「台湾の希望はやはり若い者ですね」と台湾の芸術家の林舜龍(リン・シュンロン)さんは彼のオフィスで太陽花学運について話し始めた。シュンロンさんは、瀬戸内国際芸術祭など日本の芸術祭にも出品している台湾の芸術家。多くのスケールの大きなパブリックアートを手掛け、台湾の国際空港近くでも彼のパブリックアートを見ることができる。芸術家の目に学生運動はどのように映ったのか、台湾のマスメディアや民衆運動の歴史や台湾人の誇りについてお話を伺った。
立法院占拠のニュースを聞いた時のことを聞くとシュンロンさんは、びっくりした、ものすごい勇気がありますね楽しげに答えた。太陽花学運の学生達の主張は、与野党の一方的で極端になりがちな主張よりもずっと柔らかいと彼は学生達の運動の進め方を褒めた。立法院は元々は「連中」のものではなく人民のもので、「連中」のやることはあまりにも馬鹿げているので、学生達は「連中」から立法院を「占拠」というよりかは単純に「取り戻した」に過ぎない。学生達を支持する多くの台湾の人々は学生達の真っ直ぐさに心を動かされたと彼は言う。
シュンロンさんが太陽花学運についていくつか感心することは、以前の民衆運動のときは必ず政党の旗があったのに、今回はどこの政党の旗も全くたっていないこと、巨大なデモをやった後でもゴミ一つ落ちていないし、3月30日の50万人(主催者発表)規模のデモが終わった後に20分で群衆がすみやかに解散するなど、台湾ならではのマナーの良さには大変驚き、この迅速さやマナーの良さは世界一なのではないかと愉快そうに笑った。台湾では1990年3月に野百合学生運動という学生運動が起こっていて、当時の学生運動に参加した人々は現在は民進党の議員になった人や政府機関の役人になった人もいて政治の場で経験を積んでいる。野百合学生運動の頃と比べて、社会の環境やテクノロジーの条件が変わっているので、太陽花学運はインターネットの登場で動きが断然速くなっていると彼は言う。
台湾のマスメディアについて聞くと、シュンロンさんや多くの人々は台湾のマスメディアが真実を報道するとは思っていない、テレビよりはインターネットの情報の方が信頼性があると思っていると言う。例えばデモの参加者の数などが報道する局や新聞によって大きく異なることがある。以前国民党よりの運動が起きたとき、群衆は赤いシャツを着てデモをした。国民党のデモを撮影した航空写真を見比べると、今回のひまわり革命が3月30日に大統領府前で行ったデモと比べると群衆のサイズは約5分の1程度に過ぎないにも関わらず、国民党側は参加者を100万人と報じた。「それは国民党のやり方。いつもそう。嘘ばかり」とシュンロンさんは言う。
台湾で民衆運動が強いのは、台湾が力の無い、いつもいじめられてきた国だったからだとシュンロンさんは言う。自分の子孫の為に自分がしっかりしないと子孫に怒られてしまうのではないかと思う、自分がこの世を去ってゆく時に自分の子供に良い環境を残せなかったら悔しいのだと彼は言う。自分の国の土地、空、空気、海。なぜもっと美しい島をつくれないのか。台湾の民主化を助けた過去の民衆運動では多くの台湾人が命を落とした経緯があり、そのようにして勝ち取った自由を、馬英九総統のためにまた奪われるのは犠牲者に対して不公平だと彼は台湾の民衆の辛い歴史について語った。台湾はもっと自由になるべきだ。自由が無いと他の国とも仲良くすることはできない。どんな国ももっと人民に自由を与えなければならない。自由と民主主義があれば、その国の国民はもっと愛する力をもつことができる。自由さがないと人を愛することができない。学校でいじめられた子供は性格が曲がってしまうが、家族や親戚に愛されて育った子供は自然と人を愛することができる。体の中に愛する要素、自由さがないといけない。これは馬大統領が全然知らないことだ、とシュンロンさんは言う。
誇りや自信は台湾人にとってとても大切だと彼は言う。台湾は1つの国だという自覚を皆が持たなければいけない。台湾人で唯一自信を持っていないのは馬大統領だ。馬大統領は自信がないから中国にすり寄りたがる。そんなに中国が好きなら彼が1人で大陸(中国)に帰ればいい、と彼はいたずらっぽく朗らかな笑顔を見せながら言った。中国と一緒にならないと台湾は経済的に潰れてしまうとよく言う人がいるが、彼らは台湾人としての自信を持っていない人達だ。台湾にミサイルを向けている中国のような国との貿易協定にサインしなくても台湾は例えばフィリピンやベトナムとより健全に商売ができる。中国とも友好な関係を築くことが望ましいが、台湾と中国の関係は今は正常な状態ではないと彼は言う。自分の国は自分の力でしか救うことはできない、だから台湾人は台湾人として誇りを持って、自信は満々の方がいいのです、とシュンロンさんは言う。
(インタビューは2014年3月31日に行いました)