2017/06/21 国際
【シリーズ 難民支援】トルコではシリア難民の児童労働も コミュニティを繋ぐAAR Japan

6月20日は国連で決めた「世界難民の日」。難民の保護と援助に対する世界的な関心を高める日だ。UNHCR・国連難民高等弁務官事務所は 難民問題解決へ向け各国政府に要望を提出するための署名活動を実施、 #WithRefugees #難民とともに のハッシュタグで協力を呼びかけている。2018年9月の国連総会までに世界で500万人の署名が必要だという。

すべての難民の子どもたちが教育を受けられること

すべての難民の家族が身の安全を確保できること

すべての難民が仕事や新しい技術を学ぶ機会を通して、社会に積極的に貢献できるような環境を整えること

こうした要望を国際社会に届けるキャンペーンだ。

■紛争、暴力、迫害により世界で強制移動を強いられた人は過去最多に

UNHCRが昨日19日に発表した報告書によると、2016年末時点で家を追われた人の数は6560万人に上り、2015年末時点と比べて約30万人増えたことがわかった。

6560万人の内訳は、難民、国内避難民、庇護申請者の3に分けられるが、難民の数は、過去最多となる2250万人に上った。パレスチナ難民のほか、550万人ものシリア難民や昨年急増した南スーダンの難民問題が特に深刻だ。南スーダンでは7月から2016年末までに73万9900人が国外に避難。難民の数は187万人に膨らんだ。

また、シリア、イラク、コロンビアなどで多く発生している国内避難民の数は、2016年末現在で4030万人。母国から逃れ、難民として国際的な保護を求めている庇護申請者の数は2016年末時点で280万人となっている。

UNHCRによると、6560万人とは、平均して、地球上の113人に1人が避難を余儀なくされていることを意味するという。これは世界で21番目に人口が多いイギリスより多い人数だ。

■シリア人難民最大の引受先トルコでは、児童労働の実態も 困窮する難民を救おうとAAR Japanが奮闘 

NPOやNGOなど公益活動の現場を専門に取材し発信するメディアGARDEN Journalismでは、シリアやパレスチナで難民支援を続ける日本のNGOの活動に着目した。国からの助成金の見直しによる資金不足や、渡航禁止区域などでの人道支援を続けるために民間からの資金を募るなど、草の根的な平和構築に貢献するNGOは常に様々な課題と向き合いながら活動を続けている。難民の日に因んで「シリーズ 難民支援」と題して、紛争地などでの知られざる日本のNGOの活動を映像などでお伝えする。

第一回のパレスチナ・ガザに続いて、第二回はヨルダン北部のシリア人難民キャンプ、ザアタリ難民キャンプで子どもたちの支援を続けるNGO「国境なき子どもたち」の活動に注目した。

第三回は、シリア難民の最大の引受国であるトルコの現状についてお伝えする。国外に退去した500万人以上のシリア人のうち約300万人がトルコへ避難したとされる。急激な難民の流入によってトルコ国内では難民に対する不協和音も聞かれるようになった。また教育などの受け皿にも限界があり、トルコがわからず子どもたちが満足に学校の授業を受けられないケースも目立つという。また、経済的な困窮から児童労働も行われている。日本のNGO「AAR Japan(難民を助ける会)」では、人々が安心して学んだり、過ごしたりできるコミュニティセンターを3年前に設置。シリアから逃れた人たちがトルコで暮らしていけるよう様々なサポートを行なっている。

今、現場で何が起きているのか。実態を知るため現地トルコとSkypeを結んでインタビューをしたほか、シリアから来日しAAR Japanのスタッフとして働く女性にお話を伺った。2本のインタビュー動画を紹介したい。いずれも貴重な現地の、そして当事者の声だ。

■シリア人スタッフの祖国への思い

「私は恵まれている方というか、家族も失ってないし、家もありますので、周りの人よりはまだマシと言われますけど。でも周囲には、家を無くした親戚もいますし、家族の一人を無くした友だちもいます。」

2017年6月から国際NGO「AAR Japan(難民を助ける会)」に新しく迎えられたシリア人スタッフのラガド・アドリーさんはこう話す。2010年に千葉大学に1年間の留学をしている際に母国で紛争が勃発。一年後に帰国すると、全く違う景色がそこにはあったと言う。

シリアで紛争が始まって6年以上。2016年7月に勃発したクーデター未遂事件後、トルコ国内の多くのNGOが閉鎖された。また、紛争が長期化する中で、日本国内でも、「緊急性が低くなっている」という理由で、公的機関からのシリア難民支援のための助成金が少なくなるという事態が発生している。

しかし、500万人を超えるシリア難民のうち約300万人が流入しているトルコ国内で、難民の支援を続けるAAR Japanのトルコ駐在員・五味さおりさんは、「シリア難民支援を行うアクターが減って来ているので、私たちが支援を差し伸べなければならないシリア難民の方が増えているのが今非常に大変な状況です」と話す。

■脆弱な難民、「言語の壁」がトルコでの避難生活に追い打ち

「特に障がい者の方であったり、児童労働に携わっている子どもであったり、非常に支援の手が行き届きにくい、脆弱な難民が多い」と、五味さん。

シリア難民の障がい者支援の様子 避難の際にけがをして障害を負うケースも
シリア難民の障がい者支援の様子 避難の際にけがをして障害を負うケースも

難民の方は「難民キャンプ」で生活をしているというイメージを持たれている方が多いのではないだろうか。しかし、2016年4月時点で、トルコで暮らすシリア難民の約9割が、現在難民キャンプ外で生活をしているというデータがある。(※1)

「街中にアパート一室に15人くらいが詰め込まれて住んでいたり。誰も収入源がない、特に親の仕事が見つからないケースが非常に多いです。父親も働いていない、母親も働いていない、だけど家の家賃は払わないといけない。がむしゃらに生きないといけないということで、仕方がなく子どもを働かせている親の方が非常に多いです」と、五味さんは話す。

一時的保護制度という枠組みの中で、トルコでシリア難民の子どもたちが学校に通うことは可能だ。しかし、こうして家族の中で稼ぎ頭となり、どうしても学校に通うことが叶わない子どもたちもいる。理由はそれだけではく、「制度上の問題でそもそも学校に編入する手続きの仕方がわからず、手続きしたとしても6ヵ月待ち」という状況や、「トルコ人の現地の子どもたちによるいじめ」もある。

しかし、一番の課題は「言語の壁」だ。シリアではアラビア語を話す一方で、トルコではトルコ語を必要とされ、学校に行けたとしても授業についていけない子どもも多い。

学校に行けなくなった子どもたちの選択肢は非常に狭く、厳しい。

「家でずっといて友だちも作らず、もしくは何かの役に立とうとして児童労働にいく、特に女の子で多いのが早期婚。親たちが女の子たちの将来を心配して結婚させてしまう」。また、反政府軍からの勧誘で兵士になる子どもたちもいると、五味さんは教えてくれた。

■コミュニティーセンターで、「持続性」のある人と人との関係性の構築を

AAR Japanは、トルコに住むシリア難民の「人と人との繋がり」の構築のため、トルコ南東部でコミュニティセンターを運営している。

シリアで暮らしていた際のご近所さんや友人、親戚などの関係性がなくなった状態でトルコに逃れて来たシリア難民の方々。「NGOの活動が万一停止したときに何が残るか、何が持続するかを考えると、人と人とが協力し合うという精神だと思う。難民同士でいかに助け合うか、もしくは地元に住むトルコの方々と協力しながらいかに生き延びていくか」と、五味さんは話します。

人と人との関係性を再構築することで、長期化するトルコでの避難生活を少しでも改善させていくことが、AAR Japanのコミュニティーセンターの狙いだ。「地域のコミュニティセンターが一軒あるだけで、気軽にそこに行って友人を作ることもできますし、新しい知り合いを作って情報交換をすることで、今までの生活をよりよくすることはできます」。

コミュニティセンターの中で、シリア難民同士のコミュニケーション、もしくはトルコ人との関係性を構築するために、AAR Japanは様々なプログラムを提供している。料理教室や手芸教室、子どもたちの絵や音楽の教室などの文化的な講座。また、「言語の壁」という大きな課題を解決するために、トルコ語講座やアラビア語講座も行っている。

コミュニティセンターでの絵画イベント
コミュニティセンターでの絵画イベント

「本当に今はコミュニティセンターが唯一の楽しみだと言っていただけた」と五味さん。トルコに住むシリア難民にとって、AAR Japanのコミュニティセンターは心の支えになっているようだ。

■日本だからできること 一人ひとりができること

「現地で活動していて日本人でよかったなと思うのはトルコ人の方からもシリア人の方からもすごく好意的に見て下さる。日本人の方はすごく真面目で誠実だという印象をどちらの方からもお持ちいただけているので、すごく活動しやすい。そういったイメージを持っていただいているからこそ、日本から何か手を差し伸べることがすごく重要」と、五味さん。

母親がJICAで働いていたというラガドさんは、「日本人の方もいらっしゃって、そこで色々と日本のことを知り、とても日本という国に興味を持ち始めて」と話す。

日本が続けて来た人道支援活動が作り出したジャパンブランドは、平和構築に寄与しているのだ。

ラガドさんは、7月からいよいよAAR Japanトルコチームの一員として働くことになる。「できることから何でもやりたい」と意気込み、その上で私たちひとりひとりのアクションも呼びかる。

「みんなが個人個人のできることをやっていただければ。例えば、寄付金のできる人は寄付を、何か得意な人はシリア人にそれを教えていただければ。あるいはメディアの人はそれを伝えてほしい。それぞれの立場でできることがあります」。

そして、ラガドさんは最後にこうメッセージを残した。「私たちのことを忘れないでください」。

(※1)http://reliefweb.int/sites/reliefweb.int/files/resources/TurkeyFactSheetJune2017-EN.pdf

プロデュース :HORI JUN
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