2019/11/17 国際
《香港デモ》高円寺にて、国家暴力に耐える香港との小さな国際連帯アクション

2019/11/16 -東京、高円寺

 

朝、コーヒーを買うために何気なくコンビニに入り、透明な自動ドアの入り口の側にある新聞コーナーに目をやり、新聞各社のヘッドラインに何が印刷されているか見る。民主化デモの続く香港で、デモに参加していた高校生が警察に至近距離から実弾で胸を撃たれた。それがその朝のニュースだった。温かいコーヒーを手にコンビニを出た。中国建国70周年の10月1日。食欲のわかない朝だった。人が人に銃を向け、引き金を引く。人々の税金で生活しているであろう警察官が、自由のために路上に出ていた高校生を撃つ。私は実弾を発砲した警察官が、免職になるとか、何らかの処分を受けるだろうと思っていた。だけど、後で入ってきたニュースは、撃たれた高校生の方が起訴されたというニュースだった。その日の夜には、発砲の瞬間をスローモーションにした映像がネットに流れていた。日本で知り合い、中国本土に住んでいる友人も事件のことを知っていて、久しぶりにメッセージが来た。「香港警察はひどく暴力的だ。今の自分の仕事には嫌気が差している、赤ワインを飲んでなんとかしている。良い闘いを続けよう」と友人は言った。

 

 

他の人達の人生と同じように、私の人生も忙しかった。私は自分の人生で自分のやるべきことを続けていた。香港でデモが続いていることも、その闘いが自由や自治や民主主義のような人間の尊厳と直結したものをかけた闘いであることも、中国当局の影響下にある香港警察による弾圧が確実に強まっていることも気にかけながら、日常を続けた。香港の友人は、たくさんの人が香港のことを気にかけてくれていて、とても感動していると言った。だけど問題は、政府を支持する人もまだ多くいることだとも言った。

 

 

次に私の注意を強く惹いたニュースは、大紀元|EPOC TIMESというメディアの記事で、「逮捕された16歳の少女、香港警察に集団レイプされ中絶手術受ける=香港メディア」というものだった。11月11日。

 

 

香港の状態は、警察が人を撃ち、レイプすることが権力によって擁護される状態にまで達していた。人を殺すことが英雄行為となる、戦争のような状態だった。

 

 

ネットには国際連帯を求めるメッセージがあがっていた。

 

 

「ヘルプ!緊急事態!

海外の友人たちへ。私たちの子どもを助けてください。あなたの大使館に、友人に電話して、香港警察が催涙弾やゴム弾を香港の大学構内で発砲しています。Chinese Universityで交渉が決裂した後は、大学の学長までもが撃たれています。留学生も含めた学生たちが極めて危険な状況に置かれています。60人以上の学生が撃たれ、今も数は増え続けています。

大使館に電話し、今行動を起こしてください。今夜にも、天安門事件が繰り返されるのを防がなければいけません。」

 

 

11月12日に投稿されたこのメッセージには、暗闇の中に立ちこめる白煙とそれを赤く染める炎の中、雨傘や黒い旗や盾を手にした人々の黒いシルエットの映った写真が1枚添えられていた。

 

私のアメリカでの大学時代の教授の1人は中国出身で、天安門事件を近くで経験した人だった。彼女は何度か血なまぐさい天安門事件について、窓の外は大抵いつも晴天のカリフォルニアの気持ちの良い大学のキャンパスの一室で語っていた。中国本土で行われている情報統制のことや、中国本土では人権(ヒューマンライツ)という言葉がNGワードであり、”50 Cent Army”というものが存在し、監視の目が張り巡らされているということも彼女のクラスで教わった。「じゃあ、例えばアメリカで人権や民主主義について学んで、中国の情報統制の外の世界のことを学んだ中国の人達は、中国に戻った後にどうするんですか?」と私はクラスで質問した。それに対するクラスメートや教授の答えが何だったかは覚えていない。

 

 

英語でメインランドチャイナと呼ばれるエリアの外にある台湾と香港が、とても勇敢で高い理想を持った人々のいる場所だと知ったのは、2014年の春の台湾の太陽花学運と、同年の秋に起きた香港の雨傘革命の取材に行ってからだった。取材に行かせてくれたのは、2011年の原発事故後にNHKのアナウンサーを辞め、マスコミやメディア人だけでなく市民の伝える力を高めるための活動を独自に始め、TOKYO MXのモーニングCROSSで司会をつとめ、ジャーナリストとして活動している掘潤さんだった。

 

 

日本と同じアジアにある台湾と香港は、選挙にもろくに行かず、自由や民主主義や人権の価値を理解する人が少ないと感じる要素の多い日本とはかなり違っていた。民主主義も人権も信仰の自由も否定し、中国共産党的でないものを積極的に弾圧する中国という大国の一部でありながらも、高いレベルの自治を守ろうとする台湾と香港は、とてもアジア的でありながら西洋的で、リベラルで知的で先進的な人々のいる場所だった。若者の政治参加も活発で、英語を話せる人も多く、取材の時に言葉で困ることはなかった。

 

 

そして雨傘革命から5年経った今、今度は掘さんが香港の闘いの前線に行って取材をしている。

 

 

堀さんは現地で取材をしながらツイートしていた。

 

 

11月12日「30分前の映像。香港、中文大学。放水車を投入。水色の水は肌に触れると激しい痛み。 #中大 2158 中大水炮車向人群射藍色水劑 #StandwithHK #StandwithHonKong #savetheHongKong

 

 

11月13日「中文大学に到着。途中、徒歩で約1時間。今夜の最前線の一つは第一橋。バリケードづくりが進んでいる。学生達に撮影の許可をとりながら挨拶をすると、みんな日本語で挨拶をしてくれる。この子たちが最前線で武装警察と向き合う。胸が苦しい。#StandWithHongKong #standwithHK

 

 

11月14日「こんなに夜景が綺麗な香港なのに戦闘の最前線だなんて。これ以上壊れないようなんとかみんなで声もあげたいし知恵を出したい。国際社会は人権を大切にしてほしい。泣きながら昨日の写真を整理してる。若者が暴徒化してるんじゃない。警察が暴力化している。若者達の様子、映像編集急ぐ。#StandwithHK

 

 

たくさんのジャーナリストも香港で闘っている。真実を伝えて権力と闘うことは、ジャーナリストの大切な使命の1つでもある。

 

 

そして香港で非人道的な状態が続く中、台湾はどうするのだろうか、とふと頭に浮かんだ矢先に、台湾の総統の蔡英文は国際社会に向けて、英語と中国語と日本語で声明を発表した。11月12日に、香港中文大学で香港警察とデモ隊の衝突が起こった後のことだった。

 

 

「かつて台湾を襲った白色テロの時代には、学生が大学構内に踏み込んだ軍や警察に拘束され、自由を奪われました。これはわれわれにとって悲痛な記憶であり、二度と繰り返してはなりません。

昨夜の香港では、警官隊が大学構内に突入し、デモの学生達を鎮圧しました。闇夜に包まれたキャンパスに炎が上がり、催涙弾が飛び交いました。台湾がようやく抜け出した暗闇に、香港は足を踏み入れてしまいました。

警察は人々を守るため、政府は人々に奉仕するために存在します。警察が人々を守らなくなり、政府が人々のためにという考えをやめた時、必ずや人々の信頼を失うでしょう。

私は沈痛な気持ちで、ここで踏みとどまるよう香港政府に呼びかけます。人々の心の声に、暴力で応えるべきではありません。北京当局の機嫌を取るために、香港の若者たちを犠牲にするべきではありません。

香港の自由と法治が、権威主義によってむしばまれています。権威主義の膨張に抵抗し、その最前線にいる台湾は、国際社会に呼び掛けます。自由と民主主義を信じる皆さん、共に立ち上がり、混乱する香港の情勢に関心を寄せましょう。

蔡英文」

 

 

私自身も、小さくてもそろそろ日常の中で何かしなければと感じ始めていた。そして香港との国際連帯を呼びかける投稿を友人がSNSでシェアしているのを目にした。

 

 

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[緊急香港連帯行動]
SOS Hong Kong, 香港を救援して!

また銃撃。もう警察が大学も攻撃。民主主義のために血を流している香港の若者たちを助けましょう。一緒に戦いましょう。

今の香港の警察の暴力は個人の逸脱の問題ではなく、国家の体制を強制し統制を強化しようとする計画的な戦略です。

人間はだれでも自分の運命を自分が決定する権利を持っています。その権利を国家暴力で破壊するのは許せません。それで私たち、香港に連帯するアジアの仲間たちは、今週の土曜日、連帯行動で戦う香港の友達に力を加えたいです。

香港の自由と平和、自治のために
どうか一緒に集まりましょう。

📌日時 : 2019年11月16日(土) 18:00〜20:00(予定)
📌場所 : 高円寺駅 北口広場
📌ドレスコード : 黒、マスク
📌プラカードやバナー持参歓迎
📌共同行動 : アピール、犠牲者追悼黙祷、「Glory to Hong Kong」を歌うなど。

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私は久しぶりに路上のデモに出かけることにした。撃たれた男の子達のために、レイプされた女の子達のために、闘いの中で視力や命を失ってしまった人達のために、自由のために、自分のために、世界のために。

 

 

11月16日、ようやく少し寒くなり始めた11月の夕方6時頃、ドレスコードの黒い服とマスク姿の人々が、香港との国際連帯アクションをするために高円寺駅前の北口広場に集まった。この小さな集まりを呼びかけたのは、韓国の女の子だった。普段は韓国のソウルで毎週香港との国際連帯アクションをしているけれど、東京でもやりたいと思い彼女は呼びかけをした。

 

 

黒い服とマスクは、自由のために闘っている香港の市民たちがデモに出かけるときによく身につける服装。今回のドレスコードにはなかったけれど、雨傘も香港デモのシンボリックなアイテムの1つで、催涙弾を防いだり、日中路上で活動する時に日傘になったりと、色々と役に立つ。私はついでに、雨傘革命の取材中に現地でデモの参加者に無料で配られていたゴーグルを首にかけていった。これも催涙弾対策。

 

 

広場に集まった人々はマイクをまわして、自分が香港で見たことや経験したこと、日本で考えたことや懸念していることや、自由の大切さや権力暴力の危険性について話した。

 

 

参加者の1人は、顔認証のテクノロジーが進んだ現代での「ハイテクファシズム」について話した。この参加者は香港に行った時に、デモの現場で写真を撮っていると、現地の若者に広東語でこっぴどく怒られた。広東語がわからないと伝えると、相手は英語で説明をした。香港デモでは逮捕者が多く出ているので、参加者を特定されて逮捕に繋がってしまうことを避けるために、顔を隠すことが重要になっている。ネットにアップされたデモの写真も例外ではないのだと香港の若者は話した。

 

 

この参加者は、今まで日本で中国政府批判をすることは、中国を仮想敵国に想定することによって日本においての国家主義と軍国主義的な動きを強めている安倍政権を後押ししてしまうことになるかもしれないと懸念し避けていた。だけど結局は中国政府のしていることを見過ごすことはできない。そして、香港デモの参加者も、リベラルな思想を持つ人々だけではなく、右翼的な人々もいる。だけど今は、中国政府から攻撃を加えられている香港の自由と民主主義を守るという1つの目的の元に香港人はまとまることができているようだ、と話した。

 

 

また別の参加者は、多用されている催涙弾の煙を吸った時に体に起こる激しい呼吸困難のような症状について話した。

 

 

香港では、人々に対して期限の切れた催涙弾も大量に使われている疑いがあり、現地のメディアが取材をしている。Non Lethal Technologiesという、催涙弾のような軍や警察が使う製品を製造しているアメリカの会社は、香港警察に売った催涙弾の使用期限については無回答。香港警察も無回答だった。

 

 

催涙弾のガスに含まれる化学物質は、アレルギーや喘息を引き起こしたり、肌についた場合水ぶくれを引き起こすこともあるので、デモの参加者はマスクやゴーグルをし、サランラップを体に巻いている人もいる。

 

 

催涙弾と人道問題をめぐるニュースでは、 アメリカのニューヨークで、催涙弾などを製造しているSafalilandのCEOニューヨークのワレン・カンダース氏が、ホイットニーミュージアムの理事を辞任することになるという出来事があった。現地で活動していた活動家の人たちが辞任を求めてミュージアムの中と外で非暴力プロテストをした結果だった。アメリカの活動家の人たちは、ミズーリ川など大切な水資源のあるネイティヴアメリカンのスー族の土地でのオイルのパイプライン計画に反対する人たちや、ファーガソン、パレスチナの人たち、アメリカとメキシコ国境エリアで亡命を求めている人たちに対してSafalilandの催涙弾が使用されたと主張していた。今年8月にアメリカの独立メディアDemocracy Nowで報道されたニュースだった。

 

 

そして11月、高円寺、この日人々は、あくまでも自由と民主主義、そして命をかけて闘っている香港の人々と連帯するために広場に集まっていた。人々を弾圧しているのがアメリカでも日本でも中国でも、国家という存在がその国に生きる人々の自由や生命をむしばもうとするときは、立ち上がって闘おうとする人々だった。

 

 

広場に集まった人々は、国際連帯アクションの最後に、うろ覚えの “Glory to Hong Kong” を、カタカナのふられた広東語の歌詞カードを見ながら唄った。歌詞は、「緊急開催!もうたくさんだ!米軍ヘリ墜落!高江住民トークナイト!2017年11月28日(火)」と書かれたチラシの裏紙に印刷されていた。

<日本語訳>

「なぜ涙、溢れ

なぜ怒りが湧く

顔を挙げ、叫べ!香港

自由よ舞い戻れ

なぜ恐怖消えぬ

なぜ信じてやまぬ

なぜ傷ついても進む

自由なる香港

星の見えぬ夜に

霧に角笛がひ!び!く!

自由の為、集え戦え

勇気、叡智、永遠に

夜明けだ!われらが香港

正義の革命を今

民主と自由、永遠にあれ

栄光あれ香港」

 

 

私は夜8時頃に広場を抜けて、また自分の日常に戻っていった。

プロデュース :蜂谷翔子
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