2022/02/05 地域
【ユネスコ世界自然遺産】伊藤詩織さんの語ったこと:奄美大島 嘉徳浜護岸建設問題 #savekatoku 〜人権と環境について日本が抱える課題

鹿児島県は昨年2021年7月にユネスコ世界自然遺産に登録されたばかりの奄美大島で、既に世界自然遺産区域内でのコンクリート護岸開発を強行しようとしている。工事が行われようとしている奄美大島の瀬戸内町の嘉徳浜は、世界自然遺産のコア地域を支えるバッファゾーンに指定されている重要な場所。本来無闇に開発が行われるべき場所ではなく、多くの個人や団体から計画に対して異議や抗議が出ており、「世界自然遺産はただのラベルじゃない」と批判を受けている。嘉徳地域のあり方と生活の質が大きく関係する住民と行政の間の協議の場は未だに持たれないまま、今月2022年2月の中旬にも工事が始められる恐れがある。

 

 

#savekatoku キャンペーンを展開する住民が2021年11月に奄美大島で開いた奄美インターナショナルシンポジウムで、奄美で生まれ育ったエコツアーガイドである武久美さんは、「今、十分に検討されていない護岸建設が進められようとしているんですね。科学的にもこの計画では逆に災害を招くと専門家は警告を出しています。このような状況でも県は必要な工事ですと言い切って進めようとしていて、集落の中では対立が起こったり、工事の見直しを求めている人がいても、声を出すと叩かれてしまうっていう状況になっています。それが今嘉徳で起こっていることですね。本音が言えない、しがらみがあってね、という状況が少しでも変わっていけるような島にしていきたいと私は思っています。例えそれが移住者だろうが、I-TURNとかよそものと言われたとしても、どっちの意見も聞いた上で話し合って、何がこの集落の、この浜、この自然、この環境にとって良いものなのかっていうのを考えていけるようになったらいいなと。それが『未来の世代にふさわしい世界』なのではないでしょうか、と私は思っております」という言葉でシンポジウムの幕を開けた。

 

 

#savekatoku キャンペーンの中心人物である自然保護活動家のジョン・マーク高木さんと武久美さん、生物人類学者で北九州大学教授の竹川大介博士と共に、ジャーナリストの伊藤詩織さんもシンポジウムで登壇し、嘉徳を巡る問題についてディスカッションに参加した。

 

 

「私は今は映像ジャーナリストとして活動しているんですけれども、ちょうど2015年、6年前になりますね、それまでニューヨークの大学で勉強したり海外を回っていたんですね。日本に帰ってきた時に、性暴力の被害に遭いました。それが起きた時に、私は日本で育ってきたんですけど、例えば日本の性暴力の法律が110年間変わっていなかったことだったり、警察に行ったらすぐに被害届を受け取ってもらえて、話を聞いてもらえると思ったんですけど、受け取ってもらえなかったり。こういったことはよくあることだから無理ですって言われてしまったことに驚愕して、私が住んでいた社会ってこんなところだったのかと、自分の無知さとナイーブさにすごく怒りを覚えました。同時に自分の悪夢のような体験に向き合うのが苦しかったということもあって、当事者としてというよりは、ジャーナリストとして、どうしてこういったことが変わってこなかったのかっていうことにフォーカスを当てて、質問する側に向かってみたら、意外とこのケースに落ち着いて向き合うことができたんですよね。

 

 

そうしていくうちに、個人的に受けたただ1つの性暴力のケースから、今まで変わってこなかった法律の歴史だったりだとか、今までメディアの中でタブー視されてきた性暴力の話、そういった仕組みが段々色々な形から見えてきたんですよね。それって性暴力の話だけではなくて、日本全国、世界の中でも起きている色々なケースに当てはまることだったりするんですよね。例えば110年間変わってこなかった強姦罪、今は強制性行等罪という名前に変わりましたけど、まだまだ変わったといっても、私が被害を受けたのが2015年で、2017年に色々な方法を経てからやはりこれは公で話すしかないと思って、公で自分の被害について、誰にも言いたくなかった被害についてお話しすることにしたんですね。その後に色々な方の声が集まって、それまで色々な声が110年間上がってきたんだけど、やっと改正がされたんですけど、やはりまだその中身がまだまだ大きく変わっていない点があります。

 

 

ただ今回は性暴力の法律の話ではないのでそちらは飛ばさせていただくんですけれども、その時に感じたのがやはり今までなぜ話されてこなかったのか、こんなに日常的に起こっている被害なのに、どうしてみんな話したくなかったんだろうということですよね。今、この被害を受けてから6年、公でお話をしてから4年を振り返ると、なるほどな、と思うところがたくさんあります。

 

 

声を上げることは大変です。エネルギーをたくさん使います。それまで仲良くしていた人たちから連絡が来なくなったりしてしまいます。やっぱり変化を恐れる人って多いですね。もちろんみんな誰もが暴力を受けたくないと思うので、そこの点では共通の理解があるはずなのに、なかなかそれを声に出して、自分の意見として言うということがこの社会だと今まですごく難しいことだったんだろうなと、自分の身を持って感じました。そういったことを理解した上でお話をしたつもりですが、いまだにやはり日常的に、特にオンラインで起こってしまう誹謗中傷であったり。私はコミュニケーションの仕事なんですが、メールが開けないですね、今も。素晴らしいアシスタントを見つけたので、彼女にいつもメッセージとかメールを見てもらって。今回のコミュニケーションもアシスタントを通して、やっと行えたんですけど。色々と生活がしづらくなりました。日本社会でそれまで仕事をしていたように仕事をできなくなってしまって、私はその後ロンドンに移住、身を移して仕事をしていたんですけれども、今回たまたま日本であるドキュメンタリーの撮影があって帰ってきたところ、コロナの状況が悪化してしまって、ロンドンはロックダウンがあって、帰れなくなってしまって、今、たまたま日本に2年間住んでいます。私は正直日本は帰ってきたくない国だったんですね。誹謗中傷はほとんど日本語だったんですよね。同じ話を英語でしても、それが英語で誹謗中傷という形で返ってきたことがなかったんですよね。

 

 

その背景には色んな理由があると思うんですけど、1つ驚いたのがやっぱり、同じ女性から『同じ性別として恥ずかしい』っていう言葉が返ってきたりだとか、『ほんとに起こったことだとしてもそういうことは声を上げるべきことじゃない』っていう意見ももらったんですよね。それってどうしてだろうって考えた時に、色々とメールを読んでいると、同じような経験をしたことがほとんどあると思うんです。それはどんなレベルであっても。セクシュアルハラスメント、性暴力、色んな幅があると思います。パワーハラスメント、男性も被害を受けます。そういった時にそれまでただ、その方は声を上げることができない環境にいて、それを我慢して、歯を食いしばって生きてきて、なのに私はそのことについて声を上げているということに対しても苦しさを覚えたんじゃないかな、ということを感じました。

 

 

ただ1つ問題なのが、そこで『どうしてそう思うんですか?』って。大体こういうことってメールで来るんですけど、メールだったりSNSのメッセージだったり。やっぱり知りたいので、お返事をすると、ぜひご意見を伺わせていただきたいのでお時間をいただけませんか?メールでやりとりをさせていただきたいです、と伝えると、やっぱり返ってこないんですよね。そこでコミュニケーションがなかなか取れずにどうして意見が違う相手がそういった気持ちなんだろうということを知る機会がないままここまできてしまいました。

 

 

今回嘉徳で起きていることを伺っていると、現在19名、20名の小さな集落で、護岸を作ることに賛成、反対、そういった形で分断されてしまっていて、ある方は村を歩くことも怖くなってしまった。『コンクリートなんていらないけれども、私は賛成なの。』『それって反対ですよね?』って言うと、『やっぱり村八分になるのが嫌だから賛成なの』って。その声を上げられない状況に侵されてしまっている姿を見ていて、心が苦しくなりました。

 

 

私が生きていた日本社会はやっぱりもっと大きな単位だったので、ここで生きていけなくなったら、なんとか外で生きていこうと思っていたんですけど、ずっとこの集落で住んでいた方々はそうもいきませんよね。そういった中でこうった問題が起きた時に、じゃあどうしたらオープンなコミュニケーションを取れるのか、ほんとに色々なことを考えたんですけど、まずどういった意見があって、なぜそう思うのかっていうのを、パーソナリティーとしてではなく、一意見として見ることだと思うんですよね。

 

 

私たまたま日本の社会で生きづらくなって、高校生の時に海外だったら生きていけるかなと思って、たまたまボランティアでホームステイをさせてくれるところがあって、アメリカのカンザス州っていう、めちゃくちゃ保守的な、『日本って中国の中にあるんでしょ?』みたいなクラスメートの中に、ほんとに閉ざされたコミュニティーに入って一年間過ごしたことがあったんですね。その時に感じたのが、やはり外の情報がないと、わからないことがたくさんあるな、ということですよね。カンザスでね、ディスカッションの授業があったんですよ。1つの問題を持ち出して、それに対して賛成か反対か意見を言う。でもそれはどちらが間違っているか、そうではないかという議論ではなく、なぜ自分がそう思うかっていう議論を建設的に話していこうという授業だったんですよね。それがびっくりする1つのことで、今回これまで話してきたジェンダーバイオレンスの話でも、その話をすると私のキャラクター、人格までもが一緒になってしまって、君の言っている事は反対だから、君は嫌いだ、君には反対だ、誹謗中傷します、みたいな。私は批判と誹謗中傷は全く別物だと思うんですよね。批判っていうのは、やはり何かのトピックについてお互いに意見を交換する。批判はとても大事なものだと思うんです。でも誹謗中傷はその人の人格、尊厳を傷つけてしまう行為だと思うんですよね。なかなかそこが分けて話されないっていうことが日本で多い、どうしても一緒になってしまう、感情的になってしまう。でもこういった大きなトピックについてはそこを分けて語っていかないと、どうしても前には進めない。

 

 

それに対して何が必要なのかというと、今回3日、4日、聞いていただけでの話の中ですけど、それをきちんと聞いて、今竹川先生がおっしゃっていたような、まとめてくれるチーフ、大声を出して、そういった人はいそうな気がするんですよね、聞いていると。静かに全て一人一人の意見を聞いて、静かにそれを聞いて、大きな声を出さずにも、みんなが納得できなかったらこうなんだよって言ってくれる、もう1人のチーフの存在がいないんじゃないかなと。

 

 

私たちが今回急いでこのイベントを開いた理由の一つは、今月末にも工事が始まってしまうかもしれないっていうことを聞いて、急ぎ足でイベントをさせていただいたんだと思います。そういった中で、もう手遅れかもしれないと思っている方々もこの会場にも多いかと思うんです。けどきっと希望があるからここにいらっしゃる、もしくは違う意見があるからここに皆さん足を運んでくれたんじゃないかなと思うんですよね。なので私たちに、一人一人に何ができるのかというのが今日の宿題だと思います。私も今まで色々な裁判をしてきたので、民事法ではこうで、こういったことができるんじゃないかとか、個人的には言えるけれども、やはりここに住んでいた1人の人ではないので、私のできることは発信していくこと、この状況を、聞いたお話を届けていくことなんじゃないかなと思うんで、多分皆さん一人一人のできる何かしらのアクションがあると思います。

 

 

1つはやはり先ほどジョンさんが写真で見せていたように、コンクリート(ブロック)が建設されてしまっているんですよね。あの量のコンクリートってざっと1億程度はかかっていると思います。もう進んでいるから、後に引けないというのがあるんじゃないかと思います。じゃあそこをどうしようかというのが1つの解決策。そこに関わってきている工事の事業をしている方々にとっては命をつなげる大切な仕事になるわけですよね。じゃあその仕事をどうしたら継続して、違うことに向けられるのかっていうことだと思います。1つは今回のテーマになっている人権と環境っていうことがあると思うんですけど、やっぱりこのことが、どうして止まらないんだろう、どうしたら対話ができる場所が築けたはずなんだろうと思うと、やはり日本にはまだきちんと環境を守るであったり、本当の人権の法律が見当たらないんですよね。

 

 

私以前、2、3年前に欧州協議会(Europe Council)でお話をしたことがあって、ストラスブールっていうところに本拠地があって、大きな議場でお話しさせていただいたんで、それはジェンダーバイオレンスについてだったんですけど、EU協議会に入るには、もちろんEUの地理的なものもあるけれども、色んなルールがあるんです。その1番のルールは、きちんと人権を法律の元で守っている国、っていうことなんですよね。驚いたのが、そのイベントの後に、ディナーがあって、そこに日本の領事の方もいらっしゃったんですね。日本の領事が、『我々も、日本はオブザーバーとして参加してるんです』と教えてくれたんですよね。私日本に人権法なんてあるなんて思っていなかったからびっくりして、『日本にそんな法律ないですよね』って聞いたら、『いや、日本は憲法にそう書いてある』って言ったんですよね。いや〜びっくりしました。そうだった憲法に書いてありますよね、でも守っていますか?それがすごく問題だと思います。憲法に書いてある。アイディアはあるかもしれないけど、法律レベルで守られているのか。本当にそれが形として、言葉だけは掲げてあるけど、本当に私たちの生活の中できちんと守られているのか、本当に疑問が生まれる会話だったんですよね。

 

 

今回私たちが頼れる1つのツテはユネスコが制定しているルールであったり、そのことをツテに話せないか。やっぱり今回嘉徳のことについては色々なメディアが集中して、海外メディアは大きかったですね、ニューヨークタイムズのカヴァレージがあったり。東京新聞のカヴァレージがあったり。ただ、それだけでは足りないなというのが今回動きを見ていて感じました。なので、みなさん一人一人がリサーチャー、ジャーナリストになって、シティズンジャーナリストっていう言葉もあるので。SNSで色々な発信ができる時代になりました。なので、今まで聞いてきたこと、見てきたこと、その調査も、今回SAVE KATOKUの方々は色々な資料を集めておられます。彼らは決してこの全てのことにノーと言っているのではなくて、対話をしたい、それだけだと思うんです。やっぱり話し合って、お互いがハッピーに生きられる未来はどういった未来か、お互いがこの綺麗なビーチを、大好きなビーチを守るにはどういったことができるのかってことが大事だと思うんですけど。それをいかにできるのか、それが今日は皆さんの課題だと思います。

 

 

この後パネルディスカッションで色々お話ししていくと思うんですけれども、私もまだまだ今回このことに対して何が自分にできるのか、アクションとして、考えている途中です。でもまず第一歩は、こうやってみなさんの意見を聞きながら、この3日4日で見てきたことでは足りないかもしれないので、ぜひ教えてほしいです。なので今回会場の関係で9時に出ないといけないかもしれないんですけど、良かったら終わった後話しかけてください。ぜひ、体験だったり、思っていること、感じたこと、もしくはこういったアクションができるっていうことがあったら教えて下さい。そしてぜひ隣の方々ともシェアして下さい。何か方法は、会話ができる方法は、あるはずです。もちろん嘉徳の方々、つくりたい、財産であったりお墓を守りたい、その気持ちは尊重されるべきですよね。なのでそれがどうやったらできるのか、一緒に考えていけたらなと思います。私もまだまだ答えを見つけている最中なので、まとまらないお話しでしたが、きっとこの次のパネルディスカッションで色々な話が飛び交うと思うので、ぜひこの後の休憩後のパネルディスカッションでもよろしくお願いいたします。ありがとうございます。」

 

 

このシンポジウムから約2ヶ月経った今、嘉徳浜でのコンクリート護岸工事計画について協議の場は設けられておらず、今年2022年に入って、鹿児島県は一方的に工事を開始するための通達を住民達に対して行った。これを受けて、SNSで住民は現状を発信した。

 

 

「1/31、鹿児島県の職員が訪ねてきました。

 

工事用道路を色々と検討しまして、金久川の横の方から入るルートに決定しました。2月の中旬に工事を始める予定です。と告げられました。

 

金久川とは集落に入る手前の駐車場辺りで、嘉徳川と合流する川です。海を見て砂浜を右から左へと工事車両が進入することになります。

 

砂浜全体が工事現場になるのです。

 

納得が出来ず、2時間ほど抗議しましたが、まるで壁に向かって話しているような感じでした。

 

見直しと協議の場を求め要望書も出し、何度もお願いしている住民の声には耳を傾けるつもりはないのでしょうか?

 

海岸工学の専門家らが逆に災害を招くと警告をだしているにも関わらず、工事を強行するのはなぜでしょう?

 

そして、浜には看板が8箇所に設置されました。工作物や植栽等は工事の妨げになるので撤去してください。2/10までに撤去しなければ県が撤去を行います。という内容です。

 

前に県が設置した杭やロープは散乱したままです。浜はごみ捨て場じゃありません!

 

毎日ゴミ拾いをしている人がいます。
浜を楽しんでいる人がいます。
好きだから守りたいと思う人がいます。
この風景を心の拠り所にしている人がいます。
みんなの声を聞き、十分に検討することが公共事業の在り方ではないでしょうか。

 

お問い合わせ先

大島支庁瀬戸内事務所

○海岸管理に関する事項
総務課用地管理係 0997-72-2111

○工事に関する事項
建設課河川港湾係 0997-72-1231」

 

 

<関連リンク>

 

 

#savekatoku サイト

https://amamiworldheritage.org/petition/save-katoku-beach-jurassic-beach/ja

 

 

奄美の森と川と海岸を守る会 facebook /instagram ページ

https://www.facebook.com/katokuhama

https://www.instagram.com/katokujurassicbeach/

 

 

奄美大島・嘉徳浜弁護団 facebookページ/instagram ページ

https://www.facebook.com/jurassic.beach.katoku

https://www.instagram.com/katoku_lawyers/

プロデュース :蜂谷翔子
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