スペイン発の話題の映画「だれもが愛しいチャンピオン」が今月27日から国内で封切りされる。
2018年のスペインにおいて国内映画の興行収入1位となる大ヒットを記録し、アメリカ・アカデミー賞のスペイン代表に選出。さらには、スペインのアカデミー賞と呼ばれるゴヤ賞で11部門ノミネートを果たし、作品賞、新人男優賞、オリジナル歌曲賞の3部門を受賞した。
出会うはずのなかったプロリーグのバスケットボール・コーチと知的障害というハンディキャップを抱えるチーム”アミーゴス”との奮闘、そして絆を描く。
チームのメンバー役に起用されたのは、演技は初めてという10名。600名の中から選ばれた。黒縁メガネがトレードマークのマリンに扮したヘスス・ビダルは、障害者として初めて、ゴヤ賞(新人男優賞)に輝き、授賞式での感動的なスピーチが話題になった。
映画公開前に来日した、ハビエル・フェセル監督に、映画の舞台裏、そして多様性と分断をテーマに単独インタビューで話しを聞いた。
Q
初めて演技に取り組むという俳優たちとのチャレンジでした。魅力をどこに感じましたか?
A
この映画のためにキャスティングの時に3ヶ月間かけて、知的障害者の方の世界というのを深くみさせてもらいました。600人をオーディションする中で、どの組み合わせでも素晴らしい映画になるなと確信していました。最終的にこの10人を選んで、本能的にユーモアと優しさ、この二つの柱で語ることができる人選ができたと思います。
この映画は他の物語主導の映画や視覚主導の映画ではなく、人物主導の映画だったので受け入れられたんだと思います。それと一人一人が演じているというよりも、本当に自分自身のありのままを出してくれたことから、いろいろな人たちの共感を得られたと思います。その共感がまた普遍的なものになっていったと思っています。頭よりも感情から醸し出されるアイデアをみんなが出してくれたから力が集まったんだと思います。
例えばアドベンチャー映画というのは、普通の人が旅をする時に、普通ではないことが起こります。この映画ではみんなが普通ではないと思っている人たちが、普通の生活、普通のことを起こすという内容なんです。
Q
多様性を知るということは、違いを知るということ。しかし、一方で違いを知ることによって他者を遠ざけたり、関わりを持たなくなったりと、ジレンマもあります。どう乗り越えるべきでしょうか。
A
いま言われたことに非常に同意します。何故かというと、今の社会というのは分類しないと気が済まない社会だからです。そうした中で、彼らが「障害者」と呼ばれると、一つのことができないだけなのに他のことも全部できないというイメージ、分類をされてしまうわけですよね。それは社会がつけるラベリングというのは不正確だし、不正だと思います。ですから、他の能力があるのにそれを認めない社会になってしまっている。わたしはこの映画を皆さんが思うような「人間は皆同じだ」という視点で撮り始めましたが、この映画の撮影が終わった頃には、「人間は驚くべくほど皆違うというところに落ち着きました。
Q
メディアの伝え方によって印象も変わります。分断をうまないために、どのような情報発信が求められるのでしょうか?
A
わたしにとっては今のメディアの間違えというのは、一つのヘッドラインにニュースを集約して読者がそれをわかった気になってしまうところだと思います。わたしの中ではヘッドラインを読むことで、情報を逃してしまうと思うのです。それは例えば、新聞とかメディアによっては全く逆のヘッドラインがあったとしても気がつかない。
わたしが求めるのは、ニュースのもっと深い部分、背景であったり、対立する意見の双方の考え方をじっくり知ることができるものであったり。それを見たり読んだりした人が自分たちで判断する。一方的に決めつけられたものを読んでしまうと、偏った考えに凝り固まってしまいます。
もう一つはメディアはどちらかというと悲劇が好き。
社会の中で伝えようとしている物語は大半が悲劇。せっかく社会の中で良いことが起こっていたり、社会的な英雄が出ていたりするのに、なかなか取り上げてくれないことが多い。悲劇を中心にしたメディアが多いという印象です。
Q
人々の無関心との向き合い方に課題を感じています。無関心の壁を破るためには何が必要でしょうか?
A
無関心の壁を破るための、一番主な敵とは、恐れだと思います、知らないものや自分と違うものに対する恐れ。それに自分がどう対処して良いのかわからないとか、自分が好かれないとか、自分が嫌われるとか、知らないからこそ思ってしまう。知らないものを知る経験というのが、豊かな人生になる。しかし、実際私たちは、口では違うものを知ろうと言いながら、普通の生活ではいつも同じものを食べ、昔から好きな音楽を聴き、旅行に行っても同じものを探してしまう。そういう矛盾が一番の敵だと思っています。
ですから、無関心の一番の薬は、映画だと思っています。自分ではない他人の立場に立ってその人と同じ経験ができるので、その人が苦しんでいることが自分だとしたら対話することも可能だと思いますので、映画は非常に力強い役割を果たせると思います。
Q
日本の視聴者の皆さんにメッセージを。
A
わたしは観客として、笑って泣ける映画というのが好きなのですけれども、なかなかそれが少なくなってきました。今回は誰もが愛しいチャンピオンを見ていただいて、きっと笑って泣いていただけると思います。 映画の公開は、今月27日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国公開となる。