2016/06/09 政治
【政治活動の自由と公職選挙法】「選挙の神様」斎藤まさしに対する静岡地裁の一審判決 全国の政治活動が公選法違反となり得る判決に

2015年4月の静岡市長選挙において、無所属で立候補した高田とも子の陣営の選挙に関連して6名の逮捕者が出た。その内の1人が「市民派選挙の神様」と呼ばれる斎藤まさしだった。

 

静岡地裁の佐藤正信裁判長、大村陽一裁判官、小澤明日香裁判官の判決は、斎藤まさしは、「1票よろしくお願いします」などの直接の投票依頼なしの(検察と裁判所の主観によると総体的に選挙運動となる選挙告示前の)違法な「事前運動」において、業者を介して雇ったアルバイトに「高田とも子です。よろしくお願いします。」と挨拶をさせながら、街頭で高田陣営が選挙前に立ち上げた政治団体(元気で明るい静岡をつくる会)の機関紙(チラシ)を配らせ、業者にその活動に対して報酬を支払うことを、斎藤まさしが高田陣営のメンバーと(具体的にどのように共謀が成り立ったのか証明する証拠が欠落しているので)「未必な故意による黙示的な共謀」によって行った、としている。市長選の告示前に「事前運動」と「利害誘導」を行ったとして、斎藤まさしは公職選挙法違反で懲役2年、執行猶予5年、公民権停止5年とされた。

 
判決は検察官の主張を全面的に採用したものとなった。

 

 
この判決は政治活動を萎縮させる可能性を孕んでいる。

 

政治活動において業者を使って政治団体のチラシを街頭で配ったりポスティングをしたりすることは違法ではなく、一般的に全国の政治団体が行っていることである。業者を使ってはいけない、運動員にお金を払ってはいけないなどの制約が出てくるのは選挙期間中の選挙運動において。裁判で争点にもなったが、何が「政治活動」で、何が「選挙運動」であるかの認定が重要になる。高田陣営の行ったことが、彼らの主張通り「選挙運動」ではなく「政治活動」と認められれば、「事前運動」も「利害誘導」も罪としては成立しないからだ。

 
現在の「選挙運動」の定義は「公職選挙法における選挙運動とは、特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者のため投票を得又は得させる目的で、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすること」とある。

 
公選法の定義自体が広義で曖昧なので、実際の選挙の際にはその時々で違反の可能性がある場合は「警告制度」を用いて警察が警告を行い、活動していた人や団体が警告に従わなかったときのみ警察が捜査や逮捕に踏み切ることで、むやみに捜査や逮捕をすることなく現場で法律の曖昧さに対処し、その地域においてフェアな政治活動や選挙運動が行われるように、(もちろんバランスが保たれないこともあるが)ある程度バランスを保ってきた。

 
「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者のため投票を得又は得させる目的で、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為」に当てはまりうるものは世の中に溢れている。

 
選挙期間外に全国各地で行われている政治関係の講演会は?集会は?街頭でのチラシ撒きは?街宣は?デモは?街中に張ってある参院選立候補予定者のポスターは?マスコミの選挙期間外の特定の人物にとって有利になりうる報道は?政権与党が参院選前後に年金受給者の3割に臨時給付金3万円を支給することは?告示前のマスコミによる選挙報道は?立候補の可能性が充分に予想される人物の過剰なメディア露出は?選挙を控えた地域に告示前に大物政治家が応援で駆けつけ街宣することは?

 
論理の展開の仕方によっては様々なことが公選法違反の事前運動になり得る。

 
日本のような民主国家において、政治活動の自由、表現の自由、言論の自由は、志のある人物が想い、思想、政策、情報や活動内容などあらゆる物事を外部の大衆とコミュニケートし、議論を深め、相互的に繋がり合いながら民主政治的な経験を熟してゆくために極めて重要なクオリティーであるはず。武力闘争やテロや暴力やクーデターによってではなく、意思のコミュニケートによってシステム内で社会のあり方をシフトまたは維持してゆくために、非暴力・平和的・民主的な社会の仕組みの一部として選挙が存在する。誰でも政治活動をすることができるし、選挙に出ることも、選挙に出る人を応援することもできる。選挙運動に制限を与える公選法の本質は、政治活動の自由、表現の自由、言論の自由を縛り萎縮させるものではなく、あくまでも選挙においての票の買収や物の贈与など、明らかな不正や悪質なケースを取り締まるべきものであるはず。

 
しかし公職選挙法の定義が広く曖昧なため、適用や解釈の仕方、何が選挙運動にあたるかの定義と認定の仕方は、警察、検察、裁判官、もしくはそれ以外のものの意思の主観とさじ加減によって変化するのが現状。今回の事件においては、高田陣営は警察の(具体的に何が違反であるかという指摘の欠落した、理由不明の)警告に従い、街頭でのチラシ配りを中止するなど、活動の内容を変更したにも拘らず、高田陣営の人々は逮捕・起訴された。一方で与野党、無党派拘らず日本全国に無数にある他の似通った政治活動(さじ加減によっては事前運動)や選挙運動が警告されることもなく黙認されている。にも拘らず、約40年間市民派選挙を行ってきた、特に今の政権にとって都合の良くない「市民派選挙の神様」斎藤まさしのような人物を警察・検察が狙い撃ちにし、逮捕・起訴することが「差別的」であるとは裁判所は認めなかった。捜査が正当であるとする理由として、高田陣営が業者に「多額」の支払いをしており、金が絡んでいるからだとしているが、「選挙運動」でなければ業者を使うことについては法的に問題はない。

 
また、「利害誘導」の「共謀」について、チラシ配りの際に使われた呼びかけ文言「高田とも子です。よろしくお願いします。」という文言がどのようにして高田陣営で決定されたかについて、具体的な証拠が欠けている状態であるにも拘らず、「未必の故意による黙示的な共謀」があったとして、裁判所は検察側の主張を全面的に受け入れ採用する形となった。刑事事件において、具体的な証拠のない状態で被告人を有罪にすることが「未必の故意による黙示的な共謀」という曖昧な言葉によって行われた。

 
斎藤まさしの弁護団が発見した、警察が作成した虚偽の供述調書や捜査報告書、関係者の取り調べの際に偽の証拠品が提示・利用されたこと、被告人に対して差別的な捜査が行われたこと、この事件において重要な日の高田陣営の議事次第と会議録が隠蔽されていることなどについて、裁判所は取るに足らない、もしくは事実として認定できないなどとして一蹴している。被告人の斎藤まさしは判決後の会見で、これらは権力による犯罪だと非難した。

 
袴田事件弁護団事務局長の小川秀世弁護人、第88代法務大臣の平岡秀夫弁護人、酒田芳人弁護人さんから成る弁護団は、6月3日の判決後、即日控訴を行った。2審は東京高裁で行われることになる。

 

一審判決の日には、元農林水産大臣で弁護士、現在はTPP交渉差止・違憲訴訟の会でTPP問題の第一線で活躍している山田正彦さん、経済評論家の植草一秀さん、女優の木内みどりさん、ミュージシャンの三宅洋平さん、参議院議員の山本太郎さんなど、たくさんの方々が応援に駆けつけ、傍聴席はいっぱいになった。

プロデュース :蜂谷翔子

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