2015/03/18 社会
【都市と貧困】ルポルタージュ③渋谷区が宮下公園の「ナイキ化」計画を巡る裁判で敗訴 野宿者/支援者の反応と渋谷区の動き

2015年3月14日、宮下公園の階段下で民間団体「のじれん」による野宿者と支援者の共同炊事が行われた。17年間、毎週土曜日。献立は味噌キムチ丼。配食数135。この日は川崎方面から期限切れの近づいた非常食130食と、1000個以上のオリーブオイル入りの高級石鹸が倒産した会社から寄付された。「桜が咲いてからホッカイロじゃしょうがねぇだろ」と、大量のホッカイロも大判振る舞いされた。まだ寒い。

 

 

前日の3月13日に、渋谷区の宮下公園の「ナイキ化」計画を巡る裁判で、東京地裁が渋谷区の「ナイキ化」計画は違法と判決を出した。宮下公園はかつて野宿者たちがささやかな生活を営んでいた場所。

 

 

この日配られた「のじれん便り」(毎週土曜日発行)は原告側の勝訴と渋谷区の敗訴を以下のように伝えた。以下は「のじれん便り」から。

 

 

 

 

宮下公園ナイキ化・強制排除

国家賠償請求訴訟で勝訴!!

 

 

渋谷区のやり方は「違法」

 

 

かつては仲間のテントが立ち並んでいた宮下公園。それが今では一軒もありません。5年前の2010年9月15日、渋谷区によって一掃されてしまったからです(行政代執行)。代わりに立ち並ぶのが、ロッククライミング場やフットサル場といった有料スポーツ施設。公園は、ナイキの金もうけの道具ではありません!それどころか、ベンチで寝ているだけで警告される毎日。さらに夜間は施錠されて閉ざされています。

 

 

こうした「ナイキ化計画」の問題点が、昨日の3月13日の東京地裁にて、明確に「違法」との判決がくだされました(裏面の新聞記事:左側)。判決のポイントは、大きく分けて2つあります。

 

 

①ナイキ化計画そのものがおかしい(地方自治法に違反)

なぜか最初からナイキと組むことが決まっていたこと(裏で密談!)、そして整備計画を議会に承認を得ずに渋谷区が勝手に押し進めたこと(民主主義を守れ!)が、それぞれ地方自治法の234条、96条に違反していると裁判所が判断しました。

 

 

②強制排除がおかしい(その暴力性と手続きが違反)

宮下公園で生活していた野宿者を強引に担ぎあげて公園の外に追い出したこと(この野宿者の方に11万円の慰謝料が認められました)の暴力性、そして強制排除の前にきちんと通知や話し合いをしなかったことの手続きのずさんさに問題があると、裁判所が判断しました。

 

 

「新みやしたこうえん」計画阻止へ!

ナイキ化計画という渋谷区の蛮行が司法の手で裁かれた一方、渋谷区はまたしても宮下公園を再整備しようとしています(裏面の新聞記事:右側)。なんと今度の計画は、公園の中にホテルをつくり、さらなる商業利用を進めようというものです。整備案を提示しているのは、区庁舎建て替えと同じ業者である三井不動産。そしてそのやり方があくどいのです。渋谷区は三井不動産にホテルで金もうけすることを許可し、その代わりに三井不動産が公園の整備費用を負担するというのです。公園は金もうけの道具じゃありません。みんなの公園を返せ!今回の画期的な判決を武器に、「新みやしたこうえん」計画を阻止しよう!

 

 

※裏面右側には2015年3月12日の東京新聞の記事「新宮下公園 3階建て 商業施設・ホテル建設」と、左側に2015年3月14日の読売新聞の記事「命名権 随意契約は違法 地裁判決 渋谷区立の宮下公園」が参照用として掲載されている

 

 

 

 

以下は東京地裁の判決を受けて、野宿者と支援者の方々のコメント。

 

 

ー公園はこんなことやっちゃいけないんだよ。普通はあれにかけるんだよ。競争入札。だから今回のやつでも競争の入札しないと駄目なんだよ。渋谷の人達はおかしいんですよ。こういうことやっちゃいけないんですよ本当は。公園なんだからあくまでも。アメリカあたりだとこういうことやっちゃいけないんですよ。ナイキもおかしいんですよ。

(野宿者の男性)

 

 

ーまぁとりあえず勝ってよかったんじゃないですか?大方は国賠だといわゆる不法占拠扱いになるから、勝てること少なかったはずなんですよ。だけど、わりとバランスの取れた見方をする仲間によると、地裁レベルでは勝っても、高裁でひっくり返されるんじゃないかと。弁護士が言うにはね。大体そういうものだということではあるんだけれども、勝つこと自体が少なかったので、勝つこと自体に意味があっただろうと。私も法廷にまで行ったこともあるんですよ、原告の人も知り合いだしね。今回の裁判の意味っていうのは、勝ち負けの問題はともかくとしてって言うと、勝って喜んでる人に怒られるかもしれないけども、敢えてそういう風に言えば渋谷区とナイキがどうやって宮下のナイキ化を進めていたかっていうことが裁判所の公文書上でかなり明らかになっているわけですよ。だからいい加減なやりとりでしたことだから、まさか裁判になるとは思っていなかったんだろうけど、それが裁判所で明らかになってきたっていうのは、渋谷区にとっては非常に大変に都合は悪かったんだろうなと、そう思って見てましたよ。普段明るみに出ないことが明るみに出たから。一般的に難しいとされている裁判で、この先裁判自体は仮に負けたとしても今度の裁判の意味はあったと思っていますね。

(野宿者の男性)

 

 

ー勝ったけどまた問題(新宮下公園の整備計画)出てきてるから。寝場所が無くなるのがちょっと嫌です。

(野宿者の男性)

 

 

ー公園に戻れることになったわけでもないし、なんか意味があったのかなって。公園ってお金がなくても誰でもいられる場所じゃないの?昔に戻れるなら戻ってほしいけどな。

(野宿者の男性)

 

 

ーナイキされると困りますよねやっぱり。なんていうのか、寝てる人を起こされたり。行くとこ場所が無いでしょ。生活保護もなかなか入れてもらえないし、受けるまでが大変だから。

(野宿者の女性)

 

 

ー第一歩ってところじゃないですか。これがどう転ぶかは最終的にはわからないけど、いい感じの第一歩になった思いますよ。これがみんなの考えるきっかけになってくれたら、またそれで輪が広がって行くし。最終的にこっち側が敗訴しても、問題を提供したこと自体がのちのちのプラスに働いてくれたら、それはそれでいいんじゃないかと思います。衣食住に関して、野宿者なりに知恵は絞らないといけないけど、俺は適当にやっています。同じ野宿者でもテントや小屋を構えている人もいれば、路上、公園、駅付近、定期的に場所を変える人もいますけど、自分の場合は適当にやっています。

(野宿者の男性)

 

 

ー渋谷区は何にもしないだろうな。4月になれば今の区長は引退だから。役人ってのはそういうもんだから。だけどあまりにもひどいだろ、いくらなんでもこんなに作っちゃっといて「違法」だって言うんだからさ。みんなで火つけてぶっ壊しちゃえばいいと思うけど、そっちの方が罪は重いだろ。強制排除された男性が慰謝料として11万もらったけど、10年も懲役くらうの馬鹿らしいから。はらわた煮えくり返るけど、役人てのはそういうもんで、悪いことしても、屁とも思ってないよね。何しろ向こうは税金だからいくらでもできるわけよ。こっちはたまったもんじゃないよ。それも俺の金なんだからさ。それに本来こういう共同炊事や支援は区がやるべきことだろ。なのに反対したり妨害するなんていうのは、俺に言わせればあり得ないんだよ。何のために税金集めるかっていったら、金持ちから集めて再分配するためだろ。その辺がわかってないんだよな。

(支援者の男性)

 

 

ー強制排除のビデオ、渋谷区は始めは持ってないって言ってて、だけど出てきたのよ。突くごとにボロがどんどん出てくるわけ。行政代執行は問題ないわけね。だけど小屋とかの排除の仕方ね。最初は腕をとってやさしく排除したって言うんだけど、ビデオを見ると担ぎ上げて排除してるのね。

(支援者の男性)

 

 

 

 

135食の配食と片付けが終わった後の集約で、先月の東京マラソンによって追い出された新宿の都庁付近の野宿者たちは、マラソンの後元の生活拠点に戻ることができたが、新宿中央公園の荷物は戻っていないことが報告され、来週の共同炊事の献立の話にうつる。献立が決まった後、野宿者と支援者は3つのグループに分かれて、いつも通り渋谷区の「夜回り」に出かけた。彼らは渋谷区の野宿の仲間にホッカイロと「のじれん便り」を配って回る。まだ寒いホワイトデーの夜、彼らは裁判の結果を胸に、いつもよりも楽しげな表情をしていた。渋谷区による公園の夜間施錠に対する阻止行動とパブリック・アート・プロジェクトが続いている神宮通公園では、区が420万円かけてつくった鍵付きフェンスが、原告側の勝利を祝うパブリック・アートで埋まっていた。

 

 

 

 

「判決の内容を検討して適切に対応をしてまいります」と3月13日の夕方に渋谷区はコメントした。渋谷区によると、控訴するかどうかは現在検討中で、「新宮下公園」の整備計画については、今月末の3月31日に区議会で2つの関連議案が採決される予定。①「新宮下公園と整備事業に関する基本協定締結について」②「定期借地権の設定について」。定期借地権の期間は30年間に、更地返還のための建設工事期間および除却期間を加えた期間。今回の「新宮下公園」計画の渋谷区のパートナーはナイキジャパンではなく三井不動産。

プロデュース :蜂谷翔子
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