【台北】林飛帆をリーダーとする学生達による占拠は12日目に突入。筆者は昨晩22時頃から立法員(国会)の中に入り取材をしている。
次の大きな運動の動きは、明日30日の午後1時から夜7時まで総統府前(首相官邸にあたる)のケタガラン通りで行われる予定のデモ。学生達は要求を通すことを諦めておらず、デモには学生に限らず全ての市民に参加を呼びかけている。運動をより大きくし、馬英九総統へのプレッシャーを強める狙いがある。学生達は台湾がサービス貿易協定や国民党の横暴によって「暗黒の時代」に再び突入したということを象徴する為に黒い服を着てくるようにデモの参加者に呼びかけている。
立法府の中の状況は現在は安定している。占拠の初日は水、電気、空調などが止められてライフラインが確保できていなかったが、2日目から水は復旧、電気も支援者が外部から送れる仕組みを作り復旧させたという。3日目以降から現在まではその状況が続いている。食べ物や飲み物は常に外部からの差し入れが豊富にあり無料で配られている。サンドイッチ、ビスケット、クッキー、ヌードル、パン、パイナップル、チーズバーガー、お弁当など種類も豊富。物資係がプロテスター達に差し入れられた食料などを配っている。初日から数日間占拠をしていた女の子は、この運動に参加し始めてから太った、国会の占拠も前代未聞だけれど、占拠をしているプロテスターが太るなんて前代未聞だ、といたずらっぽく微笑んだ。学生達が占拠を良いコンディションで続けられるように寝袋、歯ブラシ、アイマスクなども無料で配られている。
立法院の中には学生の他には運動をサポートしている弁護士団、医療班が24時間態勢で待機している。持久戦に対応する為に交代制でシフトしながらサポート。運動を合法に運ぶためにはどうしたら良いのか学生達の質問に答えたり、不当逮捕などが発生した場合に記者会見などの対応を行ったりしている弁護士団の1人は「この運動をしている学生達に自分の仕事の意義を教えてもらった」と答えた。
マスメディア出入りも多く深夜は数が減るが数台のマスコミのカメラは常に待機している。事実や自分の発言が違う意味に受け取られるように報道されているとして、マスメディアに対して不信感を募らせ、報道に不満を持っている学生が多い。グループによっては特定の記者からの取材を拒否したり取材の様子を記録したりして対策しているという。学生達はフェイスブックなどのSNSやインターネットを活用して情報収集、発信、コミュニケーションしている。
立法院内には頻繁に運動の支持者が訪問し演説をしたり、音楽のパフォーマンスや記者会見があったりすることが多い。昨晩はバイオリンの演奏や、映画監督のヤンヤーツーとクンイーツンさんが姿を見せ演説をして院内は盛り上がり、記念撮影をする姿も見えた。今日の昼過ぎには、台中から台北まで学生運動をサポートする為の長距離ランニングキャンペーンをしていた静宜大学の団体が台北に到着した。ランナー達の到着がアナウンスされると院内に拍手と歓声が沸いた。
占拠された夜の天井が高く広々としている立法府の雰囲気は、両親が不在の家で子供達が自由で開放的な時間と空間を楽しむのに似た雰囲気がある。雰囲気に殺伐とした感じは無く、至って平和的で疲れは見えるが皆リラックスしていて、学生達の表情は和やかで笑顔が多く見られる。彼らは盛んに友人達と言葉を交わし、インターネットサーフィンをし、学生のスポークスマンのアナウンスや様々な人々の演説に耳を傾ける。院内を時にはせわしなく厳しい表情で、時には和やかな愉しげな表情で歩き回るリーダーの林飛帆の姿も時折見える。
学生達にインタビューをすると真剣な答えが返ってくる。台湾の未来に対する深い懸念、今行動しなければいけないという責任感、サービス貿易協定に対して関心の無い人々に対するフラストレーション、馬英九総統と国民党が中国との貿易協定を慎重な審議や国民との対話無しに締結するという横暴さに対するショックと怒りなどを皆口々に語った。学生達は小さな国である台湾の独立を、経済的にも文化的にもアイデンティティーの側面でも大国である中国から守りたいと感じている。
立法院正面の台湾国旗と「中華民国の父」と呼ばれる孫中山の肖像画の周りはスローガンの書かれた横断幕やアートで埋め尽くされている。「民主主義の明かりを灯せ」「自由の声が聞こえる」「青年は国会を奪い返す」「民衆はサービス貿易を審議する」「馬鹿が政治をすることは断固拒否します」サービス貿易協定反対や民主主義を求める言葉が立法院内外に響き渡っている。
現在、孫中山の肖像画の下のサインは「占領293時間」となっている。
白の「出席」黄色の「棄権」赤の「反対」緑の「賛成」ボタンのついた立法院の議員の机の上には現在学生達の本、新聞、物資の入った段ボール、ラップトップ、食料、ペットボトル、鞄などがいっぱいに広がっている。自分たちの存在や意見を堂々と真っ直ぐに主張し、前代未聞の占拠運動を引き起こした学生達の表情は真剣でありまた愉しげでもある。