2014/05/15 社会
【ルポタージュ】反安倍政権デモ:参加者の心情と彼らの理由

5月10日、新宿アルタ前広場を出発点とした反安倍政権のデモ「安倍政権はダメだとはっきり言おう!新宿デモ」が行われた。人や建物や街路樹がコントラストとともにくっきりと美しく見える5月らしいよく晴れた午後だった。デモの参加者は160人。

一行は大きな道では一車線分の幅を、ビルや建物の間のような比較的狭い道は体と音で埋め尽くしながら練り歩いた。警察官達の誘導に従いながら、シュプレヒコールを叫びながら、メガホンや太鼓やサックスの音を響かせながら進むデモ行進をじっと見つめる飲食店の人々、カメラやスマートフォンで写真を撮る人々、物珍しそうに眺める人々、笑みを浮かべながら見つめる人々、大衆の表情は様々だった。彼らの表情からは彼らが抱いているものが敬遠なのか、拒絶なのか、賛同なのか、希望なのか、無関心なのかを推し量ることは難しい。

デモ終了後、アルタ前広場ではこれからのデモの告知や辺野古移設問題に関する勉強会のお知らせ、そして締めくくりのシュプレヒコールがあった。一旦解散した後、参加者達はそのまま広場でデモで使用したプラカードなどを並べて展示したり、ビールやお菓子を持ち寄り地面に座って語り合い、スピーカーから流れる忌野清志郎の曲に合わせて数人が路上で踊ったりと、日が傾き始めるまで自由に時間を過ごした。その時1つの輪では一斉に「黙祷」するという行為が全体主義的であるか否かに関する議論がなされていた。少し前にメンバー同士が311の「黙祷」を巡って対立してしまった経緯があった。

目立ってリズミカルで音楽的なシュプレヒコールをする、自身もデモを多く主催し市民運動に多くの時間とエネルギーを費やしているテツさんは、日本の未来については楽観視していないと言う。安倍政権の方向性に自分の視点は全く含まれておらず、庶民にとっての利益はゼロだが政権は行くところまで行くと思うと彼は心情を語った。楽観視していないにも関わらずデモをするのは、沈黙は政権に対する賛同と同じであり、意思表示をすることが民主主義の基本なので、良いか悪いかは別として、意思表示をしないことが罪だと考えていると彼は言った。

参加者のサブロウさんは、福島県いわき市在住で時々東京に出てきたときはデモに参加したりしていると言う。フクイチで2011年の9月から収束作業に携わり、現在求職中。イチエフで収束作業や除染作業をし、原発事故現場の現実を肌で知っている彼は、休日の新宿の雑踏を見て、東京の雰囲気が嘘くさい、反原発運動さえも嘘くさいと憤りを示した。アルタ前広場から見渡せるたくさんの光り輝く電光掲示板を見つめ、この電気だって福島にある広野火力発電所から送られてきている、福島は東京の植民地だ、と彼は言った。彼は収束作業に携わり、今はイチエフに対するこだわりのような感情を持っていて、イチエフでまた収束作業をしたいという気持ちもある反面、逃げなければいけないと決断した時は福島からも日本からも逃げるつもりでもいると彼は気持ちを語ってくれた。

デモ行進で太鼓を叩いたりコールをやっていたセリアさんも同様に、今の日本を見ていて、日本から出てよっぽど海外に行ってしまおうかとも考えると言う。高校時代から「有能な労働商品」になりなさいという圧力を日本社会から感じていて、その枠組みに入れられしまうことに拒絶感を感じると彼女は言う。安倍政権はやっていることも決め方もダメだけど、政権が変わっても政治の世界に同じ枠組みが残るので、その後が大切だと彼女は言う。デモでは日常生活でも言えないことを言うことができる。普段おかしいと思っていても言えないことや、仕事の忙しさの中で言えなくなっていることを都会の真ん中で言うのは開放感があるし楽しいと彼女は言う。次回のデモでは今回参加した人が1人10人連れてきて、今回の10倍の1600人が集まったらいいと彼女は笑顔を見せた。

新宿にあるバーに場所を移した後も政治についての話は続いた。彼らは少数派である彼らの思想や意見が存在することを世の中に伝え浸透させるためのメディアが必要だと感じている。そしてまた情報の伝え方に関しても、思いをぶつけてもその主張が伝わらなければ意味がないので、大衆に歩み寄るポピュリズム的なアプローチをとるべきか、または真っ直ぐに自分のあるがままの主張を自由に発信主張することにこだわるかなど、参加者達はお酒を片手に語り意見交換を続けた。

多くの日本人は明確に自分の意見を述べること、もしくは意見を持つこと自体に慣れていない、もしくは嫌悪感すら持っているかもしれない。多数派、もしくは社会的により力を持った人々の主張に抗う意思表示や表現をする人は「出る杭」とみなされ、知的な反論ではなく感情的もしくは無感情な攻撃や沈黙を浴びせられる。人間の自由な言論や表現そのものに対する批判が堂々と展開される、西洋的な自由とはほど遠い状態が「普通」なのが「先進国」日本のリアリティーだ。

しかし健康的な民主主義が育つための土壌ができていない現在の日本の環境にあっても、彼らは少数派であるという強い認識や様々な想いを持ちながら街に出てデモをし、自由を叫ぶ。

彼らは同じテーマのデモを6月15日に予定している。

「安倍政権はダメだとはっきり言おう!新宿デモ」第2弾

6月15日(日)14時新宿アルタ前広場集合 15時出発

プロデュース :蜂谷翔子
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