香港民主運動家の周庭さんが、2020年8月10日、香港当局によって国家安全維持法違反の容疑で逮捕された。
SNS上では世界中の人たちが#FreeAgnes というハッシュタグを使って彼女の解放を求めている。
警察や香港行政当局、そして中国共産党と向き合い、自由を訴え続けてきた周さんは、今年8月5日、香港西九龍裁判所によって有罪判決を受けていた。去年6月、警察本部を取り囲む抗議行動に参加したことなどが理由だった。警察や検察は集会は違法だと主張していた。
香港では今年7月1日から、中国共産党の決定により「香港国家安全維持法」が施行された。民主主義を訴える運動は「国家分裂」を扇動する行いだとして厳しく取り締まられるようになった。「外国勢力との結びつき」と当局が判断した場合はこの法律によって罰せられる。
民主運動だけではなく、海外メディアによる取材や報道も対象となるのか注目が集まっていた。中国共産党や香港当局による本格的な取り締まりが始まった。
私は、逮捕される前、今年5月に香港の周さんとskypeを結んで話を聞いた。日本人に伝えたいことがあるという周さんの言葉は一つ一つが重たい。
インタビューの模様を文字でもみなさんに共有する。
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堀:アグネスさんよろしくお願いします。
アグネス:よろしくお願いします。
堀:なかなかコロナで、海外メディアも現地に入るのが限られていて、特に日本のメディアも報道が少ないのかな?思っています。こういう混乱に乗じて中国の全人代でかなり厳しい法律を実行しようとしているのは、これは現地にいてアグネスさんどのように感じていますか?
アグネス:そうですね、今やっぱり私たち香港人にとって一番厳しいことというのは、やっぱり最近の国家安全法だと思っています。先日、北京政府、中国政府がこれから直接、香港に国家安全法を立法するということを発表しましたけれども、元々香港と中国の関係は一国二制度というものですね。いわゆる香港の政府には、独立した制度がある。司法制度とか、そして私たちも自分の立法会があったり、自分の政府があったりするのですけれども、でも今中国政府が直接国家安全法を香港に立法するということは、完全に一国二制度を破壊しようとしているんじゃないかなと思っています。これはとても危ないということは、これから中国政府がまた何か気に入らないことがあれば、また同じ手段で他の法律を立法することもできるので、この手段自体がまずはとても危ないです。そして今回の国家安全法は、私たち香港人の言論の自由とか、SNSの自由とか、そして高度な自治にもとても破壊力が高い法律なので。元々香港の法律では、立法会で審議されるというプロセスがあるのですけれども、今回立法会というものは完全に無視されている、そして香港政府というものも完全に無視されているということなので、これから国家安全法に向けて、街での闘いというか、反対運動がこれから強まるんじゃないかなと思っています。
堀:実際に香港の出身の友人などに聞くと、Facebookの発信だったりとか、色んな発信が監視されていく、これまでよりも厳しくなっていくと言っていて、逃亡犯条例の頃よりも、厳しい情勢だと聞きました。
アグネス:そうですね、国家安全法は、いわゆる国家安全というものの定義はとても広いものなんですね。中国にとって、例えば私たちのSNS上での発言とかも、国家安全法違反と言うことも可能ですし。中国政府が自分の定義で好きじゃない人を弾圧するということですね。だから例えば私たちが、私たちはよく、色んな国に行って国際的交流とかやったりするんですけども、そして去年アメリカの方も、香港人権民主法案という法案が可決されたんですけども、そういう国際的な交流とかも、これから法律違反になってしまうという可能性もとても高いです。香港の一般人とか、一般市民にとっても、例えば政府に反対する言論の自由とか、ネット上の自由とかも全部なくなるという可能性がとても高いです。最近ある香港の法律学者の発言によれば、国家安全という国家は、中国政府のことだけでなく香港政府ということも含めているので、香港政府に反対する、香港政府への反対運動とか、例えば「キャリー・ラム辞めろ」みたいなスローガンとかも違法になるという。ほんとにとってもおかしいというか、香港人にとってとても納得できないことだと思っています。
堀:去年もみなさんが声をあげて様々な抗議活動を続けましたが、それから約1年経って、当局の取り締まりや監視というのは変わりましたか?厳しくなりましたか?
アグネス:そうですね。今やっぱり香港の場合は監視とか盗聴とかも日常茶飯事になってしまって、私が香港の社会運動、民主化運動に参加して今もう8年目なんですけれども、ほんとに盗聴されていることとか、携帯の情報が安全じゃないこととか、そういうことに対してほんとにもう慣れちゃったというか、もうほんとになんか、普通のことではないんですけれども、香港で民主化運動に参加してきた私たちにとっては日常茶飯事になってしまって。そして今警察側の権力もとんでもない、その、強くなっていて、警察側はなんでもできますし、ネット上の発言に対して人を逮捕することとかも、ほんとに何回も何回もありました。だから今の香港もかなり厳しい状況の中で、また国家安全法を加えるということは、ほんとにとても危ないですね。
堀:アグネスさん自身も本当だったら日本に来て講演をしたりとか、イベントに参加したりとか…。でもなかなか、コロナ前でしたけれども、国外に出ることも制限されているんですよね?
アグネス:そうですね、私は去年逮捕されて、保釈条件の1つとしては出国できないということなんですけれども。だからそういう手段をよく使いますね政府側が。国際的な交流を止める為に好きじゃない人を逮捕して、そして保釈条件というものが必ずあるというか、ある可能性が高いので、だから結局私たちは出国できないということになってしまいました。でも今回の国家安全法は違って、香港政府というよりは中国政府が執行するという可能性の方が高いので、だから例えばこれから私たちが海外に行けるとしても、海外から香港に帰ってすぐ空港で逮捕されるという可能性もあるし。そして今私が所属している政治団体デモシストも活動禁止とされる可能性も高いです。だから香港民主化運動にとって、そして香港人の基本的な自由、人権、政治権利にとっても、私たちは納得いかない法律です。そして香港だけではなくですね、外国、例えば日本とか欧米の社会にとっても良くないことだと思っています。やっぱり香港の良さというものは、一国二制度や独立した司法制度というのは香港の良さなんですけれども、でも今中国政府は、今の国家安全法も、去年の逃亡犯条例改正案も、香港の良さを破壊する法律なので、だから中国はずっと香港の良さを破壊しようとしていますね。これは政治的な権利とか政治的な自由ということだけではなくて、経済的な自由も含めて中国は香港をコントロールしようとしています。だからこれは外国、香港と経済的繋がりがある外国の企業や政府にとっても良くないことだと思っています。
堀:先日、香港警察だった若者達に話を聞きました。彼らは自分たちの良心に従って、暴力は振るいたくないということで、退職した警察官たちでしたけれども、やっぱり香港警察の中にも法律を守らせるのは当たり前だと言って、デモを弾圧したりだとか、政府の姿勢を支持したりする声もあるようですけれども、なぜ客観的に見るとこんなにひどいことができるんだろうかと、悲しんでいますし驚いていますが、彼らはなぜ中国の方針に従ってしまうんでしょうか?
アグネス:私にとって元々警察というものは、政府の政治的な道具ですね。だから政府は警察を利用して自分の盾にしているんじゃないかなとか、そう思っていますね。同じ香港人なのになぜ香港人にそんなひどいことをするのですか?ということよりは、同じ香港人であるということではなくですね、警察は香港の公務員の中でもかなり給料が高いし、だから警察側、一回警察をやっている人はもう、香港人を守るという意識よりは、政府に服従してちゃんと…
堀:暮らしを守ると?自分の?
アグネス:自分を守るということなんですね。だから警察にとって私たちデモ隊だけでなく、例えばメディアの皆さんも、警察にとっては敵なんですね。だからデモの現場でも、香港の警察はよくメディアに対して暴力を使ったり、武器を使ったり、催涙弾を発砲したりすることとかもたくさんありました。私にとってもう香港の警察は自分のことをコントロールできないという、ほんとうにひどい段階になってしまって…。一番皮肉的なのは、元々警察は法律を守る存在なんですけれども、でも今1番法律を守っていない、そして市民を守っていないということ。市民を守っている側というよりは、市民を攻撃する側になってしまったというのは、本当に1番皮肉的だと思っています。
堀:キャリー・ラム行政長官はなぜここまで中国の習金平氏や中国共産党の方針に従うのか?
アグネス:そうですね。香港の政府官僚は中国に服従しないという選択はないです。元々香港のシステムは一国二制度なんですけれども、でも中国政府の元で香港の行政長官…あの、香港では行政長官の普通選挙がない、いわゆる香港の行政長官は、香港市民に選ばれた存在というよりは、中国政府に選ばれた存在です。だから香港政府、そして香港の行政長官は、服従しないというよりかは、服従しない選択もないし、自分の利益のために必ず服従します。これも香港の根本的な問題の1つですね。いわゆる一国二制度があるんですけれども、でも政府は結局中国に選ばれたものですから、中国の方針にも従わないといけないし、香港市民のために政府をやっているというよりは、中国政府に服従するためにやっているということですね。
堀:日本も習金平氏を国賓として日本政府が迎える準備をしていて、香港の今は日本の未来だというか、あっという間に経済力に呑み込まれてしまって、日本人の人権だって将来どうなるのかっていう危機感を僕は感じています。ただなかなか日本政府や日本の政治家の動きが鈍くて、香港で起きていることに対して、きちんと法律をつくって抗議の声を上げたりすることができていないんですよね。アグネスさんは日本に対して色んな呼びかけも続けてこられましたけれども、今1番何を求めていますか?
アグネス:そうですね。もちろん日本と中国、日本と香港との経済的交流というか、経済的な往来はもちろんとても重要だと思っていますが、日本は元々民主的な国、民主主義のある国としては、経済的な利益だけではなくてですね、政治的な権利や自由や人権みたいな価値観をちゃんと守るという責任も持っていると思います。今私は国家安全法に対して、たくさんの国、たくさんの政府が声を上げました。例えばアメリカ政府、イギリス政府、カナダ政府、そしてオーストラリア政府とかも声明を出して懸念や反対の声を上げました。だから日本も、アジアの中の民主主義のある国としては、日本の皆さんも、日本の政治家の皆様も、香港で起きていること、そして中国の人権状況に対して、もっと関心を持っていただけたらと思っています。
堀:28日には全人代の採決が控えていますよね。このまま採決されていくと、香港の皆さんの暮らしが制約を受けると思います。実際にデモの最前線で抗議をしてきた若者達も逮捕者が相次いで、ずいぶん抗議の声、闘う力が劣ってしまっているのではないかなと思いますけれども、国内での抗議の声を上げ続けられそうですか?
アグネス:そうですね。香港人は必ず街で闘い続けられると思っていますね。香港では日本とか他の民主主義のある国と違って、私には民主主義はないんです。いわゆる、私たちは選挙を通して声を上げるということができない。できるとしても力が少ない、小さいということなんですね。だから私たちは必ず街に出て、直接的な社会運動を通して自分の声を上げないといけないと思っています。だから先週日曜日に、たくさんの香港人がまた街に出てデモをしましたけれども、多分これからの数ヶ月間も、そういうデモ活動がたくさんあるでしょう。
堀:実際に将来の香港には希望がないと感じた人達が、台湾や国外に出る動きも加速していると聞きます。こういう現状についてはアグネスさんはどう思いますか?アグネスさん自身はなぜ香港に留まって声を上げ続けるのか、理由を聞かせてください。
アグネス:国家安全法があれば確かに香港は終わりだ、一国二制度も終わりなんだと、みんなも思っています。私も思っています。元々香港の、さっきも言ったんですけれども、元々香港の良さは一国二制度とか高度な自治なんですけれども、それは私たちは自分の独立した制度があるというのも香港の良さなんですけれども、でもそういう良さもどんどんどんどん破壊されていってしまうということはとても残念というか、香港人にとっての自分の家を守りたいのに、なぜ自分の家がますます悪くなっているのかって、正直とても悲しいです。国家安全法が発表された日に、私は香港のGoogleの検索のランキングで、「移民」という言葉が1番高いんですよ。いわゆるあの日のGoogleのデータによれば、国家安全法を検索した人達の中の99%は同時に「移民」という言葉を検索しました。だから香港人にとってあの絶望感はとんでもないですし、移民を考えている香港人もたくさんいます。私たちみたいな、香港人にとってはとても悲しいですね。だから引き続き自分の力で自分の家を守らないといけないという、香港人としての責任感があります。ほんとに香港が香港であるために闘わないといけないなって、すごく感じられました。
堀:今世界中が、特にアメリカやヨーロッパでも経済がどんどん悪くなっていますよね。メインランドは活動を再開させていて、経済活動を進めていく上では、中国の経済のエンジンっていうのが世界中でさらに求められてくる可能性がありますよね。そういったこう経済と人権と、もしくは自分たちのアイデンティティーを守るというのが天秤にかけられた時に、中国の経済に大きく呑み込まれていってしまうのではないかっていう心配があります。
アグネス:そうですね。もちろん経済的な利益や往来はとても重要だと思っていますが、私にとって人権や自由、そして政治的な権利というものは、人の尊厳というものですね…いわゆる、人の命ですね。だから、私たちみたいに、香港で政治活動をやっている人、そして香港で民主化運動に参加してきた人たち、香港で去年も200万人のデモがありましたけれども、だから香港人にとってそういう自分の人権や自由、政治的な権利を守らないと、これは人権侵害だけではなく、命の危険にもなるかもしれません。だから私たちも自分を守るために、自分の家を守るために、そして自分の次の世代の人達を守るために、ちゃんと闘わないといけないなと思っています。確かに経済的な往来とかは重要なんですけれども、でも自由とか権利とかはほんとに空気みたいなものですね。存在している間は誰も重要さを感じられないんですけれども、でもどんどんどんどん無くしている時には、危機感がすごく感じられるというか、そういう空気みたいなものなので。多分日本人にとっては、そういう権利とか、民主主義とか、自由とかは本当に当たり前のようなものなんですけれども、それは幸せなことだと思っています。私たちの香港の経験を見れば、そういう政治的な権利を持っていることがどれぐらい幸せなのかってほんとに理解していただきたいなと思っています。ほんとにこれからも香港の民主化運動を見守っていただければ、そして応援していただければと思っています。
堀:最後に1問だけ。1番心配なのは、中国当局や香港当局からの圧力が強くなればなるほど、声を上げて対抗するためには、相当がんばんなきゃいけなくなってきますよね。シリアのように内戦に発展したりとか、より攻撃を強めなくてはいけなくなってしまうような未来があるのか、すごく心配しています。今後圧力が強くなればなるほど、みなさんはどうやって抗議をしていくのか、展望を聞かせて下さい。
アグネス:そうですね。これから国家安全法があれば、街でもデモ活動だけではなく、普通の言論とか、それからネット上の言葉とかも犯罪となるという可能性が高いですから…そうですね、でも、闘わないといけないし、実は去年からもたくさんの人が逮捕されて、そして長い間収監された人とかもたくさんいます。最近ある人、あるデモの参加者が4年の収監をされましたので、やっぱりこういう人たちが、長い間収監される人たちが、次々続々増えると思っています。国家安全法があれば…国家安全法によれば、中国政府は直接香港で自分の機関、自分の部門を設立することができるので、だからこれから香港警察が法律を執行するのではなく、中国の政府の警察とか、中国政府の人達が直接法律を執行するという可能性もあるので、とても怖いことです正直。でも私たちが闘わないと香港はもっと怖い場所になるので、本当に私たちにとって選択がないというか、闘うしかないという感じですね。
堀:アグネスさんがこの先また逮捕されたりとか、そして長い勾留期間を経たりするということが起きるのが心配です。それでも声を上げ続けますか?
アグネス:そうですね…香港が香港であるために闘わないといけないので、これからも民主化運動に参加してがんばりたいと思います。
堀:ありがとうございました。インタビュー終わりです。
アグネス:ありがとうございました。
(聞き手:堀潤、書き起こし:蜂谷翔子)