲しいものが手に入るというような、世の中で当たり前となっている価値観に対して彼はアンチテーゼを唱える。単なるお金のやりとりと化したコミュニケーション、ブレイクスルーに決して辿り着かない常識を再認識するだけのパターン化された会話、農薬や遺伝子組み換え食品の問題を直視して食に対するリテラシーをもって接するとき「おいしい」とは何なのか、他国の大きな武力に対して知恵を使わない子供のように単純にこちらも拡大することで対抗しようとする現在の政権などに、彼は西の果てで生き方を通して静かに疑問の一石を投じる。