2025/05/21 国際
【現地報告】ミャンマー大地震から1ヶ月、孤立地ザガインで水も医療も絶たれた中で──医師・林健太郎氏が語る“命をつなぐ支援”

「水がない。医療が届かない。避難所の便所はうんこだらけで感染症が広がっている——」。
2025年3月28日にミャンマーを襲った大地震から1ヶ月半。被災地のひとつ、ザガイン市は今も支援が届かず、医療と衛生環境が極限状態にある。

現地で医療支援を続けるのは、医師の林健太郎さん。国境なき医師団や東日本大震災支援の経験を持ち、ミャンマーでは長年、山岳少数民族地域で八角(ハッカク)栽培支援など農業プロジェクトを展開してきた。しかし軍事クーデター、内戦、そして今回の大地震が連続して襲いかかり、支援の現場は今、大きな転換点を迎えている。

地下水は枯渇、配水管は崩壊…「水がない」

ザガイン市は地震によって地下水脈が崩れ、既存の井戸は機能停止。水を引いていた配水管も壊れ、市内への供給が完全に止まった。避難所は飲み水どころか、手を洗う水さえない。水洗文化のミャンマーでは、「水がなければトイレも使えず、手も尻も洗えない」と林医師は語る。

「僕自身も便所の調査中に感染症にかかって、帰国後に入院しました。便器やドアノブに汚物がこびりついていて、衛生どころの話ではありません」

現在は給水車1台を運用して1日4往復の水運びを行っているが、到底追いつかない。支援チームはクラウドファンディングを立ち上げ、軽トラックやハイエースを使った小規模給水システムの導入を模索している。

「医療も限界。外科手術もできず、患者は骨が飛び出たまま」

ザガインでは、市民病院が崩壊し、手術はおろか入院もできない。林医師の設置したクリニックでは、骨折したまま腕をぶら下げて来院する患者が後を絶たない。心理的トラウマを抱えた被災者も多く、メンタルケアの専門スタッフも不足している。

「かつての東日本大震災と同様に、今必要なのは『訪問医療』『心理社会的支援(MHPSS)』といった中長期的な体制づくりです」

現地では元々、WHOも注目する「ベアフット・ドクターズ」という地域医療モデルを林医師が導入してきた。しかし現在は人材・物資ともに不足し、継続が危ぶまれている。

農業支援の地に、戦火と地震が重なった

林医師が長年支援してきたミャンマーの少数民族地域では、八角(タミフルの原料となる植物)を育てるプロジェクトが展開されてきた。農業によって麻薬や傭兵経済への依存を減らし、地域の自立を促す目的があった。

だが、軍政と少数民族の武装勢力の対立は内戦状態へと発展。さらに中国・ロシア・欧米が関与する“代理戦争”の色合いも強まっている。「爆撃で焼かれた育林地もある。再び植える意志を持つ市民の力に応えたい」と林氏は語る。

支援の先に見える“地域のレジリエンス”

堀も現地の声を取材し続けてきた。林氏との対談を通して見えてきたのは、「いま目の前で命を守る緊急支援」と「未来を見据えた地域のレジリエンス(回復力)育成」を両立させることの重要性だ。

林氏は言う。

「戦いは悪です。怒りは悪です。それを乗り越えた先にこそ、信頼と共生があります。私たちはその橋を架けたい」

現在、クラウドファンディングでは、給水設備、トイレ支援、教育支援(給食・文具・教科書など)、心理支援、そして第二クリニックの開設を含めた医療支援を対象に資金を募っている。目標金額は500万円。

クラファンはこちらのリンクから

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プロデュース :HORI JUN
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