2025/06/03 地域
「学問の自由」が危機に?――急展開する日本学術会議「解体法案」とは

 2025年3月に閣議決定され、現在国会で審議が進む日本学術会議の「改正法案」。政府はあくまで「見直し」だと説明するが、現場では「解体法案」として強い警戒の声が上がっている。

 科学者の独立性を支えてきた日本学術会議に何が起きているのか。「Artivist 黒部睦」で紹介された抗議アクションやスピーチをもとに、法案の中身と問題点を読み解く。

軍事協力への反省から生まれた会議を「変質」させる改正?

 日本学術会議は1949年、戦中に科学者たちが軍事研究に加担したことへの反省を踏まえて設立された国の特別機関だ。平和国家としての理念と学問の自由を守る役割を担い、これまで繰り返し「軍事目的の研究に協力しない」と声明を出してきた。

 だが今回の改正案では、そうした理念が大きく書き換えられようとしている。前文からは「平和的復興」「文化国家」などの表現が削除され、代わりに「経済社会の健全な発展」などが加わった。「反戦と独立」を軸にしてきた学術会議の性格が、政府の政策目標に合わせた“実用重視”の組織に変えられてしまう――そんな危機感が広がっている。

問題は「3つの構造変更」

 番組では、法案の中身について大きく3点が紹介された。

  1. 会員選定制度の変更
     これまで日本学術会議が自主的に選んできた会員に対し、「選定助言委員会」が設置され、首相が任命する形へと変更される。事実上、政府の意向が選定に介入可能となる。

  2. 監査・評価体制の導入
     内閣府が新たに「評価委員会」を設置し、活動を外部から監視・評価する体制が整備される。学問の自律性を侵す恐れが指摘される。

  3. 理念の変更と法人化
     前述のように「平和・文化国家」から「経済発展」への転換に加え、学術会議を法人化し、国の特別機関ではなくする方向性が示されている。これにより政府の責任も後退し、学術会議の発言力や予算支援が弱まる可能性がある。

発端は「任命拒否」――2020年の事件が象徴するもの

 議論の原点には、2020年の「6人任命拒否問題」がある。学術会議が推薦した会員候補のうち6名を、当時の菅義偉首相が任命しなかった。理由は「総合的俯瞰的観点」とされたが、内容は明かされず、政府の学問への恣意的な介入だとして批判が集中した。

 この事件をきっかけに、政府が「望ましくない思想」の研究者を排除する動きではないかという懸念が強まり、今回の法案に対しても警戒心が高まっている。

「言論の自由」への介入?堺大臣の発言に抗議も

 さらに火に油を注いだのが、2025年5月9日の衆院内閣委員会での堺内閣府特命担当大臣の発言だ。堺大臣は「特定のイデオロギーや派的主張を繰り返す会員は解任できる」と発言。現行法では重大な不正行為があった場合に限り解任が認められるが、思想を理由にした解任は明確な憲法違反だと、番組では強く批判された。

 「学術会議を政府の言いなりにするための法案ではないか」との声は、学術界からも市民からも次々と上がっている。

急展開する国会審議、成立までわずか数日?

番組では今後のスケジュールについても警鐘を鳴らしている。

  • 6月3日:参議院内閣委員会での参考人質疑

  • 6月5日:委員会採決の可能性

  • 6月6日:本会議採決・成立の懸念

 本来、参考人質疑から本会議成立までは1ヶ月以上を要することが多いが、今回は「わずか1週間」での成立もあり得るという。市民の声を反映する時間がないまま、「歴史的転換」が決まってしまう危険性がある。

「まだできることがある」――市民への呼びかけ

 番組では、まだ間に合うこととして次のような行動が呼びかけられた。

  • 与党以外の議員に「5日の採決に応じないで」と訴える

  • 堺大臣の不信任決議を求める声を届ける

  • 和田内閣委員長に「会認決議を出すよう」要請する

 過去にも市民の声が世論を動かし、法案の修正や廃案に繋がった例はある。今回も「最後の数日」が重要になると、番組の中では繰り返し強調されていた。


📣 編集後記:
学術の自由とは、特定の思想や政策から切り離された場所で、未来を見据えた知が育まれる空間である。戦争の反省を原点とした日本学術会議を、拙速なプロセスで「形だけ整えた別物」に変えてしまって良いのか。今、社会がその答えを問われている。

プロデュース :HORI JUN
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