2017/11/16 政治
種子を巡る冒険①東京都にて、日本の種子を守る会が設立される

まだ私たちが夏の強い光と熱の中で日常を送っていた7月2日、日本の様々な場所から人々が日本の政治の中心である永田町に集まっていた。米、麦、大豆の種子の安定した生産と普及を政府に義務づけ、1952年から今まで、戦後日本の種子の供給を支えてきた主要作物種子法という法律の廃止があっさりと決まってしまったからだった。種子法が民間企業の参入の妨げになっているから、というのが廃止の理由だった。参議院議員会館の講堂は人でいっぱいになっていて、グローバル企業の力を強めるTPPに反対し草の根の運動を展開してきた人達の姿も見えた。私がその午後そこにいたのも、日本でTPP反対運動に献身している元農林水産大臣の山田正彦さんの事務所から電話があったからだった。

 

 

グローバル企業エリート達が秘密裏に画策し、ウィキリークスにリークされたことによって日の目を浴びたTPPの種は、なんだかんだいって何年もなかなか根を下ろせずに漂流している。2012年、私がまだカリフォルニアに住んでいた頃、ある午後に私はデモクラシーナウのニュースクリップを観ていた。私は大学でメディア学を専攻していたから、企業の意図と金に感染している一般的なニュースではなくて、草の根のインデペンデントニュースを見るようになっていた。草の根のニュースには、戦争とか環境問題とか、企業や国家にとって都合が悪いこととか、見たくない現実がちゃんと流れていた。投票や買い物は現実を知った上でした方がいいから、こういうニュースはとてもいい。その日、デモクラシーナウにはパブリック・シティズンのローリー・ワラックがゲストで出ていて、リークされたTPPの内容について話していた。「TPPは貿易条約としてブランディングされていますが、これは企業による世界統治を可能にするものです」と彼女は話し始めた。

 

 

表向きは、民主国家の政府は自国の国民のためにあることになっている。だから選挙もある。だけど世界で最も力のあるグローバル企業の世界に属する一握りの人々は、彼らが更に利益をあげるには、様々な政府の、特にその国の何か、例えば人々の健康とか環境、文化や知る権利や選ぶ権利、独自の農業や産業なんかを守るためにつくられた法律や仕組みを、条約の力によって機能不全みたいな状態に陥らせるのが良いと考えたようだった。グローバル企業のより自由な利益追求のために、他国の邪魔になる規制を取払い、今まで入れなかったマーケットに参入できるようにする。見ていて、私は今よりひどいディストピアを想像した。2016年にアメリカで大統領選があって、トランプもヒラリーも(ヒラリーはオバマ政権時代にTPPを推進していたんだけど)、TPPに対して反対の立場を取ったこともあって、TPPは漂流していた。だけど、企業はとても貪欲で熱心だから、どうせ、またTPPが無理なら二国間のFTA(自由貿易条約)でとか、違う形で似たようなことを実現しようとするに決まっている、と私は考えていた。そんな中、日本では種子法が廃止されてしまったわけだった。

 
戦後、日本の優良で、多様性に富み、それぞれの地域に適した種子の生産と普及を支えてきた種子法の突然の廃止という事件は、農協の人にも、オーガニック農家の人にも、モンサントのような民間企業の参入による遺伝子組み換えの種子の蔓延を恐れる人にも、種の値段の高騰や多様性の損失を恐れる人にも、様々な人達に響いたようで、参議院議員会館には様々な人々がいた。未来は様々な人達にとってわからなくなっている。集会では政治家や弁護士や大学教授だけでなく、様々な人達が発言した。

 
有機農法で大豆を育てている女性は、自分の小さな畑の横には大規模農家の畑があって、隣りで遺伝子組み換えの大豆を育てられたら、大豆は交配しやすいので、すぐに遺伝子組み換えと交配してしまう、と不安な気持ちと怒りを抱えていた。種子は工業製品ではなくて生き物で、種を残してゆく努力や、みんなでお金を出し合って土地を買って守る行動をすぐにでも始めなければいけない、と彼女は強い危機感を話した。

 
種子島の農業試験場では、南西諸島のサトウキビをつくっている。そしてモンサントはブラジルで遺伝子組み換えのサトウキビをつくっているので、それが南西諸島に入る恐れもある、というびっくり情報を持っている人もいた。沖縄のサトウキビ畑が遺伝子組み換えになってしまったら、と想像すると胸が痛んだ。公共の法律が無くなるので、農業試験場なんかはこれから激変する恐れがある。これから事実を広める活動や、中央集権的でない都道府県単位でのユニークな活動が必要で、日本の種子を守る会の事務局を体制の強化には金もいる、とその男性は言っていた。

 
この日は、龍谷大学の教授の西川芳昭さんが、種子の多様性と人間と植物の共生をテーマにして講演をした。30年以上、種子が好きで種子の研究をしてきたけれど、種子法が廃止されて最近急に講演を頼まれたりするようになったと西川さんは言っていた。西川さんは学生時代には文科省と外務省の奨学金でアメリカの農務省に行って、南米から持って来たジャガイモをアメリカで生産して、その生産性を上げるプロジェクトに参加して学んだりしていた。なので日本政府の方向性に今回は賛同できないのは残念ですが、云々、と自己の経歴を話してから本題に入った。

 
まず、種子は命の根源である、という話を彼は始めた。食べ物と私たちの関係性は直接的でわかりやすいけれど、種子と私たちの関係性というのは、少し感じづらい。しかし種子がなくなれば、食べ物もなくなり、食べ物がなくなれば、私たちもいなくなる。種子は植物遺伝資源と呼ばれていて、種子は私たちの保護や配慮を必要としている。そして、脱粒性(種の落ちやすさ)1つをとっても人間の側には色々と好みや都合があるので、種子と人間の間では古くからコミュニケーションがなされてきた。そして種子同士もお互いにやりとりをしていて、例えばいつ発芽するかシンクロしたりしているのでは、という種同士のやりとりについての研究もイギリスでなされている。

 
種子法は自家採取や草の根の立場からは必ずしも高く評価されているわけではなかったけれど、今は公共財産である種子を政治に守らせるべき時ではないかと西川さんは考えている。とても生産量が少なく、幻の米と呼ばれている愛知の「みねあさひ」や、栽培面積がとても小さいけれど、CSA(Community Supported Agriculture) を支える大切な米となった宮城の「ゆきむすび」のような品種も種子法あってこそ存在が可能となっていた。モンサントジャパンとJAには既に関係性があって、モンサントジャパンは既に「とねのめぐみ」を日本で開発している。食料安全保障ではなく、販売し利益をあげるため、または輸出競争力だけにフォーカスした農業をした場合、地産地消などもできなくなってしまい、本末転倒になってしまうのではないか。種子の多様性や、持続可能であるかどうか、また地域文化との関わりもとても大切である、と西川さんは話した。

 
無事に日本の種子を守る会が設立された後、私は講堂の中を見渡して、様々な人に話しかけて、連絡先を教えてもらった。繋がりをつくらなければいけない。ここに集まった1人1人の背景には、私の全く知らないそれぞれの世界や生活や物語があるのだ。今まで私がしたTPPの取材は、コンクリートの上や、事務所や、集会の後なんかがほとんどだったけれど、今回は種子のことなので、実際農家の人に会いに土の上に行けそうだったので、なんだか問題の核心に少しずつ近づいていっているような気がした。

 
帰り道、国会前でお坊さん達がお経を唱えながら共謀罪反対のアクションをしていた。「内面の自由を奪う共謀罪反対」。永田町を離れて、カフェに行ってサンドイッチと珈琲を頼んだ。いよいよ種子を巡る冒険が始まったのか、とか思いながらサンドイッチをかじって、その日もらった名刺やチラシを眺めた。実際私は何を食べているのだろうかと考えたけれど、よくわからなかった。下町のナポレオン、いいちこの麦はオーストラリア産だと西川さんは言っていた。

 
つづく

プロデュース :蜂谷翔子

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