いまから、1ヶ月ほど前の6月6日にビブリオバトルというものに参加した。ご存知の人はいるだろうか。
これは、通称、知的書評合戦とも呼ばれ、ラテン語で本の意味を表す「biblion」に由来し、ビブリオバトルと名付けられたものだ。
【公式ルール】
1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。(— ビブリオバトル普及委員会、ビブリオバトル公式ルールより)
分かりやすく考えると本のプレゼン大会と捉えればいいだろう。
歴史としては、2007年に京都大学の谷口忠大氏が考案し、有志で運営された。2010年にビブリオバトル普及委員会が発足し、それをきっかけに各地で行われるようになったそうだ。
歴史はまだ浅いが、徐々に広まりつつあるビブリオバトル。
ある日、酒を飲みながら(なにをきっかけにそうなったのか定かではないが)“新宿の紀伊国屋”にて、「ビブリオバトル」が開催されているという情報を得た。僕も細々ではあるが、「読書会」を行っているので、なんとなくそのようなものがあるというのは知っていた。
そこで、実際にどのようなものなのか、くわしく調べてみると実に楽しそうではないか。これは、参加するしかないだろうと決めて、早速応募フォームを開き、応募することにした。名前、住所、電話番号などを記入するのはもちろんのこと、当日持参する本も書かなければならない仕様だった。さて、どうしたものか。
自分のお気に入りの小説にしようかと最初に浮かんだが、それだとつまらない気がした。最近読んだ中で、面白く語れそうなもの・・・・、本棚に目をやると「ワイセツって何ですか?」(ろくでなし子著)が目にとまった。これだ!!狂ったかのようにキーボードを叩き、応募ボタンを押した。
翌日、紀伊国屋のビブリオバトル担当の人からメールが入っていて、参加オッケーとの連絡。昨晩のことは酔っぱらっていたこともあってか、正直なところあまり覚えていなかった。なんの本で応募したのか。本棚をみると、何かを訴えかけるように「ワイセツって何ですか?」が主張している。これなのか・・・・。改めて、メールをみてみると、そうだった。これが、心に大きな傷を生むきっかけになるとは、このときはまだなにも分からなかった。
ビブリオバトル、3日前。改めて本を読み直し、喋る内容をまとめた。当日まで、いろいろと練りつつ内容を暗記した。
以下、制作した原稿である。
いきなりですけど、もしここで僕がですね、服を脱ぎ全裸になったら、どうなりますかね?(身振り手振りで脱ぐパントマイム)
間違いなく、紀伊国屋さんの怖そうな屈強な警備員さんにつまみ出され、そこの交番の人が来て、公然わいせつ罪ですかね?そんなことで逮捕されるでしょう。
でも、もしここが銭湯だとしたら、そんなことにはならないでしょう。「こんちはー」「あっ、いい湯加減っすね」なんて銭湯に入ってね。むしろ、服を着ているほうがおかしくなりますよ。全然わいせつじゃありません。
他にも、そこでは全然ワイセツではないということが多々ありますよ。夫婦間の営みとか、医者と患者の関係とか。これが成立するのは、お互いが認め合っている、つまり「裸でもいいですよ」という共通の認識があればいいんでしょうね。
そこで、今回ご紹介する本は、「ワイセツってなんですか?」というろくでなし子さんというかたが書かれた本です。
ろくでなし子さんはどんな人かというと、ここにあるように(本の表紙にあるデコマン)を指さしつつ、女性器をモチーフとしたアート作品、ここからは、あえて言葉にしませんけど、そうだMNKと略しましょう。
この、MNKを用いた作品で活躍するアーティストなんですよね。彼女の活動に生理的に嫌悪感を抱く人もいるでしょう。しかしそれはとりあえず置いておいて下さい。
そんな、ろくでなし子さんが逮捕された事件ご存知ですか。2度逮捕されているんですけど、1度目は、2014年7月、ろくでなし子さん自身のMNKをかたどったバナナボートを制作するために、クラウドファンディングで資金を集めたんですよ。そんで、その資金提供者、つまり応援したくれた人に、自身のMNKを3Dプリンター用のデータとして送ったと。これが、「わいせつ電磁的記録頒布」ということで逮捕されます。こちらは、処分保留で釈放されました。
この辺の経緯、そしていかに理不尽なことを受けたかなんてことは、こちらの本に漫画にして描かれています。ろくでなし子さんは漫画家でもあるのでね。
そして、2度目は、ろくでなし子さんのMNKを象った、デコマンですね、これをアダルトショップに展示していて、これが猥褻物陳列罪として、ろくでなし子さんそして、店の経営者、北原みのりさんというかたが逮捕されました。
ここで、「ワイセツってなんですか?」ということになるんですけど、どちらの場合も、無理やりそれを見せたということでないわけですよ。
1つ目の3Dデータのほうも、協力者ようは活動を理解し応援している人ですね、その人たちに送っているわけで、2つ目もアダルトショップですからね、こんなものよりもっとえげつないぐらいに厭らしいものもあるわけで、それを承知で客は店に来てるわけですし、ようはみな了承を得た人達、及び空間のわけです。
だから、紀伊国屋さんで売ってるなんでしょうね?高尚な政治哲学みたいな本の中に、ろくでなし子さんのMNKのやつを忍ばしてるとかだったら、捕まってもしかたないと思うんですけど、そうではないんですよ。
もっといえば、小便小僧なんてありますよね。あんなの、やらしさの塊になりますよ。ポコチンを公共の前で晒しているんですから。あと、ダビデ像なんてめちゃくちゃリアル。あれも駄目だということなんでしょうか?
いま一度言います、「ワイセツってなんですか?」と。
この本の中では、ろくでなし子さんが逮捕された経緯、どんな思いでデコマンを作っているか。弁護士の見解によるワイセツ論。フェミニズムと女性アートについてだとか、「ワイセツってなんですか?」ということを考えるきっかけになるのではないかと思います。
そして、なにより、これは面白いなぁと思ったことなんですけど、今回、ろくでなし子さんが捕まってなければ、彼女の活動をぼくは知ることはなかったです。つまり、権力の締め付けが厳しくなればなるほど、ろくでなし子さんの作品はいろんな人に広まるわけです。
それはなぜか。「ワイセツ」っていうものが、そんなことで逮捕されるの?それはおかしいんじゃないの?どういうことなの?と日本において極めて定義が曖昧だからです。
だからこそ、ろくでなし子さんが、まるで、「暴力脱獄」でポールニューマンが脱獄を繰り返したかのように、権力に屈せずにデコマンを作り続けていくことで、「ワイセツってなんですか?」の答えに近づくのではないでしょうか。
紀伊国屋で行われるビブリオバトルは、第1ゲーム、第2ゲーム、第3ゲームと別れていて、それぞれ4人ずつで戦うシステムだった。私の出番は第3ゲーム。そのため、はやめに行って、第1、2と雰囲気を確認できるわけだ。
主催者が会の説明をし、ビブリオバトルが幕を開けた。なるほど、こういった雰囲気か。第1ゲームが終わった。
そして、第2ゲームが始まる。1人、2人と終わるにつれて、自分が考えてきた内容がこの場では不釣り合いだぞと不安になってきた。皆まじめに語っている。ヤバいぞ。お腹も痛くなり、第2ゲームの終わりと同時にトイレに駆け込んだ。
いよいよ、自分の番。事前のじゃんけんで、順番を決めたのだが、なんとトップバッターになってしまった。出来れば、3番目ぐらいがよかった。悔やんでいる間もなく、第3ゲームがはじまった。
「いきなりですけど、もしここで僕がですね、服を脱ぎ全裸になったら、どうなりますかね?間違いな・・・・・」
こう話はじめ、周りをみると、みんな引いている。全然ウケてない。
でも、このフレーズなら、
「・・・ここからは、あえて言葉にしませんけど、そうだMNKと略しましょう・・・・」
スッーン。クスリともしなかった。ここから先は、吉兆のおかみじゃないが頭が真っ白で、自分でも何を言っていたのか覚えていない。
こうして、スベリまくった一日は幕を閉じた。もちろん、「チャンプ本」になんてなれやしなかった。
おわり
byみずしままさゆき http://dokusyokai.com/ http://taidan.org/