2018/03/27 政治
種子を巡る冒険⑤多国籍企業の力が民主的システムを飲み込む時代の出来事:チリでのTPP11署名と日本の種子法廃止:それからわたしたち

心の準備もなにもない間に、東京で勝手に桜が咲き始めた。季節が巡っている。春の暖かい日に、コインランドリーで洗濯をしたり、友達と散歩をするのは楽しいし気持ちいい。私は明日から旅に出るので、その前に洗濯をしていて、コインランドリーでこの記事を書いている。

 
まだ春の気配が全く無かった2月に、去年2017年の夏の日本の種子を守る会の設立の日以来、久しぶりに元農林水産大臣の山田正彦さんに会った。山田さんは事務所で来客と農薬の話をしていた。食べ物をつくるためにどんな農薬がどのくらい使われるのかというのは、見えにくいけど、農地やその周りの環境や生き物や消費者の脳みその中にある神経なんかにも影響する。そしてどんな農薬がどのくらい使えるかというのは、政治で決められていることが多くて、日本では平気で使っているけど、危険とみなされてヨーロッパでは禁止されているものなど様々。山田さんたちがやっていたTPP交渉差止違憲訴訟の結果が2月1日に出たばかりで、山田さんたちはまた次の裁判に取りかかるところらしく、とても忙しそうだった。

 
山田さんを前にして少し緊張しながら、去年の夏から色んな人達に会ってきたんですが、民間で在来種や固定種の種を繋いでいこうと取り組んでいる人達もいました、オーガニック農家の人はこんなこと言っていました、と少ししゃべると、民間の努力だけでは駄目だろうと山田さんは言った。短い言葉だったけど、現実的に私には響いた。北米でNAFTAが施行された後、メキシコではメキシコ人の主食のトウモロコシのほとんどは遺伝子組み換えになってしまったわけだし。

 
今年の3月8日にアメリカを参加国から抜いた「TPP11」がチリで署名され、今日27日にTPPの発行に必要な関連法案と新協定の承認案が閣議決定された。これから国会審議に入る。そして3月31日に種子法の廃止は施行されることになっている。TPPはあくまでも多国籍企業が実現したいアイディアの1つの理想的な形のようなものであって、今はアメリカを抜いた状態だけど、当初のTPPがそっくりそのまま協定として成立しなくても、例えば2国間の貿易協定や、法律の撤廃や特区をつくることなどを通してその内容が実現できれば、結果としては同じ、多国籍企業の願いが叶えられることになる。

 
山田さんたちが、TPPは憲法違反だとして行ったTPP違憲訴訟の判決文の一部には

 

 

「種子法の廃止については、その背景事情の1つにTPP協定に関する動向があったことは否定できないものの、いわゆる構造改革その他の成長戦略や規定改革のあり方などについて広く検討される中でされたものであり(申B62)、TPP協定の発行の有無と関連なく法改正が行われ、施行が予定されているものである。水道法及び行政不服審査法の各改正についても、また控訴人らが主張する遺伝子組み換え食品の増加についても、TPP協定との直接的な関連性を認めるに足りる証拠はなく、TPP協定に関わる交渉及び署名による控訴人らの権利ないし法的利益の侵害を認めることはできない。」

 
と書かれていた。つまり、TPPそのものが実現してもしなくても、その中身のTPP的なもの、多国籍企業の望むものは着々と実現の方向に向かっている。例えば種子や薬のような人が生きていくために必要としているものを、私企業に独占されることなく人が自由にシェアできたり、安価に手に入れることのできる、豊かで質の良い公共財のある自由な社会的環境よりも、私有や独占やコントロールや私腹を肥やすことを好むのが多国籍企業の特徴。アメリカやその影響下にある日本が企業の利益や自由を重視する政治体質になっている今、国民が望んでいても、利益追求の妨げとなる規制を政府がつくることができない状況もよく知られている。

 
例えば、アメリカで頻発する銃の乱射事件を防ぐために、誰でも銃を簡単に手に入れられる環境を改善するための銃規制を望む人はたくさんいる。なのにこの国民が主権者である一民主国家の政府がなかなか銃規制をできないのは、NRA (National Rifle Assosiation) が保守系の政治家に多額の献金をしているからでもある。今アメリカではたくさんの銃乱射事件のターゲットとされて犠牲になってきた高校生達が、自分たちの命を銃から守るためにアメリカ各地でプロテストをしている。

 
企業は規制を嫌うし、社会的責任を取ることも嫌う。その企業の体質の犠牲になるのは、消費者だったり、子どもだったり、労働者だったり、環境だったり、遠い国の人や文化だったりと様々。表向きには国々が交渉しているように見えるTPPも、そもそも協定内容を書いているのは多国籍企業出身の人達なわけだし、その協定内容というのは多国籍企業のためのもので、普通の人達の幸せを願って書かれたような優しい類いのものではない。選挙に金を出したり政治献金やロビー活動をして、企業が政治家をツールにすることに成功してしまったことは、アメリカではデモクラシーという政治のシステムそのものの崩壊、”CORPOCRACY” コーポクラシー(企業が世を統治する世界)の到来みたいに捉えられているけど、日本ではTPPは「ただの貿易問題」もしくは経済の問題みたく捉えられているから、話が核心からずれたり、過小評価されがちな気がする。多国籍企業が書いた協定内容に合わせて、協定に署名したたくさんの主権国家がそれぞれの国内法を書き換えたりして多国籍企業の自由でグローバルな商売の手助けをするわけだから、国や民主主義そのものの力はかなり弱くなってきている。

 
日本政府が種子法廃止の理由として述べたことの1つは、種子法が民間企業の参入の妨げになっているというものだった。公共財だった分野を民間に明け渡していくことで、力の強い富裕層や多国籍企業にとってさらに優しい政治的環境が整い、今までみんなのものだった種子が、企業の戦略物資として扱われるようになってゆく。商売に向かない在来種や固定種は減ってゆく。

 

 

今伝えたいことは何ですか?と山田さんに聞いた。

 

 

「今まで純粋な伝統的な固定種のコシヒカリとかゆめぴりかとかあきたこまちなんだけど、各県の優良品種奨励制度がなくなって、言ってみれば原種、原原種とか、種子の栽培を国と県でやってたものが、結局民間の種子が参入してしまう。みつひかりとか、三井化学の、住友化学のつくばSD、日本モンサントのとねのめぐみ。で、みつひかりとかってF1の品種だし、今回参入してる豊田通商のしきゆたかっていうのもF1の品種なんで。野菜のように、たった30年前まで国産100%で純粋な固定種だったのがF1の種子になったように、米もF1の品種になってしまうんではないか。で、その次に、農研機構の開発している遺伝子組み換えの米。やはりこれも病気耐性の米なんだけど、それから除草剤耐性の米も含めて約74種類くらいが今政府が認めている遺伝子組み換えの稲。で、モンサントとか、デュポンとか、シンゲンタとか、そういうところでも遺伝子組み換えの種を開発しているところなので、僕は間違いないと思っているが、そうなると、日本もいよいよ、米も将来遺伝子組み換えになってしまう。

 

 

そういうことから、我々は日本の種子を守る会で、色んな広範なみなさんで呼びかけて、それをまず学び知ろうかというところから始めて。それからTPP違憲訴訟でこの前控訴審の判決がおりましたが、その判決の中では、いわゆる種子法廃止は背景にTPPがあるということは否定できないという判決の内容ですし、我々TPP違憲訴訟団としては、新たに種子法廃止の違憲訴訟、いわゆる、種子をつくっている種農家のみなさんとか、種子センターを持ってるJAとか、本来なら原種や原原種をつくっている県の人たち、そういう人達も一緒に裁判を起こせればと思って今準備しているところです。ぜひご参加いただければありがたいと思います。」

 

 

それが山田さんからのメッセージだった。

 

 

世界で1番富を所有していると言われている「1%」という特殊な階級にいる人達のファンタジーであるTPPの存在がちらつき始めた2010年頃から、元農林水産大臣で弁護士の山田さんは、裁判やデモなどの抗議行動、国内外から新しく入ってくる情報の勉強や分析、その情報の発信や本の執筆、選挙や政治塾という手段でTPPや、TPPの影響が背景にあると裁判所が認めた種子法廃止によってもたらされるであろう影響を食い止めようと闘っている。この文字通りグローバルな逆境の中歩みをやめない山田さん達を見ていると、信念のある人というのはこういう人のことを言うんだな、と思う。グローバリゼーションや自由貿易は、企業活動をどんどん自由にしているけれど、その結果、私たちの生活や営みや自由や健康はどうなっているのか、考えるのは大切なことだと思う。「経済」だけが価値あるものではない。

 
知識がないと見えないことは、生活に追われていると、もう見なくてもいいか、という気持ちになってしまうときがある。目の前の生活のことだけ、自分の狭い世界のことだけ、それで精一杯。だけど、心がそんな風になってしまうと、私はきっと自由をなくしてしまうような気がした。そんな個人的な危機感と、学生時代から大嫌いだった現代の富の一極集中の原因になっていると言われているTPP的なもの、利益追求のためなら労働者の搾取や文化破壊や環境破壊や公共システム・サービスの破壊、産業の破壊もおかまいなしの冷たい風潮に対して、学生でなくなった今も、弁護士でも政治家でも知識人でもないけど、何かしらやらないといけないと思い、頭にかかった蜘蛛の巣や埃を払いのけようと本を読んだ。この世界は生きている人みんなのものであって、人間の私利私欲が具現化して利益の為に世界を食い物にしようとしている多国籍企業のものじゃない。

 
TPP11が署名され、日本で種子法が廃止される今年はどんな年になるだろうか。過去も今も未来も地続き。世界はいつも変化している。人の世は人が変えることができる。

 
おわり。

プロデュース :蜂谷翔子

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