北朝鮮が今回「体制の安全が保証されるならそもそも核武装は必要ない」と表明したのは、一貫した態度でまったくなにも変わっておらず、驚くことはなにもない。そもそも「朝鮮半島の非核化」については、金正日時代から北朝鮮は反対していない。むしろ金正恩に代替わりしてからは、この「非核化」こそが究極の目標だった。ただしあくまで「朝鮮半島の非核化」、日本で思われているような「北朝鮮の核放棄」では済まない。安倍政権はこの二つに大きな違いがあることを誤摩化し、国民を騙し続けているが、そろそろその無理も利かなくなって来たようだ。
韓国大統領の特使の平壌訪問とその後の流れを、日本では政府もメディアも「意外だ」「予想外」と慌てふためき、報道にはこれまでの予想が誤っていた言い訳が溢れ返っているが、本サイトの一連の北朝鮮関連記事に目を通して来られた読者にとってはほぼ想定の範囲内だろう。韓国と北朝鮮の双方が危機的状況をまず早急に解消して出来る限りその状態を維持したいという双方の国益で一致していることを強く伺わせつつ、内容は極めて常識的だし、ホワイトハウス内では強硬派も一定の発言力を持ってはいるものの、トランプ自身は金正恩との直談判について乗り気であることも、本サイトではこれまで指摘して来た。
というより、合理的で現実的な落とし所が最初から見えていた以上、むしろこうなって当たり前といえば当たり前だった。そこでトランプが即答したのも、ホワイトハウス内の強硬派や日本政府からの反対意見や妨害が入る前に韓国特使に言ってしまえば、覆せない決定になるのを計算してだろう。
対話が続くあいだは北朝鮮が核実験もミサイル実験もやらないと合意したのは、どちらの実験も実行してしまえば隠せるわけもなく、交渉決裂と戦争勃発の覚悟なしには出来るわけがないのだから最初から分かりきった話だし、これも以前の記事で書いた通りだ。
この文脈で4月末の南北首脳会談で合意したことを見れば、すでに平昌パラリンピックが終わるまではなにもしないと決まっていたのを、さらにひと月延長するという効果に真っ先に気付く。韓国にとって今肝心なのは首脳会談をやること(それまでは挑発の応酬のエスカレーションや軍事的衝突は確実に回避できること)であって、首脳会談に期待される成果ではない。というより、南北で会えば建前では将来的な統一を謳わなければならないのもあくまで「建前」に過ぎず、現実的には「対話のための対話」を続けるあいだはアメリカも「斬首作戦」にせよ「鼻血作戦」にせよ軍事行動に走れないので韓国の安全が確保できることこそが、韓国にとって当面は最重要の国益なのだ。さらに米朝首脳会談まで日程に上げられたのは、そのこと自体が韓国にとってはある種の外交的勝利になる。
確かに、金正恩が米韓合同軍事演習について「従来の規模で行う限りは理解する」とまで踏み込んで合意した点は、さすがに本サイトの前記事の予測すら越えている。そこまで決定的な、アメリカを対話に引き込める(トランプが政権内の反対論を抑えられる)カードを、韓国が北朝鮮に切らせることに成功したのはたいしたものだ。
だがこれとて、北朝鮮にとってはあくまで「例年の規模」という条件つきである。つまり過剰に挑発刺激したり、とりわけ「斬首作戦」や「鼻血作戦」(核施設をピンポイントで先制攻撃すれば金正恩は黙るというホワイトハウス内で本気で検討されている無茶苦茶に荒唐無稽な計画)のカムフラージュに使ったりしない限りは、という制約がちゃんと含まれているのだ。北としては分かり易く韓国と、とりわけアメリカの顔を立てて余裕のあるところを見せながら、軍事行動や挑発は出来ないようにしっかり釘を刺し、北朝鮮の安全が損なわれない保証をちゃんと担保している。しかも例年どおりなら4月開催、つまりその後で南北首脳会談が行われる流れだ。
さすがのアメリカもこれでは断ったり騙したりできないところまでは分かっていたが、ホワイトハウスの全体はともかく(極端な強硬派が多い)、ドナルド・トランプもこの合意の意味を理解したのだろう。日本にとって最大の青天の霹靂だろうが、トランプはあっさりと(というか狙って、計算づくで)米朝首脳会談の話に乗った。
北朝鮮がこれまで「非核化は議論しない」と言って来たのはあくまで韓国に対してだ。アメリカとの核削減ないし核放棄の交渉ならやってもいいというのは、明言したのが今回初めてというだけで、今さらただの確認・念押しでしかない。昨年11月末の「火星15号」初実験の成功以来、新年の訓示でも、オリンピックへの参加でも、金正恩の姿勢はまったくなにも変わっていない。たった一度の発射実験だけであえて「国家核戦力の完成」を宣言した(実際には、実用化にはまだあと数回の発射実験が技術的に絶対に必要)のは、つまりアメリカ次第ではここで開発を止めてもいい、という意味にしかならないのも、以前の記事で指摘済みだ。
最初から、北の核武装開発はあくまでアメリカの圧倒的な核の脅威に対するなけなしの抑止力の確保であることは明らかだったし、実際にも北側は平昌オリンピック前後の南北交渉のなかで「同朋に核を使うわけがない」と明言し、だから韓国とは核について交渉しないとの態度を明確にしていた。
日本ではどうも「朝鮮半島の非核化」という言葉の文字通りの、あまりにシンプルで分かり易い意味すら理解されていないらしい。いやもしかしたら、この分かりきったことが自分達にとってあまりに都合が悪く、その自己欺瞞の偽善性が明らかになってしまうので、必死で無視している自己内引きこもりというか、精神医学でいう否認症状なのかも知れない。
ならばこの際、これもはっきり言っておこう。日本が「アメリカの核の傘」に依存する限り「朝鮮半島の非核化」は実現され得ず、日本政府には北朝鮮の核武装を非難できる理由がそもそもなくなる。どう大目にみても「どっちもどっち」止まりだ。韓国や日本やアメリカにとって北朝鮮の核の脅威がなくなるだけでなく、北朝鮮もまたアメリカの核の脅威から解放されなければ「朝鮮半島の非核化」にはならない。米朝交渉は当然そういう議論になるから、アメリカがこれに乗るのはなかなか難しかったはずで、要はここをどう突破できるかがハードルとして残っていた。
おおむねの流れは金正恩の計算通りだし、韓国にも反対する理由がなにもなかっただけだ。むしろ意外性が多少なりともあったとしたら、この特使の韓国側の人選だろう。平昌五輪の閉会式に対韓国の軍事を仕切る金正哲をあえて派遣したことに呼応してもいるわけだが、文在寅政権も特使に統一省の関係者ではなく、国家安保室長の鄭義溶と国家情報院の徐薫院長という、むしろ対米パイプが強い安全保障分野のトップクラスの人員をあえて派遣した。つまりはアメリカに対してもこれは「ほほえみ外交」の「友好」レベルの話ではまったくなく、深刻な安全保障問題の真剣な議論であり、韓国政府がそこまで本気だ(=対米追従の妥協はしない)と見せつけたわけでもある。
北朝鮮にとっての問題は、あくまで朝鮮半島が「非核化」するかどうかであって、単に自国の核放棄ではない。言うまでもなく在沖縄の米軍基地から韓国内の米軍基地にいつでも核兵器が持ち込める今の米韓日3国にまたがる体制は、客観的に検証可能なやり方で明白に撤廃されなければならなくなるはずだし、また米本土の大陸間弾道弾の射程に朝鮮半島が入っていることも当然協議の対象になる。
そもそもなぜ北朝鮮が、冷戦の終結後に核開発に手を染めて来たのかを、日本のメディアは必死で無視して偏向報道に固執しているようだ。そもそも間違った前提に固執している…というかはっきり言えば分かりきったことをあえて無視していわば噓をつき続けて来たあまり、自分たちが噓をついている現実から逃避して虚言に固執する精神症状に陥っているのではないか、とすら疑いたくなるほどだ。
そもそも論を言うのなら、改めてはっきりさせておこう。アメリカの核の脅威がないのなら、北朝鮮がわざわざ乏しい国力を多額の資金がかかる核開発なぞに注ぐ必要がそもそもない。今回も表明された当たり前の前提を無視する限り、この問題についてそもそも傾聴に値する議論が出来るはずがなかった。北朝鮮の「核問題」がいつまで経っても「解決」しないことにいら立つもなにも、韓国にとっても問題の本質はアメリカが(自国と自国民の防衛の範囲を明らかに逸脱した)巨大核武装を東アジアに置き、朝鮮戦争以来朝鮮半島を核競争の最前線として来た冷戦期の構図がほとんど変わっていないことだ。
言い換えれば、「朝鮮半島の非核化」は冷戦の終結時にその動きがあれば北朝鮮が核開発を始めることもなかったし、むしろ北朝鮮こそが本当は求め続けて来たものだ。核兵器の脅威に晒されない安全な状況さえ担保されるなら、それこそが金正恩にとっても究極かつ最大の目的なのだ。韓国の以前の右派の二政権(李明博、朴槿恵)もアメリカもこれを拒否して来たのに対し、今の文在寅政権の野心はまず「朝鮮半島の非核化」の実現に向けて国民を説得しきることができるかどうか、それができるなら韓国国民の総意としてアメリカにも突きつけられるところにある。
これは韓国にとって、日本の植民地支配からの独立ととりわけ朝鮮戦争以降、アメリカの属国・保護国の立場に甘んじ続け、時にアメリカの奴隷同然の行動すら強要されて来た過去を克服し、真の独立を実現する意味すら持つ。つまりは「祖国の再統一」という建前よりも実は遥かに大きい潜在的な宿願でもある。
「意外」といえば遥かに意外な展開だったのは、今回の特使派遣の成果を韓国が発表してまもなくドナルド・トランプが「非常に前向きなもので、世界にとって素晴らしいことになるだろう」とツイッターで発信したこと、そして韓国の特使とホワイトハウスで会うとすぐに米朝首脳会談に合意したことの方だ。
いかにトランプ自身が昨年6月頃には金正恩との直談判に乗り気になっていても、「火星15号」発射実験の成功で理論上はアメリカ本土を核攻撃できる能力もある北朝鮮とアメリカが「非核化」を交渉するとなれば、当然ながら北側はアメリカの核廃絶とまでは行かずとも核の削減を求めて来る。むろんすでに以前の記事でも指摘したように、北朝鮮だけが相手ならこれもアメリカにとって必ずしもあり得ない選択ではない。
だがアメリカの核の射程に北朝鮮全土が収まっているのはただの結果論で、その巨大核武装は別に北朝鮮をターゲットにしたものではない。西太平洋・東アジアに展開するアメリカの軍事力はいずれもロシアと中国を狙っている。在韓米軍も別に北朝鮮から韓国を守るために展開しているのではなく、米韓合同軍事演習も仮想敵は中国でありロシアだ。THAADの韓国への配備に中国が反発したのも当たり前で、北朝鮮をいいわけに自国を狙っていることがあまりに見え透いているからだった。
北朝鮮なぞ比べ物にならない巨大な核戦力(といって、アメリカに較べれば劣るが)を持つロシアと中国への対抗上、アメリカが東アジアにおける核戦力を削減するのはなかなか難しいし、かと言って北朝鮮に交渉で迫られたときに、「いやこれは貴国ではなく中国とロシア」とは口が裂けても言えない。アメリカの安全保障政策上の仮想敵国が中国やロシアであることは公然の秘密だが、かといって北との交渉のなかで明言してしまえば米中・米ロ関係が決定的に破綻するだろうし、こと対中国関係の深刻な悪化は経済上も大打撃になってしまう。
米朝首脳会談の要請にトランプが即座に乗ったのは、そのトランプとの「個人的信頼関係」に依存しきって来た安倍外交にとっては青天の霹靂だった。むろん安倍首相本人はともかく、日本政府の全体がそんな「個人的信頼関係」に無邪気にただ依存するだけで、対北朝鮮外交についてトランプが安倍に助言を求めていると言ったネット用語で言うところの「お花畑」の与太話を真に受けているわけもなかろうが、それでも普通に考えて北朝鮮の側から「朝鮮半島の非核化」を明言され、核武装が必要な理由(言い換えれば、それが不必要になる条件)まで述べられてしまえば、アメリカはつまりは北朝鮮(と韓国)に先手を打たれ遅かれ早かれ拒否はできない立場に外交的に追いつめられた格好になるからこそ、即答する前に日本に打診があって当然だった。だいたい韓国特使の2人はこの後日本に来て日本政府にも説明をするはずだ。それを待っての返答となるのが普通の手続きなのが、ここまで無視されるとは日本政府にとっては相当にショックだろう。
特使の平壌訪問の結果への常識的な対応として、当初のアメリカ政府高官筋の発言では警戒感を維持し静観する程度の評価しか出て来ていなかった。ところがいきなり大統領の名前で歓迎のツイートが出てしまい、そして矢継ぎ早に米朝首脳会談の意向が決定された。これまでの政治の世界ではあり得ないスピード感だが、ここがトランプのトランプたる由縁だろう。追いつめられて会談に乗ったのが実態であっても、だから決断を送らせてしぶしぶ応じるのではなく速やかな決断をアピールすることで、トランプが主導権を握っているような印象は演出できる(こういうところはこの元テレビ・スターの実業家氏、非常にあざとく巧妙だ)。
それに即断・即答でなければ、ホワイトハウス内部からも国務省の一部からも、さまざまな保守系シンクタンクやロビー勢力からも、そして日本からも妨害が入ったはずだ。これまで何度も直談判のチャンスを見送らされて来たトランプにしてみれば、驚きの即断は確信犯だったのではないか。
安倍政権では慌ててトランプ=安倍の電話会談までは取り付けたものの、半ばパニック的な興奮状態のまま記者団に囲まれた安倍氏の口調を見る限り、適当にあしらわれただけで安心できる材料はなにも引き出せなかったようだ。4月に、つまり米朝会談の前に日米首脳会談を「やりたい」と発表した言葉遣いがいかにも不自然で気になるのだが、まさか希望を伝えただけで日程調整はまだまだこれから、実際にやるのかも分からないというような話ではないことを祈るばかりだ。なにしろトランプに拉致問題を持ち出させることでなんとか米朝会談をぶち壊しにできないか、というくらいしか、対応策を思いつけていない様子なのだ。
一般に日本政府が恐れる最悪のシナリオと見られているのは、北朝鮮が大陸間弾道弾の開発を凍結する、つまりアメリカ本土攻撃能力を持たないことをトランプが米朝交渉の落とし所として核保有国として認めてしまうことのようだ。つまり現在すでに日本が完全に射程に収まる中短距離ミサイルは実戦配備されていて、これに核弾頭を搭載すれば日本だけが北朝鮮の核の脅威に晒されたまま、アメリカ本土の安泰だけが保証されることになる。
だがこの「最悪」を避けたいという日本の発想自体が、ずいぶん浮世離れしたものに思える。だいたい北朝鮮には日本を核攻撃する理由が(在日米軍基地以外には)ないどころか、その日本には大都市を中心に公的には自国民である在日朝鮮人もいるのだ。
「アメリカに核保有国として認めてもらうこと」は、核武装を念願する日本の右派にとっては夢にまで見る願望かも知れず、だから北朝鮮がそう認められれば嫉妬に狂ってしまうのかも知れないが、パーソナリティ障害レベルの極度な依存性でもない限り、そんな歪んだ意識を金正恩が共有しているとなぜ思えるのだろう?
アメリカが認めようが認めまいが、実戦レベルの核兵器を持ってしまえば、それを核保有国という。「アメリカに認めてもらうこと」は北朝鮮にとってなんの価値もなく、アメリカにとって北朝鮮の核保有を認識することは米朝交渉の出発点、今や避けて通れない前提条件であって、金正恩が目指している結論であるはずもない。
この場合、「浮世離れ」というのは「認識が甘い」という意味では必ずしもない。単に非現実的にズレまくっているだけのことで、日本だけが直接に北の核の脅威に晒され続けることになるという「最悪のシナリオ」は実際には恐らくあり得ないし、そういう意味で日本の安全保障と国民・国土が脅かされるような厳しい結果にはならないだろう。そんな結論になったところで、北朝鮮にとってはなんのメリットもないのだ。
安倍首相本人はともかく日本政府の最高レベルでは恐らく気付いていながら決して口にされない「最悪のシナリオ」は、北朝鮮が核を放棄するなら当然の見返りとしてまずアメリカ側の核放棄か少なくとも大幅削減を求めて来ること、具体的には沖縄に当然あると全世界の安全保障のプロが認識しているアメリカの核兵器の撤廃を主張することだろう。この場合、日本政府にとってまず直接的にあまりに不利益なのは、「非核三原則」がまったくの欺瞞でしかないこと、しかも沖縄がまたもや「焦土作戦」の犠牲になることが日米安保体制の当然の前提だったとまで暴露されてしまうところだ。
つまり沖縄が東アジアにおけるアメリカの核拠点であり続けている以上は、どこかの国がアメリカや日本と戦争に突入するのなら、自国防衛のためにまずその沖縄を徹底した攻撃で全滅させて自国への核攻撃を防止しようとするだろうし、日本政府もアメリカ軍もそうなって当然のことを百も承知で今に至るまでやり続けて来ている。こんなのは軍事・安全保障の世界ではただの常識でしかないし、国民だってかなりの部分は実は気付いていてもおかしくないが、公式には「ない」ことになっている、その沖縄を平気で犠牲にできる欺瞞体質が米朝の非核化交渉の過程で曝け出されてしまうのは、明らかに日本政府にとっての最悪の展開だ。
また沖縄の核兵器の全廃と在韓・在日米軍の完全な非核化(繰り返すが「朝鮮半島の非核化」はこれが客観的に検証可能なレベルでクリアされなければ実現できない)か、少なくともその核戦力の大幅な削減が交渉の議題になれば、日本政府が固執する「アメリカの核の傘」(仮想敵は北朝鮮ではなく中国)に依存した安全保障政策は根底からの見直しが必要になる。これがこそが日本政府が本当はもっとも恐れていることだろうし、もしそういう交渉になり得るという想定ができていないのなら、自民党右派はあまりに外交音痴の平和ボケ、と言わざるを得ない。
だが北朝鮮が「朝鮮半島の非核化」で同意を求めて韓国も賛同して来ている以上、最初はここが議題になるとしても、それは交渉の出発点であって金正恩の最終目標ではないのではないか? トランプが即座に米朝首脳会談の意志を表明したのも、アメリカの核削減(対ロ・対中戦略上、これは絶対にできない)を実際には議論する必要がないか、北側が最初に妥協を前提に出して来る話で終わると判断したからだろう。
むしろ核削減がアメリカがとても飲めない要求であることは金正恩も百も承知だろうし、ここで交渉が決裂するか、双方の核削減をめぐる終わりのない対話を続ける覚悟しているのなら、あの段階で「核戦力の完成」は宣言していないはずだ。ロフテッド軌道の発射実験だけでは推進力の確認しかできていない「火星15号」は、最低でも一度は通常軌道で発射して実用レベルのデータをもっと集めてからでないと、「国家核戦力は完成した」と強気の交渉カードとして押し通すことは本来なら難しい。
トランプはトランプでなにを考えているのか分からないし、国務省は深刻なアンダースタッフ状態で北朝鮮担当の特別全権代表だったジョセフ・ユンも既にホワイトハウス内の権力抗争に破れて辞任し、韓国大使も一年以上決まらないままで、ホワイトハウス内でも人事の混乱が続いているなか、平昌五輪開会式の際のペンス副大統領の態度や、閉会式に唐突にイヴァンカ・トランプを派遣したことなどを見れば、アメリカ政府の方針自体がまるで定まっていないと考えた方が無難ではある。だから予断や過大評価は禁物とはいえ、トランプが米朝会談の話にすぐに乗ったのは、アメリカ側の核削減なしでも北朝鮮が核開発の凍結、つまり事実上の核放棄を納得する可能性があるというサインを受け取ったからではないのか?
今回の南北合意で「体制の安全が保証されるなら核武装する必要はない」と言われているのは、直接に北朝鮮全土がアメリカの核の射程内に入っていることへの言及とは別の解釈も可能なのだ。そしてトランプはなんらかのルートで北朝鮮がそこに二重の含意を込めていて、しかも本音は第二の解釈の方だという情報を得ていたのだろう。
あるいは、これと同じ内容は、実は北側が金正日、アメリカ側がジョージ・ブッシュ(息子)大統領だった交渉でも、北側から提示されたことがある。非公表の交渉内容なので一部でしか知られていないが、ブッシュ政権はそこで今後北朝鮮を敵視しないという文書を出すと言って納得させようとしたらしい。もちろんそんな一筆入れた程度では、いつ裏切られるか分からない。北側はこれを言下に拒否し、そこで交渉決裂となった。
つまり逆に言えば、ならば北朝鮮の現体制の安全をアメリカが確実に保証して、敵視したり打倒を策謀したり侵略はやらないと、なんらかの形で不可逆的に示すことができれば、北朝鮮は核開発の無期限の凍結と事実上の核放棄に乗って来る可能性は十分にあるのではないか。 たかがひとつの政権が一筆入れた程度では政権交替で政策が変わっても当然で、なんら北朝鮮の安全を保証することにならないが、たとえば現状、法的には「休戦状態」でしかない朝鮮戦争の正式な終結になる講和・平和条約が締結されるのであれば、議会も批准した正式な国と国との約束で、簡単には覆せない。
つまり金正恩が核放棄とのバーターもちらつかせて狙っているのは、米朝の平和条約の締結だろう。「体制の安全が保証されるならそもそも核武装は必要ない」というのは友好国どうしであれば核放棄も考えるという意味に取れるし、現に平和条約締結の上で国交正常化交渉を始められれば、アメリカが北朝鮮の安全を脅かすリスクは相当に下がる。これならば北朝鮮も交渉に応じ、長期的な非核化プロセスも現実になるだろう。
トランプはこれまで、以前のアメリカの政権の北朝鮮対応が間違っていて、自分なら解決できると公言し、そのうえで「あらゆる選択肢がテーブル上にある」と繰り返して来た。従来のアメリカ政府の対北方針は確かに、一貫して韓国との軍事同盟を維持して朝鮮半島に中国やロシア(ソ連)を牽制できる軍事拠点を置き続けることを優先して、その正当化に北朝鮮の脅威を利用するために朝鮮戦争を法的には終結していない状態のままに放置して来ることだった。
極右・反共のポピュリスト政治家としてのトランプならば、この従来の敵視政策を変えるとは考えないだろうが、ビジネスマンとしてのドナルド・トランプ、従来のいわゆる「外交常識」に囚われないドナルド・トランプの「ディール(取引)」の発想から見れば、この従来のアメリカの政策は相当に無駄が多く非合理な、馬鹿げたものにしか見えないだろう。そこを根本から変えることが現実にもっとも有効な外交切り札として使えるのも確かなのだ。というか、トランプが北朝鮮との交渉で相手に非核化を納得させて外交成果を上げるためのカードは、他にはまず見当たらない。
ここでやはり確認しておかなければならないのは、これまでの北朝鮮の「核問題」をめぐる歴史と、そこにつきまとう大きな誤解だ。まずはっきり言っておけば、これまでの交渉内容で北朝鮮を「騙した」「裏切った」と一方的に責められる事実はない。
これまでの合意が不発に終わって来たのは、上記のブッシュ政権と金正日の交渉のように妥協・妥結に至らず決裂したか、クリントン政権時のいわゆる「核合意」のようにアメリカ側も合意をなかなか履行する素振りも見せず、そこで相手に約束を守る意志がないと判断した北朝鮮が、核開発を再開しただけのことだ。この枠組合意の時にはクリントンの訪朝も一度は打診されたが国内の反対で潰れ、レームダック状態のクリントンが金正日の訪米を打診し、信用しなかった金正日が受け入れずに立ち消えになった経緯もあった。つまり「どっちもどっち」でしかないし、そもそも朝鮮戦争が国際法上では継続したまま、つまり法的には敵国扱いのままなのに、履行する気もない口約束程度で完全な核放棄を要求できると思ったアメリカ(や日本)の考えが甘過ぎたというか、不真面目過ぎてふざけているとしか思えないだけのことだ。
ちなみに日本も小泉純一郎首相(当時)の訪朝時に交わした平壌宣言をまったく履行していない。この時は死亡した拉致被害者についての説明内容や遺骨とされたものに不備・虚偽が見つかって一気に国内世論に反発が広がったので合意が棚上げになるのもやむを得なかったという言い訳も可能ではあろう。だがかと言って日本政府はしっかりと判明した事実を北側に突きつけ再調査を要求したわけでもなく、第一次安倍政権になると単に対話を拒絶しただけだった。
これでは北側から見れば、日本政府(とくに安倍晋三の周辺)は拉致問題を人気取りと北朝鮮を敵視する世論の醸成に利用しただけで、拉致の解決・解明や被害者の救済にも、平壌宣言に明記された国交正常化への努力にもまったく誠意を見せる気がない、とみなされて当然だ。
いやむしろ、客観的にも「(下心を)見透かされた」と言った方が正しいほどだ。小泉訪朝時の官房副長官・安倍晋三が首相になれた大きな理由は拉致問題だったが、第一次政権でまったくなにもやらなかったのはまだ短命政権過ぎてなにも出来なかったといういいわけも成り立たないわけではないが、5年に及ぶ第二次政権でもなにもやっていない(それどころか北側の謝罪の確認と再調査の申し出から逃げ続けた)ではないか。
ところで話は前後するが、クリントン時代のいわゆる核合意については、この小泉訪朝の前段になったとも言える内幕があった。これも公表はされていない、外務省の担当者が記者にオフレコで漏らした話だが、日本と韓国の代表は交渉が行われる部屋に入れてもらえず、後でアメリカ代表からブリーフィングを受けただけだったそうだ。この時の日本の実務代表が、後に小泉訪朝のすべてを取り仕切ることになる田中均氏だ。この田中氏は後に第一次安倍政権でその支持層から「裏切り者」「北朝鮮側」とレッテルを貼られて排除されてしまっている。
日本のメディアの論調では、今回の韓国特使団の訪朝で北朝鮮の態度が「激変した」のが「意外」で、その理由として「制裁が効いている」とか「アメリカの軍事作戦の脅威」が上げられて、「金正恩が追いつめられている」という推論に自己満足している。むろん専門家がさすがに「今はまだそこまで効果は出ていない」とすぐに訂正を繰り返しているが、こういうのを外交の世界では典型的な「希望外交」という。
「希望外交」とは相手国や国際情勢の現実をしっかり見たり分析できずに、自分達の願望を優先させて事実関係の認識を歪め、外交を破綻させてしまう愚の骨頂を指す用語で、典型的な例としてしばしば挙げられるのが1941年の日米開戦に至る日本外交の度重なる失敗、勝てるわけがない戦争に自らを追い込んだ当時の日本政府だ。なんと満州事変以来、日本政府では強気の態度を貫けば、植民地大国になりたい日本の欲望を、やはり植民地大国だった当時の列強も最終的には理解してくれるだろうと思い込んでいたのだ。ハル・ノートを突きつけられた時でさえ、日本が中国本土や東南アジアの資源を必要としていることはアメリカも理解してくれるから大丈夫だ、ドイツも日本の味方をしてくれるしアメリカとの戦争にはなるまいから強気でいい、というのが当時の政府の中枢の認識で、真珠湾攻撃はその自分たちの過ちに追いつめられた「逆ギレ」でしかなかった。何重にも致命的な「希望外交」の過ちがいかに積み重なった末の愚かすぎる戦争だったのか、今さら言うまでもあるまい。
現代の朝鮮半島情勢に話を戻そう。もちろん冷静に事態の推移を見れば、「意外」とされる今回の「激変」は少なくとも年頭の金正恩の訓示から平昌五輪への参加も含めて一貫した方針で、そうとうに緻密な計算づくの計画的なものだ。もっと言えば一昨年の暮からにわかに北朝鮮の核をめぐる動きが活発化した一連の事態のすべてが、オバマからトランプへの政権交替を大きなチャンスと捉えた金正恩の大芝居だったとのかも知れない。
なにも核とICBM開発なんて刺激的過ぎてリスクが大きい打ち上げ花火なんて手段を使わずとも、と思ってしまいそうだが、しかし現にこれくらいのことはやらなければ、アメリカを動かして交渉のテーブルにつかせられなかったのも現実だ。なにしろ金正恩が政権を継承した当時、日本にも韓国にも普通の、まともで良心的な外交姿勢で関係改善を試みたところ、どちらの右派政権にもまったく無視され逃げられただけだったという、苦い失敗の経験がある。
とくに拉致問題を再謝罪して再調査を申し出たことから日本の安倍政権が逃げたのは、若い金正恩にはまったく理解不能だったろう。そこから導き出された教訓は、日本も韓国も右派政権は対米従属なのでアメリカを動かさないと意味がなく、そして人道的で良心的・常識的で普通に正当化できることをやっていても北朝鮮のような小国では逆に相手にされない、という二点だろう。今回の大きなチャンスのひとつは、その韓国の右派政権が汚職と職権乱用で倒れ、革新派政権になったことだ。
日本に蔓延する外交非常識といえば、平壌を訪れた特使が異例の歓迎を受けたとする報道も、「異例」でもなんでもないことを必死であげつらっているポイントが多々ある。まず「特使なのにこれほどの厚遇」というのは、外交プロトコルでは国家首脳や元首の特使はその元首と同等に扱うのが古代からの常識で、特使を大統領並みに歓待することにはなんの不思議もない。金正恩の夫人が晩餐会に同席したのも、男尊女卑の明治っぽさが未だ一部では蔓延している日本では想像がつかないとしても、現代の外交プロトコルでは東アジアですらもはや当たり前で、金正恩が普通の国際常識のっとった儀礼で振る舞っただけのことだ(まあそれでも、金正日時代までのニッポン明治時代風の男尊女卑と較べれば大変化だが)。
首脳会談が板門店の韓国側で行われるのも「金一族が韓国に入るのは初」なのは確かではあるが、これは西洋準拠の国際外交プロトコルではないものの、儒教の長幼の礼を尊重する東アジアの文化でいえば、金正恩は文在寅と較べて親子ほど歳が違い遥かに歳下だ。歳上の文在寅を若い金正恩が平壌に呼びつけたように見えるのでは礼に失することから、当然の判断だろう。
平昌五輪の開会式で訪韓した際の金永南・最高人民会議終身委員長と金与正の2人も、金永南が西洋風のレディーファーストで彼女に席を勧め、彼女の方は敬老精神から年長の金永南に先に座るよう笑顔で譲る場面があった。北朝鮮は確かに、ごく一部の人間が権力を独占する、現代ではいびつな独裁国家だ。しかしだからこそ、世襲でその地位にある特権階級は、自らの立場では遵守すべき立ち居振る舞いを子供の頃から教育されてちゃんと心得ている。礼儀作法がなってないので外交がまともに出来ない日本の二世・三世政治家たちとは雲泥の差だ。特に安倍氏は、公式会見の場でまで相手をファーストネームで呼びたがる非常識で恥ずかしい真似はいい加減にして欲しい。
トランプのアメリカも含めて六カ国協議の参加国は、日本を除いてすべて今の展開に歓迎を表明している。国際社会も戦争の危機を回避できただけでも基本歓迎ムードになるのは当たり前だ。事態が一応は平和裏で(つまり軍事衝突なしで)収束しつつあるのを嫌がるとは、日本はよほど戦争がやりたいのだろうか?
これが金正恩(とその妹の金与正)の計算づくの計画的な外交戦略だったとしても、今回表明された北朝鮮の本気度は、日本政府にとってはともかく日本国民にとっても、現状の安全保障政策が根底から無意味なものになりかねない事態にはならないだけでも、歓迎すべきことのはずだ。
「北朝鮮の思い通りになってシャクだ」などと、子供の喧嘩か小学校の学級内の権勢争いでもあるまいし、幼稚な感情論に走るべきではない。確かに計算通りに踊らされた日本政府の迂闊さ(対話拒否の「圧力」一辺倒は「火星15号」を実用化の一歩手前まで持って来れる時間稼ぎを北朝鮮に許しただけだ)は大いに批判され、分析され、今後同様の外交的惨敗を防ぐための教訓とすべき苦い経験だが、結果として「北朝鮮の狙い通り」になっても、それが日本国民にとって不利益なわけではない。
金正恩がここまで本気の姿勢を印象づけたのは、アメリカとトランプにとって受け入れ可能な条件の範疇で、アメリカ本土が攻撃可能な大陸間弾道弾の開発を凍結する準備があることを意味している可能性が高い。つまり、「朝鮮半島の非核化」が理論上はアメリカの核戦力の東アジアからの撤退ないし大幅削減なしには成立しないとしても、そこについては自国を敵視しないという保証があれば妥協はできる、という意思表示だとも考えられる(またそうでなくては、トランプが交渉に乗って来る可能性は限りなく低かった)。
「体制の安全が保証されるなら、そもそも核武装は必要ない」というのは、朝鮮戦争の講和条約締結と国交正常化が進めば、アメリカには北朝鮮を核攻撃する大義名分がなくなるのだから「体制の安全」は保証できるので核武装を継続する理由もなくなる、という意味にもなるわけだ。金正恩はあえてこういう二重の意味に取れる言い方をしたのだろうし、トランプもその真意を理解したから米朝首脳会談に応じるのだろう。そして日本国民にとってもこれで収まってくれればそれこそが最良のシナリオだし、しかもこれが現実的にもっともあり得る展開なのだ。
だがうがった見方をすれば、この誰もがある程度は満足して平和が維持できる展開をこそ、安倍政権はもっとも恐れているのかも知れない。
北朝鮮の核凍結か核放棄と引き換えにアメリカが平和条約の締結と国交正常化の交渉に入るのなら、東アジアの安全保障は大きく変化して日本はより安全になるが、逆に言えば安倍政権が進めたい改憲や自衛隊の権限強化と国軍化や軍備増強、日本を「戦争ができる国」にしたがって来た新安保法制などの政策には正当性がなくなる。トランプのアメリカとは中国という共通の仮想敵国まではなんとか共有できるが(ただしトランプと習近平は個人的には仲がいい)、プーチンのロシアに擦り寄って来たこれまでの安倍外交はオバマの時代からアメリカと利害がまるで一致しておらず、トランプのアメリカ相手となれば貿易摩擦問題も含めて日米関係はかなり難しい局面に入るだろう。そこで「北朝鮮」という共有できる「敵」がなくなることは相当に不安なはずだ。
いや安倍がもっとも期待していたのは、核問題を口実にアメリカが北朝鮮を潰してくれること、そうすれば新安保法制の集団的自衛権を使って、日本も対北朝鮮戦争をやれることだった。この願望はこのままでは完全に潰える。
それどころかトランプが北の非核化と引き換えに平和条約の締結と国交正常化交渉に入るのなら、日本もそれに追随するしかない。かつて小泉純一郎と金正日のあいだで合意しながら第一次安倍政権以降完全に棚上げされてきた平壌宣言が再び現実に有効性を持つことになるのだが、これが安倍氏とその支持層には絶対に受け入れられない。
アメリカと北朝鮮ならば、勝敗がついていないままの戦争の対等な平和条約の締結で済むが、日本の場合はそうではない。平壌宣言にはすでに、日本の植民地支配の戦後補償を進めることが明記されてるし、その過程では当然日本の反省と謝罪の表明も求められることになる。日本国内における在日朝鮮人の地位の安定化と人権の保証も当然議題に上るし、少なくとも名誉毀損や脅迫、威力業務妨害等の刑法犯に該当する範囲では、安倍熱烈支持層のヘイトスピーチは取り締まらなければならなくなるだろう。
いざまっとうな外交交渉が始まれば、日本側はこうした人権と歴史の問題から逃げられないし、安倍政権がすでに韓国とのあいだで既に深刻な外交問題にしてしまった慰安婦問題と徴用工問題も、これまで逃げて誤摩化して来た謝罪表明が避けられなくなる。
拉致問題でも、これを永久に解決せずに北朝鮮敵視の世論形成に利用し続けることが、安倍氏の一貫した方針だった。
そもそも小泉訪朝で北側が死亡と報告した被害者について提供した情報が誤りや捏造だらけだったこと(これ自体は北朝鮮に限らず、戦前の日本のような軍事独裁的な官僚体制ではありがちなこと。だいたい現代の北朝鮮の体制はかなりの部分が戦前戦中の日本帝国の模倣である)に問題があったのは確かだが、安倍氏を中心に自民党右派はこれをずいぶん悪質なプロパガンダに利用して来た。
あえて端的に言えば、死亡に関するデータに誤りがあったからといってその被害者が生きている保証にはまったくならないし、生存の可能性を示す根拠はなにも出て来ていない。横田めぐみさんのケースでは、実の娘さんが「お母さんは亡くなりました」と祖父母にはっきり伝えている。なのに「生きているから取り返せ」と、かなりの確率で噓の可能性が高い主張を繰り返し、横田さん夫妻がお孫さんと会うことすら妨害して来たのが安倍氏たちだ。日朝国交正常化交渉が進めば、こうして日本国民も騙して来た欺瞞も明らかになってしまう。
それどころか金正恩に政権交替してからの再調査の申し出では、平壌宣言時に死亡と報告された以外の、日本政府が把握していない拉致被害者が生存している可能性と日本への帰国すら北側から打診されていた。その申し出から1年以上逃げ続けてやっと渋々応じ、調査結果の内示を受けると反論や更なる調査の要求もせずにうやむやに済ましてしまった(つまり未確認拉致被害者を見殺しにし続けて恥じないでいる)のも安倍政権だ。
横田めぐみさんの母・早紀江さんが他の拉致被害者家族とともにトランプと面会した際に、早紀江さんが「戦争だけは絶対に止めて下さい」と言おうと思っていたのを妨害したのも安倍政権やそのシンパの「救う会」だった。今まで安倍さんのお世話になって来たのに(いったいなにを?選挙等に利用した以外はなにもやっていないではないか)恩知らずだ、ということらしい。早紀江さんにしてみれば、米朝全面戦争にでもなればお孫さんもその家族も殺されるのだから絶対に止めて欲しいし、もしめぐみさんが生存しているのならそれこそ「戦争は止めて」とトランプに頼んで当然だ。
なにが「恩知らず」になるのか意味不明なのだが、北朝鮮政府が安倍政権にとってあまりに都合の悪いカードを多々握っている(植民地支配の反省も含め、拉致問題をめぐる様々な噓も含め)現実を考えれば、安倍氏の宿願である北朝鮮を滅ぼしその国民を皆殺しにすることに協力しないのはの恩知らずだ、という無茶苦茶な理屈も理解できないことはない。日本国の国益や国民の安全とはまったく関係のないところで、安倍政権にとっては北朝鮮の現体制・いわゆる金王朝は、日本国内から荒唐無稽な悪魔視の偏見でレッテル貼りを続けるか、本当のことを言われる前に潰して皆殺しにするかの、二者択一しかない相手になってしまっている。
最後にちょっと下らない愚痴を言わせて頂く。今の状況についてほぼ予測を適中させて来た本サイトの一連の北朝鮮関連記事は、なにも特別な情報源を元に書いているものではない。朝鮮労働党どころか朝鮮総連や日本の外務省内部にも特別な人脈や情報ソースがあるわけでもない。一部の海外メディアも参照してはいるが、基本的に事実関係そのものは日本の新聞やテレビで報道されているのと同じだ。
こと昨11月末の「火星15号」発射実験と「国家核戦力の完成」決定以降、客観的にみれば金正恩政権の意図や狙いは、対米直接交渉の糸口を探ってオリンピックを利用して韓国にまず接近したことなど、かなりはっきりしているというか、他の「思惑」を考える余地もない。
そもそも北朝鮮が本気で自ら戦争を仕掛けることなぞ国力からしてあり得ないし、求めているのは自国がアメリカの圧倒的な(核を含む)軍事力で侵略の危機に晒されている状態の解消と、中国やロシアの属国状態からの脱却、そして少しでも国民を豊かにすること、つまり独立国としての自信を取り戻しその裏付けにもなる経済発展を目指すことなのも、最初から分かりきった話だ。
現状の事態の進展は極端にスピード感があることを除けば、こうした客観性から事実関係を分析して来た本サイトの一連の記事の予測の範囲内で起こっている。大きな「意外」も「予想外」も「不可解」もなにもないどころか、ほぼ予想通りだ。逆に言えば、ものごとを素直に見て冷静に考えれば誰でも思いつくような、オリジナリティもない平凡な分析に基づけば予想がほぼ的中し続けるのに、多くのメディアはなぜこんな簡単なことができず、専門家もそこにおもねったような無理な解釈ばかりを言い続け、予測を外し続けては「意外だ」と連呼し、外れる度にそのいいわけに終始するような、みっともない真似を晒し続けているのだろう?
「専門家」としての能力や、ジャーナリズムの質的劣化の問題なのかと思えば、そうでもないようだ。というのも、トランプの米朝首脳会談の意向の第一報を伝えるテレビ朝日の速報では、ソウル特派員がはっきり「北朝鮮の狙いは平和条約の締結ですので」と明言していた。
なんだ、最初から分かっているじゃないか。ならばなぜそう素直に報道せず、自分達でもちゃんと分かっていることをわざわざ隠してまで、荒唐無稽な「思惑」などの憶測ばかり繰り返して来たのだろう?