2016/04/07 政治
【静岡市長選公選法違反事件】被告人・斎藤まさしが「告発したい」と語る、警察・検察による政治活動の自由に対する挑戦

3月31日、静岡地裁で「静岡市長選挙公選法違反事件」の結審が行われた。ボランティアとカンパを使い、独自の手法で様々な選挙を約40年に渡って戦ってきた「市民派選挙の神様」が初めて「事前運動罪」と「利害誘導罪」の「公職選挙法違反」で被告人となった裁判の傍聴には、傍聴席に入りきらない数の人々が訪れ、被告人の斎藤まさしさんが最終意見陳述を終えると法廷と、法廷の外の廊下で耳を澄ませていた人々から拍手が沸き起こった。

 
斎藤まさしさんに対する公訴事実は、選挙告示前に、斎藤さんが高田陣営と「共謀」して、バイトを使って街頭で「高田とも子です。よろしくお願いします。」という呼びかけと共にチラシを配ることを業者に依頼したことが、「事前運動罪」であって「利害誘導罪」となる「公職選挙法違反」である、というもの。論告・求刑で水野朋検察官は、被告人を長期間選挙に関与させない為の処置が必要だとして、仮に執行猶予が与えられるとしても5年間公民権を停止することが妥当であると述べ、今回の事件で起訴された人たちの中で最も重い懲役2年を求刑した。

 

一審判決は、6月3日の午後1時10分に開かれる公判で、佐藤正信裁判長、大村陽一裁判官、小澤明日香裁判官によって言い渡される。

 

 

仮にこの裁判で有罪判決が出た場合、直接の投票依頼がない政治活動を行い、警察の警告に従った場合でも、警察・検察の主観的な判断で逮捕・立件・起訴・処罰し、政治活動を犯罪化することを司法が認めたことになるため、6月3日に出される判決は、今後の日本における政治活動の自由に大きな影響を与えることになる。

 

また、選挙が始まる前にも後にも、政治を志す人間が当選を目的とした政治活動を行うことは常識的なことで、その政治活動にボランティアでなく業者が使われることもある。今回高田陣営が行い問題とされている街頭でのチラシ配りなどの活動が違法とされた場合、現在の日本の政治家の多くは、与党、野党、無所属に拘わらず、何が違法な政治活動(事前運動)なのか、何が適法な政治活動なのか、捜査当局のさじ加減によって、犯罪者になったり、犯罪者にならなかったりするリスクにさらされることにもなる。

 

 
この事件に関連して逮捕された6人のうちの1人で、事件後静岡市議辞職に追い込まれた宮澤圭輔さんは、自身の最終意見陳述で、自身は法を守る精神を持った国民であるという前置きの後に、あえて日本の選挙制度について踏み込んだ発言をしている。事前運動や戸別訪問ができない日本の選挙制度は、先進国の中では極めて制約が多いもので、制約をくぐるための曖昧な政治活動のノウハウやテクニックを使い、本音を隠しながら政治活動をしなければならないのが現在の日本の現状であり、建前で本音を隠しながらの政治活動で、本物の民主主義がつくれるのだろうか。宮澤さんは「いつの日か、日本も選挙に立候補する志ある若者や挑戦者が、3年も4年もかけ、一件一件、夢や希望を語りながら個別にまわり、国民・市民と夢を共有し、正々堂々と「自分に託して欲しい」と訴えられる世の中になったら、どれだけ素晴らしいかと、今も思っています」と想いを語った。

 
宮澤圭輔さんには、懲役1年6ヶ月、執行猶予5年、公民権停止5年の一審判決が、静岡地裁の斎藤さんの裁判を担当する同じ裁判体によって言い渡された。

 

 
3月31日、小川秀世さん(袴田事件弁護団事務局長)、平岡秀夫さん(第88代法務大臣)、酒田芳人さんから成る斎藤まさしさんの弁護団は、最終弁論で、この事件は公訴棄却されるべき、さもなくば無罪とされるべきだと主張した。

 
「無罪」であるとする理由は、「斎藤さんには呼びかけ文言の『共謀』あった」とする検察官の主張が事実でないことを立証した作業を根拠としている。街頭で「高田とも子です。よろしくお願いします。」と呼びかけながら「高田とも子、市長選出馬」などと書かれたチラシを配ることは、投票依頼、つまり「事前運動」にあたると検察官が主張している為、呼びかけ文言を誰が考え、誰が確認なり了承なりしたのかということが、この裁判で重要な争点の1つとなっている。

 
呼びかけ文言を考案したのは業者の井上有樹さんであることが、井上さん本人の法廷での証言から明らかになった。しかし、業者と直接の交渉を担当していた宮澤圭輔さんは、その文言を使うことが大丈夫であるか斎藤さんに確認した、と主張している。しかし、斎藤さんは、そんなやりとりは存在しなかったし、もしも相談されていたら呼びかけ文言の統一などしなかっただろうと主張しているため、呼びかけ文言に関する事実認定は、斎藤さんが関与したことを立証することができない状態になっている。

 

この事実の問題について、小川弁護士は、宮澤さんに対して行われた取り調べのビデオや供述調書を見ると、「宮澤さんは、残念ながら、捜査段階、そして公判でも言っていることがコロコロ変わっている部分があります。一番の重要な、『斎藤さんに確認をした』、という部分が変わっています。そういう意味で、到底宮澤さんと『共謀』が成立したなんていう話は、認定できないはずだという主張もさせていただきました」と公判後の記者会見で述べた。

 

ところで、弁護団が裁判を通じて発見し、最終弁論で最も強く主張したのは、そもそもこの事件は、捜査当局の恣意的・差別的な違法な捜査・立件・起訴によって、「市民派選挙の神様」と呼ばれる斎藤まさしさんを有罪にするために意図的に作られたものである、という点だった。

 

この裁判を通して①捜査当局が組織的に呼びかけ文言の一部をより違法性が高まるように書き換え、虚偽の公文書を組織的・意図的に作成していたこと②警察は、高田陣営の立ち上げた政治団体「元気で明るい静岡をつくる会」の機関紙を街頭で配っていた末端のアルバイトに街頭でのチラシ配りを止めさせたのみで、実際何があったのか高田陣営に適切な警告を行わなかったこと③理由不明の警察からの警告に対して高田陣営が街頭でのチラシ配りを中止するなどの対応をとったにも拘わらず、強制捜査を始めたこと④関係者の取り調べにおいて、違法性の印象を高める偽りの供述をさせていたこと⑤押収された高田陣営の選対会議の議事録の中から、事件の中で重要な3月9日と14日の会議の議事録のみがなくなっており、斎藤さんにとって有利となりうる証拠を捜査当局が隠蔽している可能性があること⑥そして、現職市長の田辺陣営が街頭で不特定多数に「後援会のしおり」を無差別配布していたことに対しては、警察は認知していたのに警告さえ行わなかったこと、などを具体例とし、このような差別的で恣意的な捜査・立件・起訴は、憲法14条1項に違反する違法があるという意味で、憲法31条の適正手続条項に違反するので、公訴棄却されるべきであると主張した。

 
過去に、違法性が高い差別的捜査による起訴を公訴棄却した判例として、「広島高裁松江支部昭和55年2月4日判決(判例時報963号3頁)」がある。この判決では、「憲法14条違反の差別捜査に基づいて、差別された一方だけに対して公訴提起した場合にも同法1条の適正手続き条項に違反するものであるから、差別の程度、犯罪の軽重等を総合的に考慮して、これを放置することが憲法の人権保障規定の趣旨に照らして容認し難く、他にこれを救済するための適切な方途がない場合には、憲法31条の適正手続の保障を貫徹するため、刑訴法338条4号を準用ないし類推適用して公訴棄却の判決をするのが相当である」としている。

 

 
斎藤まさしさんは、結審後の記者会見で、「日本でずーっとこういうことが続いてきたわけ、戦前から、政治介入も選挙介入も。でも誰も責任取らないんだ、いつも、当事者たちは。『陸山会』もそうじゃない。いつも、やった連中は責任を問われないできた。僕が弁護団に提案しているのはね、僕は告発したい。この虚偽文書に関しても、僕は告発したいの、はっきり言って。責任を問いたい。」そして、マスコミはジャーナリズムの役割を果たしてほしい、そして、たくさんの人に事実を知って欲しい、と想いを語った。

 

 

以下は斎藤まさしさんの最終意見。

 

最終意見

 

冒頭陳述で私は「この起訴は、事実をネジ曲げムリヤリ罪をつくろうとするもの」と述べましたが、裁判を通じて明らかになったのは、今回の事件が警察・検察による違法・不当な政治介入、選挙干渉事件に他ならないということです。
異例・違法・不当な捜査・立件・起訴によって、若く有能で市民のために献身的に働いてきた宮澤圭輔市議会議員を辞職に追い込み、五年の長期にわたって公民権を奪い、静岡で屈指の財力・動員力・影響力を有し、選挙敗北してなお「故郷への恩返し」の志高く政治活動の継続を表明していた高田隆右氏に「二度と選挙には関わりません」と法廷で言わしめた警察・検察の政治介入の罪は深く、その責任は厳しく問われなければなりません!

 
また、先に現職陣営が違法性の高いチラシを市内全域で不特定多数を対象に配布していたのに警告すら行わず、高田陣営にのみ理由不明の「警告」をして、最も大切な時期に一週間にわたって政治活動の柱の一つであったチラシの街頭配布の中止を余儀なくし、選挙活動全体を疑心暗鬼と萎縮に追い込んだことは、明らかに政治的中立を逸脱し、選挙妨害の誹りを免れません。

 
弁護団の精力的な調査・研究活動に基づく最終弁論によって、今回の捜査・立件・起訴の違法性と不当は、法律と判例に基づき、法廷で明らかになった証拠と証言によって、すでにおおかた立証・解明されているので、私は主にそこで触れられていないことについて意見を述べさせていただきます。

 

まず捜査の違法性について、「警告」の不当性、選管職員や未成年アルバイトの供述を歪曲した虚偽公文書作成、「証拠」を捏造して行った天野氏らへの取り調べなどに、どうしても付け加えて言わなければならないのは、警察または検察あるいは双方によると思われる、重要な証拠の隠滅についてです。

 
水上事務局長が任意提出した「会議録」のうち、呼びかけ文言について話題になった3月20日の「会議録」には、宮澤さんからの急な提案だったのに、水上事務局長が呼びかけ文言について確認したことの書き込みがあるにもかかわらず、3月9日はチラシ配布が議題になっていたのに呼びかけ文言については何の記載もなく、この会議でチラシ配布の呼びかけ文言が、決定・支持・確認など一切されておらず、議題にすらなっていなかったことを裏付けるからです。

 
また3月14日の「会議録」は、その日の清水署での「警告」を巡るやり取りについて報告され、「警告」の曖昧性と不当性にもかかわらず、街頭チラシ配布をすぐに中止する決定をしたことを裏付けるもので、今回の「警告」・捜査・立件・起訴の不当性を裏付ける証拠の一つだからです。

 
次に、検察官のいう「選挙運動を依頼」とその「共謀」についてです。

 
公判での証拠と証言によって、時系列的に利益誘導が成り立たないことは既に弁論によって明らかにされ、チラシ配布の際の呼びかけ文言について「共謀」など存在し得ないことも立証されました。

 
常識で考えて、もしチラシ配布の際の呼びかけ文言を含む「選挙運動を依頼」することを事前に「共謀」していたなら、その報酬額を決める前に呼びかけ文言を提案・決定していなかったなどということがあり得るでしょうか!ましてやその呼びかけ文言を考案・提案したのが業者側だったのですから、事前の「共謀」などなおさらあり得ないではありませんか??

 
本年2月8日付けの追加釈明書において検察官は「平成27年3月上旬頃……被告人や共犯者らにおいては、以後被告人の企画どおりに選挙運動を展開することにつき合意した。」としているが、法廷での各証言・証拠が示すように被告人はそのような合意などした事実はない。また、「業者発注するビラ街頭配布の際の呼び掛けに関し、「投票」や「一票」を「お願い」するとの依頼文言を使わない限り問題ない旨指南、被告人や共犯者らにおいては、前記依頼文言を含まない呼びかけ文言(「高田とも子です。よろしくお願いします。」を含む呼びかけ文言)を用いて市長選出馬ビラを街頭頒布することにつき合意した」としているが、昨年3月上旬には、業者発注するビラ街頭頒布の際の呼び掛けに関し、合意どころか話題にさえなっていない。合意していたのは、告示日まで選挙運動をしてはならない、投票依頼と受け取られかねない文言を使ってはいけないということである。さらに「宮澤圭輔は、同月9日、選対会議において、被告人との間で、市長選出馬ビラの街頭頒布時の呼び掛けに関し、『投票』や『一票』の文言を含まない『高田とも子です。よろしくお願いします。』旨の呼びかけ文言を用いてよいことを確認した。」としているが、他の会議出席者の証言により、そのような確認などなかったことは明白である。

 
公判において検察官は「呼び掛けの言葉がなくとも選挙運動たりうる」と発言し、あたかもこのチラシそのものが違法であるかのように言っているが、このチラシが選挙運動用文書でないことは弁論において法的根拠も含めて詳述され、証拠も多数提出されている。見れば分かるとおし、このチラシは公選法で配布が認められた政治団体の機関紙であり、選挙報道・評論の部分は全体の六分の一に過ぎず、主に政策と人となりを紹介した政治活動用文書であり、警察も認めていたように違法性はない。

 

ではなぜ、このような無茶な捜査・逮捕・立件・起訴が行われたのでしょうか。
それは、当初の「警告」までは高田陣営への選挙干渉だった可能性が高いですが、遅くとも3月21日までには私の政治活動の妨害を狙って、なんとか逮捕・立件・起訴しようとしたからだとしか考えられません。

 
私が、狙われることを恐れたこともあって、21日までは会議以外事務所にも顔を出さず、「警告」に関連して警察にいった際にも名乗らず、一切表に出ないようにしていたにも関わらず、選管職員の供述調書には21日までに選管にまで私の情報が伝えられており、街頭で見てすぐ私とわかって近づいて封筒を受け取った、と書かれていることからもうかがうことができます。

 
宮澤さんの取り調べのビデオを見ると、検察は「今後は、斎藤と関わらないで欲しい。」(5月11日、15:03ごろ)「斎藤とは離れて新たな道に進んでほしい」(5月13日、11:39ごろ)などと、あからさまな政治介入、私の政治活動に対する妨害を行っている。

 
警告を受けてすぐにやめたことを後日立件するという、数十年に渡って積み上げられてきた警告制度の意義を台無しにする前代未聞の手法を使ってまでチラシの街頭配布を口実に強制捜査に踏み切り、逮捕・押収・取り調べを拡大したものの何ら私の違法行為を見つけることができず、仕方なく当初問題にしていなかった呼びかけ文言を「投票依頼」と強弁して「事前運動」をでっち上げ、ありもしない「共謀」を捏造して、論理的にも無理な「利益誘導」という重罪を被せたというのが、今回の事件の真相だと言わざるをえません。

 

この公判でいまひとつ明らかになったのは、私の無実だけではなく、「共謀」したとされた高田さんや田村さんはもちろん、「事前運動」などなかったのだから宮澤さんや井上さん、大石さんも無罪であるということです。高田さん、田村さんらの違法性の意識の契機とされたチラシの新聞折り込みの拒否が事実でなかったのだからなおさらです。

 

最後に、裁判官諸氏に強く訴えます!

 

今回のような警察・検察による恣意的差別的にして違法・不当な「警告」・捜査・立件・起訴が可能だったのは、選挙運動についての規定の公選法の不備もありますが、直接には1963年の最高裁判決で示された選挙運動についての規定が余りに曖昧だからです。この規定は非民主主義の大日本帝国憲法下の1928年の判例が踏襲されており、既に現憲法に充分にはそぐわないものになっています。その不十分性を補うように運用されてきた警告制度に対する信頼が今回の事件によって失われてしまった今、次の国政選挙を目前にして、過去の判例の不十分性を克服する、選挙運動についてのより明確な規定を示すのは、裁判所の喫緊の使命ではないでしょうか!

 
3月10日の参議院法務委員会で質問に立った元法務大臣の小川敏夫氏が、公選法の事前運動について質問しました。それに政府副大臣は総務省の見解として「選挙の特定、候補者の特定、そして具体的な投票依頼、この三つの要素が重なったときに事前運動だと、このように最高裁の判例等では確定していると、理解しております。」と答弁しました。

 
大物政治家による告示前の選挙応援が常態化して久しい現状にあって、今こそ裁判所も勇気を奮って、民主主義を守り発展させるために、より明確な判例、例えば「選挙運動とは、特定の選挙において、特定の候補者あるいは政党への投票を得るために行う、選挙人などに対する直接の具体的な投票の呼びかけまたは票の取りまとめの依頼のことをいう」といったものを出さなければいけない時ではないでしょうか!

プロデュース :蜂谷翔子
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