地域農業の再生などのテーマに関心がある方には馴染みのある言葉だと思いますが、《6次産業化》とは、一軒の農家や農業法人が生産から加工、販売までを全て自分たちで行い効率よく、付加価値の高い農業形態を目指すもので、いま、稼げる「強い農業」を実現しようとやる気のある農家達が率先して取り組みを進めています。
農業はいわゆる1次産業。これに、加工などの2次産業、小売などの3次産業をかけあわせ《1×2×3=6次産業》というわけです。特に、TPP・環太平洋パートナーシップ協定の議論が始まってからは、海外の農産物に対抗するため、自らの作物にどう付加価値をつけるかその方法として《6次産業化》の取り組みがニュース番組などでもさらにクローズアップされるようになりました。平成22年に国の振興策として《六次産業化・地産地消法》が定められ、最近では、地域創生の取り組みとして国や自治体が積極的に支援を打ち出しています。
ただ、具体的に6次産業化に成功している農家の数はまだまだ全体というわけではありません。作物をつくることはプロフェッショナルであっても、加工したり、それを販売したりする技能やアイデアに関しては経験がないという方が多いからです。農家の高齢化率は36%を超えており活性化にむけてそれこそ土を耕すところから始めなくてはなりません。
そうした中、今、新たに農業界に参入する若い世代の女性たちが《6次産業化》の担い手として教育を受け、独自の方法でその道を開拓し始めています。全国の農家や農業関係者が模索する《1×2×3》の正解を彼女たちはどう導き出しているのか、《輝く農女新聞》とのコラボレーションで、8bitNewsでは映像を使って現地の実態をシリーズでお伝えします。
第一回は、宮崎県小林市でトマト農家を営む、小川道博さん、紘未(ひろみ)さん夫妻。
小川さん達が栽培するトマトは《樹上完熟》が特徴。これは実がなったままで完熟させ、収穫後直ちに近くのスーパーや市場に卸されるものです。通常のトマトは実が青い状態で出荷し、流通の過程で熟していきますが、樹上完熟によって豊富なリコピンが得られ、口の中で弾けるような食感と深い味わいが得られるといいます。
二人は元々、東京の大手シンクタンクでシステムエンジニアとして働いていました。技術者としてパソコンに向き合う日々です。ところが、今からちょうど8年前、「一生続けられる仕事がしたい」と一念発起し、道博さんの生まれ故郷である宮崎県小林市に移り住み、そこで農業を始めました。
「無知だったから、逆に頑張れた」と二人は語りますが、はじめての農業経験は苦難の連続。試行錯誤を重ね、毎年設定する目標のクリアにむけて夫婦で議論。日々の積み重ねで体力と技能を高めながら良質なトマトの生産を続けてきました。経営面では農薬をなるべく使わず安心、安全な環境での栽培を目指すべく、コストの選択と集中を心がけてきました。
そして、今、妻・紘未さんのアイデアでトマトをつくるだけではなく、ドライフルーツやソースに加工し販売する《6次産業化》に乗り出します。東日本大震災や原発事故がきっかけに。避難生活を続ける人たちに体に優しい野菜を届けてあげたいーーー。紘未さんは、夫の道博さんも考えつかないような技術とアイデアで小川ファームのトマト製品を全国に届けることになりました。
紘未さんは日本能率協会が開講した「女性農業次世代リーダー育成塾」のメンバー20人に宮崎県から唯一選ばれ、座学や販売研修などを通して農産品のブランディングや販路開拓を学び、さらに自らの力に磨きをかけようと奮闘しています。
《農業の6次産業化》とはどう進めればよいもなのか?
規模を求めず、高付加価値を徹底。ブランド化につながる部分への投資、選択と集中。地域に部会の無い新規分野への参入による産地開拓。様々なキーワードが見えてきた。小川夫妻の試行錯誤をルポしました。
※「輝く農女新聞」URLはこちら。http://www.jma.or.jp/kagayaku-nj/index.html