「パンク」な生き方とはなんだろうか?現在来日中のインドネシアのパンクバンドマージナルは、スハルト軍事独裁政権の抑圧的な政治環境の元結成され、大衆から爆発的な支持を得ている。政権のもたらした恐怖や貧困や理不尽の真っただ中で彼らは自由や子供達や大衆の為に、生きてゆくための手段としてパンクを始めた。彼らは場所を選ばず無料でコンサートをやり、子供達がストリートで演奏してお金を稼げるようにウクレレの弾き方を教え、バンドのグッズなどを売って得た収入は共に生活する身寄りのない子供達と自分たちの生活を支えるのに足りるか足りないかいつもギリギリのライン。
そんなマージナルの活動を追い続けている写真家の中西あゆみさんによるマージナルのドキュメンタリーが5月から渋谷アップリンクで公開されている。残すところ上映は6月11、12、13日の3日間。上映後には中西さんのトークと、マージナルのアコースティックライブがある。
映画館でもライブハウスでも、来日して以来マージナルは日本で熱烈に歓迎されている。映画館やライブハウスにマージナルを見にくる日本の人々は、独裁と貧困の中で勇気と愛を持ってまさにパンクに生きている彼らに対して、極めて好意的で、ある種の特別な感情や期待を持っているようにも見える。マージナルはとても暖かく、真っ直ぐでポジティブで親密な空気をつくり出す。
マージナルのマイクにインタビューをした際に、彼が繰り返し言ったのは、重要なのは情報をシェアしたりメッセージを伝えたり、お互いから何かを学ぶことだということ。例えばどういった場所でライブをやるかとか、そういったことは全く重要ではない、と彼は言った。
マージナルの持つ真っ直ぐさに対して、ひょっとすると日本のオーディエンスは憧れの感情も持っているのではないだろうか。インドネシアにはあからさまで厳しい貧困や独裁があり、反逆するいくつもの明らかな理由がある。日本はどうだろうか?表面的には非常に豊かな日本だが、日本にも貧困や差別や現政権の嘘や横暴があり、決して健康な状態ではなく、反逆するに値する物事は実際多く存在する。
都内のライブハウスでのマージナルのライブ後、その晩ライブハウスにいた人々に安倍政権についての意見を求めた。
あるバンドのメンバーの男性は「ちゃんと人のことを考えてくれ。守るって言うなら、守って。福島のこととか、被災者のことをとにかくちゃんと考えて」と穏やかな口調で話しだした。彼は日本の政治家や他の国でも政治家は国民のことを考えていない。今までもずっと政治はひどかったけど、安倍総理は頭が悪いし坊ちゃんだから、今はそれがわかりやすく露骨に出ているだけで、それでも事態の深刻さに気づかない国民だって悪いと彼は言う。オリンピックに大金を使うよりも、仮設住宅で孤独死するような人々のことを考えるべきだと言う。彼はデモに行って捕まった経験もあり、今デモに行っている人達は、「反体制」というよりかは、本当に国を愛しているから安倍政権に文句を言ったりデモをしているのだと思うと彼は言う。暴走する安倍政権に対して反応の無い日本には何が足りないのか?と聞くと「死ぬ覚悟が足りないんじゃない。死なないと思っているんじゃない?人間は死ぬんだということがわかってない」と彼は言う。
ライブに来ていた男性は「私は子供の頃から北陸の原子力発電所の近くに住んでいて、昔から自民党は騙して原発を誘致していたので、子供の頃からちょっと疑問に思っていました。今回の安倍政権になってからあからさまに戦争をしたがっていたりとか、野蛮な行動に出ようとしているのでますます心配になっています。今音楽でこうやってみんな平和になっていますが、音楽がなくても平和にならないと。今世界中で戦争が起きていますので、解決したい」と言う。311以降、日本のパンクシーンではメッセージ性の強い曲や、デモへの参加などの動きがあったが、日本でパンクは外見や音が大きいからという理由で誤解されたり、一般の人々から受け入れられなかったように思う、と彼は言う。
「嘘つくのをやめろ!安倍に言っといて!」とライブ後に楽しそうにビールを飲んでいた3人組はとても率直な言葉で言う。ジャカルタのパンクムーブメントのようなものが日本で起きる可能性はあると思うかと聞くと、東京とジャカルタだと条件があまりにも違いすぎるので、それは難しいと思うと彼女は言う。「もしも私たちがジャカルタに生まれてたらきっと(マージナル)と仲間だよ」と彼女は言う。
日本のパンクやメタルの音楽シーンを10年程見てきたというサンフランシスコ出身のアメリカ人男性は「最近日本のパンクシーンではたくさんの反原発の曲がでてきた。僕はいいことだと思う。以前はそうではなかったけれど、どうやら物事は変わってきているみたいだね。ここでのパンクシーンはとても力強いし、毎週末たくさんライブがあって、客もたくさん見に来るから、メッセージが伝わっていいと思う」と彼は言う。ここのシーンの人々は、ノーマルな生き方に捕われずに、パンクなライフスタイルを献身的に生きていると感じる、サンフランシスコの音楽シーンよりもオリジナルだし献身的だと彼は感じているという。
現在急速に国家主義、全体主義的な傾向が強まり、強いものにやさしく弱者に厳しい社会的な環境が着々とつくられている日本、これからどうなってゆくのだろうか。